- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041115497
作品紹介・あらすじ
大戦前夜の哈爾浜。旧陸軍中将の屋敷で、不可解な連続毒殺事件が起きる。謎めいた脅迫状が示す「三つの太陽」とは?そして、岸信介の陰謀とは――厳寒の満州と灼熱のシベリアが交差する、歴史本格ミステリ!
感想・レビュー・書評
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満州国を舞台にした、作家さんお得意の時代物ミステリー。
今回も実在の人物が登場するのだが、岸信介氏をあくどく描いているだけでなく外見までこき下ろしているのが作家さんの思いもあるのかなと思ってしまった。
満州国というと1932年から1945年までのわずか13年しか存在しなかった国なのだが、主人公の探偵・月寒三四郎は満州に来て15年ほどという記述があるので、満州国成立以前から日本人は移住していたということなのだろう。
この物語の1938年の設定なので、岸信介が帰国する直前の話らしい。
肝心の事件だが、退役後も各方面に影響力を持つ元陸軍中将・小柳津(おやいづ)の屋敷で行われたパーティで、小柳津の孫娘・千代子の婚約者・瀧山が毒殺されたというもの。
岸を通じて千代子からの依頼を受け、月寒が調査を始める。当初は小柳津元中将を狙ったものの誤って瀧山が殺されたのかと思われたのだが、調査が進むにつれて違った様相が見えてくる。さらには第二の殺人事件が起きて…。
事件そのものよりも満州国という独特の環境が興味深かった。満州国と言えば五族協和だが、五族どころかロシア人もいればユダヤ人もいて、まさに人種のるつぼ。
大勢の人間が満州に夢を抱いてやってくるのだが、その実態は過酷な気候と常に猛威を振るう伝染病に嫌気がさして去ってしまう者も多いらしい。
ではなぜ月寒はこんな過酷な土地で15年も滞在し探偵業をするようになったのか。その辺りは全く書かれていないが、憲兵や司法警察の横やりにもめげず様々な人脈を築いているのだから相当な覚悟で暮らしているのだろう。
また横道に逸れてしまったが、事件の犯人は予想通りだった。だがその動機については分かるような分からないような。そのためにここまでするのか?という思いはあるが、最後はアッパレというところだろうか。
満州国の陽と陰を見せられた作品だった。
ただこの当時の時代に浸らせるためか、やたらと難しい当て漢字を出してくるので読みづらかった。例えばアクセルペダル=加速足踏棹といった具合。ずっとふりがなばかり読んでいた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今は存在しない満洲国を舞台にした歴史ミステリ小説です。デビューから三作目
小説は、過去の作品でも実在した人物を登場させています。今回は、岸信介氏と椎名悦三郎氏です。伊吹さん自身は、平成3年生まれで昭和という時代を知らない。本書の末尾には、多くの文献を読み漁り、この小説に対する熱意が窺われます。
作中「莞爾と笑った」という表記が物語にあります。思わず小説の登場人物で退役軍人小柳津義稙少将が元関東軍少将の石原莞爾氏のことか?と思いましたが、調べてみると、『莞爾(にっこり)』は、置き字であり、人物を表すものではないようです。
物語は、昭和十三年満洲国国務院産業部の岸信介が秘書をしていた瀧山秀一の不審死事件について調べてほしいと言う要望を、哈爾濱(ハルピン)に事務所を構える私立探偵月寒三四郎に破格の依頼料を渡された。小柳津義稙元少将の晩餐会に出席した後、国務院がある新京に帰ってから体調不良になり、大量の血を吐いて絶命した。死因を特定するため病院で解剖の依頼をした結果、瀧山は多臓器不全に陥っていたことが判明し、遅効性の薬であるリシンによる毒殺が疑われた。小柳津邸の晩餐会で毒を盛られた可能性が高かった。
漸く物語が始まった。
犯人捜しの観点で読むと、容易に推定できる。だからといってボーッと読んでいると、動機が一向に見えてこない。歴史的な背景と世情を鑑みれば、動機が浮き彫りになってくるホワイダニットに重きを置いた小説だと思う。原稿の冒頭で「昭和を知らない著者」と書いたが、それでも「巧み」を感じます。勿論、満洲国があった時代は、自分も生まれていない時の出来事だけれど、伯父さんは開拓団として渡満したと聞く。そして満州で終戦。
