辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041114377

作品紹介・あらすじ

足尾銅山からの有害物質で甚大な被害を受け、鉱毒反対運動の中心地となった谷中村は、国家と県の陰謀により、廃村の危機に瀕していた。
役人による家屋の強制破壊と重税、そして鉱毒の健康被害に追い詰められていく村民たち。
地位も財産も顧みず、谷中村問題に取り組む男、田中正造は、村民たちを率いて全身全霊で抵抗運動に奔走する。
国家権力の横暴と、不撓不屈の精神でそれに立ち向かった人々の姿を描いた伝記小説の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F指定:913.6A/Sh89s/Ishii

  •  日本の公害史の嚆矢にして、初の公害闘争とも言える、足尾銅山鉱毒事件。
     被害民救済のため、地位も私財も投げうち、抵抗運動の陣頭に立った元衆議院議員・田中正造と、彼を取り巻く人々を描いた歴史社会派小説。
     第一部「辛酸」では、足尾銅山の鉱毒で甚大な被害を受けた、渡良瀬川流域の谷中村で、法廷闘争の指導者として闘い続けた、晩年の正造が描かれる。
     第二部「騒動」では、志半ばで病に斃れた正造の跡を継いだ、谷中村の青年たちが直面した萱刈騒動までが扱われる。
     富国強兵を掲げ、急速な近代化を遂げた明治日本は、経済発展と重工業優先の施策のひずみが方々に現れていた。
     強硬な土地の買収に、強制退去と家屋破壊。
     圧政に虐げられる農民たち、そして、踏み躙られる大地と共同体。
     その狭間で、無私の奮闘に奔走した人々がいた。
     国家権力の抑圧は時代を経ても変わらず、彼らの無尽蔵の涙と貧苦の果てに、現代日本の姿があることを忘れてはならない。

  • その独特な風貌や日本で最初の公害闘争に身を投じたというエピソードから、気になっていた田中正造。
    この本を読んでみて、先見の明があり、清貧な聖人のような人というだけでないことがわかった。妻をぞんざいに扱い、事務手続きでもミスをし、そしてとにかく頑固。
    しかし、人を巻き込むエネルギーにあふれ、谷中村残留民に寄り添う気持ちも人一倍あった。
    正造は、聖人のようでもあり狂人のようでもあった。
    この本は二部構成になっていて、後半は残留民たちが正造の遺した強烈なエネルギーに後押しされて、権力と苦闘を続ける様が書かれている。

  • 読みながら、三里塚農民のことを思い、室原知幸さんのことを思った。
    谷中村、下筌ダム、三里塚。

    「辛酸入佳境 楽亦在其中」

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著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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