アメリカへようこそ

  • KADOKAWA (2023年3月8日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (496ページ) / ISBN・EAN: 9784041110850

作品紹介・あらすじ

「幽霊語」を生み出す辞書編纂者の正義、儀式で絶命することが名誉な一家の恥さらしな叔父、社会に辟易しデジタルデータになる決意をした息子と母親の葛藤、幸せな日々を送る男の封印された終身刑の記憶、生物園の男と逢瀬を重ねる女、女王陛下と揶揄された少女の絶望と幸福の告白、空っぽの肉体をもつ新生児が生まれはじめた世界の恐るべき魂の争奪戦、合衆国から独立したテキサスの町「アメリカ」の群像悲喜劇、逆回転する世界に生まれた僕の四次元的物語――

現代アメリカの暗部と矛盾、恐れと欲望、親密さと優しさ。
奇想天外な世界の住人たちのリアルな情動に息を呑む、驚異的作品集。

【目次】
売り言葉
儀 式
変 転
終身刑
楽園の凶日
女王陛下の告白
スポンサー
幸せな大家族
出 現
魂の争奪戦
ツアー
アメリカへようこそ
逆回転

訳者あとがき

感想・レビュー・書評

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  • 海外短編を紹介するポットキャスト<翻訳文学試食会>で取り上げられた本。

    最初の2,3短編を読んで、この短編集の題名『アメリカへようこそ』が、この短編集のテーマなのかなあと思っていたら、短編の中の一つの題名でしたね。
    しかし短編集の全てが、今この現実の社会の出来事であるように書きながら、さり気なく、しかし確実に読者に目に付くように現実社会にはない用語が出てきます。それにより、現実の社会の問題点を目立たせて「さあ、読者の皆さん、考えましょう」って感じです。そのためこの短編集全体的が「アメリカってこんな社会ですよ。ようこそ、真実のアメリカへ。」って印象を受けました。
    しかし…正直言ってそこまで惹き込まれない…(-_-;)。巻末のあとがきでは「寓話的」って言っていますが、寓話にしてはわかり易すぎるというか、エンタメっぽいというか、作者は問題定義だけして、小説の社会に対しても読者に対しても皮肉目線で他人事なんだよなあ…。
    私がこの短編集を★3つにした理由として、小説の表現方法として「羅列」が多くて一本調子、問題定義がわかり易すぎる、その問題定義に対して優しさというか社会を良くしたいって感じがしない他人事感がある、たまに「妙にこだわっているようなこの設定必要?」というものがある…、うーん、要するに私には合わないだけです。ごめんなさい…(-_-;)

    <翻訳文学試食会>の課題作品はこちら
    『儀式』
    生産性のなくなった老人は親族に「儀式」の招待状を出す。この社会は社会の役に立たなくなる70歳目安で自●するのだ。だがもうその年令を超えたオーソン老人は「わしは儀式はしない」と言っている。彼の親族はもちろん、その下の代の親族も亡くなっているが、オーソン伯父さんだけは生きている。この老人は、親族が引き受けざるを得ない負の相続品なのだ。
    ==老人問題が課題ですね。小説内では、事故や病気などの死は誰にも心の準備ができない突然のことであり、それに対して70歳での儀式はお別れも言えて社会の役にも立つ、選ばれた者だけの栄誉って扱いです。
    「姥捨て山」がテーマの物語はたくさんありますが、正直言ってその中でも真剣味がないっていうのか…。


    その他収録短編。
    『売り言葉』
    中高年の兄弟で、兄は「幽霊語」を作り、弟は死語を研究している。
    幽霊語とは、国語辞書盗用避けのために載せる架空の定義を持つ架空の言葉という造語のようです。この物語ではこの中高年兄弟が自分の姪っ子をいじめる中学生男子をギャフンと言わせてやろう事柄を通して「幽霊語」「死語」を使って「現在ある言葉よりこのほうが分かりやすいよね」って書き方をしています。小説としてのオチというかこの兄弟が見言うだけで行動が伴わってないので、結局は言葉遊びに興じて現実生きられないのかな…(-_-;)


    『変転』
    要するに、大切な家族が「今の自分は本当じゃない。本当の姿に戻るんだ」と言うけれど、そってが道徳的に受け入れられない場合に、それでも家族は本人の「自分らしさ」を受け入れるの?ってお話。
    この話は、息子を「失う」ことになる母親の苦しさが身に迫りました。でも息子本人は今の世界は苦しいんだよ、ってこと。

