よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 170
  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041121597

作品紹介・あらすじ

江戸は神田三島町にある袋物屋の三島屋は、風変わりな百物語をしていることで知られている。
語り手一人に聞き手も一人、話はけっして外には漏らさず、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」これが三島屋の変わり百物語の趣向である。
従姉妹のおちかから聞き手を受け継いだ三島屋の「小旦那」こと富次郎は、おちかの出産を控える中で障りがあってはならないと、しばらく百物語をお休みすることに決める。
休止前の最後の語り手は、商人風の老人と目の見えない彼の妻だった。老人はかつて暮らした村でおきた「ひとでなし」にまつわる顛末を語りだす――。

感想・レビュー・書評

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  • 3編の短編集。

    「賽子と虻」 映画『千と千尋の神隠し』みたいな感じ。主人公、餅太郎が神々の賭場に迷い込む話。餅太郎の面倒をみてた賽子のキリ次郎が可愛かった。この子がいたから餅太郎は神様の世界で暮らせたと思う。キリ次郎の代わりにおだいが餅太郎のところにきた時はジーンときた。おだいというのは、餅太郎の姉が"ろくめん様"(餅太郎が暮らしている村で祀っている神様)に供えた賽子。現実の世界では、餅太郎の家族が餅太郎の帰りを待ってるし、無事を祈っているという事が分かって、餅太郎に勇気を与えたと思う。優しくて勇気がある餅太郎。黒白の間で富次郎に神々の賭場で起こったことをすべて話して、それをきっかけに幸せに暮らせるといいな。富次郎が最後に「もう一度生き直しましょう。」「ろくめん様の最後の氏子として、誇りを持って生きるんです。」と餅太郎に掛けた言葉に感動した。
    話の中で神様たちの勝手な決まり事で氏子たち民が困っている、とういのがあったけど今の私達の世界と一緒だなと思った。政治家たちが決めた事に民衆が振り回されてる気がする。あと、神の世界を壊す人間は恐いと思う。自分の意に反するものを壊すのは駄目だよな。

    「土鍋女房」 私は三編の中でこの話が一番好き。主人公のおとびが良い。離婚を経験して辛い思いを今でも引きずって暮らしている。家族で支え合って懸命に暮らしている姿が好き。その一家の主人、兄の喜代丸の言動、行動が不思議で、喜代丸はどうしてそんなに頑ななんだろう?と謎だった。謎が解け、これはもうどうする事も出来ない、と分かった時のおとびの絶望感が痛い程伝わってきた。兄を思うおとびの悲しい話なんだけど、途中で人間の悪い本性を見て、こういう人いるよねーとイラッとしてしまった。

    「よって件のごとし」 これは映画『バイオハザード』みたい。"ひとでなし"が生きてる人間を襲い、喰らう。立冬で異常に寒い日に"ひとでなし"が現れ、恐ろしい日が始まる。寒さがおさまれば終わるみたいだけど、これはエンドレスではないのか?池の穴から全く知らなかった隣村の人がくるというのは無理があって不思議。どうやって事態を治めるのが気になってたけど、中途半端な気がする。羽生田村が異世界の村という事なら何となく納得は出来るんだけど。この話は、私的にモヤモヤしてしまう。

    富次郎の兄、伊一郎が、三島屋に帰ってきた。
    その事が百物語にどう関わってくるのか、楽しみ。

  • 三島屋変調百物語、8巻。
    宮部さんがライフワークとして書き続けている、楽しみにしているシリーズ。

    『賽子と虻』
    語り手は、目元口元を不機嫌そうに歪めた小柄な男、餅太郎。11のときに笑い方を忘れたのだという。
    玉の輿に乗ることになった自慢の姉が、"虻が憑いて"戻ってきた。この地では、賭け事の好きな神様、"ろくめん様"が守護しているが、ろくめん様が虻の神様に賭け事で負けて以来、虻を殺すことは御法度となっている。虻の神様は他人を呪う願いを聞き届ける困った神様で、姉は誰かに虻の呪いをかけられたらしい。
    餅太郎は、姉にかけられた呪いを引き受け、ろくめんさまが八百万の神々を招くために作った里に迷い込む─。

    神々が訪れるお屋敷とは千と千尋のような世界だが、みんな博打にやってくるというから本当に日本の神様たちは人間くさい(笑)。
    神様にかわいいのもいれば、不気味なやつもいる。
    うーん、でもちょっと全体的に冗長だったかなぁ。半分くらいの長さにしてほしい。
    あと、聞き捨てルールは破っちゃだめじゃない??

