天翔ける (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041108949

作品紹介・あらすじ

幕末、福井藩は激動の時代のなか藩の舵取りを定めきれず大きく揺れていた。決断を迫られた藩主・松平春嶽の前に現れたのは坂本龍馬を名乗る一人の若者。明治維新の影の英雄、雄飛の物語がいまはじまる。

感想・レビュー・書評

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  • 幕末から明治の時代を生きた、松平春嶽の生き様が語られた物語。
    福井藩の松平春嶽という人物は、本書で初めて知りました。

    本書を通して感じられる春嶽は中庸の人物。
    さまざまな困難がありながらも、国益のため尽力を尽くす人物。
    とは言いながらも、「俺が俺が」というタイプの人ではなく、様々な人の意見を聞き、参謀を育て、あるべき姿を求めるリーダ像を感じさせる人物でした。

    その対比となるのが慶喜。
    「私」を捨てられず、坂本龍馬暗殺の黒幕のような描かれ方でした。それはそれで面白い。

    そして、明治維新後に西南戦争で戦死した西郷。その志と生き様も熱いです。

    そんなこんなで、幕末、明治維新を生きた男たちの物語でした。

  • 物語はペリー来航の10年後より始まり、途中から主役である松平春嶽の半生を描き出す。

    淡々とした抑揚のない文章に心惹かれる部分もある。歴史証言を山積した文脈!!!

    松平春嶽は劉備でいう伏龍と鳳雛に、横井小楠と橋本左内を挙げる。横井と橋本の描き方が葉室麟さんらしく、とても丁寧に描かれている。

    解説にもあったがこの『天翔ける』の初版発行日の3日前に葉室麟さんは亡くなられている。なんとも感慨深い作品である。

  • 「四賢候」の一人として、幕末小説などにたびたび登場するが、主役としては取り上げられてはいない松平春嶽が主人公。
    幕末にあって、最も偏りのない人物として評価する著者が、彼を中心に動乱の時代を描いた歴史長編。
    『大獄 西郷青嵐賦』が、倒幕側から書かれたのに対し、本作は幕府側から描いた幕末史といえよう。
    攘夷鎖国で揺れる時代。橋本佐内と横井小楠を重用し、「大政奉還」を持論に、日本の国の行く末の舵取りを図ろうと懸命に模索する春嶽。
    大老に推されながらも固辞する彼を、側近は、人物識見とも大老にふさわしいが、野心と我執が足りないと。
    春嶽は、将軍継嗣問題で慶喜を推したが、彼に「小才子」の資質を見抜いており、その変質漢振りに翻弄される。
    春嶽と慶喜との違いを、坂本龍馬は論断する。
    「春嶽候は雄藩連合での<公>の政事をめざしちょる」に、「一橋候が行おうとしちょるのは、徳川家のためだけの<私>の政事だ」と。
    この慶喜が、龍馬暗殺の黒幕!?
    春嶽と龍馬により大政奉還を余儀なくされたと思い込む慶喜が、若年寄の永井玄蕃頭に「坂本なる浪人は邪魔だな」と、つぶやく場面がある。
    その意を忖度して龍馬を殺せ、とほのめかしているとの著述。
    龍馬暗殺の黒幕を巡っては、その直後から様々な説が入り乱れているが、著者が示唆するこの解釈は如何。
    維新後、役職を退いた春嶽と妻の勇姫が、「西南の役」を起こした西郷について交わす場面がある。春嶽を通じて著者の思いを語って印象深い。

  • 尊王攘夷を唱えながら、倒幕すると、いち早く欧米列強に近づく新政府の矛盾。
    今の世にいるのは、主君への忠義心を忘れ、その後ろめたさを隠すために、ことさらに尊王を唱える化け物ばかりだという春嶽の言葉。
    一時は新政府の中枢にいながら、士族らと西南の役を起こし、降伏することなく命果てた西郷の生き方。
    中庸な春嶽の目を通す形で、対比して示してくれた作者の視点に、歴史の流れを見る鋭さを感じた。