    『終身刑』
    刑務所や死刑などの刑罰は廃止された。その代わりに罪に応じて自分に関する記憶を消されるようになった。軽い詐欺とかなら1年って感じ。
    ウオッシュは生まれてからの自分に関する記憶を消された。自分の家族ってところに戻る。最初は様子を伺うような家族、自分の中に沸き起こる何かを欲する気持ちを持ちながら、彼は真面目に働き、家族とも馴染むようになる。だがたまに見せる家族の不安の表情、そして自分の中から沸き起こるこの衝動は…。
    ==犯罪者となる生まれ育ち経験や、犯罪を犯す気持ちの記憶を消されて、ゼロから再出発するとしたら、人間は変わるのだろうか?それともやはり同じような犯罪を犯してしまうのか?

    『楽園の凶日』
    男尊女卑だ、いや今の社会は女尊男卑だ、と言われるけれど、「では社会生活を送るのは女性だけで、男性は収容所で管理したらどうなる?」って短編。
    この短編数全体的に、テーマがわかり易すぎるっていうか、問題定義だけで終わってるんだよなあ。

    『女王陛下の告白』
    テーマは物欲とか、ミニマリストとか。
    物を持つことが恥ずかしいと言われる社会で、物欲がある人たちが、周りから好奇と軽蔑の目に晒されながらも、物への執着を捨てられないお話。
    この短編集ではいくつか「妙にこだわっているようなこの設定必要?」というものがあるんですが、ここだとヒロインの母親が盲目者だ、ってことはなにか意味があるんだろうか。見えないけど物を持つことを執着するってこと?

    『スポンサー』
    一般人もスポンサーを持ってお金を出してもらう社会。短編でも具体的な企業名とか商品名を並べて、それらに書評登録のRマークをつけるという工夫がされています。

    『幸せな大家族』
    子供は社会で育てる、人類みんな家族!みたいな。
    赤ちゃんが生まれたら保育所、学生寮で育ち、社会に出てゆく。「いや、自分の家族は自分と配偶者と子供だ」と考える一部の過激派は田舎で隠れ住み、警察に見つかったら子供たちは施設に保護される。そんな社会の恩恵をどっぷり受けた女性が、自分が生んだ赤ちゃんを保育所から盗み出して自分の手で育てたいと願うお話。
    小説として、担当刑事二人の風貌を拘って描写してるんだけど、小説としてなにか意味があるのか(-_-;)?

    『出現』
    彼らはある時突然出現した。彼らは勝手に住み着き、元からいる住民の仕事を奪い、家族まで作っている。なぜここにいるんだ、元の世界に帰るか、彼らの滞在が許されている他の州に行け!なに?「ここが僕たちの世界だ、家には家族もいるんだ」って?生意気な。
    ==移民問題ですね。…ということがわかり易すぎて、それなら「出現」なんて用語作らなくてもよくないか?って思っちゃう。

    『魂の争奪戦』
    魂を持たない赤ちゃんが生まれるようになり、ある団体が死ぬことを望まれている病人とか、動物を生贄として捧げて、その魂を赤ちゃんに捧げれば良いんじゃない?という産院を作った。魂が他の人に移ることがあるのだろうか?それなら親子でも全く違う事があることの説明がつくではないか。
    グロテスク描写、スプラッタ描写が続く(-_-;) 魂を望みすぎて暴走する母親と、どんな魂を持っていても息子を愛し続けることを確信する母親の対。私はこのレビューで作者の文句を散々言っていますが、ところどころ感情に訴える描写もあるんだよなあ。

    『ツアー』
    ものすごいセックスをして世界が変わって見えた(-_-;)???

    『アメリカへようこそ』
    アメリカなんてうんざり!独立しよう!僕たちはこの小さな独立国家の名前に誇りを込めて「アメリカ」と名付けた。
    ==国家って何?自分たちが国家を作ることって?法律は?軍は?そして軽蔑していた以前の国家とどう違うの?自分たちが望んだ自由って何?理想と現実って?
    意見が違っても同じ国を作る国民の団結と言うか心のつながりもちょっとは書かれてたけど。

    『逆回転』
    現実は三次元だけど、僕は四次元に生きる人間なんだ。四次元人類には、過去とか未来とか一方通行ではなく、全てを一度に見るんだ。
    ==この社会は人間は「生まれる」のではなくて、墓から掘り出されたり、打ち上げられたりどっかから出現したりするらしい。死んだ人間が生き返るので四次元になったのか?そんな四次元と三次元の人々が共に暮すすれ違いとか、でも小説の最後では「人々は三次元に戻りました」ってこと(-_-;)?

