スケルトン・キー (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.28
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本棚登録 : 1025
感想 : 71
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041113301

作品紹介・あらすじ

19歳の坂木錠也はある雑誌の追跡潜入調査を手伝っている。 危険だが、生まれつき恐怖の感情がない錠也には天職だ。だが児童養護施設の友人が告げた出生の秘密が、衝動的な殺人の連鎖を引き起こし……。

感想・レビュー・書評

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  • 「サイコパス」の帯と、「中野信子解説」の魅力溢れるパワーワードと、「道尾秀介がサイコパスなのでは」に対して納得の頷きと共に手にした一冊。

    恐怖心を感じない生まれ持ってのサイコパス、坂木錠也は、記者 間戸村の手伝いで芸能界のスクープを取ることにより報酬を得ていた。その際の危険を顧みない言動はクールでカッコよく映る反面、当たり前の感情を持たない彼に対して静かな恐怖心が湧いてくる。と、ここまでは前菜のようなもの。後に、自身の過去を知った錠也は、息をする如く当たり前のように殺戮を繰り返す事となる。

    面白かったが、一言で言うと肯定の意味ではないロマン溢れる作品だった。一言では終わらないが、サイコパスプロフィールをそのまま反映させたかの様な、完璧すぎる濃厚なキャラクター設定に首が傾く。こんなのに憧れた青い時期もあったなぁの親近感は湧くのだが、サイコパスからリアリティをとったらそれは本物のファンタジーだろう。幾分、昂りが抑制されてしまった節がある。
    とは言えこれは、個人的な湾曲が過ぎるひねくれた癖に合わなかっただけであり、逆を言えば全身全霊でフィクションを楽しめる物語だと感じた。

    恐らく「サイコパス」について徹底的に調べ上げたのだと思う。特徴を全てフル装備した主人公だが、これが「遺伝」の可能性があるとは興味深い。この「遺伝」の因果がもたらす結末と、終盤のサスペンス溢れるアクションシーンは短いながらも濃密で壮大、脳内酷使のお時間が訪れた事を察した。幸せタイム到来である。

    トリックも斬新で、漢数字の謎が判明した時は興奮でソファからお尻が浮いた。ついでに、ページをめくった直後の唐突な双子モナリザには純粋にビビってこちらもお尻が浮いた。

    しかし何が一番心に残ったって、砂山のパラドックスからのハゲのパラドックスだろう。
    「正しい仮定から論理的思考を経て間違った結論に至る」パラドックス。つまり、砂山から砂を一粒取り続けてもそれは砂山であり続けるが、いつか最後の一粒を取った時点で砂山の定義は崩れる
    といったこの事例にまさかハゲ頭を利用するとは。ハゲに髪を1本植えてもそれはハゲと。全ハゲを敵に回したであろう道尾秀介の時折見せるこの茶目っ気が大好きだ。

    内容はわりかし早い段階で薄れるだろうの嵌り具合だったが、どうやらここは気に入ってしまったみたいで、既に3人の知人にドヤ顔しながらこの話をしている。

  • サイコパスの大量生産! 狂気の血が織りなす冷酷ながらも悲しいサスペンスミステリー #スケルトン・キー

    児童養護施設で育った主人公は恐怖を感じない体質。いつも一線を超えてしまわないようにコントロールをしていた。しかし自らを不幸に陥れた復讐の正体がわかったとき、サイコパスの血がうずき始め…

    道尾さんはホントに小説がお上手。
    冒頭からいきなり派手なアクションとともに、強烈な人間性や背景の説明を一気にしちゃう。中盤も読者の不安を搔き立てることによって、もう読ませる読ませる。そして中終盤からの驚愕などんでん返し、さらには激しいアクション、そしてスケルトンキーとはいったい何なのか。
    決して長い話ではないのに、サイコパスのテーマ性も、エンタテイメント性も、重厚感もしっかりあり、しかも全体のバランスもとれている。そりゃ面白いっつーの。

    本作はなによりサイコパスの描写が凄い!
    サイコパスの心情描写、殺戮、暴れっぷりがリアルで怖いよ。

    そしてミステリー要素もさすがですよ。途中で例の怪しい点に気づいて、おおむねの予測は立てていたんですが、道尾秀介はそんなに甘くはありませんでした。でもこの伏線だけでは難しいよ~ く、くやしい。

    しかし悲しいお話ですな。
    物語なのでありえない話なんでしょうけど、生まれや家庭に恵まれない不幸はどうしたらいいんでしょうね。自分は専門家ではありませんが、話を聞いてあげることくらいです。

    テーマは強烈ですが、読みやすく初心者にもおススメできる?かもしれないミステリーです。面白かった!

