不在 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 282
感想 : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041112298

作品紹介・あらすじ

長らく疎遠だった父が、死んだ。
遺言状には「明日香を除く親族は屋敷に立ち入らないこと」という不可解な言葉。
娘の明日香は戸惑いを覚えたが、医師であった父が最期まで守っていた洋館を、兄に代わり受け継ぐことを決める。
25年ぶりに足を踏み入れた生家には、自分の知らない父の痕跡がそこかしこに残っていた。
年下の恋人・冬馬と共に家財道具の処分を始めた明日香だったが、整理が進むにつれ、漫画家の仕事がぎくしゃくし始め、さらに俳優である冬馬との間にもすれ違いが生じるようになる。
次々に現れる奇妙な遺物に翻弄される明日香の目の前に、父と自分の娘と暮らしていたという女・妃美子が現れて……。

「家族」「男女」――安心できるけれど窮屈な、名付けられた関係性の中で、人はどう生きるのか。
家族をうしない、恋人をうしない、依るべきものをなくした世界で、人はどう生きるのか。
いま、最も注目されている作家・彩瀬まるが、愛による呪縛と、愛に囚われない生き方とを探る、野心的長篇小説。

解説:村山由佳

感想・レビュー・書評

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  • "不在"とは、本来ならばいるべき場所にいないことを意味する言葉である。すなわち、はなから存在しないものに対しては使わない言葉だということができる。

    お父さんは、お兄ちゃんを一番に愛してた
    私は一番になれなかった
    選ばれなかった
    必要とされなかった
    愛されなかった
    そんな想いを胸に抱えたままの明日香。

    だけど、明日香は気づく。
    「愛は花だ。運がなければすぐに枯れるし、腐ってなくなってしまう。だけど咲いていたことまで否定しなくたっていい。なくなったからって、偽物だったわけではない。昔、きれいな花が咲いていた。それでいいんだ。」
    明日香と父の間には、一時美しい花が咲いていた。今は"不在"だけど、たしかにそこにはあったのだ。

    愛ってなんだろう。独占欲庇護欲忠誠心。何をどうすれば互いに愛し合っていることの証明になるのだろう。
    自分と相手は他人だ。だから"愛"の形だってそれぞれだ。同義として捉え、相手が自分と同じように愛を与えてくれないと嘆くのは間違っている。
    結局私たちは、たった一人とたった一人で生きていく。だけどそれはけっして悲しいことではない。

  • 離婚してから、まったく関わりのなかった父が亡くなった。
    父の遺言書に書かれた、かつて住んでいた洋館を遺産として引き受け、お金になる調度品を探しながら片付けを始めた明日香。

    彼女は、自身の体験をモチーフにした漫画が売れ、そのお金で自分よりも若い俳優、冬馬を養うことに安らぎを感じている。

    幸せを描くことで、幸せを叶えたい思い。
    洋館を片付けていく中で明日香が保っていたバランスは、過去と理想を行き来しながら、徐々に崩れていく。

    「あなたの漫画にはこんがらがったものを根気よくほぐして、別のものに変えようとする力が働いているね」

    「たまに、思うんだ。私がおじいちゃんおばあちゃんが望むくらい、立派になれたらよかったのに。勉強ができて、ピアノも弾けて、病院も継いで、あの人たちの自慢の孫になりたかった。そうしたら今でもあの屋敷で、家族みんなで暮らしてたんじゃないかって思うの」

    「自分を信じ、ただ愚直に、ぎりぎりまで思想を研ぎ続ける奴だけが生き残る。なんの責任もない他人の声にいちいち心を揺らすのは、その孤独を引き受ける覚悟が足りないってことだよ。そんなつまらない言葉に惑わず、自分の作品を追求しなさい」

    明日香の、愛してくれという怒りは切実で。
    これだけ尽くしているのだから、地位も名誉も手に入れたのだから、自分はそれを受け取るのに相応しい筈だと、自分では出来ない答え合わせに走ってしまう。

    小さな頃に得られなかった、選ばれなかった愛情を、大人になってもズルズルと求めるのは、醜いことだろうか。

    もういい大人なんだから、そんなの自分で処理しなさいよ、と言われても、そこで取れる選択肢は自分への諦めであって、完結することとは違う。
    人の分まで背負ってきた足りなさを、自分一人で埋めるには、きっと膨大なエネルギーが必要なのだと思う。

  • 〈明日香が少しずつ決定的に間違ってゆく様子を私たちはこぶしを握りしめながら見守ることしかできない。いや、待て、それだけは言っちゃ駄目だ、そういう風に考えるのはやめろ、どれだけ肩を揺さぶって諭してやりたくても、こちらの声は彼女には届かない〉 まさしく!読了後の〈解説〉に私の思いがギュット、ギュッギュット詰め込まれていた。子供の頃に親に『愛されていなかったのでは?』という気持ちの『不在』がどんどんどんどん膨らみ大きくなって明日香は壊れていく。もう誰にも止められないのだった。いつも明日香の側に寄り添っていた婚約者の冬馬でさえ。でもどんどんどんどん壊れてそして、最後に気付きだしてからの明日香はほんの少しずつ前向きになって〈無理に愛さなくてもいいし、愛されなくてもいいんだ。自分とは違うってそれだけ思って、憎むより遠ざかろう。私はそう、思う〉と佳蓮ちゃんに伝える時を迎える。母からの〈誰だって、勝手なことしか言えないよ。明日香にとって一番いいことを、私なりに考えるしかないんだ、、、あんないい子の冬馬くんですらどうでもいいと思うくらい、あんたの味方だよ。本当だよ〉に、救われた。