    『土鍋女房』
    語り手はおとび。おとびの家は、水神の住まいである粂川で、代々、三笠の渡しの船頭をつとめている。おとびの兄の喜代丸は、無口だが腕のいい船頭だった。ある時、土鍋が船端に置かれていた。その土鍋はほの温かく、重いのにあけると何も入っていない。土鍋はその後いつの間にか家にあり、兄は夜に土鍋に向かって何かを話していて…。

    二作目も神様が出てくる。水神様に惚れられていた喜代丸に、縁談が舞い込んだことから、神様の悋気にふれることになる。災難ではあるが、三笠の渡しという職業柄、運命ともいえるのだろうか。語り手のおとびの人柄か、どこか温もりとおかしみのあるお話。

    『よって件のごとし』
    珍しい夫婦の語り手。男は裕福そうな商人風の立派な老人、女は盲目で一見して病んでいる。
    男の家は二つの村を束ねる肝煎。村は和紙作りなどの産業が盛んだった。ある立冬の朝、屋敷の裏手にある〈夜見ノ池〉から男の土左衛門が引き上げられる。男の身元が判明しないうちに、土左衛門は突如ふらりと動き出し、村人の一人に噛み付いた。その村人はしばらくすると目が真っ白になって涎をたらしながら人を襲うようになる。
    その後、池から現れた娘によると、池で繋がる向こう側の村で、〈ひとでなし〉が発生し、村人たちを襲っているという─。

    この表題作が一番面白かったな。江戸版『屍鬼』ですね。こわっ。夜に読まなくてよかった。池が繋がっているとはいっても、物理的な繋がりではなく、時空を超えている感じがした。これはパラレルワールドなのかしら。

    今巻の富次郎は全体的にちょっとテンション低め。
    おちかは臨月、長男の伊一郎が三島屋に帰ってくることになり、富次郎もそろそろ身の振り方を考える時期のようだ。

  • シリーズ第8弾。

    「繋がる縁なら、どんな困難だって乗り越えて繋がる」
    おちかから聞き手を継いで二代目の聞き手となった富次郎。おちかと比べると正直まだ頼りない。
    けれど黒白の間での経験は、富次郎を確実に男として成長させている。だからこんなセリフもさらりと言えるようになったのだ。

    今回の語りは三人。
    初めはジブリの『千と千尋の神隠し』のような世界観だな、などと思っていたけれどやっぱり怖い。
    特に表題作では久々に肝を冷やした。
    当たり前のことだけれど、地方に古くから伝わる伝承や土地神様を侮ってはいけない。

    いよいよおちかの出産も間近となった。三島屋の人たちと共に、おちかの無事を心から祈りたい。そして暫くこの百物語もお休みするとのこと。それもまた致し方なし。
    無事におちかが出産し、百物語が再開されること、首を長くして待とうと思う。

  • シリーズ八の一冊。

    今回は三話全て深みある濃さだった。

    三名が語る面妖な体験。

    随所に人の胸の内を被せながら相変わらず読ませてくれる。

    小旦那の優しさ、語り手との新しい試みも受け止める心意気も清々しいし、自分の心をやきもちから解放するまでの逡巡も微笑ましい。

    水神様、おとびさんからのお守りの話が一番好き。

    おちかのお祝いも待ち遠しいし、伊一郎さんとの兄弟絡みも味わえて良かった。

    次巻は三島屋に明るいニュースが溢れると良いな。

    何事もないように…と願い黒白の間の襖をそっと閉める、いつもの三島屋メンバーの温かい気遣いも好き。

  • 面白かった!!おちかの頃の人情味のあるのも面白かったが、個人的には富次郎はヴィジュアル的で、アニメとか実写になったら、さぞやハリウッドかと思う。脳味噌に絵コンテが出てきてしまうタイプ。本作は『賽子と虻』『土鍋女房』『よって件のごとし』の三本。『賽子と虹』は千と千尋のアレな感じ、餅キャラすばらしいです。『土鍋女房』は異類婚姻譚、神婚説話系で、三本の中では私比で一番線が弱く感じたが、出てくるライバル嫌女がそれはそれは嫌な感じで女性向けキャラ文庫で出てきそうな感じなのが面白い。タイトルにもなっている『よって件のごとし』はめちゃくそカッコいい、好物のゾンビ(ちょいバンパイヤ風味)もの。畑作八郎兵衛と浅川宗右衛門(父の方)推せる!弓スナイパーよき!
    読了感すばらしいホラーの名作かと思います(恐怖はないが、ホラーカテにするしかない)
    3日で2巡しましたわ、
    特に餅が小鳥の神様を見て、
    その神様のことを賽子に質問するシーンが好き

    >「翼は何色でごじゃらった?」
    「目映いような金色!大広間の欄間の向こう側に、つがいで止まってたんだ。おいらの気を感じたら、飛んでいっちゃったけど」
    「それは富くじの神様でごじゃる」
    「へえ〜!富くじの神様のお姿を拝んで、鳴き声も聞かせてもらったおいらは、富くじに当たりやすくなってるかな?」
    「それとこれとは話が別じゃ」

