- 本 ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041108536
作品紹介・あらすじ
江戸は神田の三島屋で行われている変わり百物語。美丈夫の勤番武士は国元の不思議な〈火消し〉の話を、団子屋の屋台を営む娘は母親の念を、そして鯔背な老人は木賃宿に泊まったお化けについて、富次郎に語り捨てる。
感想・レビュー・書評
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〈三島屋変調百物語〉シリーズ第七作。
今回は少し短く三話収録。
聞き手がおちかから富次郎に変わって二作目、挿絵も作家さんが変わって少し雰囲気が違う。
「火焔太鼓」
『どれほどの大火事であっても、たちまち鎮火する』という不思議な太鼓には恐ろしい秘密があった。
「一途の念」
気がふれて長く苦しんだ末に亡くなった母の、その苦しみの日々と死後に起きた思わぬ出来事。
「魂手形」
彷徨う魂の心残りを解消し『和魂』として成仏させる『水夫』と彼らを手伝う青年。
おちかが聞き手を務めていた第一シリーズは救いのない、ただただ恐ろしい話もあったが、今回は怖いだけでない切ないような温かいような話だった。
人が人を思う気持ち、その大きさや深さを感じた。それが大きく深い故に苦しみや悲しみもあることを知った。
この時代、血の繋がらない親子や兄弟は珍しくないのだが、家族が互いを大切に思う気持ちは血の繋がりとは関係ない。逆に血が繋がらない故の悲劇もあった。
富次郎が聞いた物語を絵にすることで『聞き捨て』る趣向も面白い。毎回、どんな絵にするのか興味が湧く。
序盤で富次郎が絵を習っていた過去が綴られ、もう一度習いたい未練も感じる。次男である富次郎は店を継がずに絵描きとして生きるのだろうか。
おちかの直接の登場はないが、嬉しい近況が伝わる。三島屋はこの報せに沸き立ち、皆落ち着かない。
しかし幸せな気持ちで閉じるのかと思われた今回は最後になって不穏な出来事が。あの『商人』だろうか。
この登場は三島屋、おちか、そして百物語の行方にどんな展開をもたらすのだろう。
※シリーズ作品一覧
(全ての作品でレビュー登録あり)
①「おそろし 三島屋変調百物語事始」
②「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」
③「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」
④「三鬼 三島屋変調百物語四之続」
⑤「あやかし草紙 三島屋変調百物語五之続」
⑥「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」
⑦ 本作 -
宮部みゆきさんの時代物ホラーミステリー、三島屋変調百物語七之続「魂手形」
帰省のフェリーの中で読了。途中下船もできない、ネットも繋がらない、そのうえ今回はフェリーの中でやってる映画もテレビも観れない状況なので、集中して読めた。
今回で第七弾となる三島屋変調百物語だが、残念ながらシリーズ一番の凡作。
まず、今回の本を書店で見かけて「薄っ!」と、声に出してしまったほど薄い。
3話収録の293ページ。
今までの3/5ほどの厚みしかない。
もう、その時点で嫌な予感しかしなかったのだが、でも、中身さえ良ければーーと、読み進める。結果、中身の方が、より薄っぺらだった。
なんだか、ホラーというより、ファンタジー。
怖さが、悪い意味でまったくない。
唯一心動かされたのは第一弾から第五弾まで主役となる聞き手を務めていた、おちかの懐妊のニュース。
しかし、これとてもおちか目線で語られるわけでもなく、出番すらない。
最後にシリーズ通してたまに出てくる謎の男が現れ、おちかに因縁めいたことをほのめかして消える。
そのヒキだけは良かった。
やっぱり主役となる聞き手を富次郎からおちかに戻してほしい。 -
聞き手が富次郎に変わってから、力が抜け、話の怖さを相殺していて、バランスがいい。
テンポもよく、冗長ではなくなった。
今回はどの話も、悪意がメインではなく、人柄やエピソードに引きこまれる。
おちかのときは、聞き手に緊迫感があって、全体的に重かった。
結婚し、聞き手を辞めてもなお、おちかには負のものがまとわりつくのだな、と改めてシリーズ前半の雰囲気を思い出す。 -
優しさが濃い一冊。
どれどれ…富次郎の板のつき具合を楽しみに襖を開いた。
今回は三話とちょっと物足りなさ感もあるけれど、いやいや、どれも濃い。
面妖よりも圧倒的に優しさが濃い印象。
富次郎の人生の迷いの心もなんだかじんわり。
優しい人柄が感じられ聞き捨てるという語り手に対する気遣いもおちかとはまた違った優しさを感じられて心ほかほか。
三話目が一番好き。
吉富さんも水夫さんも優しさの塊り。
思いを固結びにするっていうのも粋だな。
まさに優しさの魂結びみたい。
