営繕かるかや怪異譚 その参

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 1182
感想 : 140
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041117217

作品紹介・あらすじ

これぞ怪談文芸の最高峰!
怖ろしくも美しい。哀しくも愛おしい。
建物にまつわる怪現象を解決するため、営繕屋・尾端は死者に想いを巡らせ、家屋に宿る気持ちを鮮やかに掬いあげる。
我が家は安心……だから危うい。

恐怖と郷愁を精緻に描いた全6編を収録。

「待ち伏せの岩」
渓谷で起きた水難事故で若者が亡くなる。彼は事故の直前、崖上に建つ洋館の窓から若い女に手招きされていた。一方、洋館に住む多実は、窓の外に妖しい人影を見る。

「火焔」
イビリに耐えて長年介護してきた順子には、死後も姑の罵詈雑言が聞こえる。幻聴だと思っても、姑の携帯番号から着信を受け、誰もいない家の階段で肩をつかまれ……。

「歪む家」
温かい家庭を知らない弥生は、幸せな家族を人形で再現しようとする。しかしドールハウスを作り込むうちに些細なきっかけで「歪み」が生じ、やがて異変が起こる。

「誰が袖」
典利は戸建てを新築し、第一子の出産を控えた妻と母親が暮らしている。以前に住んでいた屋敷には幽霊がいた。当時を思い返した典利はふと、あることに気付く。

「骸の浜」
河口付近の家にひとりで暮らす真琴。荒れ果てた庭の向こうには、低い垣根越しに海が見える。この街の沖で水難に遭った死体は、靄と共にこの庭にやってくるのだ。

「茨姫」
死んだ姉を偏愛していた母親が他界し、響子にとって辛い思い出が募る実家が残った。荒れ果てた家を整理するため、ツルバラで覆われた庭の小屋に入ると……。

感想・レビュー・書評

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  • 怪異を営繕(修理やリフォーム)により解決するシリーズ第三作。

    さすがに三作目となると家だけではマンネリ感があると思われたのか、ドールハウスや庭、家具にも話を広げている。それでも挑む尾端(おばな)がすごい。

    カテゴリとしてはホラーにしたが、タイトル通り『怪異譚』と呼ぶのがピッタリで、その『怪異』の奥にある人の心、業のようなものが露わになるところが山場。
    それらを尾端の飄々としたキャラクターと営繕によって上手く軽減させたり逸らせていくのも魅力。
    よくある霊能力で除霊したり成仏させたりというのではなく、主人公の心を『怪異』から逸らせて解きほぐしていく。

    悪く言えば単なるごまかしのようにも見えるのだが、それは当たり前で、尾端は霊能力者ではない。単なる営繕屋でリフォームや修理しか出来ない。敢えて言えば、この作品に出てくるような訳あり物件でも誠実に対処してくれるということだろうか。
    霊と(霊とも言えない化け物もある)と同居しながら暮らすというのは怖いことではあるものの、家を好きになって前向きに生きていけるのならそれで良い…と言えるのか。

    「待ち伏せの岩」
    塔に住む魔女は死んだ母親?

    「火焔」
    死んでも尚、嫁を苛む姑と共存する道はあるのか?

    「歪む家」
    作り込むほどに恐怖の家になるドールハウス。今市子さんの『百鬼夜行抄』に似たような話があったのを思い出した。あれはもっと怖かったが。

    「誰が袖」
    処分したいのに戻ってくる恐怖の箪笥。男の子を身籠った妻の運命は?

    「骸の浜」
    海で死んだ者がやって来る庭。お化け屋敷と呼ばれ疎まれてきた歴史は断ち切れるのか。

    「茨姫」
    姉を自殺にまで追い込むほど偏愛した母親が残した庭。切ってもすぐに伸びてくるツルバラに覆われた小屋には…。

    ※シリーズ作品一覧(全てレビュー登録あり)
    ①「営繕かるかや怪異譚」
    ②「営繕かるかや怪異譚 その弐」
    ③「営繕かるかや怪異譚 その参」本作

