はなとゆめ (単行本)

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041106044

作品紹介・あらすじ

清少納言は28歳にして帝の后・中宮定子に仕えることになる。内裏の雰囲気に馴染めずにいたが、定子に才能を認められていく。やがて藤原道長と定子一族との政争に巻き込まれ……。美しくも心震わす清少納言の生涯!

感想・レビュー・書評

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  • 冲方丁の歴史もの3作目は「天地明察」「光圀伝」とはうってかわって、平安時代。
    清少納言のゆるやかな一人語りで描かれます。

    教養があっても生かす場がなかった清少納言が、中宮定子のもとに出仕することに。
    仕える女性たちは皆、身分が高くて美しい若い娘ばかりの中で、引け目を感じていたのが、中宮定子の上手な引き立てにあって、次第に明るくなり、才覚を発揮していきます。
    美しい定子は、まだ年若い一条天皇と相思相愛で、微笑ましい仲。
    まだ17歳なのに気配りのできる心広い定子に魅了され、間近に暮らせる晴れがましさ。
    定子に読んでもらえる嬉しさに、ちょっとした面白いことを書き留めることに。

    それも定子の父の死、兄弟の不祥事、かわって権力を握った叔父・道長に追い落とされようとする年月へと、事態は暗転していくのですが‥
    そんな暮らしの中でも、定子のいる場所は明るく笑いに満ちていた。
    そのときの出来事、その頃の素晴らしさを書き残そうと決意する清少納言。
    とっさの機転が利く性格は、枕草子にあるエピソードを生み出すのでした。

    清少納言の性格はさまざまに描かれてきましたが、この作品では現代にも通じるような、かなり普通の感性を持った女性という印象。
    偏ったイメージを持っていた読者は、前よりも好きになるのではないかしら。
    この時代は興味あるので色々読んでいますから、知らなかったことは余りありませんが。
    兄弟が流罪になったときに、定子が髪を下ろした事件の解釈が新しい。
    あまりの衝撃と悲しみに、短絡的にやってしまったようでもあるのですが、この作品では、宮廷中を敵に回しても兄弟を守る盾になろうとした決意の表れとしています。
    りりしい定子さまですね。
    こんなに賢くて器の大きい定子が男性だったら、道長の天下にならなかったかも?
    いやこの時代、天皇に嫁いで上手くいくことは、すごく大事な役割なのですけどね。

    わかりやすい柔らかな文章で雅な雰囲気も出しつつ、整理した形で事件の経過を描いているので、最初に読む本にいいと思います。
    何よりも清少納言の定子への一途な思いがみずみずしく、心に残りました。

  • Another Side of「枕草子」もしくは、Making of「枕草子」といった趣。
    清少納言の一人称で語られる文章は最初とても読みにくかったのだけど、時の中宮定子が出てくる辺りから、慣れてきたこととお話自体が面白くなるのとで、さらさら進むように。

    最初から最後まで徹底して、清少納言の一人称・視点のみなので、想像だけで語られることも多く、何よりも定子を賞賛する言葉ばかりが何度も繰り返されるので、ちょっと食傷気味になったりも。
    定子に心酔するようになるエピソードの数々が、どれもお人柄優しく素敵なのだけど、それも清少納言の一人称だけで語られるので、定子が本当に素敵な人だったかどうかより「ああ、本当に定子様が大好きなのね」という印象のみになるのが惜しいところ。
    そんな視点のみで描かれていても、中宮定子と一条帝の仲睦まじさは可愛らしくも微笑ましい。
    可愛らしいといえば、清少納言が宮仕えに慣れるまでの様子がとても可愛らしく、今までの清少納言のイメージが変わった。

    物語終盤、定子が窮状に追いやられる中、再び出仕した清少納言。彼女が歌から解放された瞬間、歌も含めあらゆるものが愛しくなり、これが私の「枕」なのだと覚るところがとても好きです。
    “わたしが愛しいと感じる全てを書けばよいのだ。愛しさを通してなら、憎らしさも嫌なことも全て、面白いものに変えてしまえる。どれほど辛い思いも、笑いさざめく中へ放り込んでしまえばいい。”(311ページ)

    清少納言にとって、「はな」は定子様と道隆様でしかなく、それはまた宮中そのものであった。
    定子が薨じたあと、朝廷と女房としての生活に「お別れ」した清少納言の人生は多くは語られず作品は閉じられる。
    閉じる言葉は始まりの言葉。のちの千年に続く物語の。

    • 九月猫さん
      vilureef部長~っ!!

