川のほとりで羽化するぼくら

著者 :
  • KADOKAWA
3.06
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本棚登録 : 526
感想 : 73
  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041115473

作品紹介・あらすじ

一年にたった一度の逢瀬。それだけを楽しみに機を織りつづける織女の緋浅は、自分たちを縛る「罪」の託宣の違和感に気づき、恋人の牛飼いに天の川を下って逃げだそうと提案する(「ながれゆく」)。他3編。

感想・レビュー・書評

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  • 美しいタイトルと装丁、気になっていた本です。
    違う世界に行ける気がする、川を越えれば。しかし、なかなか渡れないのが現実。先入観、人の見方(世間の目)そんな呪いを断ち切ることができたらどんなに楽かと思う。
    川と橋をモチーフに、ジェンダーレス、男性の育児、神話(過去)、ファンタジー(未来)へと舞台は飛び、ラスト男尊女卑世代の背景(この世代の妻の心理を若い作家さんが表現され凄い)の現代へ戻る。
    「らしさ」に縛られ、解放を求めている登場人物。その解放されたい現状は本人しか気づくことはできない。その心情が伝わり、自分の抱えるものと重なりました。
    しかし、一概に解放されればいいというものではなく、自分の役割があるほうが楽、ということもありますよね、と。そのバランスと自分で選択できるようになりつつある社会について考えた一冊だった。ツーンとした息苦しさが残った。神話、ファンタジーの章は、訴えは響きはするのですが、宙を浮いてるような不思議な感覚。

    ウスバキトンボの北上。ウスバキトンボは北上しすぎて死滅する習性がある。それは自分たちの生きやすい世界が来るのを信じて飛んでいるから。

  • 橋にまつわる短編集。
    どの話も好きだったが、同作家さんのSFチックな話を初めて読み、着眼点も好きだと感じた。
    最近子供ができ、年中行事や童謡なども調べているため、七夕の話についてもそんな見方があるのか、と興味深く感じた。
    確かに、罰として1年に1回しか会えなくされていたなぁと。

    他の話でも世間から見た男女の役割の差、出産という行為で愛情の大きさが変わるのかなど、考えてしまう部分が多かった。

  • 川が ジェンダーバイアスや

    古い価値観の象徴かな

    それを越えて 変化したいという人々の

    勇気や戸惑いが

    読んでいて とても心地いい



    がんばれ がんばれ

    と本の向こうにも

    自分にも帰ってくるような気がする

  • 世間の柵を飛び越えたい。自分をいつも縛り付けるものを取り払い身軽になりたい。
    川を挟んで、こちらの岸からいつも見ている向こう岸。
    心の中でうごめく羽をそっと静かに鎮めながら、いつかきっと目の前の橋を渡って向こう岸へ行くのだ、と人知れず願っていた。あちらに行けさえすれば、きっと未来は明るいはずだから、と。
    そんな羨ましく思う向こう岸も、ただ行くだけではだめだ。行った先で自分がどのように行動できるのか、それが大事なんだと思った。

    先日ノーベル物理学賞を受賞された、米プリンストン大の真鍋淑郎先生のスピーチが印象深い。
    何故日本ではなくアメリカで長年に渡り研究を続けておられるか、という質問に対し
    「私は人生で一度も研究計画書を書いたことがありませんでした。自分の使いたいコンピュータをすべて手に入れ、やりたいことを何でもできました。それが日本に帰りたくない一つの理由です。なぜなら、私は他の人と調和的に生活することができないからです」
    本作を読んでいる時に聞いたこのスピーチがとてもタイムリーに思えた。
    もちろん、ただアメリカへ行けばいい、という訳ではないはずだ。

  • 優しくて穏やかで、ガラス玉みたいにキレイで澄んだ文体だった。落としたらすぐに割れてしまいそうな繊細さ。すきな文体。

    さまざま(本当に”さまざま”)な世界で生きているひとたちが、それぞれなりの形で「羽化」していく物語。

    「ながれゆく」はファンタジーの世界だった。天の川の伝説は由来を知らなくて、こんなにいろんなロマンチックな言い伝えがあるのだなあと感心した。

    いちばん最初の「わたれない」が、いちばん身近な世界というのもあり好みだった。初めて知る名前のトンボのエピソードが印象に残った。


    全体を通して、女性の立場に焦点が置かれているように感じた。
    どんな状況でも、一歩を踏み出すのって大変だし勇気がいる。でもその一歩はとても大きな岐路になる。

