八月の母

著者 :
  • KADOKAWA
3.83
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  • (4)
本棚登録 : 1182
感想 : 121
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109076

作品紹介・あらすじ

『イノセント・デイズ』を今一度書く。そして「超える」がテーマでした。僕自身はその確信を得ています――早見和真

彼女たちは、蟻地獄の中で、必死にもがいていた。

愛媛県伊予市。越智エリカは海に面したこの街から「いつか必ず出ていきたい」と願っていた。しかしその機会が訪れようとするたび、スナックを経営する母・美智子が目の前に立ち塞がった。そして、自らも身籠もった最愛の娘──。うだるような暑さだった八月のあの日、あの団地の一室で何が起きたのか。執着、嫉妬、怒り、焦り……。人間の内に秘められた負の感情が一気にむき出しになっていく。強烈な愛と憎しみで結ばれた母と娘の長く狂おしい物語。ここにあるのは、かつて見たことのない絶望か、希望か──。

感想・レビュー・書評

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  • 大きなひっかかりは覚えたけれど、ラストに込められた希望以外は読んでいて楽しい話では全くありませんでした。
    でも、小説としては完成度が高いので星5をつけました。

    以下完全にネタバレで書いていますので、これから読まれる方はお気をつけください。



    越智エリカは越智美智子の娘として、愛媛県に生まれました。美智子は三人の男性と一緒になった末、飲み屋を経営してエリカと二人で暮らします。

    エリカもまた、複数の男性の子どもを三人産み、一人で育てようとしますが失敗します。
    エリカは一番下の陽向のみを可愛がりますが、上の二人の子どもと子どもたちの遊び友達のたまり場に自分の住んでいた団地を提供してそれを生きがいにします。

    そこで毎日のように起きた乱痴気騒ぎの末に起きた凄惨な事件。

    エリカを「ママ」と慕っていた17歳の紘子がリンチに遭い殺されます。
    紘子は一人だけいつも年少の陽向を少年たちの暴力からかばっていた子でした。

    団地にたまっていた娘の一人が言った「不気味さの正体。あの人たちの共通点って、自分たちがガキのまま母親になったことだと思うよ」という言葉が的を得ているのではないかと思いました。

    紘子は陽向に言いました。
    「人生は誰かのためにあるわけではない。あなたの人生はあなただけのもの」。
    陽向は27歳の時、愛媛を出て東京で結婚し母親になっています。
    そして、出所してきた陽向に縋ろうとする母のエリカに言い放ちます。
    「私は螺旋階段から抜けるよ。あの家族のスパイラルを私が断ち切る」。

    なんて痛ましい話だろうかと思いましたが、繋がりを断つことができた陽向とエリカには希望が見える気がしました。

  • ★5 辛い人生でも幸せになるヒントが見つかる! 毒親と娘の狂気きわまる社会派ミステリー #八月の母

    ■レビュー
    自分勝手がヒドイ物語。献身とか犠牲の愛とか、そんなの一切なし!

    子供よりも自分を優先に考える、それどころか子供に強請る親たち。
    私も人の親をやってますが、どうしてもこういう親が理解ができなかった。
    しかし本書を読んだら少しだけ分かった気がしましたね…

    本書一番の特徴はやっぱり人の弱み、業、欲の描写。
    読者に強烈な負の感情を突き付けてきます。

    親として絶対子供に言ってはいけないセリフの数々。
    せっかく生んでやったのに。お前に見放されたら死んでやる。
    男が女に絶対やってはいけない行為の数々。
    恫喝、暴力、凌辱。あーもう最低。

    読めば読むほど、抜け出ない鬱に入ってくる恐ろしさ。
    しかしこれが最高なんです、さすがイノセントデイズの早見先生。鬼強烈でしたよ。

    ここまでではないですが、実は私も恵まれていない家庭でした。
    大人でも自身の親に見切りをつけるというのは、めちゃくちゃ勇気と強い意志が必要でした。意思とは反して、涙がとめどなく出てくるんですよ。

    そんなどん底な中でも、私は誰かのせいにしたりせずに、自分の未来のために胸を張って決断してきました。確かに辛い環境の人たちはいっぱいいる。しかし言い訳せず、自分のために生きてほしいです。

    ■推しポイント
    物語の後半に登場するある女性。生命の描写がリアルすぎる。
    ラストには思わず目を閉じ、彼女に話しかけてしまいました。

    最悪の人生だったかもしれませんが、あなたのおかげで新しい家族が培われました。しっかりとあなたの人生を感じることができました。ありがとう。

  • 2014年、愛媛県伊予市で起こった17歳集団暴行死の
    ベースになったフィクション。
    だが、この事件の記憶は薄く自分の中では、新たな小説として読んだ。

    美智子から始まる親子三代までも続く負の連鎖。
    それは、地獄を見るようで悍ましく救いようがない。

    どうしてそれほどまでに母なるものから離れられないのか…逃げられないのか…
    それが運命だと諦めているのか…

    どこかで母と離れれば、少しは違ったのでは、ないのかなどと思ってしまう。

    団地の中で起きた狂気も集団だからこそ、全ての怒りや嫉妬がぶちまけられた事件へとなったのではないのだろうか。

    いっしょに生きることは、酷なこともある。
    血が繋がっているからこそ、辛くてしんどくてやりきれないのである。
    それが、歪な母子なら苦しみしかなかったのでは…と感じた衝撃的で重い話だった。




  • 内容が重すぎました。
    軽い気持ちで読み始めたけど、内容知ってたら手に取らなかったと思う作品。

    負の連鎖が続く母と子の物語。
    こんな母親にはなりたくないと思いながらも母から逃げられない…
    読んでいた中で、この子だけは違う!って思いながら読み最後は負のスパイラルを、断ち切ったが子がいたが自分を守ってくれた人を助けれず裏切ってたことに失望した。

    すごく、どんよりとした気分になる。
    もう二度と手に取りたくない。
    つらすぎる。

    店長が〜
    の作者とは思えないくらい、全然違う作品!