読書は楽しい
学校の日本史の授業で、近現代史は一番最後に学びます。でも、時間切れで授業が割愛されたり詳しくは教えてくれないこともある。どうしても戦後の思想が絡んで難しい。今でもネットでは問題の賛否が議論され歴史認識が定まらない。日本の学校の教科書検定で、内政干渉が生じています。自分が生まれた国の歴史に誇りを持てる国であってほしいと願うばかりです。 -
舞台は支那事変勃発直後の満州。細々と探偵業を営む月寒は、ある日岸信介から彼の秘書の青年が婚約者宅の晩餐会後に謎の死を遂げた真相を探るという断れない依頼を受ける。正式な依頼は婚約者の千代子から入り月寒はまずは千代子宅へ。彼女の祖父は満州で絶大な権力を持つ退役軍人で周りの人々はきな臭さ満点。青年は毒殺されたと考えられるが晩餐会での様子では犯人が絞り切れず…。様々な人種の思惑が渦巻く満州の猥雑な雰囲気の中、あくまで淡々と調査を行っていく月寒の姿がハードボイルドで格好良い。あと相変わらず舞台の空気感を感じさせるのが上手い。漢字の横に打たれるルビがいい感じ。犯人は早々に予想つくけど新情報や新たな事件の出現が絶妙でどんどん読み進めてしまったし、動機を加えて最終的な真相がそれしかない所に収まる手腕が見事。続編か前日譚あるといいな。
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久々に面白い小説に出会った。
満洲国を舞台に探偵の月寒が殺人事件の謎を解くべく闊歩するのだが登場人物の全員が、怪しい。(月寒を除く)善人の顔をした悪人は誰なのか?を見破るために読み進めると、物語が途中からいくつか枝分かれを見せ始めて意外な展開をし出した。が、それがまた面白くページを次から次へと捲らせていった。
最後ネタバラシのところで満洲という国に蔓延る欲望、野望などがドス黒く露出し、あまり気分は良くなかった。 -
歴史本格ミステリ。第二次世界大戦直前の満洲を舞台にハードボイルド風味のある探偵月寒が毒殺事件の真相を追う。「刀と傘」シリーズもそうだったが、今回もミステリとしてクオリティが高かった。ただルビの多さを読みにくく感じてしまい、歴史に詳しければこのあたりももっと楽しめたのだろうと思う。
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スケール大きく満州舞台で、時代の空気感高める「莞爾と笑う」古風な文章にワクワク読み進むも、大量殺人の動機まったく理解できず。JTとのタイアップか?と邪推してしまうほどの喫煙シーンの多さと大事な場面で岸次長、次官の誤植2箇所。伊吹さんらしくない…
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ミステリと言うより背景に選んだ時代が面白い。刀と傘以来のファン。次作も待ち遠しい。
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大戦前夜の哈爾浜。旧陸軍中将の屋敷で不可解な毒殺事件が起きて岸信介に依頼された私立探偵が調査を開始すると、さらに事件は続き満州国の闇が浮かび上がってくることに‥
ミステリとしては特に凝ってはいないが、満州の混沌、荒涼とした雰囲気が感じられて読み応えがある話だった。『刀と傘』もよかったし、やはりこの著者の歴史ミステリは味わいがあってよい。 -
昭和13年、第二次世界大戦の直前の満州が舞台
とある死亡事件を調査して欲しいと満州産業部次長の岸信介から依頼される探偵月寒
現在と過去、そして未来が複雑に絡み合って手に汗握る近代史ミステリー
近代史ゆえに最初は取っ付き難いかと思いましたが、軽妙に物語が進み、歴史上の知った名前がチラホラ出てくるので、歴史時代小説が好きな人は特に楽しめると思います
著者プロフィール
伊吹亜門の作品






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