勇者、辞めます (6) (角川コミックス・エース)

  • KADOKAWA (2022年4月4日発売)
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Amazon.co.jp ・マンガ (196ページ) / ISBN・EAN: 9784041119211

作品紹介・あらすじ

魔界へ向かったレオが目にしたのは、重度に汚染された最悪の環境だった。このままではあと1年で魔界が滅びてしまう…。さらに、魔王エキドナがある悩みに直面してしまい――!?

感想・レビュー・書評

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  • 手と手を重ね合うことで生まれる信頼と、かけがえのない距離。

    『勇者、辞めます(ゆうやめ)』のコミカライズもいよいよ原作小説三巻の内容に突入です。
    本当に色々ありましたが、当時はアニメ放映を控えたタイミングで私自身感無量だったと記憶しています。アニメ化にまで至れたのはファンからの根強い人気に後押しされたことはもちろん、コミカライズを担当された「風都ノリ」先生の功績も大なり。一ファンとして賞賛の言葉をお届けしたいところですね。

    そんなわけで、ここ六巻では魔王エキドナと四天王たち、そして「元」勇者レオたちが魔界に帰還したのも束の間、さっそく山積する諸問題の解決にとりかかるわけですが――。
    エキドナたちは荒んだ魔界の人心掌握、および食糧と環境という密接に絡み合う待ったなしの課題に立ち向かうことになります。喫緊の問題から順を追い、個々の方策を打ち出し解決していく運びとなりますね。

    その中でヴァルゴに続いて生存が判明した“きょうだい”のひとり「アクエリアス」の動向が描かれます。
    同時にレオと並ぶもうひとりの主人公、魔王エキドナが自分を見つめ直すターンも回ってきます。
    彼女は王としての立場だけでなく、ひとりのエキドナという女の子としてレオと向き合うわけですよ。

    タイトルにも示されたように、レオが勇者としての自分に向き合う問題はクリアしています。
    ならば順を追って今度は対になる魔王の内面に切り込んだと考えるが筋なのか。
    さしずめ「勇者と魔王」はやはり対になる存在なのだと読者に教えてくれるようでした。

    全三巻と明言された原作の中でも、まこと大まとめにふさわしい題材だったと思います。
    それもあって、レビューとしては既読者向けのネタバレありきのものになりますのでご注意ください。

    というわけで、まずは六巻単独で目を惹かれるエピソードを挙げてみます。前の五巻で大暴れしたヴァルゴとカナンの手番回、何もかも正反対だけど通じ合う凸凹コンビも絶好調な姿がまず挙げられるでしょうか。
    この回、小説で読んだときから漫画でも楽しみにしていたのですが、ダイナミック全裸が最高でした。
    こればっかりは、絵で見てもらった方が話が早いと思うので実際にご覧いただくとして。

    なにが最高かといえば、隠し方が湯気でも土埃でもなく、謎の影って思いっきりぷりですよ。
    惜しげもなく、恥じらいもない堂々っぷりでした。真面目な解説とカナンの反応の落差がまた最高でした。
    冗談を抜きにすると相手の視点に立って考えることと歩み寄りからの相互理解の大切さは本作のテーマにも通じますし、後続のアクエリアスのエピソードにもつながるので見逃せないんですけどね。

    それとヴァルゴ&カナンには前巻までのやらかしの禊ぎをさせたい。
    くわえて話が悲壮になり過ぎないよう、多少コミカルな方向に引き戻すというねらいもあるのでしょう。
    コミカルといえば、先に挙げたエキドナも隙を見せられない王者としての振る舞いと自信を持ちきれない自分自身との間で煩悶するわけですが。そこでは漫画的な味付けが効果的に用いられていたりします。

