蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常 (3) (角川コミックス・エース)
- KADOKAWA (2021年1月9日発売)


- Amazon.co.jp ・マンガ (178ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041109212
作品紹介・あらすじ
4つの意思が実体化し、それぞれの個性が輝く四姉妹になってしまった蜘蛛子達。
エルロー大迷宮での生活は、ゴミ捨て問題発生やマッサージ師の爆誕、隣にエルローバジリスクの家族が引越してきたりと話題が尽きません! さらに電気が通ることになり!?
「蜘蛛ですが、なにか?」公式ギャグスピンオフ第3巻!
感想・レビュー・書評
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謎の四姉妹も、自分たちのマイホームをようやく見つけたようです。
本編とは独立したスピンオフ・ギャグコメディということもあって、評価が分かれやすい傾向にあると私個人は思うこの作品『蜘蛛子四姉妹の日常』。
様子見と保留を続けてきた旨ののち、諸々の注意点を付け加えたレビューは一巻と二巻の折にも申し上げさせていただきました。
とはいえ。回を重ねる中で線の選び方もこなれていらっしゃったと思うこと、それと私自身もいい感じに慣れてきた部分もあるので星四つに格上げさせていただきます。
一応、冒頭部分では苦言じみた小言も混ぜるのでご注意ください。苦痛に思われる方は目をつむって飛ばしていただきましたら幸いです。
ではまず、冒頭を飾るのは前巻の引きから。
なぜか爺さんなのにメインヒロインの呼び声も高く、ネタ寄りとはいえ本作屈指の人気キャラ「ロナント」とそのお付きの「ブイリムス」、その両名が登場する回がやってきます。
「かかし朝浩」版漫画での両名の初登場と合わせ正しく本編IFのパロディ回でお送りするわけですね。
ただし。「かかし朝浩」版も抱える問題ですが、シンプルイズベストを地で行く主人公と魔物たちの絵柄に合わせ人間の線を絞りすぎたためか違和感が生まれています。
ここのパートはグラタン鳥先生本来の絵柄ではなく、かかし先生が最適化した漫画版の絵柄に寄せると言うのにも遠く、単に崩れているように見えて辛かったです。
この辺は一巻のリアル寄りなイラストと比べると一目瞭然でしょう。
変顔に頼りすぎ、しかもネタとして見ても特にインパクトがあるわけでもない。
本編の人気キャラクターを使ったのに弾け切れていない、けれどリスペクトがあるわけでもない、などと……拍子抜けしたこの辺は私なりの批判点かもしれません。
「四姉妹」はほとんど本編から独立したキャラクターとして見ることが出来るので割り切れるのですが、それ以外の魔物たちを除いたキャラクターの動かし方が厳しい。
二巻でもありましたが、弾け切れていない部分こそがこの作品の鬼門かもしれません。
もちろん、ここまですべて私見であるほか、全体に占める割合もさほどではないので、気になる方も無視できる範疇なのですが。
と、毎度のごとくネガティブなことばかりあげつらうのも不健康ですし、今回は美点が目立ったように思うのでその辺を列挙させていただきます。
今回は本編ではご無沙汰気味になった蜘蛛の特性を活かした話と、迷宮暮らしには不釣り合いな謎のテクノロジーの話が主ですが、上手く双方を融合させているように思えます。
謎のシチュエーションを毎回のギャグのお題として用意して、それに翻弄される主人公たち――で終わるのではなくて、この巻では自分たちの方で手綱を握っていることが多い。
結果が完全な自爆で終わっても、踊らされるのと挑戦の姿勢を示すのとでは大違いだと実感しました。本編における主人公の誇り高さにも通じる作品のテーマかも知れませんし。
それと発想力が高くて唸らされる回がいくつも存在しました。
加えて、トロッコ問題に関する思考実験、それと次の巻への引きも兼ねた永久機関(動力:サル)の話などは無情っぷり、無体さも光ったりでブラックなのにほのぼのとしたノリの真骨頂。ふてぶてしくたくましく、機転が利く主人公ならではの話と思う次第です。
ほかには五十話目を祝してか、セリフを排したサイレント劇の回なども存在しました。
漫画的に挑戦してくれたなあって、実感とともに好評の一択をもって迎えられてほしい話だと評するわけで。
私個人の好みであると再三断っておきますが、絵面の瞬間的な面白さに頼り過ぎず、その発想はなかった! と、意外性を突いた話が増えてきたのはよい傾向のように感じます。
ほかには経絡にまつわる謎の豆知識の話、本編と歩みを合わせた蜘蛛と浮力の話、この漫画で一気に知名度を上げた「ペカトット」のアクション回(語弊)など微笑んでしまう話は相当に多かったですね。
以上の通り、加点減点の相殺で言うなら加点の方が大きく上回った印象です。
特にペカトットはそこにいるだけで笑えるレベルに存在感を上向かせています。
小説版では一行、かかし朝浩版でも一コマで終わった謎の魔物だったんですが……。
あの何も考えていなさそうな「無」の表情と、ペンギンとペリカンの折衷にサルっぽい腕を持った(=人型に近い)というデザインをシュールギャグの文脈で活かしきっています。
個人的には中層の犬や卵など、もっと色々マイナー気味なモンスターを取り上げても良いとは思うのですが、三巻になって作品のペースも掴めてきた頃合いです。
こちらは今後に期待はすれど、必須ではないなってせいぜい要望程度の感想でしょうか。
ペカトットはこの作品に限れば顔役と言えるほどにプレッシャーを強めてきていますが、乱用といえるほどには出演頻度は高くないので現状では安心ですね。
それと、最後にメディアミックス。
アニメの放映開始と時を同じくしてのここ三巻の刊行ですが、さっそくエンディングテーマなどで「四姉妹」……じゃなかった「並列意思」四体が「かかし朝浩版」と本作「グラタン鳥版」の発想も頂きつつ独自デザインを得て活躍することが示唆されています。
本編にスピンオフの暴走を持ち込むのは普通ならご法度ですが、本編では絶対にできないだろう「遊び心」の塊といえる本作、ここだけで遊ばせておくのは惜しいのもわかります。
しかるに、ここから得た発想と遊び心を大なり小なり、本編と直結するアニメに持ち込んだものが視聴者に届くなら本作は間違いなく大成功と言えるのでしょう。
それに……、本編だって遊んでいないわけでもなし!
事実、原作者のあとがきなどからある程度四姉妹はアニメに影響を与えた旨の言質を得られています。
さて。
わかりやすく、飛んだり跳ねたりの各種アクションの構図を参考資料として提供した漫画版、そしてそこから派生しつつ、泣いたり笑ったり叫んだり表情の激変を提供したグラタン鳥版――。
小説を原作としつつ、各種メディアに向けて展開しつつあるコンテンツ『蜘蛛ですが、なにか?』、その作品群の中で一定の地歩を示せたこと、「住処(マイホーム)」がここだと実感を得られたことが、今のタイミングでの刊行で得られた最大の収穫かもしれません。
すなわち、ブランド『蜘蛛ですが、なにか?』の中で本作は立ち位置を見つけられたということ。
一方で現時点での、という断りも入りそうで先がどうであるかはまだまだ読めません。
けれど安心して読めた、安心して笑えた、その一言二言を持って今回はレビューを閉じさせていただきます。
慣れはもちろんあります。
今までの感想をひるがえすつもりもありません、これからもまたわかりません。だけど順調に面白くなっているように感じる、それもまた事実であり、それだけで今は十分なのですから。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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