蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常 (5) (角川コミックス・エース)

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  • Amazon.co.jp ・マンガ (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041120163

作品紹介・あらすじ

エルロー大迷宮での生活をより良いものにするために、試行錯誤する四姉妹たち!
ひょんなことから、ついに優雅で快適な生活を手に入れた蜘蛛子たちだが……!?
さらにあの子が遊びに来て――!?
「蜘蛛ですが、なにか?」公式ギャグスピンオフ第5巻!

感想・レビュー・書評

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  • 時間の壁、空間の壁、そろそろリミットは迫っています。

    アニメ化に伴って、かかし朝浩版コミカライズでは追いきれない各種情報が視聴者の下に届けられ、本丸である原作小説もいよいよ佳境に入りつつあると思しき『蜘蛛ですが、なにか?』というコンテンツ。
    その一翼を占めるこのスピンオフですが、この五巻の流れだけでは溜めに留まったかなという印象です。

    次のエピソードからどう弾けるか、それとも思い切って話を畳むか、勝負どころでしょうね。
    ここからは一巻のレビューで申し上げたネガティブな危惧の繰り返しになりますが、ご容赦ください。
    ネタバレ込みであまり芳しくない文章を連ねようと思いますので、回れ右の準備もお願いします。

    ところで以前に本作は「時限性」のネタと申し上げましたが、いよいよタイムリミットが迫っているということです。なにせ設定上、時間軸と空間軸の制約が大きすぎて使えるキャラクターの数が少なすぎる。
    なので主人公を四体に分裂させてののわちゃわちゃというコンセプトに割り振った、それはわかります。

    今までの巻もレビューは書かせていただきましたが、私の中で賛否は分かれつつも一巻ごとにこの異様なシチュエーションを活かした独特のコメディが生まれ、悩みながらも楽しませてもらっておりました。

    ただ、この巻単独のエピソードと流れについて正直に述べるとしてスピンオフだからこそできる独自色が薄れ、洞窟かマグマくらいしか背景がない「エルロー大迷宮」でやれることはなくなった気がします。
    もっと突っ込んで言えば、主人公たちが完全な蜘蛛型に甘んじている意味もなくなってきた。これは本編のネタバレになりますがもういいでしょう。いい加減、蜘蛛型から脱却して人型でやってほしい。

    四巻で主人公たちがチャンバラしはじめた時点で怪しいなと思っていましたが、この巻では衣料づくり、転生前の姿、発声器官などのネタが本編とダダ被りしているんですよね。
    本編でより洗練されたことをやっているのに、滑稽な劣化としてスピンオフで見せられるのは心理的に辛い。ただ今後に向けた布石や本編コミカライズと歩調を合わせての小ネタと考えれば悪くないのですが。

    本編の穴を埋めるわけでなく、時間軸を先に進めれば自然な形で出来る本編のネタを無理して先取りしているため、原作小説三巻までの舞台で延々と足踏みしている意味がなくなってきたように感じられます。
    良くも悪くも停滞しているから生まれる、気心知ったる(?)自分同士の対話からなる楽しいモラトリアム生活は、その先の未来を垣間見ることで途端色褪せて成長できない残酷さに変わるのかもしれません。

    また、『蜘蛛ですが、なにか?』という作品は時折交ざるコミカルな雰囲気にダマされがちですが、全体を見渡せばダークな作風なのです。ギャグ補正は確かにえげつなく、シリアスなムードを侵食してくる。
    ただ、そのギャグこそが弱者の足掻きを嘲弄する、ガラス箱の中のアリを弄ぶような残酷さを演出するので、一見ギャグと相性が良いように見えて実はギャグ殺しの題材だと考える次第です。

    よって本作も舵取りを誤ればいよいよ本編でやれという評で本作のことを私は語ることになると思います。フリーダムな振舞いに見えてかなり計算されているであろう本作に畏敬の念は払えるとして……。