      おススメありがとうございます!
      いつもいつも教えていただいてばかりで、申し訳ないやら嬉しいやら♪
      木...
      vilureef部長~っ!!

      おススメありがとうございます!
      いつもいつも教えていただいてばかりで、申し訳ないやら嬉しいやら♪
      木内さんは例の爆笑エッセイのあと、「幕末の青嵐」を積んだものの、
      なかなか読めていないままでした。
      先におススメいただいた「漂砂のうたう」を読むことにします!

      文楽も狂言も好きなのですが(お能はダメです。観てもわからないの(^^;))、
      歌舞伎はまだ生で観たことないんですよー。
      観劇中に泣いてしまうなんて、役者さんの熱演が素晴らしい舞台だったのでしょうね。
      いいなぁ。
      やっぱり舞台はナマがいいですよね。
      2014/03/03
    • vilureefさん
      またまた参りました!

      木内さん、私もその後読めてないんですよ。
      実は、二冊ほど借りたのですが挫折・・・。
      やはり時代小説は向かない...
      またまた参りました!

      木内さん、私もその後読めてないんですよ。
      実は、二冊ほど借りたのですが挫折・・・。
      やはり時代小説は向かないのか、無念でござる(笑)

      狂言と能の区別がつきません!!
      うわー、恥ずかしい。
      歌舞伎はきっと一番大衆的なのでは?
      涙あり笑いあり、踊りありで意外に楽しめるんだな~と私も驚きました。
      新歌舞伎座にはまだいったことありませんが、やはり歌舞伎座は良いです!
      でもお高いのでお手頃の地方巡業がだんぜんお勧めです!チケットも取りやすいし♪
      今年も行きたいな~(*^_^*)
      2014/03/03
    • 九月猫さん

      vilureefさん♪

      狂言もお能も「能楽」ですものね。
      ざっくりとワタシ的には、お能は面(おもて)をつけて謡と舞という印象です...

      vilureefさん♪

      狂言もお能も「能楽」ですものね。
      ざっくりとワタシ的には、お能は面(おもて)をつけて謡と舞という印象です。
      幽玄でキレイなんですけれど、謡も使う言葉も難しくてわからないんですよ(^^;)
      狂言は基本的に喜劇だし、言葉もわかりやすいしで好きなんです。
      大蔵流もっといえば茂山狂言(千五郎家)ばかり観ているので、いつか和泉流も観てみたい♪

      いつか観てみたいといえば、歌舞伎も!
      ふむふむ、地方公演が狙い目なのですねφ(・ェ・o)~メモメモ
      いいこと聞きました。ありがとうございます♪
      2014/03/04
  • 一条帝の妃・定子の女房としてに仕えることになった28歳の清少納言。若い女房たちになかなかなじめず、何かと自分の立居振舞に自信が持てず、落ち着かない日々を過ごしていた。それでも、漢詩や和歌の素養があり、気の利いたやり取りをする清少納言は定子に認められ、目をかけてもらえるようになる。

    また、定子の聡明で知性にあふれる姿や一条帝への深い愛情を間近で見続けた清少納言は、定子を陥れようとする周りの企みを知って「わたしは、あの方をを守る番人になる」と決意するのだった。

    歌人の父を持ち、父の才能には遠く及ばないと自分に自信が持てず、それでいてプライドが高い。何ものにもなれない自分に対して、いら立ちを感じているようにも見える。
    定子と過ごした時間は意外に短く、わけあって離れて過ごす中で清少納言は自分がおもしろいと感じた日々の出来事などを書き溜めていく。
    それは、高名な歌人である父親が歩んできた和歌の世界でもなく、
    漢詩でも日記でもない、
    清少納言だけの独自の世界だった。
    枕草子の元となるこの散文を書くきっかけを与えてくれた定子に感謝しながら、思ったのは

