アンブレイカブル

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 288
感想 : 50
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109410

作品紹介・あらすじ

1925年、治安維持法成立。太平洋戦争の足音が響くなか、罪状捏造に走る官憲と、信念を貫く男たちとの闘いが始まった……。

『蟹工船』の取材と執筆に熱中するプロレタリア文学の旗手・小林多喜二。
反社会的、非国民的思想犯として当局にマークされる反戦川柳作家・鶴彬(つる・あきら)。
同業他社の知人たちに不可思議な失踪が続き、怯える編集者・和田喜太郎。
不遇にありながら、天才的な論考を発表し続ける、稀代の哲学者・三木清。

法の贄(にえ)となりながら、男たちは己の信念を貫いた。

感想・レビュー・書評

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  • 表題の意味は複雑だ。unbreakableは一般的には「壊せない」を意味する。しかし用法としては「壊すのが困難な(困難だが不可能ではない)」という使い方をするらしい。更に著者は最終行、ある人物の呟きを借りて「敗れざる者」と表現している。これは沢木孝太郎のルポの題名にもなったが「才能に恵まれながらも栄光をつかむことのできなかった」者たちという意味で使われたらしい。

    だとしたら、小林多喜二や鶴彬、戦時下の「改造」や「中央公論社」の編集者たち、その他特高警察によって逮捕され、拷問や劣悪な環境で死んでいった千数百名の(三木清含む)「アカ」たちを、著者はそのように「顕彰」したかったのだろう。今更ながら。

    小林多喜二を主人公にした小説は多数ある。特高による犠牲者の物語もよく聞く。しかし、川柳作家・鶴彬や特高による冤罪・横浜事件、哲学者・三木清に焦点が当てられた小説は初めて読んだ。四つの物語を通して出てくる、特高の「クロサキ」という人物を黒子として今回描いたのは、昭和の戦中の暗黒時代そのものだったと思う。副題をつけたならば、もっとわかりやすかった。「それだとあからさまです」と言って編集者が反対したのかもしれない。例えば‥‥「治安維持法物語」。うん、やっぱりダサい、止めた方がいい。

    著者は前著「大平洋食堂」で近代日本社会主義の勃興期と大逆事件(1910年)前夜を描いた。本書で、そこから一挙に20年だけとんで、そして1945年までの15年間の最悪の時代を描いた。こう書くと、なんと短い間なのか。まるまる人の一生の半分の期間ではないか?日本の自由と民主主義は、そんなにも急速に悪化したというわけだ。

    著者の問題意識は明らかだ。著者は岩波書店「図書9月号」に「アンブレイカブル」を引き合いに出してこう書いている。
    ‥‥治安維持法の最大の問題点は、本法が変革を禁じる「国体」の概念が曖昧だったことだといわれる。曖昧な法律用語に現実が抵触しないようどうするのか、具体的な方策は現場の裁量に丸投げされた。「適当に処置せよ」というわけだ。上から「テキトーにショチせよ」と言われた現場はたまらない。何をどこまで取り締まるべきか?上の顔色を必要以上に窺う者が必ず出てきて、彼らはほぼ100%やり過ぎる。最近では佐川宣寿元理財局長がそうだ。(8p)‥‥

    過去のことじゃない。今この瞬間にも、この国のそこかしこで起きている事態だ。

    治安維持法に唯一反対していた代議士・山宣が右翼に刺殺されたのも、当夜「たまたま」特高が山本宣治を尾行していなかったからだ。クロサキは殺したのは特高の指示ではないという。労働者の谷は嘯く。「現場の連中が勝手に忖度してやりすぎた。よくあることだべ」(54p)

    「京大はじまって以来の秀才」三木清が治安維持法で捕まり、獄中死する運命を知りながら、クロサキは「どうせアカの連中だ。わざと殺したんじゃなけりゃ、どこからも文句は出ない。いつものことだ」とつぶやく。(261p)

    三木清は終戦後1ヶ月以上経過した昭和20年9月26日、豊多摩刑務所拘置所内の劣悪な環境の中で死んでいるのを発見された。

    2021年9月26日読了

  • 深く刺さります。
    「太平洋食堂」に続く特高と言論思想の自由との間の理不尽な攻防といった内容でしょうか。
    歴史の授業でもあまり詳しく習ってこなかったため精神が削られますが、忘れてはいけないことだと思います。
    今の時代、公に取り締まられなくても、息苦しい様子はありますがそんなのは比にならないくらいの時代だったのかなぁと思います。

