出身成分 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.60
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本棚登録 : 117
感想 : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041122952

作品紹介・あらすじ

この国に生を受けただけなのに、希望はどこにある――
平壌郊外の保安署員クム・ヨンイルは11年前の殺人・強姦事件の再捜査を命じられた。犯人として収容されている男と面会し記録を検証するが、捜査の杜撰さと国家の横暴さを再認識するだけだった。実はヨンイルの父は元医師。最上位階級である「核心階層」に属していたが、大物政治家の暗殺容疑をかけられ物証も自白もないまま収容されている。再捜査と父への思いが重なり、ヨンイルは自国の姿勢に疑問を抱き始める。そしてついに、真犯人につながる謎の男の存在にたどりつくが……。鉄壁な国家が作り出す恐怖と個人の尊厳を緻密に描き出す、衝撃の社会派ミステリ長編。

感想・レビュー・書評

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  • 「出身成分」
    タイトルだけ見るとなんだかいやーな印象を受けるが、内容はとても興味深いものだった。なんが真実なのか分からないが、日本から飛行機で3時間ぐらいで行けそうなところに、こんな世界が存在すると考えると本当に怖いことだなと思う。
    最後に少しだけ救われた感じがしたが。同時に途方もなく切なくなった。

  • 松岡圭祐『出身成分』角川文庫。

    非常に珍しい北朝鮮の現実を背景に描かれたミステリー小説。

    北朝鮮と言えば、世襲制の独裁指導者による恐怖政治で一部の特権階級のみが豊かな暮らしを享受し、多くの庶民は貧困に喘いでいるというイメージだった。まさか『出身成分』なる父系の素行などによる身分差別制度があり、この国で生き抜くことがさらに過酷にしているなど全く知らなかった。また、食糧などの配給が滞り、庶民の生活は悲惨でかなり深刻な状況であり、国家のあらゆる制度が腐敗していることが窺える。

    絶体服従の恐怖政治と過酷な身分差別制度、賄賂がまかり通る中、正義を貫くことが出来るのか。非常に興味深く、面白い作品だった。主人公のヨンイルを悩ませる元凶は『出身成分』という歪んだ身分差別制度だ。正義を貫くためには自分と妻子の『出身成分』を汚さなければならないというジレンマ。果して、ヨンイルの運命や如何に。

    平壌郊外の保安署員クム・ヨンイルは11年前に怒った殺人強姦事件の再捜査を命じられる。ヨンイルは犯人として収容されているイ・ベオクと面会し、記録を検証するが捜査の杜撰さと国家の横暴さを再認識するだけだった。さらには強姦の被害者のペク・チョヒからの証言などから真犯人の存在を確信したヨンイルだったが……

    やがて11年前の事件は思わぬ形となってヨンイルの前に立ち塞がる。そして、思いもよらぬ結末……

    定価770円
    ★★★★★

  • 北朝鮮という国はどんな国なのか?

    報道を信じれば軍国主義で一部の幹部が法律を剛拳の如く振るい多くの国民はそれに従わされている。併せて食料や医療が逼迫しておりアジアの中で非常に貧しい国のイメージがある!

    果たして本当にそうなのか?

    本書を読むと真実かどうかはさておき、ベールに包まれている北朝鮮の地方の実態に触れられる。

    また、日本は裕福で自由の国とは言えるが北朝鮮という国と経済的な豊かさ以外でどれ程の違いがあるのだろうと、改めて考えてみたい。


    主人公のクム・ヨンイルは北朝鮮の警察官!
    11年前の殺人・強姦事件の再捜査を命じられるが過去の捜査の杜撰さを認識させられながら操作を進めていくのだが・・・
    物語は二転三転四転する!!

    さらに、本書は人権無視や階級差別と密告社会の恐ろしさを本書は語ってくれる!

    ジョージ・オーウエルの1984年を思い出した。

  • タイトルが実在する用語だとは。単に彼の国を批判するのは簡単だが、翻って我が国はどうなのか。どの国も同じ、と言えなくもないのではないか。マスコミが報じない事は多いだろう。目に見えるモノが世界の全てではないと思わされた。

  • 出身成分というのは、北朝鮮の階級制度のようなもの。特権階級にあるもの、降格の不安を抱える保安署員が過去の犯罪捜査のやり直しを命ぜられ、再捜査の過程で偏った体制、貧困下でのずさんな捜査が明らかになっていく。

    帯には、脱北者の証言に基づく・・・とあったが、これが北朝鮮のリアルなんだろうか?

    それにしても、何とレパートリーが広いこと。毎度のことながら呆れるわ。

  • 人民保安省保安署員のクム・ヨンイル
    11年前に起きた殺人・強姦事件の再捜査を命じられ、捜査資料にもとづき当事者の聞き取りを始める

    見えてきたのは当時の杜撰な捜査と不可解な現状

    「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」からなる北朝鮮の階層制度「出身成分」が事件に影を落とす

