湯殿山麓呪い村 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041120705

作品紹介・あらすじ

「語らざるべし、聞かざるべし」。大手レトルト食品メーカーの社長、淡路剛造が自宅の浴室で何者かに殺害された。殺害前、彼の自宅前では怪しげな遍路の姿が目撃されており、剛造の娘の婚約者の元には、幽海上人の生まれ変わりを名乗る謎の男から剛造が過去に起こした罪を裁くという怪電話がかかってきていた。彼が犯した罪とは何なのか。事件を追ううち、彼の故郷の村で起きたある母娘の失踪事件、更には湯殿山麓の寺の奇妙な戒律が浮かび上がる――。角川小説賞受賞の本格推理小説。

感想・レビュー・書評

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  • 天明7年、湯殿山麓の弥勒寺で幽海という僧が即身仏となる。幽海はその10年前、惚れた女郎を横取りした男を殺害して注連寺に逃げ込み、即身仏を志願することで免罪された男だった。その後修行を積み、いよいよ即身仏になるという段階で、庄屋の末娘と恋仲になり脱走を図るも捕えられ、強制的に餓死させられ即身仏にされた。その事実を知るのは、寺の住職、庄屋、旅籠の主人のみだった。

    時は流れ180年後の昭和50年代、アルプス食品の社長・淡路剛造の東京青山の邸宅に、怪しい遍路装束の男が現れ、ポストに人間のミイラ化した指を2本入れて消える。剛造の長女・慶子の婚約者でアルプス食品の社員である成田茂典のもとにも剛造あての脅迫電話があり、内容は「33年前に大師村の御三家のした忌まわしい事件のことで淡路家に災いが降りかかる。化け物塔婆のことを忘れるな」というものだった。一方、剛造の出身地である山形県湯殿山麓の大師村にも謎の白装束の男が現れ、予定されている幽海上人の即身仏の発掘調査を中止しなければ禍が起こると触れ回る。

    慶子と成田が大学時代に所属していたオカルト研究会のOBで、幽海上人即身仏発掘調査の担当者である柳沢教授の助手をしている滝連太郎は、クイズ番組出演で賞金稼ぎをしており、その頭脳を買われて脅迫者の解明を依頼される。滝は大師村で33年前に疎開にきていた母娘が失踪した事件があり、彼女らを探しにきた息子・津村勘治と村の因縁話をつきとめる。しかしその調査のさなか、剛造が自宅の浴室で殺害され、現場には捨てたはずの指のミイラが…。

    「月山」を読んで即身仏に興味をもったので同じ出羽三山が舞台のこちらも。1980年の小説で、1984年には永島敏行主演で映画化もされている。正直、内容的には期待したほどの怖さはなかった。横溝正史的な怖さを期待してたのだけど、80年代とはいえ現代の話のせいか、せっかくの即身仏だの飢饉のときの共食いの絵だのというおどろおどろしい題材があんまり生かされてなかった気がする。脅迫に使われるミイラの指というのも、それは小指と人差し指だった、とか書いてあると、え、ミイラ化してるのに一目で何指かわかるの?と妙に冷静になってしまったり。映像化のほうが演出で怖がらせられそうだと思った。

    犯人は、書かれた当時だと意外だったのかなあ? 私は序盤で怪しいと思ってしまったのであまり驚けず。もうちょい不条理な怖さが欲しかった。最終的に、ひとりの男が意図せず自分の子供たちを使って親族の復讐を遂げた形だけど、そこになんかゾッとするような血の因縁みたいな感覚がなくて、ただただ無駄にモテる絶倫男が子だくさんで無責任でしたーというだけの話でした…。



    以下、備忘録として登場人物一覧。ネタバレあり。

    <大師村の御三家>
    〇淡路剛造:大師村の御三家のひとつ庄屋の子孫。1代でアルプス食品を一流企業にのしあげたやりて社長だが敵も多い。
    〇淡路謡子:剛造の妻で弥勒寺の道海和尚の妹。かつて恋人がいたが兄に引き離され剛造に嫁がされた。夫を憎んでいる。
    〇淡路慶子:長女。20代。教師をしている。大学のオカルト研究会の同窓で、アルプス食品社員の成田茂典と婚約中。実は剛造が鶴岡の芸者に産ませた子で実母は冷遇され死去。
    〇淡路能理子:13歳、中学生。成田に家庭教師をしてもらっている。大人びた少女。実は母の瑤子が津島勘治に強姦されて出来た子。

    〇相良道海:大師村の御三家のひとつ弥勒寺の住職。淡路謡子の兄で、友人の剛造に妹を無理に嫁がせた。
    〇相良信也:道海の息子で慶子たち姉妹の従弟、小学六年生。モデルガンが趣味。実は津島勘治が当時の女に産ませた子供で道海に押し付けた養子。

