ゴールデン街コーリング (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041118771

作品紹介・あらすじ

「日本冒険小説協会公認酒場」と銘打ったバー〈マーロウ〉のアルバイト坂本は、本好きが集まるこの店でカウンターに立つ日々を送っていた。北海道の田舎から出てきた坂本にとって、古本屋街を歩き、マーロウで文芸談義できる毎日は充実感をもたらした。一方で、酒に酔った店主・斉藤顕の横暴な言動と酔客の自分勝手な振る舞いには我慢ならない想いも抱えていた。そんなある日、ゴールデン街で放火未遂事件が起こる。親しくしている店の常連「ナベさん」は放火取り締まりのため見回りを始めるが、その矢先、何者かに殺されてしまう。坂本は犯人捜しに立ち上がるが――。ゴールデン街がもっともゴールデン街らしかった時代の、ひりひりする空気を切り取った珠玉の長編!

感想・レビュー・書評

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  • 馳星周の自伝的小説!

    舞台は新宿のゴールデン街、時代は古き良き時代の昭和末期!!!

    こんな街で呑んだくれることが出来たら!
    こんな店で小説のことを語り合えたら!
    こんな人達と毎日出逢えたら!
    どれだけ人生を謳歌しダメ人間(必ずしも悪い意味でなく)に成っていくんだろうなぁと思いました。


    大学の合格とともに北海道から上京してきた坂本は新宿ゴールデン街の伝説の酒場【マーロウ】でバイトをしている!?
    店主の斉藤は一時代を築いたコメディアンで今は書評家、シラフの時は良い人だが酒を飲むと人を傷つける権化と化す。
    そんな酒場でバイトする主人公の坂本、同僚の田丸、オカマのリリー、憧れのホステス葉月と、マーロウに通う常連達の日常青春小説かと思いきや・・・殺人事件!?



    でも、間違いなく泣ける青春小説!

    昭和生まれの今に少しだけ疲れているサラリーマンに是非読んでほしい一冊!!!





    作中の『自分の嫌いな人に自分が似てくる・・・』

    認めたく無いけど心に刺さる。

  • 馳星周『ゴールデン街コーリング』角川文庫。

    時代と共に人も変われば、街も変わる。寂しさもあるが、それが時の流れというもの。珍しいというか、まさかと驚いた馳星周の自伝的青春小説である。この時代の雰囲気や熱気を知る人間には懐かしい小説だった。

    『マーロウ』の店主・斉藤顕のモデルは、内藤陳で、主人公の坂本俊彦が馳星周ということになる。何故か作家の船戸与一、本の雑誌の目黒考二が実名で登場するのが面白い。

    新宿ゴールデン街にある日本冒険小説協会公認酒場を自称するバー『マーロウ』。コメディアンで書評家の斉藤顕が店主を務めるこの店で北海道から大学入学で上京してきた坂本俊彦がアルバイトを始める。

    酒乱の斉藤顕に手を焼き、ゴールデン街の放火未遂事件と親しくしていた常連客の突然の死、失恋や新しい恋などなど様々な甘酸っぱくて、ほろ苦い青春が描かれる。

    恐らくこの小説に描かれている時代に自分は本の雑誌の事務所を訪ねている。就職活動で上京した折りに、当時は本の雑誌を愛読し、雑誌編集にも興味を抱いていたので、アポなしで事務所の見学に押し掛けたのだ。事務所のホワイトボードには沢野ひとし画伯の絵が描かれており、ちょっと感動したものだ。

    その時、事務所に居た学生バイトらしき男女が居たのだが、冷たい眼で自分を見られたことが未だに忘れられない。しかし、程無くして、目黒考二さんが現れると冷たい眼の学生バイトを尻目にデビュー前の群ようこさんが自分を目黒さんに紹介してくれたことに感謝したものだ。

    本体価格800円
    ★★★★★

  • めっきり読んでいなかったが、最近妙に懐古的なので10~20代の頃ハマっていた馳作品を久しぶりに読みたくて、まだ未読の作品を。

    ページを捲って即没入。
    何も知らずに読み始めたのだけど、途中でやけにリアルな人間模様に「?」となって調べると
    どうやら馳さんご自身の自伝小説に近い作品なのだとか。

    新宿ゴールデン街を舞台に、北海道から出てきた小説好きの青年がディープなバーで働き始めてからの成長(?)記。
    ミステリー要素を重ねつつも、実際に体験したからこそのリアリティに長けた描写が沢山。

    呑み屋に生息する人間たち特有の濃くて浅い人間関係、強くて脆い精神。寂しい病。
    飲み明けの空を眺める背徳感。
    毎晩繰り出す酒場。嫌気が差しているにも関わらず、戻ってきてしまう矛盾。
    二日酔いの癖して、迎え酒でスタートを切る夕方。止まらぬ煙草。止まらぬハシゴ酒。