最後のサプライズゲストには不意打ちを喰らった。これからどうなる⁇ -
三島屋変調百物語の7弾目。富次郎さんに変わって、安定してきたかと思えば、今回も悩みながら、聞き捨てしていく感じで、これが味なのかなとも思いつつ。
今回は3編と少ないのですが、ちょっとジワッとくる話ばかりで、ちょっとソワソワしながら読みました。怖いという意味では「一途の念」。馴染みの団子屋の娘が語る一家の話は、悲しいものながら、その結末は、最初ちょっとわからないのが、ジワジワ気味悪さが出てくる感じで怖かった。
「魂手形」は、物語自体の雰囲気が不安を感じさせる気味悪さがあり、語り手の感じのよさがあっても、怖さが滲み出る感じでした。
今後の展開も気になる感じの中、小旦那富次郎さんが、どんな感じになっていくか、楽しみです。 -
面白かった。富次郎がおちかから引き継いで2作目、おちかはでてこないが、おちか情報はたっぷり。語られるのは3つで、火焔太鼓、一途の念、魂手形。百物語にふさわしい、異形が出てくるトワイライトゾーン的なホラーではあるが、ベースが人情話で読了感暖かくほっこりさせられる。3話すべて甲乙つけがたいが、やはり読み応えがあるのが魂手形、好みなのが火焔太鼓。一番気持ち悪く、ゾッとしたのが一途の念。
ただし、今作のエンディングはめちゃめちゃ不穏。やだねぇ。 -
切ない話でしたが、一気に読めました。どの作品もとても強い芯を持った女性が登場してきました。
おちかの近況もわかるし、おちかのシリーズからの繋がりも出てきてますます楽しめます。富次郎さんになってから、背景がおちかのように重たくないせいか不思議な話で終わっていた印象でしたが、少々不穏な感じもでてきて次も期待できます。 -
3話ともどこか悲しい話だと思います。
「火焰太鼓」は柳之助の藩に対する忠義、「一途の念」はお夏の家族を守ろうとする想い。ただ、みんな一生懸命生きていこうとしてるだけなのにと切なくなります。
「魂手形」は悲しいところもあるけど、お竹と吉富の関係に救われた気がします。
終わりが気になってしょうがないです。三島屋の幸せが壊れませんように。
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なぜ自分だけがこんな目に? 不運がついて回るのは、自分が悪いから…。
一見「普通」に暮らしているように見える人々が各々の心に抱える哀しさや寂しさ、恨みつらみも怒りも、前に進むために、三島屋の銀次郎が引き受ける。
市井の人々の苛烈で醜悪な人生の起伏を。
「わたしはね、おまえと同じように、どこから見たってまっとうなお人がさ、『こんなことをお聞かせするなんて死ぬほど恥ずかしい、申し訳ない』なんて言いながら、こっそり声をひそめて語ってくれるお話を、いろいろ聞いているんだよ」
言語化できずに心に抱え込むあまり、自分が恐れているもの、欲しているもの、困っていることが見えなくなり、闇が肥大化する。
塊となった心の暗闇は、人の心を押しつぶし、ある時は、誰かを恨むことで解消しようとし、最後には自分を責める以外の方策がなくなり、自責の念と自己否定の轍に入り込む。
その様がすべてのシリーズの短編のなかで、実に細やかに描かれる。読みながら、私の心も語り始める。
本作第三話【魂手形】ではおちかに関する描写に涙が零れた。
「おちかが背負わされた暗闇は、おちかにしか見えぬものだ。その重みも、おちかにしか感じられない。周りの者どもがどれほど案じて手を差し伸べても、その暗闇には実体がないから掴めない、触れない。
中略
それくらい重たくて厄介な暗闇を、おちかは背負っていた。
いや、背負っている。今でも。
きっと一生背負い続ける。おちかは自分の背中の暗闇を決して忘れまい。ただ、暗闇に飲まれずに、自分の人生を生きなおそうと決意したのだ。」
心の奥底にしまい込んだ弱さや切なさを覗き込むのはとても勇気のいること。
丸ごと受け入れて、否定も助言もせずに耳を傾けてくれる他者の存在は不可欠だが、誰それの共感や同情で解決するのは一時的なもの。
私の哀しみは私にしかわからない。
私の寂しさは私にしかわからなくていいんだ。
私の弱さも脆さも自分でしっかり引き受けて、自分で選んで生きていく。
登場人物に近すぎず、遠すぎず。
作品のために、人を動かし、出来事を起こすのではなく、人が動き、出来事が起きる小説(これ、角田光代さんの言葉)。
次作も心待ちにしています。
著者プロフィール
宮部みゆきの作品






単行本は重いんですよね。
寝転がって読みづらいし。
安価な文庫本待ちにします。
楽しみです。
単行本は重いんですよね。
寝転がって読みづらいし。
安価な文庫本待ちにします。
楽しみです。
シリーズ作品の中では薄い方だとは思いますが、単行本なので重いですね(-o-;)
テンポ良く読めました。
シリーズ作品の中では薄い方だとは思いますが、単行本なので重いですね(-o-;)
テンポ良く読めました。