    聖賢の王は人に何かを与えはしないのです。その人をその人にしてくれる。だから古来、人は聖賢の王を求めるのだ。(P312)


    ところどころに和歌が置かれ、当時のやり取りとはこんな感じだったのかと、興味深かった。会話ひとつ楽しむためにも、知識と想像力があって、もっとも的確な言葉で表現できることに価値があるようで。
    知っていることを次々に繰り出すのも品がなく、あっけらかんとした明るさも、ものを知らなければ評価されない。ああ、なかなかめんどくさい・・・。本で読むくらいが丁度いいか・・・。

    それにしても、中学生で読んだ枕草子の作者に対する印象とはずいぶん違いました。もっと虚栄心が強く、皮肉屋で、おおらかとか鷹揚とかとはずいぶんかけ離れた人だと思っていた。本書ではずいぶん内向的にも見えたしね。

    後半、定子の周りの人たちが苦境に追い詰められ、定子も辛い日々を送ることを余儀なくされる。それでも、華は華らしく人々の真ん中で咲き誇るさまと、それを支えた清少納言たちとのやり取りは読みごたえがあった。

  • 『枕草子』を書き上げるまでの清少納言の人生を、清少納言目線で綴られた物語。
    平安の世は色々しきたりが厳しく大変だけれど、清少納言は案外今風というか、時代を間違えて生まれてきた感が否めない。宮中という華を体験したものだけが抱くもののあはれ。華やかな世界に未練を残すのは今も昔も同じか。
    実際、清少納言のような女性が近くにいたら私は嫌っていたかも(笑)口では謙遜しつつ実は自信満々で、自分が誉められたと自慢気におしゃべり。しかも結構負けず嫌い。更にかなりポジティブ。いるいる、こういう女(笑)やっぱり好きじゃないわ~

  • 清少納言目線のお話。
    清少納言が中宮定子に仕えており、定子のことを
    心の底から尊敬している。
    自分がどのように振る舞えば、定子のためになるのか、
    定子を喜ばせるために、自分だけの文学「枕草子」を
    書き続ける、平安時代の雅な話だった。

    「清少納言」は「枕草子」。
    「紫式部」が「源氏物語」。
    っていうことしか分かってなかったけど、それぞれが
    仕える、定子さまや彰子さまの立ち位置などが
    わかった!!
    しかも、2024年の大河ドラマが紫式部がメインなのね!?
    これは、清少納言目線だったけど、紫式部目線の話も
    読んでみたい!!

    ただ、この時代の人物には全く感情移入できないー笑
    歌で自分の気持ちを伝え合うなんて、
    ダイレクトに言ってくれないと分かんないよーーー笑
    この小説も大きな話の山場とかはなくて、
    なんだか、たんたんと話が進んでく感じだったなー。
    だからか、個人的には物足りなさを感じたよ。

  • 歌も歴史もよく調べられていますね。
    作者を見ないで文だけ読んだら男性作家とは思わないかもしれませんね。

    最初はこの世界に入るまでちょっと読みにくく感じましたが、清少納言が定子に出会ってから俄然面白くなりました。

    ラストに迫るなか、あの人が家族を守るためにするある行動に心を打たれました。この時代、こんな決断をするのは死を覚悟するのと同じくらいの覚悟を迫られたでしょうね。
    一番愛されたい人からの愛と立場をなげうってでも家族を救いたいというのも大きな愛ですね。

