- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041117323
作品紹介・あらすじ
大きな料理屋「しの田」のひとり娘である真阿。十二のときに胸を病んでいると言われ、それからは部屋にこもり、絵草子や赤本を読む生活だ。あるとき「しの田」の二階に、有名な絵師の火狂が居候をすることになる。「怖がらせるのが仕事」という彼は、怖い絵を描くだけではなく、ほかの人には見えないものが見えているようで……。絵の中の犬に取り憑かれた男(「犬の絵」)、“帰りたい”という女の声を聞く旅人(「荒波の帰路」)、誰にも言えない本心を絵に込めて死んだ姫君(「若衆刃傷」)。彼らの想いに触れることで、生きる実感のなかった真阿は少しずつ変わっていく――。
感想・レビュー・書評
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静かに読ませる一冊。
怖い絵を描く幽霊絵師と不思議な夢を見るお嬢様。その二人に舞い込む、絵に纏わる不思議な出来事。
ほんのり怖さとほんのりミステリの融合といった物語は小ぢんまりした世界観で騒々しさとは無縁、静かにしっとり読ませてくれるのが良い。
火狂と真阿の近過ぎず…の距離感、お互いを認め合う関係、限られた世界に居ながらも大きな世界を見ているような真阿が感じ良い。
仄かな哀しみも込められた絵に二人は何を見出していくのか…ふわっと解き放たれた想いが昇華していくような感覚は哀しくもあり、美しくもあり…それが良い塩梅。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
幽霊絵師・火狂と居候先の一人娘・真阿
見えざるものを見、呼び寄せる。
火狂の絵に呼応するように不思議な夢を見る真阿。
時代背景は明治維新の数年後かな?
短編8作どれもなかなか良い。
冷静で聡明な真阿、静かな優しさを持つ火狂
二人の関係がとても心地よく、この世に未練を持つ
者が供養されてゆく。
シリーズ化してくれないだろうか…
まだまだ火狂の幽霊画を見てみたい。
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幽霊絵を描く絵師、火狂には霊感があった。そして彼が身を寄せる料亭の娘、真阿もまた火狂に呼応するように不可思議な夢を見る。
霊感をもつ二人が、絵にまつわる悲しい物語を紐解き、供養していく物語。
幽霊よりも、生きている人間が犯した罪の方が恐ろしい、そんな話だ。
まだ物語は続くようで、続編が楽しみ。 -
※
幽霊絵師 火狂(かきょう)
序幕
座敷小町
犬の絵
荒波の帰路
堀師の地獄
悲しまない男
若衆刃傷
夜鷹御前
筆のみが知る
終幕
人には見えないものが見える絵師 興四郎。
彼が描く絵は恐ろしくて美しい。
絵に込められた悲しくて切ない想いは、
ある人には恐ろしく、別の人には美しく見える。
生者と死者の想いを絵が紡ぐ、不思議な物語。
空気になって漂いながら、
違う時代を覗いてきた不思議な気分です。
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不思議な魅力のある作品。
静かに吸い寄せられるように読んだ。 -
ミステリー要素のつまったこういう設定の時代小説、読む前からワクワクする。幽霊画を得意とする絵師、その絵師のところに持ち込まれる掛け軸は、どれもいわくつき。まだまだ回収されてない伏線もある。ドラマになってもおもしろそう。
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幽霊絵師として名をはせる飄々とした大男と料理屋のひとり娘が不思議な絵を通して、さまざまな人々の想いのあり方を知っていきます。
淡々と明かされる真実のなかには、まだこの少女・真阿には辛いかもしれない人の醜さも隠れているものもある。けれど、彼女は彼女なりの感性でそれを理解し、柔らかく受け止めていく。そんな、成長しつつある少女の内面が、一見淡泊な筆致の中でしっかり描かれているのが良いなと思いました。
どちらかというと人の業を描いたものが多いですが、「悲しまない男」は温かくなれる話で、好きでした。真阿が共感して言うように、赤の他人との真摯なかかわりあいこそが、この世の中の在り方をとてもやさしいものにしてくれるのだと、そう信じたいと思いました。 -
短編のような話の展開になっているので、読みやすいと思います。明治なりたて頃の京都、主人公は料亭の娘、真阿で身体が弱く家に籠もっているところに、幽霊絵師の火狂が居候してくる。母は娘いるからと居候に反対だが、店主は火狂の絵は人気あるから、それを見るために客くるし、部屋は余ってるし、食べ物は賄いで良いから損はしないと。そんな状態なので同じ家に住んでいても自由に会える訳ではないけど、この世のもの以外が見える(らしい)という感覚から繋がり始める二人。
章が進むにつれ、二人の生い立ちなど少しずつ分かっていくのや、二人が心通い合わせる様が面白かったです。
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<江>
おそらく多くの方が感想文の書き出しにこう書いてあるだろう。「近藤さん初めての時代もの小説」。確認してはいないが僕の記憶によると 近藤史恵による時代物は初めてだと思う。でも江戸時代とかではなくて既に東京と呼ばれ始めた時代の様だ。考えてみるとそれまでは江戸と呼んでいたのをいつ頃から東京と呼ぶようになったのかを僕は知らない。もちろんググれば分かるのだろうが、まあそう急ぐこともあるまいし、もしかすると こうやってここに書いておくと、ググらなくても自己知識として詳しく知っている読者諸兄姉が教えてくれるかもしれない。ワクワク。
初時代物かどうかはともかく本作は近藤史恵さんの今までの作品には無い雰囲気を持った作品だと思う。舞台が現在ではない、ということが凄く大きな要因となっていることは間違いないがそれだけではない何かを感じる。
だがしかしすこぶる面白いか、と問われると僕としては正直「う~ん」と うなってしまう。表題となった「筆のみが知る」以外はなんともかんとも習作の域を出ていないような気がする。たくさんの異なったジャンルの作品を書くという事はやはり近藤さんの様な筆達者にとっても大変な事なのだなぁーと思ったものだ。あ,すまぬ。
著者プロフィール
近藤史恵の作品





