最後の鑑定人

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 356
感想 : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041111673

作品紹介・あらすじ

「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間です」
「最後の鑑定人」と呼ばれ、科捜研のエースとして「彼に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない」と言わしめた男・土門誠。ある事件をきっかけに科捜研を辞めた土門は、民間の鑑定所を開設する。無駄を嫌い、余計な話は一切しないという奇人ながら、その群を抜いた能力により持ち込まれる不可解な事件を科学の力で解決していく。孤高の鑑定人・土門誠の事件簿。
『永遠についての証明』『水よ踊れ』で業界の注目を集める新鋭が正面から挑む、サイエンス×ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 民間の鑑定人の土門の鑑定に基づく推理が凄い。どんでん返し起こしたりや迷宮入りを解決したりするのだが、あくまで科学が証明することがすべてと言い切る。そうだよなあ、綿密で正確な鑑定があってのことなのだから。無表情で感情を表さないのだが、助手の高倉や関わる弁護士、刑事がその土門の姿を描き出していくのが面白い。そして、彼らも土門によって変わっていく。最後に真犯人の吐露があるのだが、なかなかこれで露にされる真相がざらざらとしていて、読む者にとってはきついよなあ。全体として暗いよ。いやどす黒いか。

  • 『科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間です』

    〈科学捜査研究所〉を辞めて民間の鑑定所を立ち上げた土門誠。『最後の鑑定人』と呼ばれ、彼が『鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない。科捜研の最期の砦』とまで言われたほどの高い技術と鑑定眼を持つ男。

    四話収録されているのだが、第一話での印象は名探偵キャラにありがちな、気難しくて彼の興味を引く事件でないと引き受けないという設定。
    そんな彼が警察や科捜研が下した事実をどう覆すのか、あるいは警察や科捜研すら見つけられない新事実をどう見出すのかが作品の肝となる。

    専門用語には着いていけなかったが、物語としては興味深く読めた。
    第一話のDNAの話は確か横山秀夫さんの作品にも似たようなものがあったように記憶しているが、全く違う展開だった。
    一方でこの話の中で、土門が科捜研を辞めたことに何かしらの事情があることが示される。

    第二話では土門鑑定所の唯一の技官で助手で事務員の高倉の目線で描かれる。
    第一話同様、事件の真相は苦い。同情の余地はあるがだからといってどうすれば良かったのかは分からない。
    その苦さによるモヤモヤを口にする高倉に対し、「鑑定人なら、科学を裏切るような真似をしてはいけない』と断じるブレない土門が描かれる。

    そして第三話では、土門鑑定所と警察、科捜研ではなく科警研の三つ巴の捜査が描かれる。
    海底から引き揚げられた十二年前に沈んだ遺体。遺体の身元すら分からなかった捜査が、土門と科警研との競い合いで様々な手がかりが見つかっていく。
    そしてその手がかりを元に警察の捜査も加速していく。

    『科学は嘘をつかない』『私は鑑定結果を読み違えたことなどありません』と絶対の自信をもっている土門だが、一方で科学捜査にも様々な手法があり鑑定結果の解釈にも様々あることも分かる。
    ということは、どの手法を取るのか、どういう条件で鑑定するのか、そしてその結果をどう解釈するのかによって結果は違ってくるということではないかという疑問も湧く。

    そして最終話。いよいよ土門が科捜研を辞めたきっかけとなった冤罪事件の真相に土門自身が迫る。
    土門の下した鑑定結果が、捜査にどう影響を与えたのか。結果的になぜ冤罪事件は起きたのか。そしてその捜査を担当した警察官は何故亡くなったのか。

    第三話で土門のプライベートも少し明かされ、この第四話では彼の気難しいキャラ設定にも変化が出ている。それだけ彼にとってもこの事件は大きな影を落としていたということだろう。
    だが何よりも、ここまでの第三話で加害者の物語ばかりが描かれていたのだが、最終話では初めて被害者遺族の話が出てきた。

    様々な事情があって事件を起こしたのは分かるが、やはり一方的な印象が拭えずモヤモヤが残っていた。
    だが最終話に至って鑑定者、捜査員、加害者、被害者遺族という様々な視点から描かれていたのが良かった。

    加害者にとっては過去のことであっても被害者遺族にとっては『終わりなんてない』のだ。
    この事件と再度向き合った土門がどう変化するのか。また高倉の技官としての成長もみたい。
    続編を期待したい。

    初めて読む作家さんだったが、他の作品も読みたくなった。

  • 面白かった!でも物足りない!
    何故ならもっと読みたかったから〜♪

    〈土門鑑定所〉民間の鑑定人・土門誠は元警視庁の科捜研にいた技術者。その技術は誰もが認めるものだった。
    土門に鑑定できない証拠物なら誰にも鑑定できない…科捜研最後の砦「最後の鑑定人」だと。

    短編4作の依頼人は弁護士、刑事、判事でそれぞれ
    刑事事件の行き詰まった状況を土門が解決‼︎
    土門のキャラも良いが助手の高倉柊子も良いd(^_^o)
    ラスト4作目は土門が科捜研を辞めた事件とその理由が判明。土門自ら再鑑定、助手と捜査し事件後7年経っての解決となりました。

