- Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041106822
感想・レビュー・書評
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第三随筆集である。
前半が、表題作の連作「一私小説書きの独語」。後半は、さまざまな媒体に書いた雑多な文章の寄せ集めになっている。
「一私小説書きの独語」は、『野性時代』に“半自叙伝”と銘打って連載されたもの。
そもそも西村作品はすべて“半自叙伝”みたいなものであるわけだが、これは過去作に描かれた10代のころの暮らしを、私小説ではなく随筆として描くという趣向なのだ。
私小説も、小説であるかぎりは事実に潤色が加えられているわけで、その潤色のヴェールを剥ぎとって見せる、いわば自作の「タネ明かし」がなされている。
その「タネ明かし」が、意外なほど面白い。当然、小説と重複する部分もあるが、『二度はゆけぬ町の地図』所収の数編など、過去の「北町貫多」ものをすべて読んでいるファンにこそ楽しめる内容なのだ。
しかし、やはりというべきか、私小説に書く題材との使い分けが困難であったようで、この“半自叙伝”は中断され未完となっている。
本書では「一私小説書きの独語」が突出して面白く、あとの雑文には見るべきものがほとんどない。
わずかに、映画版『苦役列車』へのいちばんまとまった批判となっている「結句、慊い」が、なかなか読ませる。
西村はいろんなところで映画版への不満を表明していたが、それがけっきょくどのような不満であったのかが、よく理解できる。
ほかは、どうでもいいアンケートの回答とか、過去の自著の「あとがき」(私はすべて既読)まで寄せ集めてある始末で、「落ち穂拾いで無理くり一冊にしました」的なザンネン感が半端ない。詳細をみるコメント0件をすべて表示