    そこかしこに20代の自分と重なる描写が描かれていて、歌舞伎町の街並みや、馴染みの店の数々、マスターや常連の顔、手に取るように思い出されて、どこかとてつもなく愛おしくあの頃がとんでもなく懐かしくなってしまった。

    街は変われど、小説に出てくるような人間関係は今もどこかの飲み屋街で存在しているはず。
    濃過ぎて脆い中毒性のある場所は、自分を見失うと溺れる反面、いつか次のステップを踏めた時、そこで過ごした時間がとんでもなく愛おしい経験になる。
    みんなみんな、寂しくて脆い癖して、精一杯模索して強く踏ん張って生きている。人と自分の弱さを知った時、初めて強く優しくなれる気がしている。

    久々の馳作品は、テンポが良くとても人間臭くて、やけにノスタルジックにさせてくれ、この先何年経っても読み返したくなる作品になってしまった。

  • 若いっていーな!自分も大学時代に戻りたくなりました。悩みも、喜びも、友も大事な宝ものですね!
    人間一生に呑める量は、決まってるとか?ゴールデン街の皆さんは、飲み過ぎです!こんなに朝まで飲むの?

  •  馳星周とは、彼が未だ実名の坂東齢人であった数年間に、交流をさせて頂いた。馳星周を当時ぼくはバンと呼び、十歳ほど年下の彼は、ぼくをシュンと呼び捨て、本書の後書きにもある通り、タメ口をきいていた。真夜中まで続く延々酒呑みながらの彼とのチャットは情報量においても感性においても楽しく、ぼくを連日の寝不足に追い込んでいたものだ。

     未だインターネット前のパソコン通信という時代。ぼくが冒険小説&ハードボイルドフォーラムのSYSOP(管理人)をやっていた頃のこと。オフラインと言って通信だけではなく現実に酒を飲んだり旅に出たりもしていた頃の話だ。

     ノベルズライター時代の彼が、執筆作業に専念したいので半月ばかり都会の誘惑から遠ざけてくれと頼まれ、那須の山奥の温泉宿に置き去りにして来たこともある。当時の彼は、ノベルズ・ライターの他、ゴーストライターをやったりもしていたが、何より『本の雑誌』の書評欄で人気を博していた。

     ぼくの管理していたフォーラムには、プロ書評家の関口苑生、本の雑誌での書評仲間・吉野仁がアクティブに関わっていたし、翻訳家や新進作家たちも、街で開催する宴に顔を出してくれたりと、それなりに中身もメンバーの内容も濃く、運営自体辛いことも多い代わりに、概ね楽しく貴重な出会いをいくつも経験をさせて頂いた。作家・香納諒一さんともこの頃からのおつきあいになります(ネット上だけですがいずれお会いしたいです)。

     メンバーでは時に地方に出かけることもあったが、都内での飲み会がとても多く、二次会三次会と人数が減ると最後には日本冒険小説協会の運営とされるゴールデン街『深夜プラス1』に顔を出すこともあった。この店の店長が、かつて一世を風靡したトリオ・ザ・パンチのリーダーであり、この頃は『読まずに死ねるか』などのレビュー本でも知られた内藤陳である。

     馳星周が深夜プラス1で働いていた本書の時代は、その数年ほど遡った学生時代である。その頃の実話にエンタメ度を加え、小説としていわゆる「読ませる」形でアレンジされたものが本作だと言ってよいだろう。いわゆる私小説である。ぼく個人としては、彼から聴いていた主観的個人史の一部がここで懐かしく開陳されているのを改めて読む、という不思議な読書体験を味わせて頂いたわけである。

     特に本書でも肝となる部分は、本人からことある毎に繰り返し聴いていた通りだった。酒乱の店主に辟易して苦しんでいた学生バイトである主人公が、店を引けてから毎夜のように逃げ込んで助けられていたおかまバーのママとの優しい時間の物語である。

     実際のリリーのモデルとなったおかまバーには、最初はぼくも当のバンに引っ張られて訪れた。「深プラのバイトで精神的にまいっていた自分は、ここでいつもママに救ってもらっていたんだよ」と酔って話すバンと、自衛隊上がりと称する外見筋肉オジサンなママの優しい母性? が、妙に親密でいい空気を作っていたことが、何よりも忘れ難い。本書ではその時間を何度も再体験させて頂けるのでかなり嬉しい。

     そういう意味でぼくはこの作品に対しては、一気読みに近い懐かしさと、今は全く交流がなくなった天上びと直木賞作家・馳星周が、今もこの頃を懐かしんでこんなにあたたかい物語を紡いでくれている事実に、改めてほっとため息を吐きながら、抱きしめるように大切にこの本の一ページ一ページを味わわせて頂いた次第なのである。

     個人的過ぎて、あんまりブックレビューになっていませんがご容赦! そして、ゴールデン街を過ぎていったあのいくつもの夜たちに乾杯!

