君の顔では泣けない

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041117965

作品紹介・あらすじ

高校1年の坂平陸は、プールに一緒に落ちたことがきっかけで同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまう。いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた陸だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。もう元には戻れないのだろうか。男として生きることを諦め、新たな人生を歩み出すべきか――。迷いを抱えながら、陸は高校卒業と上京、結婚、出産と、水村まなみとして人生の転機を経験していくことになる。

感想・レビュー・書評

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  • 第12回小説野性時代新人賞受賞作。

    「年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。」その日はいつもより一時間以上早くアラームが鳴る。夫と娘が目を覚ます前に素早く音を止め…。

    男女の高校生の入れ替わりの話だというのは知っていたので最初の15年後の一文を読んで、なぜ二人は結婚しなかったんだろうとまず思いました。夫だけじゃなくて娘までいるのかと驚きました。

    でも、読んでいくと坂平(元男性)はなぜ今の夫(涼くん)と結婚したのか、どんなに涼くんのことを大切に思っているかがよくわかるように描かれています。

    坂平は言います。
    あいつの顔で涙を流すなんてできない。それが水村にとって一番つらいことだと俺はよく分かっているからだ。俺が、自分の顔で苦しむ水村を見たくないのと同じように。

    逆に水村(元女性)は、坂平の父が亡くなった時、坂平の前で思い切り泣きます。
    水村が泣いたのは半分はもちろん坂平のお父さんのためで半分は坂平の代わりに泣いたのではないかと思います。

    この小説は、二人を通じて男女がお互いの人間性とジェンダーを思いやる物語ではないかと思いました。
    年齢も15歳から30歳までの最も男女の体の性差や人生のイベントがある時期です。

    でも、二人の親友だった田崎くんだけは坂平に振られるというせつない退場だったと思います(人生にはありがちな別れだとは思いますが)。

    そして坂平と水村の絆の強さは夫婦にはならなかったけれど夫婦以上の何かだったと思います。

  • 高校一年生の夏、中身が入れ替わってしまった陸と、まなみ。それから十五年間、入れ替わったまま。
    男女の入れ替わり、ひと夏の‥‥なんていうのはどこかで聞いたことがある話だけど、この物語は十五年間!それも、高一からの十五年なんて、楽しいことが目一杯の十五年間ではありませんか!もちろん楽しいことばかりではないだろうけども、とにかく人生においてたくさんの経験をする期間であることには間違いありません。本来の自分自身であっても悩み苦しむことが多い時期だろうに、異性の体に入れ替わってしまうとは‥‥。
    さらに、相手の体を借りているかと思うと行動一つ一つにとても責任を感じるし、だけど入れ替わっていることを誰にも打ち明けられないという孤独感。
    これはしんどいなぁと思いました。
    人生の半分を入れ替わった体で生きてきた二人。この先、戻れるのか?戻れないのか?いや、戻りたいのか?戻りたくないのか?
    案外、誰もが『今の自分は本当の自分じゃない』『ここは私の居場所じゃない』なんて思いながら生活しているんじゃないのかなぁ?なんて思いながら読み終えました。

  • 男女入れ替りの話。
    でもよくある、ラブコメっぽい話が続いて最後にもとに戻るというものではない。
    元に戻らない。

    もし自分にこういうことが起こったらどう感じるだろうか?と考えさせられた。2人の焦り、諦め、嘆き、全てが共感出来るものだった。

    僕は現在、自分の人生を生きているのに、この二人ほど責任を感じながら生きているのだろうか、と考えてしまう。

    「君の顔では泣けない」
    このタイトルに2人の相手に対する矜持が表れている。

  •  男女が入れ替わってしまうお話。
    結構耳にしがちなお話なんだけど、レビューにもどなたかが書かれていたのですが、階段とかで出会い頭にぶつかって落ちて、中身が入れ替わってる⁈でも、なんだかんだで少し時間が経てば元に戻って、驚いたねー、貴重な体験したねー、みたいな感じで終わるのだけれど、この物語はそうはいかない。入れ替わった原因もはっきりしない。これかなぁ?って出来事は起こるのだけれど、断定はされない。そしてなんせ、少なくとも15年間は戻れていないのだ。自分に。別の性になって、別の人間になって、結婚や出産、親の死まで迎えている。ただごとではない。家族にも普通に会えないし、いきなり男が女になり、女が男になる大変さ。他人として生きる違和感。気苦労。万が一戻った時の為の、それまでの、それからのその人を作る責任感。とても新しい体験をさせて頂いたと思う。

     “辻村深月さん、激推し”って帯に書かれていて、本の最後に選評が載せられていて読んだのですが、その選評が全てだと思いました。短い言葉で大事な事を全て語って下さっています。

     次作も読んでみたいと思いました。

     小説読まない同僚がラジオで内容を聞いたみたいで、映画化されたら間違いなく観るって言ってました。気になるから読めるか分からないけど貸してって言われて今貸してます。おすすめです。

