石川啄木 新訂版 (角川文庫 52)

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  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041123010

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  • (2012.11.29読了)(2004.05.05購入)
    【11月のテーマ・[石川啄木を読む]その④】
    金田一京助さんは、言語学者でアイヌのユーカラ・等も研究した方です。(『ユーカラ』は積読中です)
    石川啄木の盛岡中学校時代の先輩で、文学での影響を与え、その後、東京に出ていた金田一さんを、啄木が訪ねて行って、同じ下宿で過ごしたり、お金に困っている啄木を支援したり、保証人を引き受けたりして、啄木の晩年まで随分と面倒を見たようです。
    啄木にとっての実の兄のような存在でした。
    この本は、金田一さんが、啄木との思い出を、機会があるごとに書いたものをまとめたものです。思い出の記であって、啄木の評伝ということではありませんが、啄木に興味のある方にとっては、必読の書ではないでしょうか。
    啄木の生活というか、生涯は、実に悲惨と思えるのに、本人は到って大らかに過ごしていたように思えるのは、夢見がちな性格によるもののようです。
    また、啄木は、詩人や歌人と呼ばれるのを嫌い、小説家になることにこだわっていたようなのですが、その謎は、現在、地元紙の「東海新報」に掲載中の『啄木と文学』金田一京助講演記録(1966年9月に大船渡で行った講演記録)を読んで解けました。
    詩や短歌を新聞や雑誌に掲載してもお金にならず、小説ならお金がもらえたとのことです。
    啄木は、困窮して、病であるにもかかわらず、医者にも見てもらえず、薬ももらえず、という状態でなくなってしまったようですが、死の直前には、若山牧水と文学についての夢を話しながら息を引き取ったとか。最後の最後まで、未来を見つめながら、生きた。

    【目次】
    新訂版の序
    切れ凧
    例言
    宿命―はしがき―
    生い立ちの記
    あこがれ時代
    流転から再会へ
    菊坂町時代の思い出から
    蓋平館時代の思い出から その一
    蓋平館時代の思い出から その二
    弓町時代の思い出から
    晩年の思想的展開
    友人として観た人間啄木
    啄木の到達した心境

    ●まねし小僧(35頁)
    石川君自身もまた同級の回覧雑誌を作って、原稿をくれと言うので、それを見せてもらったのであるが、驚いたことに、綺麗に石川君自身の肉筆のカットが入っていて、しかもそれは、『明星』の一条成美画伯のものを、克明に透き写しにして、成美画伯が画いたのかと思わせるほどよく似ていたことである。
    それは、つまりまねし小僧、天性のまねし小僧だった上に、一事へ没頭すると全力を挙げて傾倒する凝り性だったから、ああいくのであったらしいのである。
    そういうわけだったから、なおさら、その歌の方になると、たくさん載ってはいたが、どれもこれも、まったく晶子女史の口調そっくりそのままの模倣ばかりで、しかも何を言っているつもりなのか、これで本人には、わけがわかるのかしら、と思われるような、ほとんど言葉の曲折だけで、無意味なものが多かった。
    ●水の歌(44頁)
    あめつちの酸素の神の恋成りて、水素はついに水となりにけり
    ●父母・寺を出る(70頁)
    いつぞやの旅費になった寺の森の杉が檀家の間に問題となってごたついて、それが原因で、石川君のお父さんが、寺を出るの出ないのという騒ぎにまで昂進し、人々の中には、寺の本堂も、もと石川君のお父様がこの寺の住職になって建てられたものであるし、これしきの事で、何も寺を出るの引くのというわけのものではない、と引き留めに廻る人々も出てきて、十のものは九まで、それに落ち着いたところを、昂奮された母堂が、実は、わが子の出世を、田舎の寺に束縛されて、遠く余所に見ているよりも、こんなことで四の五の言われるくらいならば一思いに出て我が子の許に養われたい母親の女心、ことに気の勝った母堂が、気の柔らかな厳父を引きずって、弊履を棄てるように寺を出てしまわれたものであったという。
    ●小説を書きたい(97頁)
    自分では「詩人と言われるのは侮辱を感じる。歌人などというに至っては虫唾が走る」と言い言いして、もっぱら小説に行こうと苦しんでいた石川君、小説がうまく書けなくって、しょうことなしに、歌を虐使することによって自己鬱散するのだと言い言い歌を書いていたものだった。
    ●医者は?(200頁)
    (それは亡くなる十日前)
    石川君はその時「ひょっとしたら自分も今度はだめだ」と言った。「医者は?」と聞くと、「薬代も滞るものだから、薬もくれないし、来てもくれない」という。また「いくら自分で生きたいと思ったって、こんなですもの」と言って、自分で夜具の脇をあげて腰の骨を見せた。
    ●国家(245頁)
    社会生活において、一家族が、他の家族を勝手にいじめて、自分だけ太ることが、悪であるから、国家間でも、一国の主権の命令で他の国家を自分の犠牲にして自分のみ繁栄することが、どうしたって善いはずがなかった。

    ☆石川啄木さんの本(既読)
    「ROMAZI NIKKI」石川啄木著、岩波文庫、1977.09.16
    「あこがれ 石川啄木詩集」石川啄木著、角川文庫、1999.01.25
    「石川啄木集(上)」石川啄木著・古谷綱武編、新潮文庫、1950.05.10
    「石川啄木集(下)」石川啄木著・古谷綱武編、新潮文庫、1950.07.15
    (2012年12月13日・記)

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著者プロフィール

1882-1971年。岩手県盛岡生まれ。東京帝国大学卒。言語学者。アイヌ語学・アイヌ文学研究創始者。國學院大學名誉教授。『辞海』『明解国語辞典』など辞典の編纂、国語教科書の編修も広く行う。著書に『アイヌ叙事詩ユーカラの研究』『国語音韻論』ほか多数。


「2022年 『日本の敬語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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