- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041110799
作品紹介・あらすじ
派遣社員、彼氏なし、家族とは不仲。冴えない日々を送る葉菜は作家になる夢を叶えるべく、戦時中の沖縄を舞台に勝負作を書くことを決める。しかし取材先で問題の当事者ではない自分が書くことへの覚悟を問われ……。
感想・レビュー・書評
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太平洋戦争末期の従軍慰安婦の話。悲惨でかわいそうというだけではなく、一人の女性が生きた話として受け止めた。
小説家志望の女性の語りがちょっと鬱陶しいと思っていたけど、この作品を書くにあたっての意図がわかりやすくなり、過去と現在を繋げて考えさせてくれる大事な役割を持っていると次第にわかった。 -
好きか嫌いかとか、得意不得意は抜きにして、ものすごい話を読んでしまった感がハンパない。
慰安婦って言葉はニュースでとてもよく聞くけど、実際のこと深く知らない人が多いのでは?
なんとなくでしか知らずにいる人に是非読んでもらいたい。
この作品を書き始めた覚悟、書き切った想い。熱すぎて苦しくなるほど。
久しぶりに「この作品に出会えてよかった」と思えた一冊。 -
とてもエグい。読むのしんどい。
それが正直なところ。
でも小説であって、内容は実際にあったこと。
戦時中に本当に起きていたことであり、
現代のこの時代に些細なことで
嫌気がさしてしまう贅沢は、
私の「運」が良かったのだろうか。
だとしたら、
戦時中に生まれた人は
そういう時代に生まれたから、
「運」が悪かったのだろうか。
そういう単純な話ではないのだろうけど、
本当にこんなことがあったなんて
信じられなくて辛くて心が痛い。
でも、性の搾取はいつの時代にも存在して、
世界はいつも争いが絶えなくて、
本当にどんな方向に向かってしまうのだろう。
決して他人事ではなくて、
少し踏み外せば私も争いの被害者にも加害者にも
なるかもしれない。
偉大なハルモニたちに、私たちは
もっと学ばなければいけない。 -
作家志望のOLと元従軍慰安婦の生を強いられた女性とが時代を隔てて交互に織りなす物語。現代と戦時中のエピソードが交互に織りなされ、いったいどこで結着点を見出せるのか、最後までぐいぐい引き付けられる逸品である。
結局のところ、両者に直接的な接点はない。しかし、元従軍慰安婦の女性が凄惨な運命を生き抜き戦後を迎えた中で、それでも唯一守ってくれる存在と出会えたこと。その温もりを受け継いだからこそ、次は自分にできることを誰かに与えたい、という意思が芽生えたこと。そこから、子供たちを守り育むという働きにつながり、ある少女の心の支えとなったこと。その少女を母に持つ女性こそ、主人公が最後に泊まったゲストハウスのオーナーだった。ここに、両者の交差点がようやく見いだされたのだ。
慰安所の描写は正直、えぐい。あまりのえぐさに目をそむけたくなる。また、巷間よく言われているように、投降したら米軍は親切に保護してくれる、悪いのはひとえに日本兵だ、というのはあくまで米軍側の流布する話に過ぎなかったという現実。つまり、実際のところ、女性は米軍兵士の性の慰み者にされるがままだったという悲惨な現実が描かれている。
なぜこれほどまでに悲惨な話を物語らなければならないのか。それは、シェルターの少女が語ったセリフに尽きる。いわく、「いないことにされるよりマシかな」
人は得てして、悲惨な現実から目を背ける。それは、関わってしまうと、手を差し伸べなければならなくなるから。助けなければならなくなるから。しかし、誰しもそんな力はない。誰もが英雄ではないのだ。だから、見なかったことにする。いなかったことにする。そんな事実はなかったことにする。そうすれば、英雄であれない自分自身に対するささやかな言い訳になるからだ。ネトウヨが激しく慰安婦像を憎悪するのもこの点に起因するのだろう。
だが、現実に存在するのだ。かつて、男どもの慰み者として、完全にモノ扱いされ、尊厳も何もかもを根こそぎ奪われた少女たちがいた。彼女たちの悲鳴が闇夜をつんざき、彼女たちの絶望で地は満たされた。そして今もなお、少女たちは絶望し、それでも声を上げ、訴えている。いつの時代でもそうであったように、今もなお悲惨さは地表を覆い尽くしてやまない。
その現実が存在すること。悲惨さは決して絵空事でもなんでもなく、現に存在していること。この現実に真正面から向き合うことがまず求められるのではないか。そのためにこそ物語がある。
しかし、作者の意図はそれだけではない。作者の真の意図は、どんな悲惨な現実であっても、人の優しさがあり、その優しさは受け継がれ、与えられるものであること、そうしてバトンタッチされうるものであることを描こうとしていることだ。そのことを強く感じた。 -
ウクライナがロシアから侵略されている。
街は破壊された無残なアパートや壊れた戦車が放置してあり、人々の苦しみ、うろたえ、希望のもてない姿がメディアで映し出されている。
昭和4年生まれの母は16歳の時に終戦を迎えている。激動の戦前戦後を生き延びてきている。
きっと、ウクライナ国民とあの頃の自分がリンクしているだろう。
そんなことを考えていると戦争から目をそむけてしまう。
しかし、この小説により心が激しく動かされた。
すべての国の人に幸せになってもらいたい。ウクライナの人もロシアの人も・・・
感動のあまり言葉に表せれない。心が激しく何かに打ちのめされた・・・ -
新人賞を獲るために選んだ題材は従軍慰安婦。沖縄を訪れ取材をすすめるが…。
自分の国のことなのに沖縄で何があったかを知らない。「民間人がたくさん犠牲になった」という言葉の裏の現実を知らない。戦争を始めた時点で策は失敗だ。人類はいつになったら折り合うための建設的な方法を見出だすのか… -
家族との関係や仕事が上手くいかない小説家志望の女性と、戦時中わけもわからないまま従軍慰安婦となっていた女性が交差して物語は進んでいく。
著者と主人公はもちろん別の人物なのはわかるんだけど「多くの時間を費やして、覚悟と責任を持って創り上げた作品」である事は一緒なんだろうな。
最後の参考文献の多さを見てもわかる。
性を詐取される時の淡々とした描写が余計に辛さを感じさせる。美しい海の色の風景もさらに切なさが募る。私自身、勉強不足でもあり、きっと誤解もしてる部分もあったり、今も様々な事に繋がっているこの問題はつい目を背けがちだが、読む事ができて良かったと思う。
著者プロフィール
深沢潮の作品






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