蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常 (4) (角川コミックス・エース)
- KADOKAWA (2021年4月9日発売)
- Amazon.co.jp ・マンガ (178ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041109243
作品紹介・あらすじ
エルロー大迷宮での生活をより良いものにするために、四姉妹たちは飽くなき探求を続ける!
自動スキル上げ装置やアニメスタジオなど様々なモノが開発されていくが、どれも一筋縄ではいかない!?
「蜘蛛ですが、なにか?」公式ギャグスピンオフ第4巻!
感想・レビュー・書評
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掟破り? 型破り? ホントは謎だけ横紙破り?
アニメ絶賛放映中のさなか、2021年5月の今時分。メディアを変えても細やかに活躍し、主人公のマスコット的な面を象徴し、謎の動きと個性によって我々を困惑させ、なによりも魅了する「並列意思」たち。
ひとまずは直接の原作である小説を源流とするのは当然の前提として置いておく必要はあるでしょう。
けれども、かかし朝浩先生の手掛けるコミカライズで独自のお芝居をはじめだし、派生して誕生したグラタン鳥先生のこの作品において完全な独立を果たしたともいえる彼女たちの活躍はここにも確かに存在します。
そんなこんな、『蜘蛛ですが、なにか?』の各種コンテンツの中において比較的ニッチではあるけれど、確かなニーズにお応えするギャグ・スピンオフ『蜘蛛子四姉妹の日常』、いよいよ四巻に突入です。
なお、この作品を読むうえでの注意点については、私が一巻のレビューで述べさせていただいたという旨を周知させていただきます。
とは言え、流石にここまで来て慣れた私としてある程度前言を撤回してもいい気がしてきました。
なにせ、やっていることはいよいよ安定感の増してきた三巻の延長線上にあり、加えてけれん味も私視点と断る必要はあるとはいえ、いい意味で抑えられているように感じ取ったわけですから。
さてもさても。
マスコットじみているけどなんだかシュールで、時々……? やがてはホラー、いずれにせよ主流から絶妙に離れた位置で個性を確立させた彼女たちがいかなる顛末を辿るか? 気にならないといえばきっと嘘になりますが。
先ほども申し上げた通り、いつも通りのハチャメチャ寸劇が繰り広げられることに変わりないのでご安心あれ。
時に、今更ながらの話題ではありますが、表紙にもいる彼女たちについて考察を深めてみることにします。
ひとまず原作小説のみに論を絞れば、主人公一人で間を持たせるべく掛け合いを生み出したり、同時並行的に戦闘や作業をこなしたいという作劇的な事情ありき。シナリオギミック的な側面が強いように感じられます。
ひるがえって漫画としての観点を加えれば、脳内で「天使と悪魔(良心と誘惑)」が葛藤するさまをメタファーで視覚化して描く古典的な手法。
加えて、自分が何人もいたらいろんなことが出来るし、訳知ったる仲の友達ができていいなって素朴な発想。
加えて、そういった発想を原点としつつ、かかし朝浩版漫画の独自性として取り上げられるでしょう、その都度オチを飛ばしてくる錯覚に襲われかねない、パロディ満載な一コマ一コマの絵面が完結性と破壊力。
色々書き連ねましたが、重要なのは一点。直系のかかし朝浩版の、刹那で完結するテンポの良さに注目して、その特徴を切り出すことで生まれてしまった、尖ったギャグこそが本作の魅力なのかもしれません。
もっとも、その辺については別項のレビューで触れた気もしますが、ここで紹介することはやめにして。
「可視化された多重人格」兼「気心知ったる自分の分身」という題材が魅力的であることはきっと確かなんでしょうね。その先を知って喜んでいるはずの自分ですら面白いと感じてるので、ご存じでない方はきっとなおのこと。
ああ、それといささか話が長くなったようですが、なぜこんな話をするかと言えば、この作品は『蜘蛛ですが、なにか?』というコンテンツ全体においても掟破り、型破り……。
という評価を与えるのは、客観的に分析したうえで断言してもきっと間違いではないでしょう。
けれど、一方で話の「型」自体は案外出来上がっている風ではあるのです。
たぶん、一回8Pの分量が幸いしたか、物量でゴリ押ししてくる本作の構成を、それでも立ち止まってひとつひとつピックアップして分類していくことができさえすれば、大まかなギャグの法則は見えてくるんだと思います。
けれど、脱力の作風がきっとそれを許さない。
そんなことより、予測不能性を楽しもうよ? という誰かさんの主張が耳の中をこだまするようです。
本作について冷静な分析をしてみようとする私を後押しするように、パラパラめくっただけでも文字情報自体は意外と多いことが発見できたりするのですけどね。
この巻のエピソードを追う分にも、雑草駆除だったりイカスミパスタだったり、話の出発点や落としどころは行方不明の謎の発想になっている反面、絵面の面白さの後追いで理詰めのギャグがやってくることしばしばです。
カオスギャグだけの作品かと思いきや、主人公たちがウィットに富んだ切り返しを入れてくれたりもする。
これは以前も触れましたが、単話完結をいいことに謎の発想を投げ込んでくる流れこそ多いものの、状況に流されるだけでなく当意即妙のボケツッコミを主人公たちが返せる辺り、作風とキャラの成長を感じます。
そちらにしても、私好みというだけの話なのでギャグの好みは読者各々人それぞれ。
なにぶん一巻に収録される話数が多いので、数打てば当たる方式でお好みのギャグを発掘できることかと存じます。こういう時、量で勝負できる構成はなかなかに有利ですねと、いまさらながらに発見です。
個人的にはあとがきで原作者の「馬場翁」先生も触れられたアニメ化記念のダイレクトマーケティング回(アニメで出番がなかったペカトットたちが奮闘している回というのは地味に皮肉)。
ならびに、下層で主人公が一度目撃してそれきりだった謎の魚の魔物(エルローダズナッチ)の生態が明かされる回、この巻を取れば以上二回が私の中でヒットを越えたホームラン回だったりしました。
特に後者に関しては、公式設定資料集で「何をしてくるのか予想がつかないため~」なる評価が与えられているのですが、それってこういうことだったのか!? と腑に落ちる独自解釈がこの漫画で与えられました。
ギャグの枠を越えて、悔しいことに納得できた上で笑えたのですよ。本編でこの魔物の生態が語られる機会が巡ってくることはそうそうないでしょうし、これはもう公式設定でいいんじゃないかなと思わせる破壊力でした。
そういったわけでこの四巻について総評を述べるとしましょう。
かかし朝浩版の延長や手探りを脱却して、原作の設定を持ち込みつつ独自の魅力を確立させた感があります。
あらためて一巻と比べてみれば一目瞭然でした。コマ運び、スピーディーな会話の応酬、アイコン化したキャラ(モンスター)にモノボケ、アクション系のボケをやらせても違和の生じないバランス……etc。
いい意味で独り立ちできたと確信するとともに、ここまで追ってきてよかったとしみじみ思います。
もっとも、原作や他メディアの展開という枷が存在する以上、この路線をどこまで続けられるか? いささか寂しい疑問が浮上しないこともないのですけれどね。
ちょうど二クールから成るアニメが一旦区切りを迎え、かかし朝浩版漫画も歩を合わせて作劇上の大転換を迎えることはわかっています。
いざ、その時を迎えた上でこの漫画がどんな手を打つのか、最後はどう終わらせるのか?
その疑問が明かされる日が来るとして、きっと一読者たる私は、唸らされると共に、喩えようもない寂しさを感じられてしまうのかもしれません。詳細をみるコメント0件をすべて表示