    そう、ああいうベッドでじたばたする仕草はヒロインの基本にして奥義って感じありますからね。
    あと、デフォルメから平常時へとガラっと切り替えて心機一転する姿もまさに漫画ならではの表現って感じで好きだったりします。ヒロインのアグレッシブな動きって好きです。
    浮き沈みの激しさから、心の躍動とそれでも沈みはしまいぞって芯の強さを感じるところも好きです。
    つまりは大好きです。

    補足すると、そこに至るまでのエキドナのレオに対する態度は確かに過剰反応ですね。だけど虚勢と感じられず普段通りに見えてしまう辺り、ここまで積み重ねてきたキャラの奥行きにして重みって感じがします。
    こういう頑なになってしまうけれど本当は……というシチュエーションは、その「けれど」をその本人から引き出すまでが肝になるわけですが、ここまで紡いだ両者の信頼関係を考えれば速やかなのも納得でした。

    以上。
    六巻からはじまる原作小説三巻の内容を端的に述べるとすれば「パートナーシップ」の話だと思います。
    思い起こせば作品そのものが一対一での信頼関係の話でもあったのだなと感じました。
    たとえばレオとエキドナにはじまり、ヴァルゴとカナン、それにアクエリアスとウンディーネなどなど。
    根底には信頼があるということは自明ですが、異性間のみならず同性間でも色々な関係が結ばれていることがこの巻のみでもわかりました。

    なお、最後に挙げたアクエリアスと精霊「ウンディーネ」の抱える事情については、話の核心部分になるので次なる七巻で明かされる形となります。
    それでもこの時点でのふたりの乙女の会話から感じ取れることはあまたありました。

    たとえば男装の淑女「アクエリアス」は氷属性でクールな印象ですけど挑発的でいたずらっぽい表情で上書きされる風でした。なのでどことなく無機質な瞬間を垣間見せるウンディーネと対比が映えるのです。
    ええ、一見明るく陽気に振る舞っているようでいて、このふたりは陰を抱えた女の子同士なのです。
    似通っているけれどやっぱり異なるふたりの想いを演出するわけですね。

    時に、この会話パートは魔界の現状もあってか背景が薄暗く、影が支配的です。
    なのに鮮やかに、劇的に見えてくる部分もあるのは……、時の流れの残酷さというべきか。永遠の命を持つ精霊が人の心を持ってしまったがゆえの切なさなのでしょう。
    ――と思いきや、ウンディーネはアクエリアスの申し出に虚を突かれ表層の笑顔の繕いを突破されました。

    私、このくだりがめちゃくちゃ好きだったりします。
    そうでないと本当の笑顔は引き出せなかった。そういう意味でも欠かせなかったわけですから。

    さらに、巻末には原作者クオンタム氏がカクヨムへ投稿した番外編『無影将軍は旅に出たい』その2のコミカライズ版を収録です。五巻には導入となるその1も収録されていますのでそちらもご参照ください。

    内容としては対人交渉術が壊滅しているためにトラブルを引き起こす四天王のひとり「メルネス」とレオの珍道中となっております。
    この番外編自体の独立性が高いものの、この作品を掘り下げるうえで欲しくなる要素が詰まっていました。

    例として、侵略を受けて間もないため人間側に禍根が残っていることがはっきり描かれた意味でも。
    それから長命者とそうでない周囲とのギャップを示唆する意味でも、こちらを漫画化した意味はありました。本編でレオにメルネスが同行したタイミングでその2を置くというのも粋なチョイスですからね。
    話し合いに持ち込むまでの過程が大事という意味でも、この短編を拾い上げた意味はあるハズです。

    さて、〆の言葉が長くなりました。最後に示唆をもうひとつおいてお別れといたします。
    前巻までの内容にも言えたことなのですがひとつひとつ問題を解消していくことで、一見無関係に思えた事柄がつながっていく構成はやはり優れていますね。
    そうして、好転していく現状の最中、レオたちは水面下に隠れていた大元を引っ張り出すわけです。
    けれど、それを解決するのが単純な暴力だけと限らないのだと読者は知ることになるのです。

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