  • ラジオで知った本。

    まだ文庫になっていないからどうしようかなぁ?と悩んでいたが、酔っ払っていた時、勢いでAmazonでポチっとやってしまった(笑)

    男女入れ替わりの作品ということはラジオの情報で知っていた。
    そして、これまであったような男女入れ替わりの展開でないことも知っていた。

    確かに!
    全くこれまでにないストーリーの持っていき方だなぁと感じた。

    物語は、入れ替わった元男の子目線で語られる。
    つまり、現在は女の子。

    昔は男の子だったのに、女の子になり、色々なことに戸惑い、迷い、それでも何とかその現実を受け入れて生きていく。

    辻村さんが書いた帯には、

    この作品は、選べない運命や人生と格闘する私たち読者に対するエールだ。

    と書いてあった。
    どういう意味だろう?と思ったが、正にその通り。
    あり得ない現実、どうにもならない事実を受け入れられずも、それでもどうにか格闘し、生きていこうという姿は、読者へのエールなのかもしれない。

    とても読みやすく、中高生でも楽しめる本ではないかなと思った。

  • 新しい「生きづらさ」の小説。
    単に入れ替わったからだと、誰が言えるだろうか。

    高校生の男女が入れ替わる。
    ファンタジーなんかじゃなくて、もっとずっと現実的で、ひりひりするくらいの切実さだった。

    入れ替わりものだけど、生きづらさがリアルで、いたって普遍的なテーマが描かれていた。
    入れ替わりに限らず、選べない運命や人生に立ち向かうすべての人に贈るエール。

    君嶋彼方さん。てっきり女性だと思って読んだけれど、後で調べて男性だと知って驚いた。
    が、もはや性別は関係ないと諭された気がする。まなみと陸は、性別という枠組みを超えて、懸命に自分の人生や運命に向き合っている。

    水村の体である自分。自分の体である水村からいくつも優しさをもらって、泣きそうになるけれど、これは水村の体だから、水村のために泣かない。
    未読の人が読んだら何を言っているのかきっとさっぱりだと思うけれど、その気持ちが切なくて、だけど共感しかできなかった。

    面白かった。
    入れ替わりものって使われ尽くしてきたし、この世に小説ってほんとに数えきれないほどあるけれど、それでもまだ描かれてない物語があるんだなと感嘆した。

    改題もすばらしい。『君の顔では泣けない』。まさにこれしかないベストなタイトル。
    集まる喫茶店の名前が「異邦人」というのもとてもよい。
    おすすめです。

  • よくある、男女入れ替わりの話ではない!
    だって、元に戻らないんだもん!!
    グイグイ読めました。

    本のタイトルの【君の顔では泣けない】も本を読んでいるうちに頷ける。
    元は【水平線は回転する】らしいが、君の顔では泣けないの方がしっくりくる。

    高校のプール授業で同級生の水村まなみと落ちて体が入れ替わってしまう坂平陸
    特別仲の良くなかった二人はいつか、元に戻るかもしれないと情報交換をするために会ってるいるが、そんなところを見られるわけには行かない。だって、全然接点がなかった二人なんだもん。
    まなみは、陸となって男友達や親友田崎と上手くやっていくが
    陸は、まなみの仲良し二人とは上手くやっていけず男の子と仲がいいことに嫉妬され八方美人だと言われ避けられ一人でお弁当を食べるようになってしまう。

    陸が男の時の親友田崎は、女になったまなみにも優しく接してくれる。
    元に戻りたいと切に思う。
    でも、戻れる気配は全くない。
    まなみは陸として生きる決意。
    陸はなかなか受け入れられないが
    いつか戻れる時が来るかもしれないとまなみのために女としてスキルアップするかのように美容にも力を入れる。
    そんな中、高校の同窓会が。
    まなみを避けてた二人は、キレイになったまなみに何事もなかったように親友だとか上辺の言葉をかける。
    しかし、まなみが陸や田崎に声を掛けられてると嫉妬してまた避ける。

    田崎と弟の禄はプールに落ちてからの陸が変わったと親友の変化に気づいてた。

    陸は親友だった田崎に告白され付き合う。→別れる
    親友と疎遠になってしまう。
    実の父親が亡くなっても通夜に行けない。
    本当の母親にも冷たくされる。
    悲壮感しかないが、まなみがいつも話を聞いてくれるし助けてくれる。

    まなみとなった陸は、女として生きていくことを決意し結婚し妊娠。
    ここで終わる。

    冒頭に夫の知らない男に会いにいくみたいな始まりで、どんな内容なのかと思った。

    • raindropsさん
      pさん、こんにちわ。

      この本、もっとライトな感じかなと思ってたら、結構シリアスな感じで驚きました。

      男女入れ替りの題材でこんなに考えさせ...
      pさん、こんにちわ。

      この本、もっとライトな感じかなと思ってたら、結構シリアスな感じで驚きました。

      男女入れ替りの題材でこんなに考えさせられた本は初めてでした。
      2022/07/01
  • うわ〜、これは表紙に裏切られた〜!
    もっと若い子向けの軽めの話かと思ってたら、なんかズシッときてしまった〜
    これ切なすぎる〜

