- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041113936
作品紹介・あらすじ
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の到達点。『満願』『王とサーカス』の著者が挑む戦国×ミステリの新王道。
感想・レビュー・書評
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信長に叛旗を翻し有岡城に籠城する荒木村重。その城内で起こる様々な事件と謎を地下牢に拘束した小寺(黒田)官兵衛が解く…と簡単に書くとそういう設定のミステリーになるのだが、読んでみると安楽椅子探偵型ミステリーというよりは歴史小説に近いものがあった。
だが事件は雪の山荘っぽい密室ものだったり、衆人環視内での密室だったりという密室祭り。ワクワクしながら読んだしそのなぞ解きもなかなか楽しめた。
個人的に前々から興味があったのは、①なぜ荒木村重は織田信長に謀反を起こしたのか、②なぜ十か月の籠城の挙句、家臣や家族や民を見捨てて城を出たのかという2点の疑問。
この作品がそこにどう答えてくれるのかということがミステリー部分よりも気になって読んだ。
歴史小説はあれこれ読んできた積もりでいたが、上っ面しか読み込めていなかったのだなと反省。
当時の武士の習い、世の習い、宗教、価値観、身分、社会…そうしたものをもっと理解しなければ上記の2点については真に分からないかも知れない。そもそも村重が使者である官兵衛を斬り捨てることも生きて返すこともせず牢に閉じ込めたというのは異例のことだというのも初めて知った。
この作品での荒木村重は武芸に優れ茶の湯に通じているだけでなく頭も切れる設定になっている。その村重が最後にすがるのが牢内の官兵衛なのだが、この官兵衛もまた知略に優れただけではない底知れない不気味さを漂わせている設定だ。
十か月もの間、暗くて狭い牢に閉じ込められ体も満足に動かせない状況にいるというのは、読んでいるだけでもゾッとするし、実際の官兵衛はよく生還したなとその体力だけでなく何よりも精神力に感服する。ましてやこの時の官兵衛は息子・松壽丸は殺されたと聞かされているわけで、とっくに心が折れてもおかしくない。
その二人が片や依頼人、片や探偵役となるのだから面白くならない筈がない。そして敵味方に分かれているからこそ村重は全てを明かせないし、官兵衛もまた一から十まで謎解きはしない。時に狂歌に託したり、時に別の問いで示唆したりと村重にも読者にも意地悪だ。
二人の話の中で一番印象深かったのは、領主のパターンについて。
①『父祖伝来の地を治める』、摂津でいえば池田や伊丹などの例
②『命を受け、任として治める』、駿河の今川や甲斐の武田の例
③『云い知れぬ力で不思議に人を惹く者を万人が領主として仰ぐという形』で、本願寺領は最初この例だった
④『ただ武略をもって国を獲らんとする者は、ひとときの威勢は良くとも末路は哀れ』で『木曽義仲や斎藤道三が良きためし』
荒木村重がどれに当てはまるのか、そして信長は。
先に書いた二つの疑問、謀反の理由と城を出た理由がここから見えてくるところは面白かった。
個人的には『因果は巡る』パターンの方が好きだけど、この作品の村重キャラならこれで良いのかも知れない。
考え抜いた謀反の積もりだったが、『ほんの少し、早まったのかもしれぬ』と後悔するのは自分の知略を過信していたのか。
官兵衛の後の言葉『神の罰より主君の罰おそるべし 主君の罰より臣下百姓の罰おそるべし』という言葉は現代にも通じるところがあって納得。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
織田信長に謀反を起こし、有岡城に立て籠った荒木村重。城内で起きる不可解な事件を解決するため、土牢の囚人である黒田官兵衛に謎解きを求めるミステリー物。
苦手な歴史小説だし、米澤穂信さんとはあまり相性は良くない。なかなか、ぴたっときた試しがないというか…
第166回直木賞受賞と2022年本屋大賞ノミネート作品ということで、オーディブルで聴く。
本屋大賞ノミネート作品は必ず読む(あるいは、オーディブルで聴く)ことにしているので、半ば仕方なく…
しかし、これがよかった。
米澤穂信さんは、直木賞の贈呈式で「もしかしたら小説の普遍性というところに手が届いたのかもしれません。」とスピーチしたそうだ。
それだ!確かに僕にとっては苦手な歴史小説を超えた普遍的な小説として心に響いてきた。
直木賞作品ってこういうことなんですね。
なんと言っても、荒木村重と黒田官兵衛の対峙の場面が濃ゆい!
