- 本 ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041109106
作品紹介・あらすじ
「記憶していた以上に凄い本だった。これは奇書中の奇書と言っていい」
解説の高野秀行氏も驚嘆!
前人未踏の養豚体験ルポルタージュ。
ロングセラーの名著『世界屠畜紀行』の著者による、もう一つの屠畜ルポの傑作。
生きものが肉になるまで、その全過程!
世界各地の屠畜現場を取材していく中で抱いた、どうしても「肉になる前」が知りたいという欲望。
養豚が盛んな千葉県旭市にひとりで家を借り、豚小屋を作り、品種の違う三匹の子豚を貰い名付け、約半年かけて育て上げ、屠畜し、食べる。
「畜産の基本は、動物をかわいがって育て、殺して食べる。これに尽きる」。
三匹との愛と葛藤と労働の日々に加え、現代の大規模畜産での豚の受精、出産から食卓にあがるまでの流れも併せて踏み込み、描いた前代未聞の養豚体験ルポルタージュ!
※本書は2012年に岩波書店から出た単行本を加筆修正し、文庫化したものです。
【目次】
はじめに なぜ私は自ら豚を飼い、屠畜し、食べるに至ったか
見切り発車
三種の豚
システム化された交配・人工授精
分娩の現場で
いざ廃墟の住人に
豚舎建設
お迎え前夜
そして豚がやって来た
日々是養豚
脱 走
餌の話
豚の呪い
豚と疾病
増量と逡巡と
やっぱり、おまえを、喰べよう。
屠畜場へ
何もかもがバラバラに
畜産は儲かるのか
三頭の味
震災が
あとがき
文庫版あとがき
解説 高野秀行
感想・レビュー・書評
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「この本は、二〇〇八年一〇月から二〇〇九年九月までの一年間をかけ、三頭の肉豚を飼い育て、屠畜場に出荷し、肉にして食べるまでを追ったルポルタージュである。」
本の紹介としては、冒頭のこの一文に尽きるが、まあ壮絶である。当たり前のことながら、「豚飼養体験サービス」なんて商品が世の中にあるわけではない。自分で育てた豚の肉を食べたい、という企画を実現するために、各方面に説明し協力を仰ぎ、環境をゼロから構築するところから始めるのである。
実際、豚と暮らし始めるまでが長い!豚を提供してくれる農家を探したり、受精や出産に立ち会ったりと豚との接触もあるが、それと並行しての、豚を飼える物件探し、そして豚小屋建設もかなりハードそうであった。しかも内澤さん、運転免許はあるが運転できない。自転車暮らしも検討するが、やはり無理があると考え直し、ペーパードライバー講習を受け、車をなんとか入手する。ちなみに、予算などどこからも出ない。すべて(?たぶん)自腹のようだ。
過酷だなあ、と、こう書き並べてもやはり思うが、でも読んでいて悲壮感があるかというと、ない。第一に、自分でやりたくてやっているのであり、内澤さん自身の熱意と信念は揺るがない。第二に、周囲からの、呆れと驚き混じりのサポートが心強い。養豚のプロたちによる専門的な力添えもさることながら、個人的な友人たちが遠くからやってきて土木作業など手伝ってくれたり、豚たちと遊んでくれたりする様子も微笑ましい。
なかでも『着せる女』で内澤さん著書読みデビューした私としては、あの本で散々着せられていた仲良し男性陣、高野秀行さん、宮田珠己さん、杉江由次さんがこぞってやってくるシーンは楽しかった。これについては、高野秀行氏による文庫版解説でさらに補足情報もあり、この四人組の馴れ初め(?)まで知ることができ嬉しかった。
高野さんの解説これまたすばらしく、この本の「三大“引く”要素」のうちに数えられるであろう「豚に◯◯を食べさせる」「豚の◯◯を撫でる」についてツッコミとも援護射撃とも言える言及があり、この二人ウマが合うんだろうなあとつくづく感じさせるものがあった。彼ら仲間内における「ジュンコ・ウチザワ観」の紹介も面白く、読者として彼女にどう振り回されていけば良いかがなんとなくつかめた気がする。(ちなみに「三大“引く”要素」のもうひとつは……、候補がありすぎる。読者によって諸説あり、ということで。)
豚については、想像していた以上に可愛くて賢いんだなと感じた。そしてやはり美味しい。「可愛いからかわいそう」と「美味しいから食べたい」のせめぎ合いを実に正直に見せてくれた内澤さんのご両親の言動も味わい深かった。 -
本書は動物愛護・保護的感情論から’肉を食うのを止めよ’とか、道徳的視点から’命の有り難みを噛み締めよ’等といった主張をするものとは全く一線を画する、私の内に強烈な印象を刻み込んだドキュメンタリー。