    何かのきっかけで男女の身体が入れ替わってしまう。
    このての話って、コミカルに描かれてる事が多いけど、これはなかなかに辛かった

    いつ戻れるのか、もうずっとこのままなのかも分からない。
    誰かの人生をどんな気持ちで生きていけばいいんだろう。

    元々は「水平線は回転する」というタイトルだったのを「君の顔では泣けない」に改題されたそうです。
    このタイトルが秀逸すぎる!

    私ならこんな風に生きられないだろうな。
    きっと恋人も結婚も出来ないと思う。
    もし結婚するなら、安易かもだけど、私は私と結婚して2人で一心同体みたいに生きていこうとするんじゃないかな。
    でもその前に、まず黙ってられないだろうな!






  • タイトル&辻村深月さんの帯に惹かれて購入、読了。

    うーーーん、まあ普通だったかなぁ…
    「辻村深月氏激推し‼︎」具合はちょっと掴めず…
    帯の「この作品は選べない運命や人生と格闘する私たち読者に対するエールだ。」もイマイチ腹落ちせず…

    良くも悪くもまあ「軽い」なぁと。
    個人的にはもう少し読み応えが欲しかったです。
    何やら「ラノベっぽい」というのが正直な感想…

    加えると、若干中途半端だったかなと。
    ファンタジーに振り切ってる感じの面白さは無く…かといって、リアリティーを追求した作品でも無いので、深く考えさせられるっていうことも無く…先生殴っちゃうシーンとか、浮世離れし過ぎててちょっと笑えて来てしまった…

    「帯でハードル上げ過ぎ」ってのが一番の悪な気がするなぁ…(´∀`)

    <印象に残った言葉>
    ・私を言い訳にして先を見据えることを放棄しないで。(P76、水村)

    ・私に責任おしつけてるだけじゃん。なにからなにまで私に委ねようとしないでよ。(P2…5、水村)

    ・この人を好きになって、本当によかったと思った。そしていつか涼にも、きっとそう思わせてみせると、そのとき俺は誓った。(P228)

    <内容(「Amazon」より)>
    圧倒的リアリティで「入れ替わり」を描く小説野性時代新人賞受賞作!

    高校1年の坂平陸は、プールに一緒に落ちたことがきっかけで同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまう。いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた陸だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。もう元には戻れないのだろうか。男として生きることを諦め、新たな人生を歩み出すべきか――。迷いを抱えながら、陸は高校卒業と上京、結婚、出産と、水村まなみとして人生の転機を経験していくことになる。

  •  何か最近の全然知らない小説読みたいなと思っていたころに、タイムラインで見かけて気になっていた。「男女入れ替わりものだが、ラブコメではなく、しかも元に戻らない」という内容らしい。特にその中のどの要素がツボとかいうことではないが、ここまでネタバレな概要を読んでなお、一体どんな小説なのだろうと興味がそそられた。
     読んでみると、確かにもう、なぜ入れ替わったとか元に戻るためにはどうしたらとかいったことに関しては彼らは何もできることがなく、ただ受け入れて日々何とか生きていくしかないという状態で、もしかしてこういうのが不条理小説なのかなと思った。そして考えようによっては私たちの人生も不条理ばかりであり、異性のクラスメイトと入れ替わるという「あり得ない」事態に置き換えてとらえることのできるような出来事が、自分の身にも起こる(起こったことがある)かもしれないと思ってからは、ある意味リアルな小説として読めるようになった。でもそれは、私が不条理に関して何か気付いたからというよりは、この小説で描かれる、ジェンダー/セックス/ともかく性差にまつわるあれこれや、人生の決断に際してなにか理由や言い訳を探して責任を逃れたくなってしまう心理や、東京と地方の心理的な距離感や、家族や友人などとの思うようにいかない人間関係などの面のリアリティが真に迫っていたからで、じわっと泣いてしまうことは一度ではなかった。素っ頓狂な「仕掛け」を用意してそれを当然フル活用しておきながらも、その仕掛けに頼りきらずに書いている、これってたぶんすごいことなのではないかと思う(って私は小説書くわけではないのでなんとなく思うだけですが)。
     登場人物の誰が特に好きになるということもなく、ここがなんといってもワタシ的クライマックスだみたいなシーンもなかったが、それでも妙に心に残る、不思議な読み応えの小説だった。

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著者プロフィール

1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説野性時代新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。

「2022年 『夜がうたた寝してる間に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

君嶋彼方の作品

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