    しかし、今だって親戚付き合いというものは大変ですが、それが政治に直結しているんでは今とは比較にならないほど、貴人の人生は大変だったでしょうね。

    誰だって、一番愛した人から一番愛されたい。
    それは清少納言が生きた頃から現代まで少しも変わらない人間の本音であり、ほとんど唯一の願いではないでしょうか。

    読了後、遠い時代の人々に思いを馳せながら、静かな感動がやって来ます。

  • 清少納言の一人称で書かれているのが非常に面白い。宮中の様子が目に浮かぶよう。枕草子を改めて読みたくなる。

  • 2021年の1冊目はこの本。冲方丁さんというと、『天地明察』『マルドゥク・スクランブル』シリーズなどが念頭にあったので、清少納言を扱った小説というのが、とても意外でした。タイトルも少女漫画の某誌を思わせて、合うとは思えなかったのです。でも、我が愛する清少納言が題材よと言われれば、それは読まないと気が済まず、体調宥めすかしながら読了しました。

    私はゆっくり読んでましたが、すらすらと読めます。とにかくよく勉強なさって書かれたんだなということが、大変によく解ります。

    清少納言の話って、現代ものだとなんだか紋切り型で、『枕草子』自体が、当時の政変に関わるあたり、絶妙に人間関係をぼかして書いてあるので意外と読むのが難しいからか、面白いのは少なかったのに、これは今現在の歴史や文学の学問的通説を上手く取り入れながら、さもありなん、という小説に仕上げています。

    定子の造型も芯に秘めた情熱や凛然たる知性が美しく、とても良かったですね。個人的には、『枕草子』が世に出ていく経過とか、藤原行成との関係の変化とかに、小説としての醍醐味を感じます。これが学問的事実でなくとも、説得力のある『小説』になってることがとっても満足なのですよ。

    清少納言も気の強い感激屋という描写じゃなく、世慣れた社会人。常識ある貴族社会の一員という印象があって、馬鹿っぽく書かれていなかったのは、すごく嬉しいことでした。

  •  清少納言が枕草子を書くに至るまでを描いた歴史小説。

     最初から最後まで清少納言の語りでこの本は進むのですが、彼女の心情や内裏の日常描写がとても細やかで表現も洗練されていて、
    もし清少納言が現代の日本語で枕草子を書いていたらこんな風に書かれていたのではないか、と思わされるほどでした。

     枕草子で思い出すのは扇の骨の話です。見事な扇の骨を手に入れたと自慢する男性に清少納言が放ったひと言とは?
    古典の授業で苦労しながら現代語訳をした覚えがありますが、その場面がこの本内でさらりとではありますが触れられていて非常に懐かしかったです。

     ただ前半は話に展開がなかなか見られず、後半の政治闘争の話は駆け足気味で、この時代の歴史に詳しくない自分にとってはなかなか難しかったです。

     しかし読み終えたとき枕草子の冒頭二行がとてつもなく美しく感じられるのは間違いないと思います!

  • 今度の冲方丁は、平安時代なのか!というのが最初の衝撃だった。
    そして、紙に触れた時、ドキッとした。
    これ、意図的ですか?

    『天地明察』の暦という壮大さ、『光圀伝』の大義を追い求める姿。雄々しさのイメージから一転、清少納言を語らせるとは。

    今までとはちょっとイメージの異なる嫋やかな文章が続き、どう受け止められるだろう、最初は考える所があった。
    スケールや戦的な迫力でいうと、やや弱い部分があるのは否めない。

    しかし、中盤からの凄まじさ。
    中宮定子と藤原道長の、一条帝を巡る愛と策謀をこんなにドラマティックに綴っていくなんて、さすが!

    クライマックスに、じーん。。。

    清少納言の才気もさることながら、やはり彼女に語らせてこそ、中宮定子に凄みが出る。
    私の中では、定子様素敵!の一冊(笑)
    あ、花山院にまつわるエピソードの描き方も、好き。

    瀬戸内寂聴の『月の輪草子』でも同じ形が取られているが、90歳の清少納言の語りはやや柔らかく物静かなイメージだった。(こちらも是非読んで欲しい)
    対する冲方丁は、動的な魅力に溢れ、強いイメージ。そして、はな(花•華)の持つ煌びやかで儚い時間を描き、ゆめとして鮮やかに幕を引いた読後感。

    じわじわと来て、一気です。是非。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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