自ら飼って育てた豚を捌いて食べるなんてかわいそう!信じられない!という気持ちを抱くのは何ら不思議ではないし、そもそも著者の内澤旬子先生だって悪鬼羅刹ではないので屠畜の日が近づくにつれての複雑な心情を明かしているし、当日も「辛かった」(p251)「せつなかった」(p257)という瞬間があった事を綴っている上に「豚がかわいくてしかたがなかった。」(p158)と振り返っている。
ここで大事な事は、そもそも内澤先生は三頭の豚をペットではなくて家畜として飼い始めた訳で、飼い出した理由は世界中の屠畜現場取材の過程に於いて屠畜場に送られてくる家畜達そのものの事についてを知りたいと思った、という学究的関心による。
かわいそう!信じられない!という反射的反応の根拠って相当曖昧で、「何がかわいそうで何がかわいそうでないか」(p155)とか「動物を食べるのがかわいそうで、植物を食べるのがかわいそうではないと断ずる理由はなにか。」(p336)とかって突き詰める程に、結局はそう考えるその人の「単なる習慣」(p158)に過ぎないエゴイスティックな押し付けなんだろうなと私自身の事も含め、改めて考えるきっかけになった。
…と書いていてふと思ったけど、ついさっき豚の生姜焼きを食べたんだよなあ。結局のところそんなもんよ。
ちなみに、三頭の豚が屠られる場面以上に衝撃的だったのは分娩立ち会いのシーン。豚舎に入って「まず目に入ったのは、下半身がちぎれてなくなって死んでいる赤ちゃん豚だった。」「猫が入ってきて食べちゃう(中略)それと初産の母豚は(中略)驚いて噛み殺したり、食べちゃう」(すべてp66)らしい。絶句。まあ猫問題はともかくとしてパンダだって育児放棄するっていうし、母に無償の愛を強要するのはそれこそエゴイスティックな無理強いというものでしょう。
他にも大規模養豚業が孕む問題点だとか持続可能な循環型農場の課題点だとか、様々な知見を得られた一冊でした。
よく学校での「いのちの授業」を巡って意見が割れたりもするけれど、勿論子供達に棍棒やナイフを持たせて手ずから解体にあたらせるのは慎重に為されるべきだが※注※、屠畜業についてをタブーとして隔離・隠蔽するというのは却っていのちや食べ物をぞんざいに見做している事になりはしないだろうか。
少なくとも、私は自分の子供たちには食卓にあがる
食べ物についてを(肉だけじゃなくて)きちんと説明出来るようにありたいと月並みながら思いました。
(訂正・追記)※注※について、屠畜場法第十三条に「何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜をとさつしてはならない。」と定められておりました。けどこれ、教育目的であればOKなのだろうか?
1刷
2022.11.20 訂正・追記
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TBSラジオ「アフター6ジャンクション」で花田菜々子が紹介。
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世界各地の屠畜現場を取材してきたイラストルポライター、内澤旬子さんが受精から立ち会った中ヨーク、三元豚、デュロック三種の豚を育て、屠畜し、食べる会を開くに至る。その一年間を綴った体験ルポでございます。
本書は『世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR (角川文庫) 』(KADOKAWA)にて世界各地の屠畜現場を取材してきたイラストルポライター、内澤旬子さんの抱いたひとつの欲望―。どうしても『肉になる前』が知りたい。
その心のままに突き進んでいく内澤さんが『見切り発車』というのにふさわしい決断で何人もの借主が夜逃げをしたような廃屋を借りて、豚小屋を建設し、受精から立会った中ヨーク、三元豚、デュロック三種の豚を育て、潰して、食べる―。2008年10月から2009年9月までの一年間を追ったルポルタージュであります。
自分の欲望の命ずるがままに東京から千葉県に住民票を移し、ペーパードライバーだったのがマニュアルの軽トラを運転し、著述業の傍ら自ら名付けた夢、秀、伸という三頭の豚と、暮らすようになっていく姿を時にユーモラスに、時に冷静な観察を交えて著者が得意とする詳細なイラスト(内澤さんのブログではカラー写真が掲載されている)とともに記されいて、日頃なんとなくはわかっていてもあまり意識的には見つめることのない 現代の大規模養豚、畜産の本質に迫っていくところはなんとも読み応えがありました。
