黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 754
感想 : 51
  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041120583

作品紹介・あらすじ

文字は怖いものだよ。遊びに使っちゃいけない――。江戸は神田にある袋物屋〈三島屋〉は、一風変わった百物語を続けている。これまで聞き手を務めてきた主人の姪“おちか”の嫁入りによって、役目は甘い物好きの次男・富次郎に引き継がれた。三島屋に持ち込まれた謎めいた半天をきっかけに語られたのは、人々を吸い寄せる怪しい屋敷の話だった。読む者の心をとらえて放さない、宮部みゆき流江戸怪談、新章スタート。

感想・レビュー・書評

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  • 三島屋変調百物語も6巻目を数えまして、聞き手は三島屋次男坊富次郎に引き継がれました。「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」まち界隈で催されている娯楽怪談では御座いません。真の怪異を此の儘あの世まで持っていってはいけないと、止むに止まれぬ想いでやっと辿り着いた語り手の渾身の思いを、真摯に受け止めて三島屋白黒の間に置いてゆくという、いわば人助けの取り組みなので御座います。生半可な人物では聴き手は務まりませぬが、新人の富次郎、少しオロオロしたり、迷ったりはしますが、語り終えた方達は一様に穏やかに帰られた御様子なので、まぁ合ってるのでは御座いましょう。

    淫蕩あやかしが登場する「泣きぼくろ」、
    あまりにも理不尽な姑の嫁呪い「姑の墓」、
    流行り病で両親と妻子を亡くした男の東海道中の話「同行二人」、

    助走の中編三つを終えた後に、長編「黒武御神火御殿」のはなしが始まります。ある日、三島屋に古着の半天が届けられます。「黒武」の印を持つ印半天の背には、はんじものの文字が縫い付けられてありました。「あ」「わ」「は」「し」「と」「め」「ち」。富次郎は前の聴き手「おちか」の嫁ぎ先、瓢箪古堂の勘一の所へ持っていきます。勘一は一目見てあることに気が付きますが‥‥

    謎が謎を呼び、やがて語り手がやって来ます。神隠しで連れて行かれた「御殿」で起きる怪異。何故この6人なのか?どうやったら抜け出せるのか?10年前に行って帰ってきた語り手甚三郎の抱える罪と罰。富次郎は、何処に落し所を持ってゆくのか?ストーリテラー宮部みゆき女史の微に入り細に入る江戸庶民を描く筆が、説得力ある展開に持ってゆくので御座います。

    何故怪異が起きるのか?
    宮部みゆき女史は、その全てを明らかにはしません。
    淫蕩ほくろと豆源ご主人の因縁は明らかになりません。
    ひい婆様が何故嫁いびりを始めたのか?
    「あわはしとめち」の具体的な意味はなんなのか?
    武士の堀口様と御神火御殿との因縁は明らかになりません。
    それが「世の中」ってもんです。
    不幸や理不尽は突然やってきます。
    人は、人と人との間の中で、やり過ごし、慰め合うしかできないので御座いましょう。

  • 久しぶりに小説。
    職場の短い昼休みに細切れに読むにはぴったりで、「ああ、時間切れ」と思いつつ結末を翌日までどきどきしながら持ち越すのが楽しみ。というわけで1週間かけてもまだ読み終わっていない。この感覚にすっかりはまってしまって、土日はあえて本を開かないようにして感想を書いている。

    甘いもの好きの「小旦那」富次郎が聞き手を引き継いでから紹介された語り手たちの物語がまとめられている。

    宮部みゆきさんの小説は安定の面白さなので、これ以上は内容にふれないつもりだけれど一つだけ。

    この小説、読むときにはお気に入りの和菓子とお茶を準備してから味わうといいと思う。

    できれば語り手たちがお菓子をつまむタイミングでいっしょに食べると尚良いかも。

  • こちらの作品は、三島屋変調百物語の主人公おちかさんから主人公が富次郎さんへと引き継がれたものです。

    代替わりや主人公が変わったりすると、あ〜もうちょい足りないなぁとか、前の人のが良かったなんて思うものですが、流石は宮部みゆきさん。

    今回の主人公富次郎さん、まだまだキャラが前面には出ていなくて、ざ、三島屋!聞き上手!にはなってはいませんが、そこが初々しくて、よろしいです。

    これからがもっと楽しみ。
    富次郎さんの個性がもっともっと前面に出てくれたら嬉しいです。

    あ〜面白かった!

