麦と兵隊・土と兵隊 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041111611

作品紹介・あらすじ

「どんなに検閲がうるさく、制限が厳しかろうとも、書いておきたいものがあった」日中戦争に従軍した自身の経験をもとに、故国を思い、死の恐怖と闘いながら日々を生きる兵隊の姿を描き出した名作。

感想・レビュー・書評

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  • 牧野伸顕伯の松濤閑談のp35に書名あり。牧野さんが外国人から見た日本人の評価について、言及している。

  • 今ま

  • 2021年11月24日(水)にジュンク堂書店三宮店で購入し、同日読み始める。

  • 火野葦平の小説「麦と兵隊」、「土と兵隊」が収録されています。
    火野葦平は石炭仲仕を商う家庭の長男として出生し、大学在学中より文学を志しましたが、その後、一時断念、左翼運動に興味を抱きながら家業を継ぎます。
    その後、労働活動が検挙されたことにより、転向を決心し、再度文学活動を再開します。
    芥川賞を受賞しましたが、転属し、報道部に入り、日中戦争渦中の南京に入ります。
    本作に収録されている「麦と兵隊」は、火野葦平こと、玉井勝則伍長が、1938年の徐州会戦での記録を元に書かれた戦記文学となります。

    「麦と兵隊」は日中戦争の最中、従軍時に書かれた作品で、内容は生々しいです。
    兵隊や軍備のかっこよさなど、戦争賛美を書かれたような作品や、あるいは後の世に同じ過ちを繰り返させぬよう戦争の悲惨さを伝えたような作品とは異なり、ただ、戦争に参加し、そこでの出来事を、下手な盛り上がりや脚色無く書いた内容となります。
    大本営や戦況を鷹の目から述べているようなものはなく、一報道部による従軍記録として書き出したのみの内容で、極限の状態でありながらも淡々と述べられています。
    技工が凝らされているわけでもなく、読みにくいわけではないのですが、読んで楽しめるものではないです。
    ただ、現地の兵隊がどれだけ辛い目に逢いながらがんばってきたのか、そのリアルな体験を感じられる内容となっています。

    「土と兵隊」も"麦~"同様、日中戦争にて杭州湾での上陸作品に参加した際の体験が元になって書かれた作品です。
    "麦と~"の方が知名度は段違いに上ですが、私的には"土と~"の方が読みやすかったです。
    "麦と~"は日記形式で従軍記録を書籍化したような作品ですが、"土と~"はある兵隊が弟に宛てた手紙という形式となっています。
    最初、海上で幾日も作戦の開始を待っていた「私」だが、ある日、ついに上陸が開始し、弾丸の飛び交う戦地で、日本人と見た目はそう変わらない中国人を相手に殺し合いをすること、隙間を見て睡眠し、ものを食い、脱糞する様子、そして凶弾にやられ倒れていく仲間が書かれてます。
    そして最後は、今日も進軍ができること、そして、また手紙を書きたいという思いが綴られて終幕します。

    いずれの作品も戦争中の場面が書かれているため、検閲が入っているようです。
    それを踏まえても、思ったより踏み込んだ内容となっていると思いました。戦地の壮絶さ、痛ましさが書かれています。
    本作は太平洋戦争中も読まれ、火野葦平は『戦争作家』として人気を博します。
    当然の如く、軍は本作を国民先導のプロパガンダとして利用しますが、それが元となって、火野葦平は戦後に戦争責任を追求される立場になります。
    ただ、本作自体は、海外でも本作されて人気が出ており、都合上の改変はあったのだろうけども極端に美化もされていない、中立な内容に思いました。

    なお、本書収録の2作の他に「花と兵隊」という作品があり、花を含めて火野葦平の兵隊三部作と呼ばれています。
    "花と~"も機会があれば、読んでみたいです。

  • 収録内容は以下の通り。

    麦と兵隊 徐州会戦従軍記
    土と兵隊 杭州湾敵前上陸記
    あとがき「麦と兵隊」「土と兵隊」を書いた頃
    前書 麦と兵隊
    前書 土と兵隊
    注釈
    五味渕典嗣: 解説
    浅田次郎: 時代の贄 火野葦平の従軍手帖に寄せて
    年譜

    戦地における経験が等身大に描写されている、とは言えない不自然な箇所が検閲により生じているが、それを踏まえて読むことで、著者のような感覚を持った人が戦地での体験をどのように感じるかが想像される。

    カバーイラストは太田侑子、カバーデザインは原田郁麻。

  • ★72

  • 従軍体験が基だけに、文字から戦場が肌に感じられる。リフレインされる麦畑の描写は、広大な中国大陸という異国の象徴でもあるし、自然と人間の対比、また生と死の対比でもある。生命のやり取りの中で、所々に挟まれる何気ない(心象)風景は、恐らくこの作品が人気を得た主要因のひとつで、風が立ちさあと靡く麦の音などは、じかに目に見え音に聞こえるようだった。検閲の関係や当時の風潮から、今日見ると違和感ある要素も多々ある。戦友を殺され、敵兵に憎悪をたぎらせながら、その憎しみが(主題の曖昧な)戦争を引き起こした指導層に決して向かないところ。あるいは、兵士それぞれに家族や仕事があり、それが喪われる事への悲哀を痛みながら、敵兵にもそれがあることには一切頓着せず、殺意を躊躇わないなど。戦地の住民の様子や、ときには戦闘より過酷な行軍の辛さなど、短編ながら印象に残る場面は数え切れず。戦争を知らない世代には史料的な価値もある名作。

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著者プロフィール

1907年1月、福岡県若松市生まれ。本名、玉井勝則。
早稲田大学文学部英文科中退。
1937年9月、陸軍伍長として召集される。
1938年『糞尿譚』で第6回芥川賞受賞。このため中支派遣軍報道部に転属となり、以後、アジア・太平洋各地の戦線に従軍。
1960年1月23日、死去(自死)

「2016年 『青春の岐路 火野葦平戦争文学選 別巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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