後半のほうでつぶして食べるという決意が揺らぐ場面が出てくるのですが
『やっぱり、お前を、食べよう』
と思いを新たにする場面が印象に残っております。屠蓄場に連れて行かれ、家畜から肉になっていく過程で、見慣れた光景だとおっしゃっておりましたが、僕は
『生あるものを殺して食べなければ生きていけない』
というある種の『業』を強く感じる場面でした。
内澤さんがブログで告知した『食べる会』で処理された肉はおいしく食べられたそうですが、そのときに三頭の肉を食べて彼らが『帰ってきた』と感じたのだそうです。これは、実際に彼らを育てた人間にしか分からない感覚なのでしょう。最後のほうに、内澤さんと伸という豚の頭蓋骨の2ショットが写されておりましたが、おそらく写真のモチーフは第二次大戦後にアメリカ軍の兵士が愛するものへのお土産として人間の骸骨を持ち帰り、女性と一緒に写った写真がありますが、おそらくあれでしょう。
この体験ルポは彼女にしか書けないという意味でも大変貴重な記録ですが、日ごろ我々がおいしく食べている『豚肉』がいったいどのようにして食卓に上がるのか? それに応えてくれたと言う意味でも、この本を一読する価値はあるかと思われます。
※追記
本書は2021年2月25日、KADOKAWAより『飼い喰い 三匹の豚とわたし (角川文庫)』として文庫化されました。 -
読もう読もうとずっと先延ばしになってた本。
千葉に土地を借り、家を修繕しながら、豚3匹を飼って、
肉にして食べるまでの1年間の緻密なレポ。
今まで読んできた内澤さんの本の中にもこの時の話はたびたび出てきたが、
『身体の言いなり』『捨てる女』と並行して、豚を飼う生活があったのかと思うと驚く。
これまで読んだ本を読み返してみたらまた発見がありそう。
温度の変わらない淡々とした文章の中に、
ハプニングやら養豚業の内情やら豚の可愛さやらが書かれている。
内澤さんの凄さは実際に行動してしまうことだけど、
豚との生活が半年程度だったのはなんだかもったいない。
短期間の中で得た、圧倒的な経験の濃さ。
なのにことさら大騒ぎするでもない、飾り立てない文章の力に唸ってしまう。
しかし全部食べられる野菜と違って、豚を職業として成り立たせることの割の合わなさ。
もっとありがたく、大切にいただかないといけないなと反省した。 -
正確には私が読んだのは岩波書店の単行本版である。
これは最高におもしろい本だ。
内澤旬子さんは『着せる女』でこんなおもしろい人がいるのだなと認知。
この本は出版当初に評判になったものの読んでおらず、たまたま手に取ったら内澤旬子さんだった。
ロシアが開発したイエバエを使った「ズーコンポスト」という豚の糞尿処理方法の話と、自分の「大」をおやつに与えたら見向きもされなかった、というエピソードが興味深かった。 -
Cocco「My dear pig」を思い出す内容。
「思いついたらなんでもやってみよう!」という筆者のパワーとエネルギーが素敵。
そういえばうちでも昔、鶏飼って食べてたな。ヤギもいた。私の乳用だったらしいけど、しょっちゅう私をどつくから売り払ったとは母の話。でも、食用動物に名前はつけてなかったぞ。
あと、たまたま遊びに行ってた同級生のうちで飼ってた牛が逃げ出して、ブロック塀の上に避難したこともあったっけ。そういう家畜まみれの幼少期を送った人間から見ると、最近の豚ってずいぶん過保護に飼われてるんだなーという感想。しかも、確か豚って犬並みかそれ以上に賢いんじゃなかったっけ?さらには遺伝子的に人間に近いんだとかなんとかで、移植用の臓器を豚の体内で育ててる(た?)とか。うーん、なんか鶏しめるのとはレベルが違う感じ。でも、今日の夕飯は酢豚なのだった。うん、せめて残さず食べよう。My dear pig is you♪ -
豚を飼って食べるってこと自体には特に心理的抵抗はないから、帯に奇書中の奇書って書かれてもそんなにかなーって思ってたけど、想像するのと実際やってみるのとはだいぶ違ってやっぱりすごかった。
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第48回ビブリオバトルinいこまテーマ「育てる」で紹介された本です。IKOMAサマーセミナーの授業。
2017.7.30
著者プロフィール
内澤旬子の作品






期待は高まる一方なのですが、積読が多く、もう少し待って!
期待は高まる一方なのですが、積読が多く、もう少し待って!
ありがとうございます!
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