  • シリーズ第三弾♪
    全6話からなる怪異譚。
    家にまつわる怪異を、営繕屋の尾端が上手く折り合いをつけていくお話。

    愛のある優しい話もあって、前作に比べるとホラー度はやわらかめだったかも。
    とは言え、ビビりな私には1話目、2話目あたりはなかなかの怖さで心臓縮こまりそうだった。
    こうなると、尾端さんの出番がやたらと待ち遠しい〜。
    だけど、尾端さんが出てくるのってほんと最後の最後なんだよな〜。
    しかも、もともと祓うではなく折り合いをつける話で、スッキリ解決するって訳でもなかったりするから怖がりにはどうも落ち着かない。

    いつも思うけど、私なら引っ越すな〜←
    シリーズまだ続くなら、もう少し尾端さんの出番が長いと嬉しいな!






  • 落ち着く一冊。

    営繕の尾端さんが"折り合い"へと導くシリーズ。

    今作も物や情念の怪異でじっくり、じわりぞくりと読ませてくれた。

    処分したり、逃げ出したりするのはある意味容易い。でもそれはその場限り。
    きっと心は落ち着かないはず。

    それを丸ごと見越した上で心が落ち着く方向へと助言をしてくれる尾端さんの柔らかい言葉一つにこちらまで心が落ち着く。 

    暗闇をいきなり眩しく照らすのではなく徐々に淡い光で照らし導く言葉の選び方も良い。

    そして何より主人公たちが淡い気づき、自分たちなりの折り合いの光を得て、馴染む、そのさまが良い。

  • 黒い城の旧城下町を舞台に起きる建物に纏わる怪異が語られる短編集第三弾。今回は土地やドールハウス等建物そのものに纏わるだけではない怪異譚も。亡くなってからも嫁いびり全開の姑に悩まされる「火焔」やドールハウスが不穏な形に変化する「歪む家」の様な直接被害も王道で嫌だが海で亡くなった人が庭に訪れる「躯の浜」や愛玩子だった姉が自殺した小屋の話「茨姫」の様なただ佇んでいるだけの話が当に日本的怪談でじわりと染みてくる。営繕屋の尾端さんが登場したのに丸く収まったのかよく判らない結末が多めなのがもどかしいが、登場人物達は皆前を向いて歩いているようなのが幸いか。タイトルを挙げた4つが好みだ。あと漆原さんの表紙も。

  • 今回読んだ「その参」は怖い話が多かったかな。

    精神的にまいっているとそのせいで変なものが見えたとか、変な音が聞こえたとか言われたりするかもしれない。でもそういうレベルではない。とくに、『火焰』と『誰が袖』は。とにかく怖かった。"物に宿った悪いもの"と"人の怨念"、どっちが怖い?と尋ねられたら、私は迷わず"人の怨念"と答える。亡くなったあともずっと悪さをするのは本当に勘弁してほしい。

    逆に優しい気持ちになったのが、『骸の浜』と『茨姫』。人の優しさに触れたり、今まで見えなかった事が見えて間違いに気付き、前向きになった主人公の2人。頑張れと応援したくなる。この2話はジーンときた。

    営繕屋を読んで気になるのが、各話の主人公たちのその後。結局問題は解決したのかが知りたい。主人公たちは物語の始まりは気持ちが暗いんだけど、最後は明るくなっているので、問題は解決したんだろうとは思うんだけど…。

    • 傍らに珈琲を。さん
      Sさん、こんばんは!

      "物に宿ったもの"は妖怪で、ちょこっと悪さやイタズラをして怖がらせるレベルでしょうが、
      "人の怨念"は生き霊とか地縛...
      Sさん、こんばんは!

      "物に宿ったもの"は妖怪で、ちょこっと悪さやイタズラをして怖がらせるレベルでしょうが、
      "人の怨念"は生き霊とか地縛霊とか、呪うレベルで、
      私も"人の怨念"の方が断然怖いですっ!

