いのちの初夜 改版 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2020年11月21日発売)
4.40
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感想 : 25
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  • 本 ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109755

作品紹介・あらすじ

しみじみと思う。怖しい病気に憑かれしものかな、と――。若くしてハンセン病を患った青年は、半ば強制的に療養施設に入所させられる。自分の運命を呪い、自殺すら考えた青年を絶望の淵から救い出したのは、文学に対する止めどない情熱だった。差別と病魔との闘いの果て、23歳で夭折した著者が描く、力強い生命の脈動。施設入所初日のできごとを克明に綴った表題作をはじめ、魂を震わす珠玉の短編8編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • ハンセン病を煩い隔離施設に入った著者、北條民雄。
    隔離施設に入り絶望し死のうとしたが果たせず…。夜が明けて「一瞬だけ生きてみよう」。文学に一条の光を見つけた著者。どんなに悲惨な状況でも書くことはできた。最期まで希望はあると。
    病を得て「いらないもの。忌避される自分」しかし、「食べて寝る、ただ生きる、ということへの敬意」「自分が生きているという事実は誰にも否定されない」というメッセージは、とても力強い。
    「100分de名著」の中江有里さんの解説では、
    隔離施設から川端康成へ手紙を出し、川端康成から作品を認められた著者。自分の存在を肯定してもらい、どんなにうれしかったことでしょう!
    川端康成からの手紙には、「文壇の評価は高いけれどもそのことは気にせず、古今東西の名著に親しみ、今のあなたの世界を見つめるがよろしい」「お金は足りてますか?原稿用紙ありますか?」という内容の手紙が残っているようで、これも、作品を通じて、いる場所は違ってもお互いに尊敬しあっている…よい師弟関係だなぁ…と…じんわりしました。
    23歳で亡くなった北條民雄さん。作品は復刻され、今 読める。北條民雄さんとの対話ができる。どん底にいる人も勇気がもらえる作品です!

  • NA図書館本
    ハンセン病を発病し、23歳で夭折。ハンセン病ではなく腸結核と。
    いのちの初夜 は、最初の一夜を川端康成が改題。川端康成のあとがきも良かった。この原稿を、川端康成が読んだのだなと、感慨深い。

    いのちの初夜、眼帯記、癩院受胎など8篇の短編。
    いのちの初夜の佐柄木の存在感が線の細い男の人だけど芯のある人間のイメージ。
    目を覆いたくなるような癩病の人たちの記述。あの人たちは、もう人間じゃあないんですよ。決して人間しゃありません。生命です。生命そのもの、いのちそのものなんです。あの人たちの『人間』はもう死んで亡びてしまったんです。ただ、生命だけがびくびくと生きているんです。略
    癩になった刹那に、その人間は亡びるのです。略だけど僕らは不死鳥です。新しい思想、新しい目を持つとき、全癩病者の生活を獲得するとき、再び人間として生きかえるのです。復活です。
    びくびくと生きている生命が肉体を獲得するのです。略
    あなたの苦悩や絶望は、略 ひとたび死んだ過去の人間を探し求めているからではないでしょうか。

    めっちゃ迫力。

    ハンセン病の方々及びご家族のこれまでとこれからに。
    さまざまにフラットな世に、そしてそんな自分であることができるように。
    しっかり心に刻みたい一冊。

  • NHK「100分de名著」の本郷奏多くんの朗読をきっかけに読もうと思った作品。

    ものすごい本を読んじゃったな。
    文章にこんなに【いのち】を感じたことはこれまでになかったと思う。言葉に血が通っていて拍動しているような、真っ赤な生々しさ。読んでいる間、ずっと胸がザワザワして落ち着かなかった。

    ハンセン病(癩)について。
    病院に入って早々に風呂に入れられたり服を着替えさせられたり、そして何よりお金を金券に換えられる。外の世界との隔絶、違う世界に来た、もう戻れないということを強く感じる。
    癩と診断されて、自分で死のうと考えるけれど死にきれない尾田。自分と同じ癩者に囲まれて寝る恐怖。そして、同じく癩である佐柄木と親しくなる一方で、癩者と打ち解けている自分に嫌悪を感じてしまう。
    もし自分がこの時代に生まれて癩になったら、と考えてもその絶望感は想像が及ばないけれど、文章から伝わってくるものがとても大きい。

    物語の終盤、夜、尾田に自分の思想を熱心に語る佐柄木に鳥肌が立つ。
    「ね尾田さん。あの人たちは、もう人間じゃあないんですよ」
    その目の妖しい輝きが目の前に立ち上がってくるかのような言葉。まるで佐柄木がわたしの耳元で語りかけてきているかのように身に迫ってくる。

