- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041114377
作品紹介・あらすじ
足尾銅山からの有害物質で甚大な被害を受け、鉱毒反対運動の中心地となった谷中村は、国家と県の陰謀により、廃村の危機に瀕していた。
役人による家屋の強制破壊と重税、そして鉱毒の健康被害に追い詰められていく村民たち。
地位も財産も顧みず、谷中村問題に取り組む男、田中正造は、村民たちを率いて全身全霊で抵抗運動に奔走する。
国家権力の横暴と、不撓不屈の精神でそれに立ち向かった人々の姿を描いた伝記小説の傑作。
感想・レビュー・書評
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2024年7月読了。
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足尾鉱毒事件がもとで強制廃村となった谷中村から離れようとしない残留民たちと、彼らとともに戦った田中正造について描いた伝奇小説。
これから書く原稿のお勉強のつもりで手に取ったが、文章が上手くて熱があり、とても引き込まれた。
子どもの頃読んだ日本の偉人マンガに田中正造も入っており、天皇に直訴したりとか大隈重信の家の庭に勝手に汚染土を持ち込んで松を枯らしてみせるとか、正義感が強い反面なかなかぶっ飛んでる人だなあという印象を持っていたが、よく考えてみれば(いやよく考えてみなくても)ぶっ飛んでるのは行政のほうであった。公害で苦しむ村を助けるどころか、池を作って村を沈めるという。銅山の操業を止めさせるほうが筋じゃない?
立ち退きを拒否する住民に対する扱いも、家を強制破壊したり、壊れた堤防を直さず放置したりととんでもない。鉱毒被害のみならず、残留民の人々をひどく苦しめたろう。
なぜ国が鉱毒対策を十分に取らなかったについてはあまり深く考えたことがなかったが、銅は当時日本の主要な輸出資源で、かつ日露戦争前後の時期であったので、小さな村より国益が優先されたのだ。足尾銅山は日本一の銅産出量を誇っていた。
ただこれはやはり田中正造が言うように、憲法に反している措置だったと思う。
国益のために地方を切り捨てるという構図は、100年以上経った今もあまり変わっている気がしない。
なお田中正造が「有害無益」と断じた渡良瀬遊水池は、いまラムサール条約指定地となり貴重な動植物が残る場所になっているという。公害によって苦しめられ、追放された人々の故郷が、いまや自然豊かな場所になっているというのは、なんだか皮肉な感じがする。 -
東2法経図・6F指定:913.6A/Sh89s/Ishii
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日本の公害史の嚆矢にして、初の公害闘争とも言える、足尾銅山鉱毒事件。
被害民救済のため、地位も私財も投げうち、抵抗運動の陣頭に立った元衆議院議員・田中正造と、彼を取り巻く人々を描いた歴史社会派小説。
第一部「辛酸」では、足尾銅山の鉱毒で甚大な被害を受けた、渡良瀬川流域の谷中村で、法廷闘争の指導者として闘い続けた、晩年の正造が描かれる。
第二部「騒動」では、志半ばで病に斃れた正造の跡を継いだ、谷中村の青年たちが直面した萱刈騒動までが扱われる。
富国強兵を掲げ、急速な近代化を遂げた明治日本は、経済発展と重工業優先の施策のひずみが方々に現れていた。
強硬な土地の買収に、強制退去と家屋破壊。
圧政に虐げられる農民たち、そして、踏み躙られる大地と共同体。
その狭間で、無私の奮闘に奔走した人々がいた。
国家権力の抑圧は時代を経ても変わらず、彼らの無尽蔵の涙と貧苦の果てに、現代日本の姿があることを忘れてはならない。 -
読みながら、三里塚農民のことを思い、室原知幸さんのことを思った。
谷中村、下筌ダム、三里塚。
「辛酸入佳境 楽亦在其中」