  • 前作から怪談の聞き手がおちかから富次郎へと変わり、新スタートを切った三島屋シリーズの六作目。聞き手こそ変わってもシリーズの醍醐味である怪談の恐ろしさや語り手たちの人生が浮かび上がる話っぷりは相変わらずでした。

    今回語られる怪談は4編。美少女だったおちかから青年の富次郎に聞き手が変わり、持ち込まれる話も種類が変わります。
    特に男性の持ち込む話が男のプライドが関わったり、内容的に女の子に話しにくいものもあり、おちか時代とはまた違った雰囲気を感じられて面白かった。聞き手が変わるということは語り手の変化にも表れるのか、と思わず感心しました。

    そしてまだまだ新米の聞き手である富次郎の、頼りないながらも一生懸命なところもよかった。おちかの場合終盤は経験値を積みすぎて、熟練の聞きっぷりを披露していたけど、富次郎の場合は相手の話に引き込まれるあまり、恐ろしさを感じてしまう場面もちらほら。富次郎が「おちかはすごかったんだ」と改めて気づく場面も描かれるけど、自分もまさにそんな感じに。

    しかし富次郎の聞きっぷりは、熟練したおちかとはまた違う良さがあります。頼りないからこそ、一生懸命聞き手に寄り添おうとする富次郎の優しさが、怪談話の恐ろしさや救いのなさ、哀しさに光をもたらす。

    特に二話目「姑の墓」の過去に縛られ幻覚を見てしまう語り手に対しての、富次郎の一生懸命な姿勢は自分の心を強く打ちました。こういう優しさがあるから、宮部さんの時代物はやめられない。

    四話目の表題作「黒武御神火御殿」は、シリーズの中でも上位にはいる読みごたえ抜群の作品でした。これだけで他の3話をあわせたページ数を軽く超えてくる長編ですが、そのすごみはページ数だけにあらず。

    今回は語り手はなかなか姿を現さず、いわくありげなはんてんが三島屋に持ち込まれます。そのはんてんはなにやら幕府から禁じられた禁制の宗教とかかわりがある様子。
    そしてついにやってきた語り手は、40手前くらいの年齢にかかわらず髪はほとんど真っ白。大やけどのあとにくわえ指の先も欠けていて……
    そして男は神隠しによって導かれた怪しげな屋敷の話を語り始めます。

    これまでのシリーズとは一味違った謎めいた導入と危険な雰囲気にまず引き込まれます。そして実際に話が始まると洋風のホラーゲームや脱出ゲームの要素を、時代小説や史実の中に組み込んだかのような、新しい感覚の時代小説+ホラーを感じました。

    化け物の描写、一人ずつ死んでいく屋敷の犠牲者たち。宮部さんだからこそ描ける物語の凄み。それにどんどん引き込まれていきます。

    そして屋敷の真実が明らかになるとともに、人の黒々とした心情の恐ろしさや、理不尽さに心を痛めてしまう。でもただ怖くて残酷なだけでもなく語り手たちの生きようとする姿や、誰かを助けようとする姿にも心を打たれます。

    そしてなぜはんてんを持ち込まれたのか、その心理の微妙さ、複雑さにも思わずため息をついてしまいます。シリーズの中でもかなり突飛な話で、そのイマジネーションにも脱帽しましたが、それをあたかも本当に起こったかのように描く描写力、そして人間の心理も置き去りにしない視点の鋭さはさすがとしか言いようがありません。

    三島屋シリーズも宮部さんもまだまだ進化し続けていることをここにきて改めて感じる一作でした。

  • 語って語り捨て、聞いて聞き捨て
    宮部みゆきの江戸怪談 新章スタート!

    待ってました〜\(//∇//)\

    三島屋の次男…冨次郎編です。
    まだまだ頼りないです。
    それは冨次郎が一番分かってます。
    ちょっとお気楽、そして怖がり。
    優しい冨次郎のキャラで新章始まりました。

    全四話…そして分厚い( ̄▽ ̄)
    宮部みゆきの本はこの厚みが嬉しい笑

    前章おちかは辛い過去もあって、怪談話以外も全体的にシリアスな雰囲気が漂ってました。
    新章は優しい感じ?また違った良さがある。

    宮部みゆきが二作続けて読めて大満足(≧∇≦)