      ちなみにホラーは文章も映像も怖くていけません(涙)
      ふとした時に後から思い出しちゃうのが、
      一番怖いです((( ;゚Д゚)))
      2023/09/18
    • Sさん
      こんばんは、傍らに珈琲を。さん。
      コメントありがとうございます。

      私はホラー好きで、本も映画も両方いけます。
      幽霊系のホラーより人間が怖い...
      こんばんは、傍らに珈琲を。さん。
      コメントありがとうございます。

      私はホラー好きで、本も映画も両方いけます。
      幽霊系のホラーより人間が怖い系の話の方が断然怖いです。幽霊系は作り物と思えるからいいんですけど、人間が怖い、人間の怨念が怖いは本当にありそうで観ててブルッときます。

      2023/09/18
  •  今回も楽しませていただきました。(なんで今まで感想UPするのをわすれていたのだろうか?)

     怪異との同居がテーマのこの作品はやはり安心して読めますね(*^^*)

     考え方はいろいろだし、そこに工夫をして何とかなるのであれば、手を入れるというのは日本人の考え方だったと思います。

     無理なさらずに連載を続けていただきたいですね。

  • 【収録作品】待ち伏せの岩/火焰/歪む家/誰が袖/骸の浜/茨姫

    再びホラー。でもこっちは、同じく理不尽とはいえ、営繕屋・尾端さんがなんとかしてくれる、というか寄り添ってくれる人がいるというだけで安心して読める。

  • 様々な怪異が宿る建物と営繕屋・尾端の修復。シリーズ第三弾。
    ・待ち伏せの岩・・・岩で出来た崖の上のレストラン。
      魅せられた男とレストランの娘が見た、塔に佇む女の正体は?
    ・火焔・・・亡き姑はこの家に居る。不可思議な携帯電話の着信、
      杖で叩く音とその跡。姑の悪意の残滓なのか?それとも・・・。
    ・歪む家・・・ドールハウスの作成は温かい家庭への憧れ。だが、
      徐々に表れる歪みの姿。そして突如現れた人形たちの惨劇。
    ・誰が袖・・・処分した実家から運んだモノに怪異は憑いていた。
      彼が知った代々の悲劇。出産を控えた妻に危機が迫る。
    ・骸の浜・・・河口近くの荒れ果てた家。海の水死者が靄と共に
      その庭に来る。それを見る辛苦は、台風の訪れで変化する。
    ・茨姫・・・家族がいなくなった絶縁した家に戻り、庭で見たのは。
      姉を偏愛した母。自死した姉。ツルバラは小屋の秘密を守る。

    古い家や町屋に漂う怪異と営繕屋・尾端の修復を描く、
    短編シリーズ第三弾。
    古家やモノの怪異と人の怖さが織りなす、ホラーな作品群です。
    心がざわついている。
    家族や人の繋がりの中にある人間関係の難しさ。
    因習に囚われる城下町。すれ違う心。
    執着や偏愛、悪意の生む歪さの恐怖。そして、潜む怪異。
    その体験で凝り固まった心を、微笑みと穏やかな口調で
    解きほぐす、尾端の的確な言葉の心地よさ。
    前へ進める道を提示することで、人も家もモノも新たな歩みが
    始められる。折り合いをつけて、共に生きる道もある。
    悪しき思い出も何時かは丸くなってくるだろう。
    また、営繕屋・尾端と工務店の隈田、僧侶の秦、庭師の堂原の
    ネットワークもこの物語の要。悉く冷静に対処する、その姿。
    彼らがどんな出会いで繋がりを持ったかも、知りたくなってしまう。

  • 怪と幽vol.2,vol.4〜6,vol.8〜9に掲載されたものを一部改稿し、2022年8月角川書店刊。シリーズ3作目。待ち伏せの岩
    火焔、歪む家、誰が袖、骸の浜、茨姫、の5つの連作短編。怪異をなんとかしていく尾端の姿勢が自然で頼もしい。尾端以外にも大工の隈田、僧侶の秦、庭師の堂原が尽力する様が興味深く、ストーリーにリアル感を添え楽しい。5編とも良く出来た話で面白い。

  • かるかやシリーズ第三段。
    シリーズを追うごとに怪異が悪意を増してちょっと恐ろしくなってくる。
    いつもながら怖いだけではない、短編ながら深みのあるお話で良き。

    「誰か袖」 「骸の浜」 「茨姫」
    が特に好き。

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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