    早くジョーカーゲームの続きが読みたいです。

  • リアルに怖いと思った。某局のアナウンサーが政治家に厳しい質問をした、とかの(うわさ)理由で更迭されたらしいこの国。過去に何も学んでないのかと恐怖がヒタヒタ押し寄せた。

  • 第二次世界大戦直前の日本の中でも『治安維持法』というものは現代を生きる人間にとって理解しがたい法律ではあったけれど、うっかり今、この国の行く先に不安を抱く時、射程内にその恐ろしさが直に伝わってはこないか……

    それこれ、うっかり一生懸命に読み込んでしまっての感想。楽しむ読書を経験した『ジョーカーゲーム』シリーズとはまた違って実在の人たち、東京大空襲の描写など真に迫ってきて、国を動かす力とは?というモノを考えてしまう。

  • 【収録作品】雲雀/叛徒/虐殺/矜恃
     いくつかの国がリアルタイムで行っている暴挙を思い起こすまでもなく、この国の中にある反知性主義の系譜を見る思いで読んだ。

  • これは過去の出来事ではない。今だ、今すぐそこにある闇だ。

    日本が少しずつ狂い始めていた時代。治安維持法によって国民総監視社会へと染まっていった時代。
    第一章の小林多喜二の段階では、まだ彼に毎週蟹工船の話をしていた二人の行動にニヤリとしながら読んでいられたが、少しずつページをめくる指先に震えるほどの恐怖を感じ始める。
    これを、自分が生まれるずっと前の、「過去の話」と割り切って読むことのできない恐怖。

    内務省の役人、いわゆる特高のクロサキがかかわってきた者たちの、人生と思想と、そして死。
    これが、こういう社会が、形を変えてもしかするとまたすでに始まっている、そう思わざるを得ない。
    これを読んで私たちは何を考えるか。考えることを放棄した時、すべてが終わる。

  • 1925年、治安維持法成立。太平洋戦争の軍靴の響きが迫るなか、罪状捏造に走る官憲と信念を貫く男たちとの闘いが始まった-。小林多喜二、三木清…。法の贄となった、敗れざる者たちの矜持を描く。歴史スパイ・ミステリ。

    「ジョーカー・ゲーム」に代表されるように柳広司はスパイものの印象が強いけれど、本作は同じ歴史ミステリーでも少し毛色が違った。治安維持法下で信念を貫く、まさにunbreakable(壊せない)な男たちの姿が描かれ、読みごたえがあった。
    (B)

    • g2altさん
      小林多喜二以外は知らない人達でした
      小林多喜二以外は知らない人達でした
      2021/08/13
  • 内務省クロサキを核とした短編集。この手のスパイ、特高作品は毎度読み応えあり。
    最初の話の終わり方は痛快だが、進むにつれ一筋縄では行かない気がして、読み終える。
    治安維持法の時代の、昭和初期の遺物の話ではなく、現代の検察や官僚にも通ずる、職務と命令と実行する意思が過去にどう使われたか、責任とは何かを考えさせられる。職務の全うとは何か?時代の空気や方針で変わることは、ままあること。
    コロナ禍での政府関係者や東京五輪の関係者の言動や行動を、ふと思う。

  • 治安維持法・特別高等警察を主題にした小説は初めて読んだな。終戦の日前後は戦中のドキュメント番組はよく放送されるが上記の内容の番組は観た記憶がない。自虐史観を持っているわけではないが、戦後、内務省官僚や特高職員が堂々とのし上がって社会の中心に立っている者がいると思うと今一度検証しても良いのかもしれない。凡庸で無自覚な悪意ほどタチの悪いものはない。

  • 詳細な史実とリアルな台詞回しに想像力を掻き立てられた。言論の自由と優秀な人材を消し去った時代と日本人の愚かさに憤りを感じずにはいられなかった。唯一、谷さんがいい人でホッとした。

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著者プロフィール

1967年生まれ。2001年、『黄金の灰』でデビュー。同年、『贋作「坊っちゃん」殺人事件』で第12回朝日新人文学賞受賞。『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞。他著に「ジョーカー・ゲーム」シリーズの『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』や、『新世界』『トーキョー・プリズン』など。

「2021年 『ゴーストタウン 冥界のホームズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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