    〇伏原欣作:大師村の御三家のひとつ旅籠辰己屋の子孫。彼の代で零落し、土地建物はすべて剛造が買い取る。実は剛造の妻・瑤子の元恋人で、剛造と道海を恨んでいる。
    〇伏原常子:欣作の旅館の元仲居で、のちに欣作の妻となる。欣作と一緒になる前に津島勘治と交際しており、二人の間に生まれた息子が武。
    〇伏原武:高校生。常子の連れ子で父親は津島勘治。淡路能理子のボーイフレンドだが実は腹違いの兄。

    <津島家>
    〇津島民江&里子:33年前、疎開に来ていた大師村で失踪した母娘。実は夫(父)が脱走兵だったため村八分にされ、さらに御三家の男たちに輪姦されたあげく心中(餓死)、遺体は御三家の男たちが天明の大飢饉の死者を埋葬した化け物塔婆に埋めていた。剛造や道海に送り付けられたミイラ化した指はこの母娘のもの。
    〇津島勘治:33年前、戦争から復員、疎開先の大師村で失踪した母と妹を探しに来たが見つからず、のちヤクザになる。その20年後、偶然伏原欣作と再会、彼から失踪事件の真相を聞かされ、道海と剛造を憎んでいた。しかし現在は更生しホルモン焼き屋の店主となっている。以下、勘治の子を整理。 勘治は意図せず、大師村の御三家それぞれに自分の子を送り込んでいた。
    (1)伏原武:高校生。母親は昔交際していた常子。常子はのち伏原欣作と結婚。
    (2)淡路能理子:中学生。母親は淡路剛造の妻・瑤子で、病気療養先で勘治が強姦。
    (3)相良信也:小学生。母親は当時勘治が交際していた女。相良道海夫妻に引き取られる。

    <関係者>
    〇西川三保:淡路家で働く女中。大師村の出身。
    〇田辺義作:淡路家の住み込みの運転手。33年前は大師村の巡査で、津島母娘の死の隠蔽に協力していた。
    〇成田茂典:慶子の婚約者でアルプス食品の社員。元オカルト研究会員。謎の脅迫電話を受ける。
    〇筧久造:伏原欣作の旅館の元番頭。真犯人に金で雇われ遍路姿で脅迫に協力。
    〇村瀬了海:道海の弟子。

    <東京の関係者>
    〇滝連太郎:本作の探偵役。元オカルト研究会、今は大学で柳沢教授の助手をしながらクイズ番組で賞金稼ぎをしている。実家は葬儀屋。
    〇武見香代子:現役のオカルト研究会員。滝の助手役。滝を憎からず思っている。
    〇大曽根達也:事件を担当する警部、滝とは友人。
    〇柳沢教授:民俗学の大学教授。大師村の幽海上人の発掘調査を依頼されている。

  • 1980年。伝記要素があり、映画化された有名作品らしいので読んでみたが、個人的な好みとしてもミステリとしてもどうなのかと思った。

    ・これは単に私の思い違いだが、このタイトルなのに8割程度のことが東京で起こり、最後にやっと村に赴く。村の描写がほとんどなくがっかりした。
    ・密室状態で20㎝四方の小窓だけが空いていた風呂での撲殺は、「子どもが小窓から入った」という真相。読者を舐めていると思った。そもそも犯人にとって密室にする必要もないのだが。
    ・怪しい行者姿の老人が、二度、逃げ場のない道から消失した件については、「一方の目撃者が嘘をついていた」という真相。読者を舐めている。
    ・33年前の惨劇が、「戦時中、村を頼ってきた母娘を村八分にし、さらに御三家の男達でレイプし、死体を遺棄した」というもので、胸糞過ぎる。しかもうち1人は僧侶。
    ・御三家の男のうち零落した男が、過去を反省してこの事件の黒幕となるのだが、どう考えてもあまり反省していない。どちらかというと私怨。
    ・御三家の男たちは、自分たちが犯して殺した母娘にとって息子・兄にあたる人物の子どもを、それぞれ自分の子どもとして育てているのだが、うち2人は「親が彼だと知らずに」「偶然」育てている。それが呪いなのかもしれないが、偶然はさすがにやめてほしい。
    ・住職がいつの間にか別人に入れ替わって読経していたトリックがあるが、入れ替わった人物は別に僧侶ではないので、読経できたり、弟子が聞いて別人だと見抜けなかったのが不自然すぎる。
    ・最後に、バイク事故で3人の子ども(容疑者2人を含む)が死ぬ胸糞展開。

