- 本 ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041106839
作品紹介・あらすじ
若き日、型破りな戦争句で一躍俳壇の寵児となった鴻海。喉頭癌で声を喪った鴻海の招待を受け、作家・玄は、俳句を嗜んだ母の思い出を胸に、結社に出入りするが、鴻海の作品の中に、幾つかの剽窃の痕跡を感じ--。
感想・レビュー・書評
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(No.14-10)
『2011年3月11日午後2時46分、小説家・大友玄は担当編集者・神崎貴恵と東京渋谷のラブホテルにいた。二人とも結婚しており、つまりは不倫だ。もしかしてここで死ぬのか?
テレビの臨時ニュースで大変な事態が起こっていることを知り外に出た二人は、それぞれの自宅に向って歩き出した・・・。
句会を題材にした小説を書いた縁で「俳句展望」という俳句総合誌に連載を持っているからだろうか、俳壇の重鎮窪嶋鴻海が文化功労者になった祝賀パーティーへ招待された玄。そこで誘われ鴻海が主宰する朱夏俳句会に出入りするようになった。
その前後に亡き母が朱夏の会員だったことを知った玄は、母の遺品の中から句集を見つけた。
亡き母の残した句と鴻海の句にほとんど同じものを見つけた玄。
そして鴻海は「おくのほそ道」に描かれ、震災で被災した石巻への旅を、玄と同道したいと希望してきた。出版社に依頼された特別作品のための取材旅行。老齢の鴻海にとっておそらく最後の旅をなぜ玄としたいというのか。それは母と何か関係があるのか、悩みながらも玄は依頼を承諾した。』
私は初めて読んだ作家さんです。私の好みとはちょっとずれてるのですが、「震災後、おくのほそ道をたどる旅をする」ということに惹かれて読みました。
あの震災後、東日本の方には申し訳ないほど私の生活は平常でした。この小説で、いろいろな報道で心配したりしながらも、祝賀パーティーや句会など結局いつもどおりの生活を送る玄たちの姿を読み、一時影響があった東京でも早い段階で平常にもどってしまったのかなと思いました。
そういう中での石巻への旅。ずっと付き添ってくれるタクシー運転手・高瀬に好感が持てました。
芭蕉に対する曾良のように鴻海を世話するはずが、どうも役に立てない玄に代わりてきぱきとやってくれる高瀬さん。彼が時々語る震災のこと。作者は東北の想いを彼に語らせているんだなと感じました。
そして玄の生活は、結局震災が契機になって大きく変化していきます。
震災後の日本を描いた小説として、読み応えがありました。読んで良かったです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
俳句雑誌にエッセイを書いている大友玄.俳句界の重鎮 窪嶋鴻海の文化功労者選出の祝賀の宴に呼ばれ、鴻海との接触が始まるが、彼が主宰している朱夏俳句会に玄が高校生の時亡くなった母 冴子が加わっていたことが父だけが住む実家にあった冴子の遺品から判明.冴子の句を鴻海が剽窃していたことも発見したが、わだかまりが生じる.出版社の編集者 神崎貴恵との不倫も同時進行する.俳句会への誘いがあり、何度が出席するうちに鴻海に気に入られ、石巻への旅の同行を求められる.芭蕉の奥の細道になぞらえた旅で、鴻海、玄の句と芭蕉・曽良の句が出てきて楽しめる.終盤では妻瑛子の金銭トラブルが発覚し、玄を悩ます.朱夏の後継者問題でもトラブルが出てくる.413頁の大冊だが、俳句と玄の心持ちが楽しめる好著だ.
著者プロフィール
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