  • 文庫が2か月前に出てたの知らずに今頃読了。おちかさんからの引継ぎの経緯をすっかり忘れてたけど直ぐに入り込めるのが三島屋シリーズ。
    4編目の表題作はよくこんな設定を考えるなぁと今更ながら感心してしまった。
    怖い屋敷というと「あんじゅう」を思い出したけど凄みが違う。
    他の3編も結構怖いし三島屋シリーズってこんな怖かったっけ?という印象。
    今までおちかさんのお陰で印象が和らいでいたのかも。新たな聞き手の富次郎さんは柔和なぼんぼんだから変化は無いと思ってたけれど、本編にもあったように口入屋の灯庵老人のレベルアップ宣言のせいかな。。。

  • 背筋が凍るような話満載の中、百物語の聞き手を受け継いだ富次郎と一緒に背筋が凍りました。
    惹き込まれて一気に読了です。

  • 大好きなこのシリーズも聴き手が代わって語り手も少し変わったのでしょうか。
    表題になっている作品は異世界に入ってしまった話でちょっと怖い。印半纏の裏に縫い付けられた耶蘇教の呪文とこの怪奇がなぜ繋がるのかがちょっと曖昧だったけど、推理する作品ではないのでこれでいいのかな。

  • 変わり百物語シリーズ第六弾。今作から聞き手がおちかから、三島屋の次男富次郎に変わった。彼にはおちかのように悲しい過去はなく、鬱屈した心も持たず、だいぶ趣が違う。もちろん真剣に話を聞いて色々思うところもあるようだけど、何だか薄っぺらいなあと思うのは私だけかな。今回語られた怪談も、話自体はゾッとするし巻き込まれた人々の恐ろしさや悲しみも伝わってくるんだけど、そんな怪異が起きる原因となった事には重きを置いていない感じがする。今回は、今後の展開への布石なのかなと思いたいくらいもやっとした読後感だった。

  • ※単行本より転載※

    シリーズ六作目。
    「泣きぼくろ」
    富次郎が聞き手の最初のお話。蝦蟇仙人の計らいで思いがけず懐かしい相手が話し手だったが、一家離散の結末はなかなかに胸苦しい。父親との因縁があったのかなかったのか気になるところだけど。おちかが聞き手のときにはあまりなかった艶事が含まれているのも聞き手の代替わりを感じさせる。
    「姑の墓」
    養蚕を営む村のある一家の女が〈絶景の丘〉に登ってはいけない理由。お恵が勝気で祟りに負けたくないと思うのは心情だけど、安易に逆らうのも如何なものか。正木屋のお嬢さんだからというおりんの言が苦い。お花が生きているからと希望を持ったけれど…。お花の母が変わってしまったのにぞっとした。姑はどうしていきなりひとが変わってしまったみたいになったんだろう。そういう触りのある家の出だったとかどこかで憑かれたとか?
    富次郎の最初の踏ん張りどころ、お見事でした。
    「同行二人」
    滑舌良く話す亀一の飛脚時代に遭遇した怪異。亀一が心を自分の内に向けて自問自答を繰り返す姿が痛ましくて胸が苦しかった。寛吉は亡くなってからも泣いて泣いて迷っていた。似た境遇だけど性格は正反対で、連れだった道中の最後で亀一が凝った心を溶かしてようやく涙して、寛吉が成仏できた下りは胸にきました。
    「黒武御神火御殿」
    今巻の半分以上を占めるお話。おちか勘一夫婦の姿が見られたのが嬉しかったな。富次郎が楽しそうなのもおもしろかった。預けられた印半天の当て布に記された言葉が、キリシタンのオラショの一節だと分かると、慌てふためくのが富次郎らしいなぁ。勘一の動じなさとお勝の頼もしさが心強い。これでよしにしようとしたところでそういくはずもなく。急ぎの語り手を迎えることとなる。
    初手から語り手に気圧される富次郎。見た目からも察せられる、そのお話も凄絶だった。間違いを認めることができず、怨念となったその屋敷はどれだけのひとを飲み込んだんだろう。無数に残る手の跡にぞっとした。その怨念の深さ理不尽さが恐ろしくて堪らなかった。金右衛門が居たことで屋敷の理が見え、なんとかふたりだけが生き延びた。しかし10年が経ち、生き延びたうちひとりも命が尽きようとしている。悔しくて不安で堪らなくなって当然だと思う。
    富次郎にとって初めてのひとりでの重く胸の塞ぐお話で、たくさんの煩悶も抱えた。これからもどんな姿を見せてくれるか楽しみです。骨董屋さんはこれからも出てくるのかな。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。『理由』で直木賞を受賞。著書に『龍は眠る』『本所深川ふしぎ草紙』『火車』『蒲生邸事件』『模倣犯』他多数。

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