    彩瀬まるさんはずっと気になっていた作家さんで、ようやく著書を読んだ。
    ほかの作品も読んでみたくなった。

  • 向こう岸には、希望。彩瀬まる『川のほとりで羽化するぼくら』8月30日(月)発売!|株式会社KADOKAWAのプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000009076.000007006.html

    【小説連載】彩瀬まる「わたれない」|小説 野性時代
    https://yaseijidainote.kadobun.jp/m/mab06b98c2b04

    「川のほとりで羽化するぼくら」 彩瀬 まる[文芸書] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000630/

  • ❇︎
    わたれない
    ながれゆく
    ゆれながら
    ひかるほし

    独特な視点からの不思議な話


    『わたれない』が、
    読み馴染みが良かった

  • こうあるべき、という自分。こうあらねば、という自分。こうありたい、という自分。
    そういうあれこれにがんじがらめにされて生きている私は時々息ができなくなる。
    川は形を変える。色も変える。水の流れを見ていると自分の奥の奥の方に何か動くものを感じる。
    あぁそうだった。私も水のように自由に動けばいいんだ。くびきから逃れ、狭い箱から一歩を踏み出す。
    彩瀬まるは私に教えてくれる。自分で自分を決めつけるなと。
    べき、も、ねば、も、たい、も放り出してしまえ、走りだせ、今は見えないその羽で飛び立て、と。
    川が流れる。自分の中にある水も流れる。あなたはあなたの道を見つけて行け、と背中を押された。

  • 「らしさ」の呪いを断ち切り、先へと進む勇気をくれる珠玉の四篇。

    わたれない…主夫と育児&家事
    ながれゆく…羽衣伝説・七夕
    ゆれながら…病気により生殖器が抑制された管理された近未来
    ひかるほし…夫につかえた女性が自分のあり方を考える話

    わたれない…育児をする男性を身近に感じているか?
    周りにいはいないような気がする。固定観念で子育て=女性の仕事という社会構造・認識に囚われている。
    とはいえ、私の祖母や母はたしかに子育てし、主婦として生きてきた人だけれど、生き方を振り返ると、もっとバリバリ仕事をしたか買ったんだろうなあと思う。自ら家事が嫌いだし、お金儲けをしたいという人たちなので。もし、大正生まれの祖母が今の時代に二十歳ぐらいで生きていたら、どんな選択をするのかとふと思った。

    ウスバキトンボをひきあいにして
    -------本文より-------------------------------
    馬鹿げた無茶をしているわけじゃなく、自分たちの生きやすい世界を信じて飛んでるんだ。けっこう、したたかですよ。そして、いずれは勝負に勝つだろう。
    -----------------------------------------------
    ながれゆく…織姫と彦星の逢瀬をモチーフに、ファンタジー。
    「下界の世界では二人の人間が出会い、お互いを損ねずに愛し合い、幸福に生きて死ぬってことに対する明快な筋立てが、まだ完成していないんだ。私たちは不完全な託宣に呪われている。」
    「誰かの都合で化け物にされるのは心底気味が悪いけれど、自分の望みで、好きな人と生きるために化け物になるのはなんて気持ちがいいのだろう。」