何が善で何が悪なのか、死生観や価値観のせめぎ合い、錯綜。思索がぐるぐる回る。
会社からの帰路、暗い夜道で聴いていると、この小説の舞台である戦国時代から、ロシアのウクライナ侵攻まで思いが飛んでしまったりして…
背景には様々あるのだろうけれど、戦争はやっぱり狂っているな、と。一般市民だけではない。軍人だって等しく生命を持っている。国や領土のために生命を費やすなんて、僕には理解できない。平和を願う。 -
「安楽椅子探偵」ならぬ「土牢探偵」。信長に反旗を翻した荒木村重に有岡城に監禁されていた黒田官兵衛が探偵役。有岡城内での事件を官兵衛が解く四つの短編からなる連作集だが…。
これら事件の謎とともに、なぜ村重は信長に謀反したのか? なぜ官兵衛を殺さなかったのか? なぜ一人で城を脱出したのか? これらの歴史的な謎(?)についても書かれている。さすが米澤穂信先生だ。単なるミステリーではなく、歴史小説になっているところがスゴイ。 -
【感想】
素直に面白かった!戦国時代×ミステリーという奇抜な題材でどうやって話を転がすのかと不思議に思っていたが、読み進めてみたら2つが驚くほどピタリと調和している。舵取りを間違えればあっという間に取っ散らかってしまいそうなテーマを軸に、よくぞここまで綺麗にまとめたなぁ、と感心してしまった。
ミステリー小説に欠かせないのは「犯行の動機」である。しかし、世の中には多くの推理小説が存在し、復讐や私利私欲といった理由は手垢がつきすぎている。かといって奇をてらいすぎれば「そんな動機で?」と消化不良に陥るため、ストーリーやトリック以上にバランス取りと地固めが必要になってくる。
しかし本小説の犯行動機は「面子を守るため」、「功名争いのため」、「謀叛を隠すため」といった戦国時代特有のものであり、これが絶妙に先の展開を読みづらくしている。加えて、探偵である村重の捜査も「兵士の士気を下げない」、「籠城をしながら手柄を立てさせる」、「己の真意を家中に悟らせない」といった特殊な思惑にもとづいて行われており、これが合わさることで全く新しいタイプのミステリーが生み出されている。
「新しいタイプ」なのは犯行動機だけでなくストーリーにおいても同じだ。普通は探偵が謎を解いて一件落着、となるが、むしろ謎を解くたびに村重は追い詰められていく。表向きは城内で起こる奇異な事件を解き明かしながら、裏では自分が企む犯行(織田との和睦)を感づかれないよう気を配らなければならない。主人公である村重は探偵であると同時に犯人でもあるのだ。
そしてその犯人の心の内を暴いていくのが、真犯人であり真探偵でもある黒田官兵衛だ。この二人は探偵と助手でありながら敵同士という奇妙な関係を持っている。数々の謎解きを通じて、黒田が村重の孤独を見抜き、その喉元に手をかけていく。村重は身の危険を感じながらも、自身の言葉を真に理解できる者は黒田をおいて他にいないと確信し、その知略に頼る。この奇妙な互恵関係が物語をつなぎ、「探偵:村重」の立場と「犯人:村重」の立場から二重の面白さが生まれていく。
あらためて、時代設定の妙が為せる技だと思った。全ては表裏一体なのだが、そんなありえない関係が成立してしまうのも、面子や建前、謀りごとがぐちゃぐちゃに入り乱れる戦国時代ならではであり、それを本当に効果的に使っていると感じた。
なんとなくだけど、バットマンとジョーカーが手を組んだらこんな感じになりそうじゃないですか? -
戦国時代×ミステリーは完成度が高すぎの超良作! ★5
戦国時代、信長を裏切った荒木村重が有岡城に籠城する中、城内で様々な難解な事件が発生。牢に幽閉していた策士黒田官兵衛に知恵を借り、難事件を解決していく歴史小説×本格ミステリー。
史実にベースに進む歴史小説で武将たちが暗躍する描写がお見事。でも中身は本格ミステリーになっているスゴイ作品。相変わらず作者は世界観やリアリティを出すのが大変上手で、序盤から一気に大河ドラマに引き込まれます。
いつも日本語が美しい作者ですが、本作は歴史小説のために、より一層情緒的で素敵すぎる! 日本人に生まれて良かった。
そして中終盤からの重厚な展開は、読み手を熱中させ、さらに隠された真相には驚きと切なさが心を突き上げます。ああすごかった…
なんといっても本作は、単に歴史モノとミステリーを組み合わせただけでなく、ちゃんと歴史小説になっているのがビビる。これから読む方は日本史の知識があるほど楽しめる作品なので、荒木村重、黒田官兵衛あたりの知識をつけておくことがおすすめです。 -
信長の畿内平定直近の関西での大事件とも言える荒木村重の謀反、有岡城の戦いを舞台に描いたミステリー作品。
有岡城の戦いがミステリー??って思い読んでみたらしっかりと戦国クローズドサークルがでてきたり戦国安楽椅子探偵的な感じやし戦国ならではのトリックを使ったバリバリのミステリー作品やのに歴史の本筋も外していない歴史好きもミステリー好きも楽しめるさすがは直木賞受賞作って感じの戦国ミステリー作品! -
織田信長に反旗を翻した、荒木村重。
籠城中の有岡城で起こった難事について、土牢に閉じ込めた黒田官兵衛に問う。
官兵衛が安楽椅子探偵という設定が、目新しかった。
官兵衛が謎解きをするというミステリ要素もあるが、メインは時代小説。
村重を信じ、結束していたはずの城内に漂う、猜疑、裏切り、倦怠。
戦の場面がほとんどないにもかかわらず、長引く籠城戦の空気の変化が伝わってくる。
同レベルで語りあえる臣下を持たない、孤高の村重。
囚われてもなお、才気の鋭さが際立つ、官兵衛。
ふたりのヒリつくやり取りもよく、時代小説としておもしろかった。 -
あたらめて歴史の勉強をもう一度したいと感じた作品でした。あまり歴史物の小説を読んでなかったのですが、今回は米澤さんの作品だから読めそうかなと思い、読んでみました。率直に面白かったです。歴史とミステリーがうまい具合に絡まって読みやすかったです。天才軍師黒田官兵衛と有岡城城主荒木村重の個性も描かれていて、歴史を知らなくてもスムーズに読み進めると思います。第166回直木賞候補作。
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【GoTo書店!!わたしの一冊】第46回『黒牢城』米澤 穂信 著/大矢 博子 |書評|労働新聞社
https://www.rodo.co.j...【GoTo書店!!わたしの一冊】第46回『黒牢城』米澤 穂信 著/大矢 博子 |書評|労働新聞社
https://www.rodo.co.jp/column/118636/2021/12/16
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著者プロフィール
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