- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041112410
作品紹介・あらすじ
ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。
それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。
少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。
だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。
世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。
感想・レビュー・書評
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【解説:池澤春菜】思弁SFの系譜に連なる、新たな名作――『滅びの園』恒川光太郎著【文庫巻末解説】 | カドブン
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滅びの園 恒川 光太郎:文庫 | KADOKAWA
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他人の不幸の上に成り立つ幸福は否定されざる得ないものなのか?
人類に破滅をもたらす物に取り込まれた唯一の人間は夢のような世界で新たな家族と幸せを育みながら暮らす。
一方、破滅へ向かう人類は起死回生の一手を模索する。
破滅へ向かう人類の中で耐性を持つ人間達
其々の立場から生まれる葛藤
其々の正義の下に物語は進んでいきます。
個人的には夜市以上スタープレイヤー未満と言ったところでしょうか! -
善と悪、希望と絶望、ユートピアとディストピア、喜劇と悲劇……そうした正反対なものは、隣り合い、混ざり合い、ただ単に人の立場で変わってしまうことを思わされた、SF(少し不思議)作品です。
ブラックな職場と妻とのすれ違いで、心がすり減ったサラリーマンの鈴上誠一。彼はある日、ふと降り立った駅のホームで、現実世界とはどこかズレた世界に迷い込む。居心地のいい世界に徐々に馴染んでいく鈴上。そんな彼の元に、ある日地球からやってきたという男が尋ねてくる。そして男は鈴上に地球の危機的な状況を伝え……
個人的な読みどころは二つの世界の対比。鈴上が迷い込んだ、穏やかで平和で幸せな、何不自由ない世界と、一方で謎の生物の襲来によって多数の犠牲者が出続ける地球。
地球での主な語り手となる二人の人生も、それぞれに友人や家族の死であったり、境遇であったりとこの地球だからこその悲劇や波乱に満ちている。一方で鈴上は地球のことを認識しつつも、自分の世界で生き続ける。
こう書くと、鈴上が怠惰だったり卑怯だったりと思えるけど、話を読んでいくとそうとはなかなか割り切れない。地球の人たちも鈴上も理不尽な事態に陥ったことは変わりなくて、でも決定的に超えられない立場がある。精一杯正しく生きようとしても、それがある人にとっては、悪でしかない。
第六章は読んでいて、バットマンシリーズの映画『JOKER』をなぜだか思い出しました。本人が悪いわけではないのに、理不尽に転がり落ちていく様子。そして彼の心理の変遷や悟った時の哀しさと可笑しさが、なんとなく身につまされました。 -
ブラック企業に勤める鈴上はある日楽園のような世界に飛ばされるが、戸惑いながらもその地に根付いていく。
一方、鈴上のいなくなった地球にはある異変が――
自分にとっての正義は他人にとっての悪かもしれない。
正しいってなんだろう。もし家族を守るためなら私は正しい選択できるのだろうか。
誰にとって正しいかなんて、誰にも分かるはずがないのに。
物凄いファンタジーなのに、哲学書を読んだ気分だった。 -
恒川作品長編。
地球外生命体がクラゲのように地球についてそこから地球の破滅へと向かう物語。
SFなんだけど、地球の混乱とか一人一人の物語がリアルすぎてSFっぽくない。
特に相川目線の中学生の頃のお話とか懐かしさを覚えた。難しいお年頃のバランスの取りづらい感情の変化とか物語全体ってよりはそこに存在しているキャラクター設定が緻密。プーマーとよばれる生物が街を、人を呑み込んでいき、最後は栄養素になるとか上手くできすぎ。
読んでてちょっと伊坂幸太郎らしさがあるな、とか感じたりした。 -
面白かった。
鈴上は悪人なのか?でもその場その場で手に入れたささやかな幸せを守りたくて、何が悪いだろう。
人はその人その人の感じたことでしか、何かを判断することはできないと思う。
鈴上の身に起こったことから語り起こされるので、まず鈴上とかれの身近な良い人たちに感情移入してしまう。
そもそも鈴上のそれまでの生活に、何ら良いことがなくて、私だってそんなところに戻りたくないと思う。
新たに得たささやかな幸せを守りたくなる。
それが現実ではないとしても。
現実では、とても悲惨な事態になっている。
その事態を鈴上は伝聞でしか知らない。実感がない。
地球上の全てが滅びを待つような状態。
地球上全てを救うために、自分の子を殺せと言われて、言われただけで、それを信じて子を殺し身近な良い人たちを失えるかどうか。
私は無理だと思う。まず話を信じない。
地上では、具体的に脅威にさらされた中で、いろいろなことが起きる。
脅威によって家族も何もかも失う人たちが描かれる。
しんどいことばかりで、本当に地獄。
いったいどうなるのかと先が気になってどんどん読んでしまった。
結末は出たけれども、それで何もかもすっきりする!とはいかない。ザラッとした舌触りの何かが心にずーんと残った感じ。
なかなか考えさせられるラストだった。
現実世界で、唐突に土方歳三資料館という単語が出てツボった。 -
『夜市』で惚れてしまいすぐ2作目として手を出した恒川光太郎作品。一気に読み切ってしまった。ファンタジー?SF?を読むのは久しぶりだったし群像劇とのことで頭が付いていくか不安だったけど全くの杞憂であった。短編も長編も変わらぬ強さでグイグイ読ませてくる。
誰にとっての救いで、希望で、絶望で、破滅なのか。善悪も正義も個人ごとにその判断は分かれる。
すでに他の著作も読まれているファンの方には何を当然のことを、と言われそうだが、物事を決断する上で選ばねばならない「何か」に迫られた時の人間の心に生まれる曖昧な滲みや、絶妙な善悪の境界線や表裏の描写がこの作者はやはり卓越しているなと感じる。
著者プロフィール
恒川光太郎の作品