    おもしろ所としては、33年前の事件だけでなく、150年前に無理やり餓死(即身仏)させられた僧侶の事件を絡め、伝記・歴史要素を出しているところだろうが、150年前の件は今回の連続殺人と全く関係がない。
    「呪い村」「無理やり即身仏にさせられた僧侶」などの怖い要素がせっかくあるにもかかわらず、大半の事件が東京で起きていることもあり、全くホラー的な怖さがない。胸糞悪い過去の事件ばかりが明かされ、それについてしっかりした批判もないまま話が続くため、読後感が非常に悪かった。

  • 因習の残る村、というか因習によって残る村で過去に起きた事件が現代にもねを伸ばしと始まる、親の因果が子に報いモノ?
    ミイラを信仰する下地と、無理矢理仕立てられたミイラ、飢饉の絵、非業の死を遂げた親子、凋落の元御三家と色々用意してなんだかどれも中途半端な使われ方で無理矢理納得させられた印象。
    映画は好き。

  • オカルトめいたミイラの発掘に過去の怨念が纏わるおどろおどろしいミステリー。
    普通に事件を検証していくとたどり着く真犯人なのだが、誰もがまさかと外してしまうところが盲点。犯人と犯行動機が判明してもスッキリとせず、逆に残る後味の悪さがいつまでも苦々しい。
    “種を火種にする”というこれ以上ない怨みの晴らし方の厭らしさとその結果が招く不幸の重さに只々どんより。
    「語るなかれ、聞くなかれ」と百年以上秘められた幽海上人の無念の因果や血筋をもっと事件に絡めて復讐のホラー色を強めたら、お楽しみ度も上がったかもなぁ。

    かなり昔に観た映画はストーリー破綻していたので心配だったが、原作はちゃんと探偵が機能していて一安心。

  • 主文は後回し。

    まずは、許せないレベルのこと。
    ●ある章のタイトルがあからさまな大ヒントになっている。目次で犯人の見当がついてしまうのだ。「わからないだろう」と読者を侮っている感じもあり、腹立たしい。
    ●会話の中で、超有名な名作推理小説(本感想の筆者は未読)の犯人をバラしている。それも、作品のタイトルと犯人の名前をモロに書く形で。ひどすぎる。
    この2つ、推理小説作家として万死に値する行為ではないか。

    続いて、何とか許せるけど滅茶苦茶気になったこと。
    ●表現や文章の繋がりに違和感があり、作者の日本語力を疑わざるを得ない。そのため、読み進むにつれ作品に対する期待や敬意を失っていく。
    ●説明に蛇足が散見されて冗長、しかもオーバーステイトメント気味で変にリキんで空回りしてる感じ。また、カッコつけた表現がことごとく「余計な情報」に見えていちいちイラッとするのは、自分が狭量なのか、表現がハマッてないのか。
     クライマックスに差し掛かっても、寺社やその立地に関する情報等を都度都度放り込んで、テンポを落とす。
     また、ある章では、長めの説明ゼリフの中にカッコ書きで説明を挿入する荒業が見られた。「説明、説(説明)明。説明!」。こんなの他で見たことない。御作法としていかがなものか。
    ●大上段に振りかぶったタイトルの割に、オカルト風味が薄い。やはりそこは、大先輩・横溝正史や大後輩(笑)・京極夏彦など、ハッタリ上手(※褒め言葉です)の諸作と比較して、弱さを感じる。
    ●主人公がクイズ王、という設定は全く活きてない。雑学・蘊蓄キャラにしたいなら、京極堂のように蘊蓄で頁を埋め尽くすくらいアピールしないと。ところが蘊蓄のほとんどは登場人物ではなく語り手が語ってしまう。また、主人公のキャラ付けとして、所々に挿し込まれる大食エピソードも、早送りしたくなる。

    物語の基本設計は、無理はあれど受け入れられなくはない。ヒントが易しすぎて簡単に犯人の見当がついてしまうのも許しますよ、そこだけがミステリの魅力ではないので。その上で、以下の結論に至った。

    主文:本作を星1つの刑に処す。

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著者プロフィール

1931年大阪府生まれ。1949年『二十密室の謎』でデビュー。77年、『わが懐旧的探偵作家論』で日本推理作家協会賞を受賞。日本推理作家協会理事長、日本文芸作家協会、日本ペンクラブ理事などを歴任。83年からはエンターテインメント小説作法教室で講義し、多くの作家を育成。怪奇幻想小説や謎解き小説、伝奇ミステリーを多数執筆し、おもな作品に『獅子』『ボウリング殺人事件』『推理文壇戦後史』などがある。99年没。

「2021年 『湯殿山麓呪い村』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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