不在 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041112298

作品紹介・あらすじ

長らく疎遠だった父が、死んだ。
遺言状には「明日香を除く親族は屋敷に立ち入らないこと」という不可解な言葉。
娘の明日香は戸惑いを覚えたが、医師であった父が最期まで守っていた洋館を、兄に代わり受け継ぐことを決める。
25年ぶりに足を踏み入れた生家には、自分の知らない父の痕跡がそこかしこに残っていた。
年下の恋人・冬馬と共に家財道具の処分を始めた明日香だったが、整理が進むにつれ、漫画家の仕事がぎくしゃくし始め、さらに俳優である冬馬との間にもすれ違いが生じるようになる。
次々に現れる奇妙な遺物に翻弄される明日香の目の前に、父と自分の娘と暮らしていたという女・妃美子が現れて……。

「家族」「男女」――安心できるけれど窮屈な、名付けられた関係性の中で、人はどう生きるのか。
家族をうしない、恋人をうしない、依るべきものをなくした世界で、人はどう生きるのか。
いま、最も注目されている作家・彩瀬まるが、愛による呪縛と、愛に囚われない生き方とを探る、野心的長篇小説。

解説:村山由佳

感想・レビュー・書評

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  • 両親の離婚後、疎遠だった父親が亡くなり、実家であった洋館を相続することになった漫画家の女性“
    明日香”。彼女は遺品整理をしながら、家族だった人達の記憶を辿っていく。懐かしくも忌まわしさもある記憶は、彼女の実生活へ影響を与える。
    漫画家として自立していた彼女は、歳下の下積演劇男子を養っていた。円満だった彼との関係は崩れ、自身の作品も翳りを見せる。
    不在は、父親の不在の表現なのか、もっと漠然と愛する者愛してくれる者の不在なのか、少し中途半端かな。お話は面白く読みましたが、父親が彼女に相続させた意味が読み取れないのは残念。幼児期の父親らしい男の子の存在が(幻覚?)その理由なのかもしれないけれど、その存在が、他の部分は現実的なのでちょっと浮いちゃうかな。
    彩瀬さんの他の作品を読んでみたいと思います。

  • 〈明日香が少しずつ決定的に間違ってゆく様子を私たちはこぶしを握りしめながら見守ることしかできない。いや、待て、それだけは言っちゃ駄目だ、そういう風に考えるのはやめろ、どれだけ肩を揺さぶって諭してやりたくても、こちらの声は彼女には届かない〉 まさしく!読了後の〈解説〉に私の思いがギュット、ギュッギュット詰め込まれていた。子供の頃に親に『愛されていなかったのでは?』という気持ちの『不在』がどんどんどんどん膨らみ大きくなって明日香は壊れていく。もう誰にも止められないのだった。いつも明日香の側に寄り添っていた婚約者の冬馬でさえ。でもどんどんどんどん壊れてそして、最後に気付きだしてからの明日香はほんの少しずつ前向きになって〈無理に愛さなくてもいいし、愛されなくてもいいんだ。自分とは違うってそれだけ思って、憎むより遠ざかろう。私はそう、思う〉と佳蓮ちゃんに伝える時を迎える。母からの〈誰だって、勝手なことしか言えないよ。明日香にとって一番いいことを、私なりに考えるしかないんだ、、、あんないい子の冬馬くんですらどうでもいいと思うくらい、あんたの味方だよ。本当だよ〉に、救われた。

  • "不在"とは、本来ならばいるべき場所にいないことを意味する言葉である。すなわち、はなから存在しないものに対しては使わない言葉だということができる。

    お父さんは、お兄ちゃんを一番に愛してた
    私は一番になれなかった
    選ばれなかった
    必要とされなかった
    愛されなかった
    そんな想いを胸に抱えたままの明日香。

    だけど、明日香は気づく。
    「愛は花だ。運がなければすぐに枯れるし、腐ってなくなってしまう。だけど咲いていたことまで否定しなくたっていい。なくなったからって、偽物だったわけではない。昔、きれいな花が咲いていた。それでいいんだ。」
    明日香と父の間には、一時美しい花が咲いていた。今は"不在"だけど、たしかにそこにはあったのだ。

    愛ってなんだろう。独占欲庇護欲忠誠心。何をどうすれば互いに愛し合っていることの証明になるのだろう。
    自分と相手は他人だ。だから"愛"の形だってそれぞれだ。同義として捉え、相手が自分と同じように愛を与えてくれないと嘆くのは間違っている。
    結局私たちは、たった一人とたった一人で生きていく。だけどそれはけっして悲しいことではない。

  • 離婚してから、まったく関わりのなかった父が亡くなった。
    父の遺言書に書かれた、かつて住んでいた洋館を遺産として引き受け、お金になる調度品を探しながら片付けを始めた明日香。