  • これまでに幕末から明治維新のあたりを描いた小説を何作か読んでいましたが、本作ではまた違った面から見えるものがあり、とても面白く興味深く読み進めました。
    物語の主人公によって、同じ時代のお話でも印象が変わってくるものです。
    時代の流れやいろいろな登場人物に振り回されたり、かき回されたり、、、春嶽さん、どうするんだろうとドキドキハラハラする場面もたくさんありました。
    西郷さんの方も読んでみたくなりました。

  • 日本経済新聞社小中大
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    葉室麟「天翔ける」 福井市
    春嶽は旧幕府に続いて新政府でも重職に就いたのである
    2021/11/20付日本経済新聞 夕刊
    江戸末期から明治維新にかけての激動の時代、幕府と新政府の双方で要職に就いた人物がいた。福井藩の16代藩主、松平春嶽(しゅんがく)である。早くから開国の必要性を理解し、有能な人材を集めて、公議公論によって国の政治を行おうとした。本書は春嶽を通して、幕末から維新に至る歴史を見つめ直した小説だ。

    松平春嶽が登城に使った御廊下橋(手前)と山里口御門。小雨の朝、1羽の鳥が飛び立った=目良友樹撮影
    松平春嶽が登城に使った御廊下橋(手前)と山里口御門。小雨の朝、1羽の鳥が飛び立った=目良友樹撮影

    長い北陸トンネルを抜けると、どしゃ降りだった雨があがった。福井駅を出ると、すぐ近くに徳川家康次男の結城秀康が築いた福井城の本丸跡がある。春嶽は徳川(田安)家に生まれ、11歳で越前松平家を相続し、城の主となった。


    城跡に天守閣は現存しないが、親藩大名の城だけあって石垣は立派だ。堀を巡ると、屋根つきの珍しい橋が架かっていた。御廊下橋(おろうかばし)と呼ばれ、春嶽は住居の御座所(ござしょ)から橋を渡り、山里口御門を通って本丸へと向かった。橋は2008年に再建、門も18年に復元され、名所となっている。

    春嶽は安政の大獄で藩主を退いたが、再び政治の表舞台に現れ、幕府の大老にあたる政事総裁職を務めた。新政府でも重役にあたる議定などに就いた。重用されたのはなぜか。ヒントを求め、福井市立郷土歴史博物館に向かった。

    「春嶽は外様大名を含めた雄藩大名によって幕府を立て直そうと考えていた」。博物館の主幹学芸員で福井県立大学客員教授の角鹿(つのが)尚計(なおかづ)さんは強調する。このため、親藩大名として幕府の上層部とつながる一方で、薩摩藩主の島津斉彬(なりあきら)、土佐藩主の山内容堂ら外様大名にも知己が多かった。時代が大きく動き、幕府の存続が危うくなっても、春嶽は幕府と朝廷を一つの政権にして天皇のもとで議会政治を行う考えだった。「賛同者は幕府側にも朝廷にもいた。明治政府に残るのは当然の流れだった」と角鹿さんはみる。

    春嶽は謙虚な人だ。身分を問わず有能な人材を登用し、意見をよく聞いた。世界事情に通じ江戸や京都で活躍しながら安政の大獄で刑死した橋本左内、新政府の五箇条の御誓文の原案を起草した由利公正ら、多くの人材を育てた。坂本龍馬に会い、神戸海軍操練所の建設資金も出した。

    博物館には「私には、何の才知に富んだはかりごとも奇抜な考えも無い。常に周りの意見をよく聴いて、よい方向を見出すまでだ」と述べた春嶽の書が展示されている。「春嶽は血を流さずに議論をして新しい時代をつくろうとした。極端に走る危うさが漂う現代に見直されていい」と角鹿さんは考える。

    福井市内を歩き、左内公園に行くと、ボランティアが左内の墓所の掃除をしていた。春嶽と春嶽が育てた人材は今も福井の誇りだ。

    (兼吉毅)


