魔女の暦 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 85
感想 : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041118429

作品紹介・あらすじ

浅草のレビュー小屋舞台中央で起きた残虐な殺人事件。魔女役が次々と殺される――。不適な予告をする犯人「魔女の暦」の狙いは? 怪奇な雰囲気に本格推理の醍醐味を盛り込む、傑作長編推理

感想・レビュー・書評

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  • 金田一耕助に届く犯行予告、劇場で発生した愛憎の殺人劇を共通点にした二作品が収録されている。表題作と『火の十字架』ともにむせ返るほどの愛欲の香り。業の炎が罪を炙り出す。

    『魔女の暦』

    金田一耕助に届いた犯行予告めいた手紙。浅草の劇場へ向かった金田一が目にした殺人。毒が塗られた吹き矢はどこから撃たれたのか?!その謎をのぞき込むほどに、劇場にひしめく愛憎にこじれにこじれた関係性が浮かび上がってくる。

    ストリップ劇場を舞台に起こる脚本の見立て殺人。ショッキングな殺人が伝染して、劇場化していく犯罪が繰り広げられる。アングラな雰囲気の中でも、
    「こりゃもう正気の沙汰じゃありませんぜ」
    「殺人はいつだって正気の沙汰じゃありませんが、なにかとくに……?」

    「いやあ、犯罪というものは、どんなに警戒していても起るときは起るものです。一年は三百六十五日ありますからね」
    という金田一や等々力警部の軽妙なやり取りに救われる。また、愛憎の中心に居つつも平然とした哲学を振りかざす碧川克彦のキャラもいい。
    「あんなひと、こっちから願いさげですよ。貯金函のお化けみたいなひと……」
    あっけらかんとした態度にこちらまで毒気が抜かれてしまう。語り口が面白い。

    ラストが駆け足なのが残念。ただ、そこに至るまでの表と裏の顔、言葉たちは味わい深い。DVと共依存関係など、この時代からすでに人間関係を鋭く描き出している。

    『火の十字架』

    再び金田一耕助に届いた奇妙な手紙に端を発した殺人事件。ヌード・ショウの女王である星影冴子が昏睡状態でトランク詰めに、その情夫である立花はベッドの上で惨すぎる殺され方をされていた。火の十字架の刺青と犯人の意図は一体何なのか──。

    金田一作品でもかなり惨たらしい殺され方をされてしまう立花。顔のない死体史上ナンバーワンのおぞましさ。想像するだけでも苛烈。獣の狂気とも言うべき行動の中にも、怜悧冷徹な罠が金田一たちを絡め取っていくコントラスト。すべて焼き払う欲望の炎がひたすらに怖ろしい。

  • 収録された2話は、実写にするにはいろいろな意味で難しい話。
    どちらもストリップ業界の話かつ男女の愛憎話だし。
    特に『火の十字架』は遺体そのものがえげつない。
    作中でも言われていたが、グロさではかなりのものだと思う。
    犯人と被害者たちの関係性の根っこ部分もかなりえげつなかったけれども。

    『魔女の暦』は、金田一探偵が間に合わない話。
    彼は事件を未然に防ぐ探偵ではないからなあ。
    なので、全ての殺人が終わってから唐突に解決編に入る。
    こちらは本来の目的のために別の殺人を犯すその怖さが印象的だった。
    殺人が起きるのに、犯人を絞り込めずやきもきしているところに更なる事件が発生。
    犯人を追い詰める道筋は非常に細かった。
    謎解きは後手に回ったが、金田一探偵の解決編の語りは長編と変わらぬ魅力があったと思う。
    中編ながらしっかり金田一の世界が味わえるお話だった。

  •  表題作の他に「火の十字架」が収録されており、どちらも1958(昭和33)年作。これは「幽霊男」(1954)よりも後で、「悪魔の手毬唄」と同年、「白と黒」(1960)の少し前である。
     戦前にはかなり密度の高い文学的文体をも用いた横溝は、戦後徐々に文体が軽くなり、昭和30年代以降は戯作的なユーモアも含む剽軽な文章へと変貌していくように思っていたが、本作もそうした「軽い文体」への移行が印づけられている。が、本巻の2編とも、そう悪くない。「幽霊男」はちょっと文章もプロットも粗雑に過ぎたが、この2編は結構良いのである。何よりも「読ませる」小説であり、やはり横溝の作品は全然完璧ではないのだけれど抜きん出て「語りのうまさ」を示していると思う。本巻を読んでいて、戯作めいていく戦後の文体は、もしかすると江戸時代から明治の初めまで多く書かれた草紙系の文学に横溝正史は幼少期から馴染んでいて、そのエンタメ文芸の伝統を受け継いでいるのではないかという気がした。
     それにしても、本巻においては作者のアングラ趣味が充溢している。浅草などのストリップ劇場とかヌードダンサーを主題とし、アンダーグランドな界隈の文化を追求している。戦前においては芸妓を非常に好んで描いた永井荷風が、戦争末期の大空襲を経て根底から様変わりした東京の焼け野原に、たくましく湧き出してきた泥臭い庶民文化の新しい様相、特に浅草界隈のアングラ劇場に通い、作風も一変させてしまった過程と軌を一にしているように見える。文化のこの未曾有の大転換において荷風が老い、滅んでゆくのに対し、横溝はこうしたストリップ劇場などの怪しげな文化の中で更に生き生きとしていったのではあるまいか。
     生首などを好む横溝のエログロ趣味は、本書の「火の十字架」においてめざましく炸裂している。この作品では最初に発見される死体の様相の凄惨さは、横溝作品の中でもとりわけて激烈なものだし、事件の背景にある性的な乱れや変態性も印象の強いものだ。
     その後の高度経済成長を経て社会の中のアングラ部分は糊塗され隠蔽され、むしろ商品的な記号へと変わってゆくのだが、それ以前の野蛮な躍動を、本書の横溝文学は生き生きととらえているのである。

  • 標題作より「火の十字架」のほうが面白かったかな。金田一先生が珍しくスムーズに殺人を防いでいたので。

  • ストリップ劇場とか、映像化できないようなアングラな舞台だと事件も人間関係もえげつなくて面白い。『火の十字架』は読んでるだけでもきついレベルの殺し方。犯人の視点が挟まるのがこのシリーズには珍しくて好き。

  • 2021/10/30読了

  • 「魔女の暦」、「火の十字架」収録。
    どちらも浅草のストリップ劇場が舞台。そして、どちらも愛欲がえげつないというか。あと、謎の手紙から始まるところも同じかな。
    「魔女の暦」の合間にある犯人のパートが映像を意識した感じがして好き。横溝作品では、あまりない書き方。

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著者プロフィール

1902年、神戸市に生まれる。旧制大阪薬専卒。26年、博文館に入社。「新青年」「探偵小説」の編集長を歴任し、32年に退社後、文筆活動に入る。信州での療養、岡山での疎開生活を経て、戦後は探偵小説誌「宝石」に、『本陣殺人事件』(第1回探偵作家クラブ賞長編賞)、『獄門島』『悪魔の手毬唄』など、名作を次々に発表。76年、映画「犬神家の一族』で爆発的横溝ブームが到来。いまもなお多くの読者の支持を得ている。82年、永眠。

「2022年 『蝋面博士』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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