  • 13編の短編集なのだが、どれひとつとして読みやすい作品はなく、なかなかに読み終えるのに苦労した。つまらないから読むのに苦労したとかではなく、文章のクセが強くて苦労した。例えば、あとがきにも挙げられている「ツアー」という短編は、ザ・マスターと呼ばれる伝説の娼婦とトラック運転手のカヴェを中心に描かれる物語。マスターは全国でギグを行い、そのチケットは超高額で抽選倍率も相当なものである。最終的にカヴェはマスターのギグを体験するのだが、その最中の描写は実際の快楽の度合いを表す表現として、カヴェの過去の記憶が延々と句点なしで数ページも続く。延々と数ページ。その合間に現実のマスターが語る哲学的な言葉が数行挟み込まれ、直接的な行為の描写も描かれる。もう、読んでいるこちらもカヴェといっしょにぶっ飛んでるような気分になる。いつまで続くんだ!と正直つらかったくらい。でも、全てを読み終えるとなんかもうちょっとだけ読みたい。ホントもうちょっとだけ。そんなクセが強く中毒性があるということは分かった、少し非現実性を混ぜた現実的な物語の数々でした。アメリカの社会や制度、生活などに詳しい方や興味を持っている方が読むと、ここに書かれている皮肉や問題や理想などを強く読み取って楽しめるのかもしれないなと思った。以下は楽しめた(?)作品を簡単に紹介しておきます。

    「儀式」
    70歳になる時に自らの死を決める儀式を行う世界。ガソリンを浴びて火をつける、薬物を飲む、飛び降り、餓死、拳銃を使うなど。その中で、最後まで生を全うしようとする人物がいる。周りからは奇異の目で見られ、恥とされる世界。人口が増えすぎたために行われる儀式がここでは描かれるのだが、現実への警鐘か?

    「終身刑」
    犯罪者は再犯率が高く刑務所に収容しても効果が見込めない。そのため、収監することを止め、代わりに記憶を消して日常に戻すようにした世界。刑の重さにより記憶消去の年数が変わる。この物語の主人公は41年間の記憶を消された男で、妻も子供もいる。全くの別人になってしまった生活を送りながら、過去の自分を知りたくなる。まるで人権を無視したような刑務所での環境よりも幸福をもたらすのか?

    「スポンサー」
    公私共に全てのものやことにスポンサーが付く世界。学校も企業も家も車もホワイトハウスも。結婚式にもスポンサーが大きく関わり、この物語では急遽冠スポンサーが倒産してしまったために式のスポンサー探しをする困難さが描かれる。格差を誰の目にも分かりやすく描いたこの世界は、全く安らかに過ごせない。

    「魂の争奪戦」
    生まれてくる赤ちゃんが空っぽである状況が全世界で起こる。魂がない。色々と調べるうちに出生率と死亡率に相関関係があるのではないかと考えられる。人口が増えすぎたために魂が制限されているのではないか?何とか人の子供が無事生まれることができるようにと、安楽死させるものと妊婦とを集めた施設を作り調整を試みる。出産の代わりに安楽死させることで、無事に成功させられるように。最初の数人は成功するが、確実ではなく失敗もしてしまう。その失敗の後、凄惨な事件が起きる。

    「アメリカへようこそ」
    合衆国内のあるひとつの街が独立する。その国名はアメリカ。合衆国と隣接する街。国境に検問所がないため旅行者は自由に入ることができ、初の移民を迎える。小さな国々とのサミットを開催し、マリファナの所持は合法、図書館には豊富な発禁本がある。独立に反対していた人物が兵士を率いて押し寄せた際にアメリカ大統領が負傷する。合衆国にはかつてのアメリカの精神はすでになく、平等や革新はいまやアメリカの精神になっている。そして、反対していた人物も国とは人のことだと認識してアメリカ人として過ごしていく。

    著者には他に長編が2作あるらしいのだが、翻訳されたら懲りずに読んでみたい。

  • 「ファーゴ」クリエイター、人気作家M・ベイカーの短編小説を映画&ドラマ化 : 映画ニュース - 映画.com(2019年4月3日)
    https://eiga.com/news/20190403/14/