    存在の数だけ神様が居る
    日本ってすばらしい。

  • 学芸通信社配信から神戸新聞他新聞6紙に2020年7月〜2022年2月に渡り掲載されたものに加筆修正し、2022年7月角川書店刊。賽子と虻、土鍋女房、よって件のごとし、の3編を収録。三好愛さんの挿絵が楽しい。なんと言っても、賽子と虻が三島屋変調百物語枠を大きく超えるほどの出来で秀逸。神さまの世界の成立ちとことわり、そしてその終焉までが興味深く面白く書かれ、はらはらドキドキと謎でとても楽しめました。

  • 聞き手を富次郎に変えて続く、黒白の間での百物語シリーズ。

    人の力では太刀打ちできないものに、大事な人を奪われ、生活を壊され、めちゃくちゃにされる。
    抗うすべもなく苦しむ話が多く、読んでいてきつかった。

    明るくて、言いたいことをはっきり言う。
    「土鍋女房」のおとびは清々しく、重たい本作の中では救い。

    「賽子と虻」のキリ次郎も、独特のしゃべり方も含め、あたたかかった。

    聞き捨ての決まりが、やや緩くなっている印象。

    全体的にやや冗長。

  • 最初から読み続けているシリーズ。今回もかなり残酷な怪談話なのに、装画かやわらかいタッチなので、緩和されている。何だか一区切りついたような展開だったけど、まだまだ続きは、読みたい。

  • 三島屋の変わり百物語、第八弾。富次郎が聞く心と勇気の物語り。
    第一話 賽子と虻・・・姉への呪い(虻)を飲み込んだ、餅太郎。
     攫われた先は八百万の神々が遊ぶ賭場、ろくめん様の里だった。
     家へ戻るために働く彼が出会う、賽子たち、弥生、神様。
     小さい神様を助けたり、これは異世界ファンタジーと思いきや、
     終わりは突然に訪れる。でも生きているから。生き直さねば。
     人を生かすも殺すも、所詮は人のなす業。神すらも殺す。
    第二話 土鍋女房・・・粂川の渡しの船頭、喜代丸は、おとびの長兄。
     数多の縁談を断る、その真意は。現れては消える土鍋の謎。
     不審な兄の行動は土鍋が原因なのか?そして、明らかになること。
     兄の“女房”を知り、畏れながらも兄の幸せを願う、妹の心根。
     人の世を離れて幸せをつかむ。永遠の幸せを。
    第三話 よって件のごとし・・・夜見ノ池で真吾が発見したのは、
     <ひとでなし>。異常な寒さと共に蘇る、120年前の出来事。
     それを追って池から現れた花江と共に、池を通って黄泉ノ池へ。
     13人の男衆は、その村を救うため<ひとでなし>と対峙する。
     元凶の<腐れ鬼>の存在。生き残った22人を救えるのか?
     繋がる縁なら、どんな困難でも乗り越えて繋がる。
    初秋から神無月。
    おちかの懐妊がわかり、心乱れる日々を過ごす三島屋の面々。
    おしまは瓢箪古堂へ移り、長兄の伊一郎が本格的に登場する。
    おちかの出産に障り無きように休む前の、変わり百物語。
    現実に住まう富次郎にとって、それは“異”が溢れる幻想の如し。
    異形の神々が溢れる異界。異形の神がおわす川も異界か。
    <ひとでなし>と<腐れ鬼>が現れる羽入田村は、
    異世界の江戸時代の場所かもしれない。
    人であっても浅ましい、異形の心を持つ者もいる。その理不尽さ。
    だが、清々しい姿もある。
    餅太郎の勇気。物語は絶望の淵で終わるが、編み込み草鞋を
    持って、現世で生き直す勇気を取り戻して欲しい。
    神に愛され神を愛す、喜代丸。その兄を想う妹の健気な心情。
    そして、迷いも危険もあれど、救いを求めた者たちに、
    手を差し伸ばし、奮闘した13人・・・鎌倉殿の13人とは違う姿(笑)
    特に、八郎兵衛の真の武士の姿。表紙の『よって件のごとし』の
    筆跡に彼の姿が現れているように、感じた。
    安定のシリーズ。奇抜な発想と構成力に、恐れ入ってしまいます。
    様々に悩める富次郎の姿、出来物だが傷も秘めた伊一郎の姿。
    彼ら兄弟がどのように生きるのか、そしておちかの出産を
    含めての次回作が、楽しみでもあります。

  • 富次郎が聞き手になり、聞き終えた後の対応がおちかとは変わる。
    それもまた良し。
    中編3つで、いずれも上質な映画のようだった。
    タイトルの1編がまあ怖い怖い!
    でもこの1編だけでも、映画してほしいような、ダイナミックな画を想像できる面白さだった。
    それにしても富次郎の兄伊一郎さん、ちょっとかっこよすぎてびっくりした。この人の登場で、また何が変わるのか、また楽しみ。
    そしておちか。おめでとーう!

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。『理由』で直木賞を受賞。著書に『龍は眠る』『本所深川ふしぎ草紙』『火車』『蒲生邸事件』『模倣犯』他多数。

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