扉の影の女 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041120682

作品紹介・あらすじ

築地の橋下で発見された若い女性の変死体。依頼人によると犯行現場は築地ではなく、西銀座の路地だという。事件の謎が俄然金田一の闘志を掻き立てる。金田一耕助の謎めいた日常生活も描く異色作!

感想・レビュー・書評

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  • 表題作を含めて二作収録。ミステリとしても面白く、さらに金田一耕助の日常から探偵としての在り方まで描かれていて読み応えあり。復刊して出会えたことに感謝したい作品。以下、各話の感想を。

    『扉の影の女』
    加代子は曳舟稲荷の路地から飛び出てきた男にぶつかった。男が落とした血染めのハット・ピンを手に取り、稲荷へ進むとそこには恋敵・タマキの死体が!自分が犯人だと疑われたくないと金田一耕助に調査を依頼するが──。

    現場に残された暗号のような謎の手紙。そこから移動させられた死体の謎。錯綜する人々の思惑。暗く袋小路になった路地に隠れた人々の関係性を照らし出していく金田一。探偵としての日常、身のこなし、推理など魅力が詰まった作品になっている。等々力警部が感じ取る金田一の孤独についても味わい深い。

    謎へ光を当てるほどに、金田一自身の影が色濃くなっていく哀愁。その姿を見せずに、等々力警部や依頼人との会話の中で推理を披露してカラっと見せる姿が粋だなと。本当の意味で影を抱え、その中でしか生きていくことができないのは、金田一その人なのかもしれない。探偵とは孤独だ。

    『鏡が浦の殺人』
    鏡が浦のホテル滞在中、変死事件に巻き込まれた金田一耕助と等々力警部。読唇術で盗み読みした会話を金田一が盗み聞きしたことから始まる奇妙な事件。心臓麻痺だと思われた被害者の死の真相は?!

    読唇術を活かした仕掛けとドラマが見事。聞こえないはずの悪意、届かないはずの悲鳴から、見えなかった犯罪計画をあぶり出す。その切り札となる手段が実に探偵的で面白い。人の愛情や信頼を軽視して殺人をする犯人だからこそ、その絆によって足元をすくわれるというのが皮肉。

  •  表題作が1961(昭和36)年、併収の「鏡が浦の殺人」が1957(昭和32)年の作。
     いずれも水準に達した横溝作品。前者はアパートらしきところに住んでいる金田一耕助の生活の様子が垣間見られて楽しい。
     最近はやや頭を使うような書物を続けて読んでいて、息抜きとしての娯楽小説が読みたくなって本書を開いた。本格推理ものではあるが私はたいして推理もせずに読んでいるので、息抜きを楽しむことができた。推理小説も謎解きの面で頭を使うのだが、学術的な本を読みながら抽象的な思考を繰り広げるのとでは、おそらく脳の活性部位が異なるのではないだろうか。
    「鏡が浦の殺人」の方は例によって金田一耕助と等々力(とどろき)警部が休暇を楽しむため観光地・避暑地に出かけると殺人事件に出くわす。この二人で旅行に出かけると必ず人が死ぬのだから、止めた方がいいと思う。
     あまり長くない中編は登場人物たちが長編ほど大量ではないので、苦労せずに読めた。
     やはり娯楽としての小説も、私には必要であるようだ。

  • 『扉の影の女』と『鏡が浦の殺人』の中編2篇が収録されている。
    『扉の影の女』は金田一耕助と容疑者候補の人々、そして等々力警部が互いに騙し合いながら話が進んでいく。しかし、犯人は最後の方に出てきた奴だったのがビックリ!ただ、犯人が誰かということよりも犯人に至るまでの経緯は読み応えがあるので、全体的に満足いく出来となっている。ハウダニットを中心に据えたミステリと言っていいだろう。
    『鏡が浦の殺人』は夏の終わりに起きた毒殺事件をめぐる物語。こちらは犯人は誰かに焦点が当てられたミステリであり、トリックは中盤で明らかになるように書かれている。夏の終わりを惜しむ儚さも感じられる一作である。
    さて、本書は横溝正史生誕120周年&没後40周年を記念して俗に言う緑字(背表紙の文字が緑色だったもの)シリーズで復刊されたものの一作であり、末尾に必ず編集部から「現在の人権感覚と照らし合わすと不適切な言葉がある」と記されている。
    無論、これらの言葉は人権差別を助長するものではない。大事なのは、それらの言葉が現在の人権感覚で使うことが許されていない言葉でいることを読者である我々が受け止めることだと思う。

  • 多分インスパイア元はディクスン・カーの某作だと思います。

  • ハットピンでの殺害というあまり聞き慣れない殺害方法に驚いた。
    確か村上春樹のIQ小説でもアイスピックで暗殺するというのがあり、驚いたのを思い出した。
    さらに2つ目のお話でも毒針という殺し方で、中々に気づきにくい方法があるんだなあと変に感心してしまった。
    どちらの殺人も殺害の動機はよくあるものだったけど、殺害方法が印象に残った。

  • 昭和30年、私も生まれていない時代に起こった殺人事件と交通事故死。金田一耕助の推理に等々力警部も煙に巻く。登場人物同士の会話が楽しく犯人が誰であっても気にならないほど。金田一の懐が暖かくなる展開も珍しい。

  • 『扉の影の女』真相はかなりバタバタ片付くけど、そこに至るまでが面白い。それぞれが抱えていた事情や秘密が一つの図を描く。そして金田一先生がいつになく大活躍で嬉しい。都合のいい要求ばっかりしてくる依頼人の鼻を明かすところなど最高。懐具合も明らかになって親しみしかない。
    『鏡が浦の殺人』逗留先で必ず事件に遭う金田一先生かわいそう…。短いけどドロドロしてるしいつものシリーズぐらい満足できる。

  • 犯人が蛇足…

  • 表題「扉の影の女」と「鏡が浦の殺人」を収録。
    「扉の〜」は事件そのものが面白いのは勿論。その上、金田一耕助がどのようにして依頼人をさばいているのかも分かるので面白いし、好き。

  • 金田一耕助シリーズも、これでコンプリート。
    あとはジュブナイル作品のみ。という時点での一冊。
    まさか角川文庫で復刊するとは!

    扉の影の女
    金田一耕助のこの時点のおおよその年齢、食生活、探偵としてのやる気が起こる時、虚無感に襲われる時それはどんな時か。お金の使い方、など人物像にせまる記述も多い。
    結末もいい終わり方をしているし、最後に犯人がどう捕まったかも、しっかり書かれているのでそこもスッキリ。

    鏡ヶ浦殺人
    海辺のシリーズ(パラソルで隠れて…とか砂に埋もれたときに…とか)みたいのかと思ったら、そうではなかった。ゴムマリのトリックは他で読んだのですぐわかった。
    こちらは…ひどいやつが結構いた。それと誰が誰とどんな関係だったのか何度かわからなくなって読み返した。
    でも世界観は良かった。

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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