  • サイコパスを題材にした作品。
    ちょいグロ描写や読んでいて苦しい場面もありましたが、最後は少し希望が見えるような気がしてホッとしました(錠也たちはまだホッとできないだろうけど...)
    後半にかけては誰が、何の、どの場面で、話をしてるのか混乱するくらい怒涛の展開でした。
    個人的には間戸村さんナイス!!って感じでした!!笑

  • ❇︎
    スケルトン・キー/道尾秀介

    『僕に近づいてはいけない。あなたを
    殺してしまうから』

    本の帯に書かれたショッキングで少し
    切ない言葉を読んで、ぜひ読みたいと思い
    手に取りました。

    完全に、恐怖を感じたことのない僕(=錠也)
    として読み進めていたので、後半でひかりと
    話す箇所でチラリと違和感を感じて、
    その可能性を想像しましたが、それまで
    全く仕掛けに気づきませんでした。

    それもダブルで驚かされました。

    いや、もっと前半まで遡るとトリプルです。

    スケルトン・キー=合い鍵
    この組み合わせがもっと早く、僕の前に
    現れてくれていたら、また違った物語が
    あったのかも、しれません、

    • NORAxxさん
      yoruさん、こんばんは^ ^
      私も本書 昨日読みました。マイナー作品が被るとなんだか嬉しい気持ちになります♪

      トリックが斬新でしたね。
      ...
      yoruさん、こんばんは^ ^
      私も本書 昨日読みました。マイナー作品が被るとなんだか嬉しい気持ちになります♪

      トリックが斬新でしたね。
      仰る通り、「僕」の未来に対して違う物語があったかと想像するといたたまれない気持ちになります。
      素敵なレビューをありがとうございました☆
      2022/04/03
  • 初道尾さん。
    向日葵の咲かない夏を積み上げて早何年。
    こっちをさきに読んでしまった。サイコパスが気になって。

    錠也はバイク便の仕事をしながら、副業で記者の手伝いをしている。危ない仕事をしながら、何とか心を落ち着けようとしている。彼はサイコパスだと自認している。
    ある日追いかけていた芸能人のスキャンダルを掴んで、収入を得た錠也は、自分が育った施設でいっしょだった«うどん≫と会う。
    彼は今服役していた父親といっしょに住んでいるのだそうで、その父親から服役した事情を聴いたという。それはスナックに銃を手に入り、中で店の用意をしていた女の人を撃ち殺したのだという。そしてその女の人の名前が錠也の母親の名前と同じだったことが気になって、会いにきたのだという。
    錠也は自分の出生の話を施設を出る前に園長先生から聞いていた。そしてその時に母を殺した男に抱いた感情は、母を殺した怒りではなく、自分に存在したかもしれない人生を奪った、という事実への怒りだった。そして彼は思った。もしもその男の居場所を知ってしまったら、自分は男を殺してしまうだろう、と。
    そして知ってしまった今、【彼】は行動を始めてしまう。

    文章がとても読みやすい。そしてサイコパスを描いているのに、この人の心の柔らかさが滲んで感じられる文章がよかった。
    どんでん返しの名手と聞いていたけれど、今回はそうでもなかったかな。他の作品も読もう。というか、今年の夏こそは、向日葵を読むぞ!

  • 未婚の母が妊娠中、散弾銃に撃たれて亡くなり、産まれた錠也は児童養護施設で育った。錠也は同じ施設にいたひかりと話す中で、自分はサイコパスなのだろうと自覚する。サイコパスは生まれつきのものか?遺伝するものか?それともそれは、変わることができるものなのか?