  • 沈む一冊。

    母娘の鎖の物語は鉛のように心に苦しみが沈む。

    男女の鎖の軟さと母子の鎖の強固さ、この対比がまた心に沈み込む。  

    母とは子という船を航海へと送り出し、見守り迎える港であるべきなのに。
    我が子の錨を繋ぎおろし、子もあきらめという母の港から永遠に抜け出せない連鎖。

    目の前に広がる海にその心を浮かべ解き放つ非力さ、要因がやるせなく沈澱してやまない。

    団地の狂宴の終宴は心に絶望の杭が突き刺さった瞬間。

    真の母ともいうべき彼女の言葉に大きな愛の波を感じた。

    数々の言葉のお守りを胸に、母、人としての真の航海はきっとこれから。

  • ある種、暴力的な母娘のネグレクトを正面に据えたズシンと重くて辛くて、でもって哀しい作品でした。
    これでもか と迫ってくる緊迫感も十分で且つ実際のところ似たような事件事故報道も現存するだけに臨場感もありますよね。
    舞台を愛媛と東京に設定してあるのもいいです。
    母娘三世代にわたっての逃れようの無い定めに厭世観さえ漂ようけれど、ちゃんと光りが射してくるエンディングにほっと出来る構成はなかなかの優れモノでした♪
    血は水よりも濃くは無いし血は争えるものでした!

  • 愛媛県で実際に起きた事件をもとに作られた作品なんですね…。美智子、エリカ、陽向…3世代に渡った負のスパイラル…美智子のような母にはならない、いつも笑顔の絶えない賑やかな場所で子供達と過ごしたいとエリカは強く願ったが、だんだんと子供達の知人、友人のたまり場のようになっていき…それは取り返しのつかない事件を引き起こすきっかけになった…。

    母と娘の物語…読んでいてすごく苦しくなった…みな母を愛し、許し、そして愛情をもって母として子を育てているのだけれど、ゆがんだ愛情っていったらいいのか、不器用なのか…はたまた、結局は子より自分が一番なのか…。

    長い年月はかかったけれど、紘子さんがいてくれたから、守ってくれたから陽向は母との関係を見直すことができたんですね!ホント、読むことにすごいエネルギーが必要な作品でした。「イノセント・デイズ」も読みたいと思いました!

  • 北上次郎氏が「本の雑誌」の2022年エンターテイメント部門で1位に推挙してたので手に取りましたが、果たしてエンタメ部門として良いものか?
    「事件」までのプロセスが時の経過とともにじわじわと病変の如く物語を侵食していく様が、リアリティ過ぎてフィクションとは思えないくらい凄惨。それ故に後味がこの上なく辛くなかなか現実にもどって来れませんでした。これほどの深みに堕とされたのは宮部みゆきの「理由」以来か。
    覚悟して読むべし。

  • 「八月の母」 血の匂いがする呪縛の果てに 朝日新聞書評から|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14604946

    週間読書日記 新井見枝香(書店員・エッセイスト・ストリッパー)|日刊ゲンダイDIGITAL
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/306285

    「八月の母」 早見 和真[文芸書] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000196/

  • 地元愛媛で実際にあった事件を題材にした小説。全く興味はなかったのですが、母が貸してくれたので読んでみることに。結果的に読んで良かったです。被害者と加害者どちらにも寄らずフラットな目線で非常に気持ちの良い文章でした。
    読んでいる間、色々なことを考えさせられる本でしたが、最後の紘子の言葉にすべて集約されます。

    「生きることを絶対に誰かのせいにせんといて。あなたの人生はあなただけのものやから。」

    人間は環境によって大きな影響を与えられますが、環境を自分の意志で変えられる強さもあります。ただ、変えようと思い至るにはきっかけが必要。陽向も紘子という外部要因がなければ、母親と同じ道を辿っていたかもしれません。

    この本を読んで、
    子供や後輩にはできるだけ視野が広く、フラットな価値観を提供したいと感じるようになりました。様々な経験をさせて多角的にきっかけを与えてあげたいですね。

    • pさん
      麦の海さん

      はじめまして、こちらの小説
      実際にあった事件が題材だったんですね
      全く知りませんでした
      麦の海さん

      はじめまして、こちらの小説
      実際にあった事件が題材だったんですね
      全く知りませんでした
      2022/12/21
    • 麦の海さん
      pさん

      コメントありがとうございます。2014年8月に愛媛県で実際にあった事件を題材にしているようです。

      pさんも感想に書かれているよう...
      pさん

      コメントありがとうございます。2014年8月に愛媛県で実際にあった事件を題材にしているようです。

      pさんも感想に書かれているように私も『店長がバカすぎて』の早見さんしか知らなかったので、ギャップに驚きました。
      2022/12/21
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著者プロフィール

1977年神奈川県生まれ。愛媛県在住。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、20年『ザ・ロイヤルファミリー』で19年度JRA賞馬事文化賞と第33回山本周五郎賞のダブル受賞。同年『店長がバカすぎて』で本屋大賞9位。『あの夏の正解』で「2021年 Yahoo! ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」ノミネート。他の著書に『スリーピング・ブッダ』『95』『ぼくたちの家族』『笑うマトリョーシカ』『かなしきデブ猫ちゃん』など。

「2022年 『八月の母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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