    はむろ・りん(1951~2017) 北九州市生まれ。西南学院大卒。地方紙記者などを経て、2005年「乾山(けんざん)晩愁(ばんしゅう)」で歴史文学賞を受賞し作家デビュー。07年「銀漢の賦」で松本清張賞、12年「蜩(ひぐらし)ノ記」で直木賞、16年「鬼神の如く 黒田叛臣(はんしん)伝」で司馬遼太郎賞。

    「天(あま)翔(か)ける」は17年KADOKAWA刊。松平春嶽の半生を描きながら、独自の歴史見解も示している。例えば、徳川慶喜の辞官納地を決めた小御所会議について、西郷隆盛らが短刀で脅す気配を見せ、春嶽や山内容堂ら慶喜擁護派は押し切られたとする説もあるが、「そんな事実はなかった」と断じ、春嶽と容堂は新政府が発足と同時に分裂することを危ぶみ従ったと述べている。(作品の引用は角川文庫)

  • 松平春嶽が主人公。
    幕末の登場人物が沢山出てきて
    わくわくする。

    ちょうど今の大河とリンクする。

    葉室麟さんらしい
    丁寧なものがたり。

  • 『天翔ける』の主要視点人物は松平春嶽(まつだいらしゅんがく)である。
    「松平春嶽」?御本人は徳川御三卿の一つである田安家で生まれ育ったが、御一門と呼ばれた親藩の一つであった福井城を本拠地とする越前松平家に養子に入り、11歳で当主の座を受け継いでいる。越前松平家の当主としては、12代将軍徳川家慶の偏諱を賜って松平慶永と名乗った。が、<安政の大獄>で隠居ということになる等した経過から春嶽の号を名乗った時期が長く、その「松平春嶽」という名で知られている。幕末期に識見や人物に関して評価が高く声望が在った大名達が「賢侯」と呼ばれたが、松平春嶽はその「賢侯」に数えられる人物だ。
    本作の冒頭は1863年のある日、福井を訪ねて来て「勝海舟の使い」と称した人物と松平春嶽とが初めて対面して話したというような場面から起こる。やがて、松平春嶽の辿った人生、<安政の大獄>やその他の様々な経過、更に明治維新への道程と、その中での活動や果たした役目というような物語が展開する。
    島津斉彬が西郷吉之助を見出したのに対し、松平春嶽は橋本佐内を見出している。各々の主君の意を受けて活動した西郷吉之助と橋本佐内とは、より好い国を目指そうという同志であったが、互いに深い友情を共有していた。そして橋本佐内は刑死してしまい、西郷吉之助は奄美大島で暮らすというようなことの後に様々な経過を辿って行く。
    島津斉彬と松平春嶽とは互いを認め合う、高く評価しているという間柄でもあった。島津斉彬は志半ばで急逝してしまう。松平春嶽は生き残った。揺れる時代を見詰め続け、様々な構想を抱きながら活動を続けた松平春嶽は何を思い、何を目指したのか?それが本作の物語であろう。更に、明治維新の経過の末に彼が何を観たのかという物語でもある。
    作中で松平春嶽が目指したこととは?恐らく「私」を排して「公」を創るというようなことだったのかもしれない。そういう理想を追う様を「天翔ける」とする訳だ。
    松平春嶽は幕末期を背景とする時代モノの作中人物として色々と登場はしていると思う。が、主人公に据えられている作品はやや珍しいかもしれない。が、「私」を排して「公」を創るというような、松平春嶽の思索と活動が追体験出来るような本作は、なかなかに好い…
    「明治維新とは如何いうモノ?」という大きな問いに少しでも関心が在るなら、本作は有益であることは間違いないと思う。広く御薦めしたい。

  • 幕末から維新という、明治維新の隠れた英雄・松平春嶽の生涯を描く感動の歴史長篇。旧幕府にあって政権を担当し、新政府にあっても中枢の要職に就いたのは春嶽だけである。

  • 松平春嶽を書いて下さったことに感謝。

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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