    それからいよいよ「魔王アリエル」や「邪神D」はひとりで作品のムードを牽引できるタレントが舞台上に下りてきて、対応する主人公たちが四体いる意味が賑やかし以外にはなくなってくるように感じます。
    マスコットのデザインを捨てるのが惜しいから続けているのでは? という穿った見方ができてしまう。

    ……、かなり失礼なことを申し上げました。
    とは言え、これが邪推で終わっても終わらなくても、どっちでも美味しいと思っている私でした。
    それはさておき、ついに「ポイント・オブ・ノー・リターン」に踏み込んだ巻ですので期待しています。

    先に申し上げましたが、つまりネームドキャラクターの大半は物理的に動けない中で動かせる面々。
    本編時間軸で主人公にとっての最大最強最悪の壁となって立ち塞がり、結局は乗り越えるのではなく手を取り合うことを選んだ「魔王アリエル」がグラタン鳥先生の可愛らしいタッチでやってくるということ。

    本編ではやむを得ない事情から当初は敵対する道を選びましたが、スピンオフで今回はギャグ時空ということもあって友好的なムードで進みます。本編IFとしてはかなり美味しいシチュだと思います。雰囲気がキュートに寄り過ぎているとは思いますが、ギリ本編でもあり得るかなと思えるバランスは好きです。

    ちなみにこの巻の単独ネタとしてはWEB版で登場し、書籍版でほぼ出番がカットされ、かかし朝浩版では四巻121P四コマ目にだけいて特に説明のない謎の魔物「エルローデベギアード」回がお気に入りです。
    設定資料集で軽く特徴が取り上げられていますが、平たく言えば形が特徴的なだけの弱い魔物です。

    ただ、形が変という一点だけで今更戻って掘り下げることもできず、読者にとっても心残りになっていただけに。この子を取り上げて、「形が変」という一点だけでギャグ一本で仕上げてくれたことには感謝しかありません。(※公式設定として採用される可能性は限りなく低いとはいえ)納得できました。
    魔物に関するささやかな疑問などを解決する(鬼畜)トライ&エラー回は総じて外れなしだと思います。

    私個人がこの巻の評価を落とした要因として、魔王相手に四体の主人公が一体となって対応することが目立っただけに弾け成分や本作独自の成分が目立たたなかったことが挙げられるでしょう。
    ひるがえって、今後の傾向が読めずにまっさらな気持ちで楽しめる一巻のリフレインとも言えます。

    以上、ここ五巻はいったん気持ちをリセットするための巻でもあると私は位置づけました。
    概してスピンオフの変わり映えない異常が、本編における激動の中の憩いの日常に追いついたようです。
    とは言え、これらの言いようが悪い方にだけ捉えられるわけではないのです。思ったより急ハンドルを切ったな、構成としてかなり冒険されたなと感じ、挑戦の姿勢に敬意を表したい気持ちが先立ちます。

    まとめるに、そろそろ「エルロー大迷宮」という河岸から移して別の舞台に移るのか、「四姉妹」という括りをどう扱っていくのか、それともこのままの路線で突き進むのか、今後の展開は全くわかりません。
    一読者に過ぎない私としては展開に口を挟む余地は持てず、勝手囀る雀に過ぎないわけですから。

    それと次は六巻、100話という節目も見えてきました。繰り返すに、ここ五巻はいったん物語をニュートラルな地点に戻してどうとでも話を転がせるところに持って行くための巻でもあるのかも。
    ゆえに、ここから飛翔を見せるのか、それとも十点満点の着地を決めるのか、いずれにせよ楽しみです。

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著者プロフィール

小説投稿サイト「小説家になろう」に2015年5月より『蜘蛛ですが、なにか?』を投稿開始。初投稿作品だったが一躍人気作になり、本作で書籍化デビュー。アニメ化も決定しており、WEB版はPV数4億6000万を超えるヒット作となっている。(2019年9月現在)

「2022年 『蜘蛛ですが、なにか? 16 短編小説小冊子付き特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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