    ほああああああ最後まで読んだ後にもしやと思って初めの方に戻ってみたら、くっそー!最初から話の区切りの漢数字が入れ替わるたびにひっくり返されてるじゃないか!!気づかんかった!!もうなんか、鍵人は救いがないし、政田もうどんもアレなんだけど、錠也だけは踏みとどまる人だったから、変わることができる(もしくは変われなくとも一線を超えずにいることはできる)と祈りたいなあ。最後のお母さんの祈りが、本当に切なくて胸がギュッときた。最後の1ページが本当に好き。死にたくなかったろうなあ。この子達がどうか大丈夫でありますように、大丈夫だって前を見て生きていけますように、って、必死で祈ってたんだろうなあ。これを聞いて、母の言葉が少しでも本当であるようにと祈った錠也が、これからも踏みとどまりながら無事に生きていけますように。

  • サイコパスを自認している主人公の一人称で語られるこの話。途中で一変。思わず戻って読み返してしまった。
    何気ない会話や行動のひとつひとつが、なんか怖いような、違和感感じるような…普通じゃないなっていうのが伝わって来て、道尾さん凄いなと思った。
    私は気が小さいと自認していて、ちょっとした物音でも心拍数が上がるし、怖さも感じるし、嬉しさも感じる。
    常に落ち着いている人が羨ましいと思っていたけど、それはそれで悩みにもなっているのかも?と考えてみたり。
    相変わらず読みやすく、先が気になって一気読み。

  • サイコパスを自認している主人公による一人称視点で進む物語。
    途中で話の作りが分かって、なお読むのが止まらなかった。一気読み作品。

    主人公の幼い頃からの言動はぶっとんでるんだけど、その根底にあるのはサイコパスだから、じゃなくて、大人に自分を見てほしかったことだと、最後に気付くのが切ない。
    もし、母親が銃殺されることなく、母と双子一緒に青光園で暮らすことができていたなら。
    鍵人も錠也も、誰にも大切な人を奪われることなく、母と園の大人たちの愛情を受けて生きることができたのかもしれない。
    最後の母親の想いが、そんな未来があったことを想像させて悲しい。

    鍵人視点での続きを読みたい。

  • キレが悪い。
    それなりの動機がやっぱり欲しい。
    出来過ぎの母親だとも思ったし。

  • 2021年、13冊目は、2年弱振りの道尾秀介。

    児童養護施設出身の坂木錠也は、19才。ある雑誌記者お抱えの追跡、潜入取材を手伝い生計をたてていた。彼には、生まれつき「恐怖」という感情が欠落していた。そんな彼に施設時代の1つ年上の友人から連絡が入る。

    まづは実に道尾秀介らしい造り。伏線を張り巡らせ、それらをきっちりと回収していく(今回は、引っ掛かった箇所に栞を入れながら読み進めて行った)。そして、上手くミスリードを誘う。

    ひどく個人的な好みで言わせていただくと、「夢オチ」「上位概念オチ」「ヴァーチャル・オチ」は、好きではない。同様に「二重(多重)人格モノ」「ソックリさんモノ」も好まない。いわゆる今作のような「○○○○○○モノ」もあまり好みとは言えない。

    もぅ1つ「サイコパス」って言葉も(語感、響き含め)あまり好きではない。『リカ』シリーズの雨宮リカも自分は、「サイコパス」でなく、「シリアルキラー」を使うようにしている。まぁ、今作の坂木君にしても、雨宮リカにしても、ある種の感情の欠落に起因する特殊行動=人を殺めるという点では、「サイコパス」に違いないんだけど、本文中にもあるように、「サイコパス」=「殺人鬼」と結びつけるのは……、と、考えちゃうトコロもナイではない。

    ★★★★☆評価は、今回も、道尾秀介の仕掛けに、「フェアにヤラれた」と思えたので、個人的な想い、考え据え置き。

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著者プロフィール

2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』がベストセラーとなり、以後、『シャドウ』で本格ミステリー大賞、『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、『月と蟹』で直木賞を受賞。累計部数は700万部に迫る。

「2022年 『DETECTIVE X CASE FILE #1 御仏の殺人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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