    ゆれながら…新しい生殖システムのなかで生きている男女。橋をわたって生きやすさを感じていた女性。弟はこちらで生まれたはずなのに。橋の向こう側への奇妙な憧れをにじませるようになる。弟の犯行によって加害者遺族と被害者遺族になってしまった男女。そして逃げる形でもう一度橋を当たった彼女。この話は読むのがしんどかった。でも、苦しみやもどかしさをわかりやすく表現されている文章だなと思いながら読んだ。
    -------本文より-------------------------------
    「人間が自然な姿で生きているのはあちら側だ」
    「家族が寄り添い、思い合って暮らしていた頃の美しい共同体を取り戻したい」
    「どれだけ惜しみなく手をかけても、子供たちは僕を通り抜けていく。まぶたに焼き付いた美しい残像を、病のように思い返して生きる日々が来る。それが怖くなったのかもしれない。だから憧れたのかな。僕と子供たちの間には、ずっと途切れない特殊なつながりがあるって信じさせてくれそうなものに。」
    「死ぬまで一緒にいてくれるものがほしいの?」
    「そうかもしれない。これを握りしめていれば安心なんだっていう人生や世界のとらえ方、文脈のようなものを探していた。」
    「どうすればその文脈に縋らずに生きられるか。一緒に考えるチャンスをもらう。手をつないで、今度こと二人とも苦しまずに生きられる場所を目指して、橋を渡る。緊張と恐れで指先が冷たくなるのを感じながら、自分自身に言い聞かせて生きた。」
    「彼に送る言葉が、いつまでも見つからなかった。謝罪も、弁明もそぐわなかった。どんな思考も言葉に変換した途端、うすら寒い保身の臭みを帯びた。許しを乞いたいわけでも、許されたいわけでもなかった。二度と会うこともないだろう。それでもつながりを途絶えさせてはいけないと感じた。そして、つながりを維持する努力は、あのとき弟を止められなかった自分が支払うものだとも。」
    「揺れている。川の向こうで、怒りにも絶望にも振り切れず、震動に耐えている人がいる。」
    -----------------------------------------------

    ひかるほし…亭主関白な夫。
    少し、自分の両親の生き方がに似ている部分があるかなと思いながら読みすすめた。それは私の感じたことであって、本当にそのように思っているのかはわからないけれど。この「ひかるほし」が四篇のなかで好きだし、共感できた作品だった。
    -------本文より-------------------------------
    「どれだけ抗議され、文句を言われても「だめだ」「お前が間違っている」「恥知らずだ、みっともない」と切り捨て、自分の要求を引っ込めない。無体を行ってもなにも感じない。それが世間では「仕事ができる」と評される、強引で鈍感な資質だった。そんな夫だが、おかげで妻のタカは食うに困ったことはなかった。だから、マシだ。良識があっても家族を食わせられなくなった男を、これまで生きてきた七十九年間の間にごまんと見てきた。贅沢をいったら、ばちが当たるー。そう、呪文のおうに繰り返して生きてきた。」
    「相談せずにいられず、承認された行動以外が恐ろしくて選べない。女というよりも人間として、自分はとても性質が弱いのだと思う。情けなく、恥ずかしい。だから仮に善治が先に亡くなったとしても、自分は彼や周囲の親族が示した規範意識から、けっして出られないだろう。」
    「フェミニズムなんて運動が推し進める、女が生きやすい社会の恩恵をまさに受け取っている世代だろうに、「傷を負った」などと感じることがあったのか。そう考えて、タカは自分がウーマンリブやフェミニズムを他人事のように考えていた、もう一つの理由に思い当たった。自分向けではない、と思っていたのだ。それは下の世代を救済する運動で、自分はその恩恵を受けられない。だって、もう嫁いでしまった。職を得る機会もなかった。贅沢をいったらばちが当たる。そんな人生観で長い時間を過ごし、もはや生活を変更する時間も余力もない。諦めではなく、ただの事実としてそう思ってきた。」
    「ここが肝要だ、とタカは下腹に力を入れた。彼らがけっしてないがしろにできない呪縛をわしづかみにして、低く、鋭く、踏み込む。」
    「もうタカは、橋のこちらに来てくれと誰かに願うことはない。自分が望めば、どこにでも行ける」
    「彼方の輝きに触れに行くことだってできる。」
    ----------------------------------------------

  • ちょっと不思議だったりとても共感できたり。そんな4編の物語。【わたれない】はもう子育て真っ只中のわたしには共感しかなかった。【ながれゆく】『損ねることも、損ねられることもなく、二人が望んでそばにいて過ごす。そういう境地を生きてみたい。』強い願い。燃える炎のような願いの物語。【ゆれながら】『吾委〈アイ〉火見〈カミ〉』『子どもたちは決してあなたを忘れないし、あなたが手渡したたくさんの知恵と健康と精神を糧にこれからも生きていく』【ひかるほし】ハタハタと胸の内側で小さな鳥がはばたき、、いつも胸の内に抱えていたハタハタ、ハタハタ。タカさんがそのハタハタを自分の意思で馘った瞬間は清々しかった。天晴れ!

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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