  • 本好きな人なら興味を持って読めるかな。
    「深夜プラス1」、冒険小説を読んでた頃に憧れてた飲み屋やなぁ。

  • 馳星周若き日の半自伝的小説。実在の登場人物(船戸与一、北上次郎、立川談志)も実在の人物をモデルにした人物も出てくるけど、もちろん小説だからストーリーは脚色されていて、それは作中にも出てきて解説も書いてる北上次郎の言葉からもあきらか。ただどこが事実で…とかつついてまわるのはおそらく野暮。そうあってほしい、そうしたほうが面白いなどの著者の語りと受け止めればいいのでは、と。主人公坂本は、北海道の片田舎でハードボイルド小説を読み漁り、憧れをつのらせ、そのために東京へ行きたい、そのために大学へ進学し、日本冒険小説協会を立ち上げ、小説好きの集まるバーを経営する顕のもとで働くことに。しかし素面では博識、気前よく、面倒見のいい兄貴分の顕は、泥酔すると粘着質で攻撃的な酒乱となり、店員や客を困らせるのであった…と。時に小説好きでキャバクラで働く友香に恋し破れ、面倒なばかりの酔客のなかで唯一温厚でまともなナベさんは命を落とし、ツケでのませてくれたびたび話をきいてくれ励ましてくれるリリー、息子よ!とかわいがってくれる佳子姫、顕に対峙する同志ともいうべき同僚の田丸らと行き交い、顕もかかわる同人雑誌に書いた原稿が北上次郎の目にとまり「本の雑誌」に原稿を書くことが決まり天にのぼるほど喜び、坂本にまっすぐに好意を向けてくれる香に最初はすげなくし、のちには最初に原稿を読んでもらいたい存在になり、と。二十年後に功なり名を成したあとに、自分のつとめた店を再訪したら、席があるのにしかめっつらで追い返され、これこそゴールデン街、と別の店に飲みにいくのもまたハードボイルド、といったフィナーレで。どうしようもない大人に落胆させられながら、同時にちゃんと自分というものをもった大人たちに、若者よ、息子よ、弟よととにかくかわいがられる面も持つ坂本。作中語られる志水辰夫の小説のように。"弱く、自分勝手で、けれど、どうしても譲れない線があって、その線を守るために命を賭ける。その心は常に揺れ動いているんだけど、その心の揺れがぼくにはとてつもなくリアルに感じられるのだ"。そしてやりたいこと、やりたかったことが輪郭をはっきりさせ、それをつかみ取るところまでが語られる。個人的には佳子姫に諭されるところと、最後のほうでリリーが坂本のことを香に託するp.423-424は何度読んでも泣けてきてしかたなかった。最後の北上次郎の解説を読むと「バンドーに訊け!」が読みたくてしかたかなくなる。以下備忘録的に。/ゴールデン街は嫌いだが、ゴールデン街がなくなることには耐えられない。//飲みに行くのは酒が好きで、酔っ払うことが好きで、酒場の雰囲気が好きだからだ。でも、裏返せば、ひとりで夜を過ごすことを恐れていると言えるのかもしれない。「病気じゃない人は、ちゃんと終電で家に帰るのよ」(佳子姫 p.387)/「ゆるしてあげなさい。息子もいつかだれかにゆるしてもらうときがくるんだから」「そう。人はゆるし、ゆるされて生きていくのよ」(佳子姫 p.387)/だが、今のぼくには顕さんの言葉が胸にすとんと落ちて来ない。男の友情、誇り、ロマン---どれもこれも薄っぺらな言葉に感じてしまう。顕さん、あなたの生きている世界はもっとドロドロじゃないですか。酒に酔えば理性を失い、友情もかなぐり捨てて、肥大したエゴに埋もれ、欲望の虜になるじゃないですか。それが人間でしょう?p.176

  • 爽やか、とはいえないけれど、ほろ苦くすてきな青春小説。登場する飲んだくれたち、どれもこれも愛おしくなる。関西の片隅の学生としては「深夜プラスワン」という名前を聞くしかなかったけれど、そうか、あの頃のゴールデン街てこんな街だったのか。それにしても馳星周、うまいわ。そして、新作の紹介の中で「大神明」なる登場人物がいて「?」と思ったけれど腑に落ちたわ。『月の王』も読みたくなったし、ウルフガイシリーズも読みたくなったわ♪

  • 一昔前の下宿学生の一コマなのか、青春というには泥臭くて、お酒にまみれて、居た堪れない部分もあったりと。でも、気取ってなくて人間らしくて、主人公の姿が若くて。読んでで微笑ましかったな。

  • 令和四年1月中、一番面白かった一冊かもしれません。

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著者プロフィール

1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務を経てフリーライターになる。96年『不夜城』で小説家としてデビュー。翌年に同作品で第18回吉川英治文学新人賞、98年に『鎮魂歌(レクイエム)不夜城2』で第51回日本推理作家協会賞、99年に『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。2020年、『少年と犬』で第163回直木賞受賞した。著者多数。

「2022年 『煉獄の使徒 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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