    ヨンイルが辿り着いた驚くべき真相とは……

    《鉄壁な国家が作り出す恐怖と個人の尊厳を緻密に描き出す、衝撃の社会派ミステリ。》──カバーの紹介文

    脱北者の多岐にわたる証言に基づいて松岡圭祐が入念に仕立てた驚愕のミステリ、傑作

    《貴方が北朝鮮に生まれていたら、この物語は貴方の人生である。》──扉のことば

    2019年6月刊の単行本を加筆修正して文庫化、2022年1月刊

  • 20220716

  •  私は彼の国について、解説の冒頭にある以上のことは知らない。知る術もない。ただ、不気味な国、国民全員でカルト集団に属しているみたい、と言った印象を持っている。高齢者や田舎から出たことのない、極狭い範囲での常識が全ての常識だと思い込んでいるような相手と、同じ言葉に話しているのに会話が成り立たない、理屈が通らない、そう言った類の気持ち悪さも同時に持っている。そう、この物語は『気持ち悪い』のだ。解説にもあるように非常識が非常識ではなく、そのおかしさに誰も気付いていない。外側から見れば、明らかにおかしいのに国全体で『非常識』なのだから、非常識も既に『常識』だ。これは、泥に靴底が沈む不快感と似ている。
     世界的に差別は悪しき習慣とされ、平等や公平さを理想としているはずだ。そうであるはずなのに、国が階層を設けているとは。もちろん、カースト制度やアパルトヘイトも学校で習った程度には知ってはいる。それらもこの物語を読めば、階層や分断が何を生み、人をどう作り上げるのか、浅い知識しかない私にでも想像がついた。出身成分に加えて性差による不平等。食事ひとつ取ってみても、家長が箸を上げなければ家族は食事もできないだなんて、そんな非合理的なルールに意味はあるのか? 馬鹿馬鹿しい。女性に生まれた時点で家長にはなれない。いや、それ以前に出身成分によって、人生は決められてしまう。最下層の敵対階層に生まれるか、そうでなくとも降格してしまえば、仕事どころか教育の機会さえない。女性は売春でも、トウモロコシの粉をひと握りだと言う。性上納? そんな言葉を私は初めて知った。おぞましい。寒気がする。検索してみたが存在するようだ。俗っぽい言い方をすれば、枕営業や性接待か。いや、営業や接待なら女性にも利益はあるはずだ。インジャが言うように、ただの性欲処理だろう。11歳で養父から性交渉を強要され、時には親戚にも貸し出されたと言う。要職に就いていた相手だったがために短期間で出世したと言うが、それが彼女にとって望んだことでもなく、なんの意味もなさなかったことは怒涛の終盤で分かる。彼女は尊厳を失っただけだ。人間の扱いじゃない。主人公ヨンイルが性交渉を要求しなかったことが嬉しかっただなんて、彼女を取り巻く世界が無慈悲過ぎて涙なしでは読めなかった。
     私は貧困から抜け出すには、勉強が一番手っ取り早いと考えている。そのために、子どもたちには平等な教育が必要なのだ。そうでなくては、選択肢は広がらない。国が国民の夢や理想を取り上げてどうする。馬鹿か。
     今年2月、某プロゲーマーが「人権がない」と発言したことで炎上していたが、本当に『人権がない』と言うのは、こういうことかと思い知らされた。私は余りにも無知だ。私もまた、自分の周辺しか見えていないのだ。裕福ではないが人間らしい生活はできてはいる。だが、人間性の幅としては小さな集落暮らす陰湿で狡猾な人たちと、大差ないのかもしれない。
     国民の衣食住を保証できない政府は、政府として機能しておらず、無能だと思う。これを彼の国で口にすれば、私はたちまち敵対階層の中でも最下層に降格だろう。いや、即刻死刑か。私の二親等まで道ずれにし、孫の代まで生き地獄を味わわせてしまうことになる。
     読了後、私は分かっていたつもりの『人権』と『言論の自由』について考え直さずにはいられなかった。日本だって、女性の選挙権は先人たちの努力あってこそだ。未だ男女格差もあれば、富裕層か否かで、子どもの学力・学歴に直結してしまう令和。そんなのおかしい。生まれはどうであれ、人生は、当人が選択を繰り返し進むものだ。国にも何者にも、選択肢を取り上げられてはならない。そして、今、手にしている権利も何もかも当たり前に享受されていると奢ってはいけない。そして、見つめ続け、考え続けなければならない。思考を停止させれば、待っている未来はこの物語だ。

  • 北朝鮮を舞台にしたミステリ

    出身成分と言う名の階級社会。抗うことができない絶対的な権力の中で、ある村で起こった殺人事件が真相解明に向けて捜査されていきます。

    北朝鮮であるが故に起こり得るストーリー展開に引き込まれるように読みました。

    脱北者の話をもとに書いているとのことで、北朝鮮の現状を想像しながら読むことが出来ました。

  • あくまでもフィクションです。
    しかし取材に基づく作品であるため、知らなかったことが満載でした。
    私の中の普通とか常識からかけ離れており、恐怖を感じてしまいます。
    狭い世界で生きているのを思い知らされました。
    そして、最高のミステリーでした。
    未来が明るいことを祈ります。

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著者プロフィール

1968年、愛知県生まれ。デビュー作『催眠』がミリオンセラーに。大藪春彦賞候補作「千里眼」シリーズは累計628万部超。「万能鑑定士Q」シリーズは2014年に映画化、ブックウォーカー大賞2014文芸賞を受賞。『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』は19年に全米翻訳出版。NYヴァーティカル社編集者ヤニ・メンザスは「世界に誇るべき才能」と評する。その他の作品に『ミッキーマウスの憂鬱』、『ジェームズ・ボンドは来ない』、『黄砂の籠城』、『ヒトラーの試写室』、「グアムの探偵」「高校事変」シリーズなど。

「2022年 『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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