- Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041111628
作品紹介・あらすじ
その姿を見た者は、生涯魂を囚われる――。
海と鯨に心を奪われ、人生を狂わされた男たちが、神の生き物に挑む!
土佐の中浜村で漁師の次男として生まれ育った万次郎は、鯨漁に魅せられる。やがて仲間たちと漁に出た際、足摺岬の沖合で遭難してしまう。漂流した五人は無人島にたどり着くものの万次郎は銛打ちの師匠・半九郎の形見の銛を追って、さらに漂流してしまった。単身、大海原に投げ出された万次郎を救出したのは、米国の捕鯨船ピークオッド号だった。その船長・エイハブは、自分の片足を喰いちぎった巨大な白いマッコウクジラ“モービィ・ディック”への復讐に異常な執念を燃やし、乗り組員となった万次郎を巻き込んでゆく……。
ジョン万次郎と、ハーマン・メルヴィルによるアメリカ文学の金字塔『Moby-Dick』が、夢枕獏の奔放な想像力によって融合する!
感想・レビュー・書評
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ジョン万次郎を救ったのが、エイハブ船長のピークオッド号だったら。そうifの物語だ。万次郎はエイハブ船長や他の乗組員と共に《白鯨》モービィ・ディックを追う。
夢枕獏氏は、何かに取り憑かれた男を描くのが得意。そして、元の「白鯨」に万次郎を上手く溶け込ませている。序盤の土佐の漁村の風景から太平洋でのモービィ・ディックとの死闘まで500頁を超え大著だが、あきずに読むことができた、詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『感想』
〇本家白鯨は読んでいない。その状況でジョン万次郎がモービィー・ディックとエイハブ船長の世界に触れるという話を読んだ。
〇たぶん本家白鯨のストーリーを大きく外れることなく取り込んでいるのではと思う。それだけ著者のメルヴィルへのリスペクトを感じるからだ。
〇エイハブ船長が、モービィー・ディックを追い求めることが正しい道ではないことが分かっていながら、やめられないこと。スターバックの言葉を始め、道を変えられるかもしれない分岐点があるのに、結局は己の魂が示す正しくない道へ行ってしまう。これは人間だれでもそうなんだ。損得や正誤といった理性でない、とにかく自分がしたいと思う生き方、それを選んでしまうことは愚かでもあり人間らしいこと。
〇これを読んで白鯨のすべてを知ったと思うのはおこがましい。古い海外作品は読みにくい印象があるが、本家にも挑戦してみたい。
『フレーズ』
・人は、いつも、正しい道を選ぶとは限らぬのだ。大方、人は、間違った道を選ぶ。しかも、人は、間違った答えを手にしてしまっても、そのことに気づかぬ。たとえ正しい答えを見つけたとしても、それが正しい答えかどうかということにも気づかぬのだ。そもそも、正しい答えがこの世にあるのかどうか。これが、小僧よ、生きてゆくことのおそろしいところなのだよ。(p.411) -
ジョン万次郎は、実はエイハブ船長の船に拾われていた?!
多少無理やりとはいえ筋を通しているのが凄い。
身分や出身でガチガチな土佐と、いろんな思想・人種がいるピークオッド号の対比とか、スターバック不在の謎とか、テクニックも凄いけど、魂削って書いているかのような熱い文も凄い。
読み応え十分。御馳走でした。 -
ジョン万次郎が漂流したときに救われた捕鯨船。もしそれがメルヴィル「白鯨」のピークォッド号だったなら、という物語。メルヴィルの「白鯨」は読んでいなくて、ざっくりとした内容しか知らなかったのですが。それでも充分すぎるほどに楽しめる、壮大な冒険譚です。
万次郎の子供時代の物語からして、ぐっと惹きつけられます。「化け鯨の半九郎」との出会い。彼との交流により、どんどん鯨に魅せられ囚われていく万次郎の心境。もうここから物語がどのように進んでいくのかわくわくしっぱなし。そしてやがて訪れる遭難と、ピークォッド号に救われてからの日々。どこをとってもわくわくどきどきしっぱなしでした。
捕鯨への圧倒的な熱意を持った男たちと、ひたすらモビー・ディックへの復讐に心囚われるエイハブとの対比も鮮烈です。同じ方向を見ているようで、志はひとつじゃないのだけれど。どういうかたちであれ「魅せられている」ことには変わらないのかも。鬼気迫るような終盤まで、読む手が止まりませんでした。あまりに壮絶な物語です。 -
ジョン万次郎が、白鯨のピークオッド号に乗り込んでいた、という風呂敷広げる物語。
万次郎が少年の頃に見た鯨との戦い。半九郎から語られた鯨との戦い。エイハブ船長をはじめとして、鯨に心を奪われた人たちとの日々。
己の心の内にある、抑えきれない何かが沸騰してゆく様が、夢枕獏の小説の肝。
恋と同列かそれ以上に、人を狂わせるものとしてぐつぐつと煮えたぎってゆきます。同列というよりも、他者に対して、手に入れたい同化したいという気持ちが混ざり合ってゆく様か。
「餓狼伝」も「獅子の門」も、その精神世界を内包した人間は、狂気を薄皮一枚で隠し日々を過ごしている。狂気と正気の均衡がとれている、とれているかのように見せている。狂気が上回ってしまうと、半九郎やエイハブ船長のようになってしまうのか。ピークオッド号最後の時、彼らの精神が昇華せずに残されてしまったことが苦しい。
半九郎もエイハブ船長も、煮えたぎったものを昇華できずに終えてしまった人生。
読後に解放感がなかった、少なかったかな。ただ、白鯨倒して終わりという展開だと、淡白と感じたと思う。
この解放できない感情を抱えて生きてしまったのが半九郎。
最期に解放寸前まで漕ぎ着けたけど、新たに抱え込んでしまったのがエイハブ船長か。 -
実に見事な傑作。本家の白鯨は読んでいないが、読んだ気になるほど本家撮りしていると思う。
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面白かった!
男が惚れる男を描くのが上手いなと思う。
全体の割合でいうとほんのわずかしか出てこないラスボスが、至る所に存在感を発揮している。 -
期待感抜群の序盤に比べピークオッド号に乗り込んでからは話がこじんまりとしてしまい残念だった。
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やっと読了しました。
捕鯨もジョン万次郎も全く興味がなかったのですが、その割には面白く読みました。文体が読みやすくて良かったのだと思います。