    彼女は、自身の体験をモチーフにした漫画が売れ、そのお金で自分よりも若い俳優、冬馬を養うことに安らぎを感じている。

    幸せを描くことで、幸せを叶えたい思い。
    洋館を片付けていく中で明日香が保っていたバランスは、過去と理想を行き来しながら、徐々に崩れていく。

    「あなたの漫画にはこんがらがったものを根気よくほぐして、別のものに変えようとする力が働いているね」

    「たまに、思うんだ。私がおじいちゃんおばあちゃんが望むくらい、立派になれたらよかったのに。勉強ができて、ピアノも弾けて、病院も継いで、あの人たちの自慢の孫になりたかった。そうしたら今でもあの屋敷で、家族みんなで暮らしてたんじゃないかって思うの」

    「自分を信じ、ただ愚直に、ぎりぎりまで思想を研ぎ続ける奴だけが生き残る。なんの責任もない他人の声にいちいち心を揺らすのは、その孤独を引き受ける覚悟が足りないってことだよ。そんなつまらない言葉に惑わず、自分の作品を追求しなさい」

    明日香の、愛してくれという怒りは切実で。
    これだけ尽くしているのだから、地位も名誉も手に入れたのだから、自分はそれを受け取るのに相応しい筈だと、自分では出来ない答え合わせに走ってしまう。

    小さな頃に得られなかった、選ばれなかった愛情を、大人になってもズルズルと求めるのは、醜いことだろうか。

    もういい大人なんだから、そんなの自分で処理しなさいよ、と言われても、そこで取れる選択肢は自分への諦めであって、完結することとは違う。
    人の分まで背負ってきた足りなさを、自分一人で埋めるには、きっと膨大なエネルギーが必要なのだと思う。

  • 短編と思いながら読み進めて、これは長い話になると。サイン会の出だしの言葉がどういう意味なのか、お父さんだったのか。お父さんの死から始まり、あんなに嫌いな実家を譲り受けて、同時進行で作家業が続く。冬馬がめちゃくちゃまともな人間で、2人の愛という名の束縛に、拒否して終わりが来る。情緒不安定と表現したけど元々がそういう人間なんだ。自分の養ってあげてるのを、帰るのも貰うのも全て明日香。施したお礼がかえる時のお腹の中のものが解けるとか、これからもそうやって生きていくんだね。

  • 何となく近くにあった1冊を手に取る。
    序盤はダラダラ〜と、ながら読みしていたが
    その中でも刺さる言葉がいくつか出てくる。

    「あんたが欲しがってるのは忠誠だ。
    それがあんたのなかでは愛なんだ。
    首に縄をひっかけられる奴じゃないとあんしんできないんだ」

    そんな愛でもお互いが納得して欲していれば
    成立するのになーと
    少し歪んだ事を思いながら読了。

  • 2023.1.22 読了。
    他の著者の解説文を書かれていて興味を持ち偶然図書館で見つけたので初の彩瀬作品。

    両親が離婚してから疎遠になっていた父が亡くなり24年ぶりに実家を相続することになった明日香。そのことから順調だった仕事や恋人などの人間関係が壊れ始めていく。

    「見なかったこと」にして封印していた苦い過去と対峙せざるを得ない状況になった時の主人公がだんだんと精神的に不安定になっていく様が不穏な空気を纏いつつ忍び寄ってくる書き方にグッと惹かれて読み応えがあった。
    決して読んでいて楽しいとか快いとかではないのだけれど人間のつい傲慢になってしまった時のちょっとした醜さがリアルに表現されていると思った。誰にでも主人公のような態度を取ってしまった経験ってあるのではないかな、と感じる。
    だからといって過去や未来に幸せな時間が全くなかったかと言えばそうではなくかすかに甘い時間や希望的光も表現されているところに救いが見い出せる作品。

  • 「無理に愛さなくていいし、愛されなくていいんだ。自分とは違うってそれだけを思って、憎むより先に遠ざかろう。」

    文章は読みやすく、すっと入ってくる。
    色々考えながら思いながら読み進めた。自分の中に愛を見つけた人間は強い。
    不在というタイトルだが至る所に私は愛を感じた。

  • 苦しい小説だと思った。
    上手く生きたいと願い、上手く生きていると信じ、上手く生きられないことに怒る。
    主人公の彼女は、家族や愛の姿を知らないからこそ、家族や愛に異様な憧憬を抱く。自分を守るためには、自分を中心に置くしかなかった。誰かに大切にされたい。その思いが伝わる。
    その一方で、この物語は、誰かに大切にされるのではなく、「たった一人」の自分を懸命に生きる姿を見せて閉じる。そこに強さを感じた。

  • 「本当は優しい人が、こんな風にあなたや私を傷つけるかな。優しいって、こんなどうしようもないことでは人を傷つけないってことなんじゃないのかな。」


    父親の遺品整理をするうちに、段々と父親に似ていって、狂っていく主人公から目を背けられませんでした。
    読んでいくほどに辛くなった本は初めてです。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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