    地味だけど良作♪鑑定メインの作品は初めてかも?
    岩井圭也さんも初読みの作家さん_φ(・_・
    やだ!また良き作家さん見つけちゃって嬉しい悲鳴だわ‼︎‼︎


    • 1Q84O1さん
      土門鑑定所、土門誠が土瓶鑑定所、土瓶誠と読み間違いました…(-_-;)
      土門鑑定所、土門誠が土瓶鑑定所、土瓶誠と読み間違いました…(-_-;)
      2023/04/12
    • みんみんさん
      土瓶鑑定団…いい仕事してますねぇ( ̄+ー ̄)
      土瓶鑑定団…いい仕事してますねぇ( ̄+ー ̄)
      2023/04/13
    • 1Q84O1さん
      さすが師匠w
      さすが師匠w
      2023/04/13
  • 元科捜研の土門は、7年前のある事件をきっかけに辞めて民間の鑑定所を開設している。
    彼に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できないと言わしめたほどの人物である。
    無口で無愛想だが、腕は確かで不可解な事件を実験データから読み解く。
    4話ある短編も最終話が、辞めたきっかけとなった事件に繋がっている。

    「鑑定人なら科学を裏切るような真似をしてはいけない」
    「先入観や思想は事実を見誤らせる。我々は常にそれを意識しなければなりません」

    科学を信じているからこそ言える土門のことばなんだが、あまりにも仕事が出来すぎる。
    サクサクっと解決してしまう感があって、スマートすぎるのである。
    もうちょっと人間くさいものがあれば…と思ってしまった。

  • 初読みの作家さん。
    これは全く本文には関わってこないことなので書くのだが、まずはしょっぱなの数ページにおいて「おいおいっ」と呆れてしまった箇所があった。

    タクシーの後部座席に語り手が座っていて、もう一人が自分の右側に座っていると描写しているのに、そちらの人物の方が先にタクシーを降りていたと書かれている。

    こんな些細な描写に矛盾があるくらいだから、この先あまり期待できないなと思って読んだが、つまらない間違いはそこだけで済んだようだ。

    個々の事件内容は気持ちの良いものではないが、
    全体的には面白かった。

  • ドラマ「科捜研の女」のようだけれど、それとは別種の面白さ。
    4編の事件に纏わるそれぞれの立場での人物描写が興味深い。
    そして、「最後の鑑定人」の人間らしさが少しずつ現れてきて、だんだん興味が湧いてくる。

    また、新たな人間像を加えたシリーズ化を!

  • 後味の悪い事件もありましたが
    面白く読めました。

  • いや、もう、岩井さんってどんだけ引き出し持ってるんですか?どんな大きなタンスが脳内に鎮座してるんでしょう。
    と、書いていて、でも岩井小説がどんな舞台でどんな世界を描いていたとしても、必ずその奥底に流れているのは「罪」と「人」なんだな、と改めて。

    「最後の鑑定人」と呼ばれるちょっと扱いにくそうな主人公。とある冤罪事件の鑑定へのかかわりで科捜研をやめ民間の鑑定会社を立ち上げた土門。
    彼と、彼の下で技官を務める高倉のもとに持ち込まれるさまざまな事件の鑑定を描く連作短編集。
    一章ごとに描かれる「罪」と「人」。土門たちが明らかにする「事実」。そして吐き出される醜い自己弁護。
    人は嘘をつく。嘘をつかないのは科学だけである。0か1であらわされる事実は、黒と白だけであらわされない人間のそのグレーな部分の一部分でしかない。だからこそ土門は事実だけを求める。
    少しずつ明らかになる土門の過去と冤罪事件の「真実」。読んでいるうちに変わり者土門がどんどん好きになる。
    嘘をつかない人はいない。でも、嘘で隠した過去と、いつか必ず向き合う時が来る。
    もっと読みたい。土門と高倉がはぎ取っていく嘘を、人の醜さを、抱える業を、そして、その向こうにある光を。

  • 2022年刊。本のタイトルの意味、何なんだろう?と思っていたが、それは直ぐに書かれていた。ミステリー4編で、相互に事件的な関連は無いが、中心人物の背景が明らかになっていく構成。読み応えあり。軽過ぎも、重すぎもしない。読後感も良い。

  • 科捜研で“最後の鑑定人”と呼ばれた男・土門誠。「彼に鑑定できない証拠物なら、他の誰にも鑑定できない」と言われたほどの凄腕だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、現在は民間の鑑定所を運営している。そこに持ち込まれた様々な依頼を描く4作で構成された連作短篇集。
    んー、岩井さんにしては軽めな仕上がりで、コアなファンには物足りないかもしれないが、案外こういう作風のほうが一般受けはするかもしれない。土門を始めキャラが立ちまくりなので続篇を熱望する。

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著者プロフィール

いわい・けいや 小説家。1987年生まれ。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞(KADOKAWAより刊行)。著書に『文身』(祥伝社)、『水よ踊れ』(新潮社)、『この夜が明ければ』(双葉社)などがある。

「2021年 『人と数学のあいだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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