  • 二面性や自己矛盾や感情と行動の不一致みたいなこと、が作品全体にずっと流れているように感じた。

  • 「無理に愛さなくていいし、愛されなくていいんだ。自分とは違うってそれだけを思って、憎むより先に遠ざかろう。」

    文章は読みやすく、すっと入ってくる。
    色々考えながら思いながら読み進めた。自分の中に愛を見つけた人間は強い。
    不在というタイトルだが至る所に私は愛を感じた。

  • 主人公の父の死をきっかけけに遺品整理を行う。幼い頃両親が離婚して、父と疎遠になっていた明日香。家族への複雑な思いが、仕事や恋人との関係にも支障をきたす。
    正直、遺品整理は、たとえどんなに親しい家族であっても、その人物が何を思い、生きてきたのか、故人との関係性や思いによって、すごく意味合いが、かわってくると思った。自分のルーツだけでなく家族のルーツや思いまで背負ってしまう。
    故人に思いをぶつけたくても、もはやことばをかわせない相手。主人公はだんだん、満たされなくなり、自分で関係を壊してしまう。
    家族だからこそ、恋人だからこそ。愛を求めてしまう。
    「いや、家族を体の結合した一つの生き物として捉えるのでだ。主導権を握るのは、一番強い頭だけ。他の家族を自分の正しさで飲み込みにかかる人だ。」
    この文の主人公の行動に、私自身が家族にもつ傲慢さを指摘されたような気がした。
    本文で気になった言葉
    「普通じゃないって思う人生は、困ったり、寂しかったり、大変だけど、それ以外の人生ではわからないことがたくさんわかるよ。わかったものは、あなただけのものだよ。辛いことを生き延びた先で、すごくきれいな景色を見られるよ。」
    「無理に愛さなくていいし、愛されなくていいんだ。自分とは違うってそれだけを思憎むより先に遠ざかろう。私はそう、思う。」
    「愛は花だ。運がなければすぐに枯れるし、腐ってなくなってしまう。だけど咲いていたことまで否定しなくたっていい。なくなったからって、偽物だったわけではない。昔、きれいな花が咲いていた。それでいいんだ。私と父との間には、ある時期、とても美しい花が咲いていた。
    いつかそう思える日が来るのだろうか。タイトル「不在」。今はこのとき「いない」のであり、決して「ない」わけではない。いつかどこかに「在る」として、心が欲するものを探し求めて、道しるべとして、足掻き続けたい。そう思った。

  • 難しい内容に挑んだな…というのが読後の感想です。
    愛とは何か…なんて考える事がそもそもおかしいのではないのか? その問いに答えはあるの?
    そんな事考えながら生きていく方が疲れるし楽しく生きられないでしょう。
    じゃあ幸せってなーに?
    禅問答して深みにハマり、ストレスが溜まり何かの引き金で近い人を気づつけるくらいなら禅しない方がいいのでは…
    人間は感情の生き物だよ、考えるより感じろ的なスタンスの方がいいし、常にニュートラルな体制が一番じゃないかなぁ、勿論考える事は大事、言葉も多少なり選ぶモノだよね、けどなんでもそーだけど過ぎるのは良くない、つい過ぎちゃうんだろうね、そこをコントロール出来るか否かは個人差や環境や性格なんだろう。コントロールが上手く出来ないから人間とも取れるけど、ある程度コントロール出来ればいいのでは?
    絶対とか完全なんてモノは地球上には無いしむしろ不完全ぐらいがいいよ、きっと。
    でもその不完全が許せない部分があるんだろうネ!
    という具合に堂々巡りなので、不在も存在も両方が真実で過去は置き去りにし、今現在を生き、昔を確認したり掘り返すことはする必要ないかな、そう思う。

  • 「どれだけ1人になったって、周りにあなたを理解してくれる人がいなくたって、必ずこの世にはあなたと近い気持ちを持ったクリエイターがいて、漫画とか、音楽とか演劇とか、小説とか作ってるの。だから、なにを拒んでも大丈夫。絶対に1人にならないよ。」この言葉がすごく突き刺さりました、気持ちが楽になれました。私にとって彩瀬まるさんの小説は私を1人にさせない作者であって偉大です。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50244231

  • 父の死をきっかけに実家の洋館を相続した明日香。遺品を整理しながら家族の思い出、愛されていなかったというトラウマ、過去に囚われ、恋人ともすれ違っていく。愛、家族をテーマにした話。

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著者プロフィール

1986年生まれ。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞読者賞」を受賞しデビュー。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』(新潮社)『骨を彩る』(幻冬舎)『神様のケーキを頬ばるまで』(光文社)『桜の下で待っている』(実業之日本社)がある。自身が一人旅の途中で被災した東日本大震災時の混乱を描いたノンフィクション『暗い夜、星を数えて――3・11被災鉄道からの脱出――』を2012年に刊行。

「2021年 『OTOGIBANASHI』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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