    とても心が削られるけれど、読めて良かった。


    「人間ではありませんよ。生命です。生命そのもの、いのちそのものなんです。僕の言うこと、解ってくれますか、尾田さん。あの人たちの『人間』はもう死んで亡びてしまったんです。ただ、生命だけがびくびくと生きているのです。」

  • ★4.6

    苦しく、辛い小説でした。
    高校生の時に、破戒に出会った時と同じだ。あの時も丑松さんあなたはなにも、悪くない。と悔し泪を流したものですが、いのちの初夜も同じ感覚でした。
    私の故郷にも、ハンセン病の療養所があり、今まで手を出すのが正直怖かったのかもしれない。
    子供の頃にそれに罹患された方にあったこともあるので小さな頃だったので、ただただ、怖かった。驚き怖かった。それが、凄まじい差別を伴っていることを知ったのは、だいぶ後になってからだったが、その差別を知った上で、この作品に触れると、苦しく、辛い、ものかたりでした。
    常に自死と隣り合わせ、死を見つめて生きる、辛く悲しいものかたり。
    ちゃんと向き合わないといけい、そんなものかたり。

  • 4.54/101
    内容(「BOOK」データベースより)
    『しみじみと思う。怖しい病気に憑かれしものかな、と―。若くしてハンセン病を患った青年は、半ば強制的に収容施設に入所させられる。自分の運命を呪い、一度は自殺すら考えた青年を絶望の淵から救い出したのは、文学に対する止めどない情熱だった。差別と病魔との闘いの果て、23歳で夭折した著者が描く、力強い生命の脈動。施設入所初日のできごとを克明に綴った表題作をはじめ、魂を震わす珠玉の短編8編を収録。』

    目次
    いのちの初夜/眼帯記/癩院受胎/癩院記録/続癩院記録/癩家族/望郷歌/吹雪の産声/あとがき(川端康成)/北條民雄の人と生活(光岡良二)/解説(高山文彦)/年譜


    いのちの初夜
    (冒頭)
    『駅を出て二十分ほども雑木林の中を歩くともう病院の生垣が見え始めるが、それでもその間には谷のように低まった処や、小高い山のだらだら坂などがあって人家らしいものは一軒も見当たらなかった。東京からわずか二十マイルそこそこの処であるが、奥山へはいったような静けさと、人里離れた気配があった。』


    『いのちの初夜』
    著者 : 北條 民雄(ほうじょう たみお)
    出版社 ‏: ‎KADOKAWA
    文庫 ‏: ‎320ページ
    ISBN ‏: ‎9784041109755

  • 「何もかもが奪われて生命だけが取り残されてしまった。」

  • まずは文庫化してくれた角川に感謝。

    読み始める前に多少の覚悟をしておかなければならないが、やはり標題の「いのちの初夜」は心を打つ。人間として一度滅び、そして再生する。
    標題作は勿論だが、同じく収録されている「吹雪の産声」も傑作。「いのちの初夜」で打ちひしがれた心もこの作品に一縷の望みを感じる。

    ハンセン病(癩病)が不治の病でなくなった今、この病を身近に感じた事のない全ての人々に読んで欲しい一冊。

    田村書店天下茶屋店にて購入。

  • ハンセン病に巣食われそうになっても、たくさんの苦悩が降りかかろうと、命のかがやきは絶やさずに明日を生きようとする姿に感銘を受けた。

    ハンセン病になったわけじゃないけど、自分も苦労をしたから、絶望のさなかにいるときの心情は痛いほどに共感した。

  • これほど心を揺さぶる本はなかなかないのでは。

    ハンセン病を患った人々の生命の力強さがひしひしと伝わってくる。徐々に肉体を冒していく病の恐ろしさ、それに立ち向かい、なんとか生きる意味を見出そうとする精神の尊さ。
    たんにハンセン病を主題にした作品ではなく、人間とは、いのちとは、生きるとはという根源的な問いを投げかけているように感じた。

  • この本に出会わなければ一生ハンセン病というものをきちんと理解できていなかったと思う。
    療養所での生活があまりに壮絶で、この敷地内だけで世界が完結している……いや、せざるを得ないほど忌避されることが当然だったのかと思うと暗澹たる気持ちになった。

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著者プロフィール

1914年9月22日朝鮮「京城」生まれ。
1歳から父の郷里の徳島県那賀郡で育つ。1933年2月発病。1934年5月18日全生病院(現・国立療養所多摩全生園)に入院。1936年1月「いのちの初夜」が川端康成の推薦により「文学界」発表され「文学界賞」を受賞する。その後「文学界」「中央公論」「改造」「文芸春秋」に作品を発表。1937年12月5日結核により死去。『北條民雄全集』(1980年 東京創元社)

「2002年 『ハンセン病文学全集 1 小説一』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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