    「アメリカへようこそ」 マシュー・ベイカー[文芸書(海外)] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000536/

  • 装丁の美しさとタイトルに惹かれて購入。
    勢いで買った割には、すごくよかった。マシュー・ベイカー。

    13編を収めた短編集。
    AmazonやNetflixがこのうち数編の映像化権を獲得したということなのだけれども、なるほどとても映像的な文章ではある。
    どれも奇想的、寓話的で、一部理解が難しい部分はあるのだけれども視覚的な記述でカバーしてくれるというか勢いでわかった気にさせてくれるというか。
    物語としてもとてもよくできている。
    とりわけ「女王陛下の告白」「魂の争奪戦」そして表題作である「アメリカへようこそ」は印象的だった。

    この人は、登場人物の人柄であったり重要なシチュエーションだったりを表現するのに、ほとんど同程度の情報の短文をひたすらに羅列するという冗長な表現を多用する。ときには本当に効果的で、ときには単に冗長って感じるところもあったけれども、この表現の妙もぜひ楽しんでもらいたい。

    というわけで、総じておすすめ。
    よかった。いい買い物だった。

  • 翻訳文学試食会にて紹介されるということで、予習のために手に取った1冊。
    ちょっと、私の好みには合わなかった。何回読んでも、人の名前が頭に入ってこないし、(せっかく覚えた)登場人物の多くは、それっきりの登場ということが多かったということがその一因かも。

  • SF短編集です。
    どの話も派手に終わったり、綺麗に終わるようなお話ではなくずっと不気味な感じだったり違和感がずーっと続くような話が多く楽しめました。
    一部刺さらないような話もありましたが、
    「出現」「アメリカへようこそ」辺りは移民問題や、現代のアメリカのリベラルを皮肉ってる内容でとても好きでした。
    「売り言葉」「魂の争奪戦」は個人的に好き。
    「儀式」「変転」「終身刑」辺りは今後近未来に起こりそうなテーマで面白い。

    好き嫌いは分かれそうな小説でした。

  • 現代とアメリカ

    「アメリカにようこそ」という書籍のタイトルは、この短編集に収められた一つの作品の邦題だけど、この短編集全体もよく表していると思う。
    私自身はアメリカに何年か住んだことがあるけど、そこで感じた、表面上は温かみがあるように見えるけど実は人工的で書き割りのような社会の雰囲気をこの本を読んで改めて追体験したような気がする。
     一部を除いてどの短編も、今より少し未来のアメリカを舞台にしていると考えるのが自然だろう。そして生と死が全体を通しての大きなテーマになっている。でもそれは単純な生と死ではなく、デジタル空間での生、皆に祝福される死、生と死の境目、死から生への逆再生のような様々なひねりが加わる。そこに物質主義的なエッセンスが加わることで現代のアメリカとの地続き感が強まる。全ての短編が生と死を扱う訳ではないけど、それ以外のテーマも移民やアメリカ的価値観そのものだったりする。
     全ての短編に共通するのは違和感と抑制された解決。少し読み進めて「あれ、これってどういうこと?」とページを戻すことも多々あった。全てがわからないところも多い(と思う)。それが快感になっていくところも魅力。
     翻訳者の後書にあるように文章は翻訳された日本語でも敢えて長くとめどなく流れていくところがあり、最初はとっつきにくさを感じる。描写した名詞をどんどん繋げていく手法はこの作家の得意とするところなんだろう。読み進むにつれて文体に慣れていくところもあって、中盤以降の作品の方が印象深くなっていくところもあるかも。
     特に印象に残ったのは、以下の短編でした。
    儀式
    変転
    終身刑
    幸せな大家族
    魂の争奪戦
    ツアー
    アメリカへようこそ

     

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著者プロフィール

ミシガン州生まれ。バンダービルト大学にて美術学修士号取得、同大学の文芸誌ナッシュビル・レヴューを創刊。ニューヨーク在住。著書に2016年エドガー賞児童図書部門にノミネートされたIf You Find This、短篇集Hybrid Creaturesがあり、ほかにも数多くの文芸誌で短篇小説を発表している。Variety誌の「注目すべき作家10人」(2019)に選ばれるなど若手作家の注目株。

「2023年 『アメリカへようこそ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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