勿忘草の咲く町で 安曇野診療記 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 448
感想 : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041123461

作品紹介・あらすじ

月岡美琴は、松本市郊外にある梓川病院に勤めて3年目の看護師。風変わりな研修医・桂勝太郎と共に、膵癌を患い、妻子を遺して亡くなった長坂さんを看取り、誤嚥性肺炎で入院中だが「生大根の子糠漬けなら食べられる」という88歳の新村さんのために沢庵を切る(「秋海棠の咲く頃に」))。秋、循環器内科での研修が始まった桂は、肺炎の疑いで緊急搬送された92歳の女性に3時間延命する処置を下す。その判断は老人の延命治療に懐疑的な通称”死神”こと谷崎医師の教えに反していたが、それは連絡を受けた孫が駆けつけるまでの所要時間だった(「ダリア・ダイアリー」)。”口から物が食べられなくなったら、それが人間の寿命である。その常識を変えた夢の医療器具「胃瘻」”の登場、「できることは全部やってほしい」という患者の家族など、地域医療ならではの患者との関わり合いを通じて、月岡と桂は、老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差はどこにあるのか、悩みながら進み続ける。

感想・レビュー・書評

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  • 「神様のカルテ」と同様に過酷な医療機関の現状が描かれている。地方の中小病院は老齢化により老人病院化している。症状も悪い方に安定して医療スタッフが介護に追われている。
    本の中でも80歳以上の患者に積極的に医療を行わず、放置する死神と呼ばれる医者が出てくる。
    一年目の研修医である桂と三年目の看護師月岡は揺れ動きながら成長して行く。安楽死を願う患者や全てを医者に委ねて考えを放棄する家族など、様々な状況に悩む主人公達。
    その中で二人の関係が深まって行く。初々しい二人のやり取りが、死を含めて重い医療の内容に華を添えてくれる。

  • 「神様のカルテ」の作者が送る日本が抱える高齢者医療問題。
    長野県の安曇野にある梓川病院に勤める3年目の看護師の美琴と研修医1年目の桂の二人の目線で描かれる。
    現役のお医者さんが描く高齢者医療の現場はあまりにも現実的で、時には辛いし、悲しくなることもある。
    高齢の患者さんに延命の為だけに治療をするほど、日本の医療は恵まれていないと言う桂の指導医の言葉は、とても重く、桂の心の揺らぎが手に取るように伝わる。
    どんなに患者さんに誠意を尽くしても、高齢の患者さんはある日突然急変し、あっという間に亡くなってしまう現実・・・それは本当に全国の中核病院で起きている現実なのだろう。
    テレビや他の医療ものの小説では取り上げられない静かで厳しい現実がこの作者の作品の中にはある。
    「神様のカルテ」が地域の救急体制の問題を描いているので、比較して読むことをお勧めする。
    超高齢者が増える一方の日本で、医療を巡る問題は決して明るいものではないが、桂の花に対するエピソードと安曇野の四季を描くことで、読む者の心も救ってくれる。
    個人的には桂が救急で運ばれた患者さんの家族の為に3時間だけ延命治療を行い、指導医の谷崎に反抗するが、その理由を聞いた谷崎が納得するシーンが好き。
    涙がこぼれるが、このシーンは全ての人への愛に溢れていると思う。
    「神様のカルテ」を読んでいる人だけに分かるサービスも。
    終わり方が終わり方だけに、簡単に続編は出ないだろうけど、研修が終わり、梓川病院と美琴の元に戻ってくる桂を楽しみにしたい。
    そして。
    今も地域医療に精魂を注いでいる作者に敬意を表したい。

  • 松本市郊外の梓川病院で働く、研修医1年目の桂と看護師3年目の美琴とが主人公の医療小説。
    安曇野の描写と、様々な花が登場するゆえ、爽やかな若い二人の青春小説の趣があるが、彼らが出会うのは高齢者医療という日本にとっての喫緊の問題である。
    テレビドラマなどでは、劇的な治療や感動的な話ばかりが描かれているが、現代の医療が直面しているのは「生」ではなく「死」に向き合うこと、大量の高齢者を、いかに生かすかではなく、いかに死なせるかという問題であることを突きつける。
    「この国はもう、かつての夢のような医療大国ではないんです。山のような高齢者の重みに耐えかね悲鳴を上げている、倒壊寸前の陋屋です」と、一人の人物に言わせるのは、著者が現役の医師で現代の医療現場に立ち会っている証左だろう。
    深刻な医療現場を描きながら、それでも暗さを感じないのは、著者が造形した主人公たちのキャラクターからきているのでは。

  • 初めての作者。ずいぶん色々な医療小説を読んで来たが、上位にランクインする。誠実な医者や看護師の成長物語には、どっぷりのめり込んでしまう。舞台が自然豊かな安曇野で、研修医桂の実家が花屋という設定も良い。
    単に成績が優秀ということだけで医者になる若者が多いと聞くが、こういう医者に診てもらいたい。ぜひ続編を!

  • 安曇野の病院では、入院患者のほとんどは後期高齢者。治療することに意味があるのか悩むことの多い研修医と、見守る看護師、指導医師・・・という図式で、悪人は出てこない、純化された抽象世界に仮託して、高齢化社会の医療についての倫理と、医療関係者の本質的な善根を描写。
    癒やされるし、ハートウォーミング。ただし、(夏川のマーケッティング戦略かとは思うが)女性のセリフ、独白が、あまりに古めかしい。

  • 随所で出てくる花の描写に、どんな花なのかとネットで検索してみたり。自然豊かな長野県が思い浮かぶ。
    正解なんて分からないことが多い。
    それでも、悩むことをやめずに、自分なりの答えを出せる様になりたいと思った。

  • 好きな作家夏川さんの地方の高齢者医療を扱った作品。遠からず自分や家族に訪れるであろう死をどのように受け止めて、受け入れるのかという重いテーマを花が持つ柔らかさや爽やかさを交えて生の清々しさと重ねた良作でした。

  • 2か月程前に義父が誤嚥性肺炎で入院しました。
    入院手続き、医師の説明があったと同時に確認されました。高齢の為、急変した場合の処置について…
    心臓マッサージしますか?どれくらいの延命処置しますか?
    えっ?今決めるの?と内心びっくりでした(*_*)

    まさにこの作品が私自身タイムリー過ぎて
    医療系の作品は何冊も読んで来ましたが、まぁとにかくリアルで身近な内容で…読んで良かった!

    神様のカルテもいいけど
    こちらの作品も良かった〜ヽ(´▽`)/

  • 「神様のカルテ」と栗原一止先生が好きすぎて…でも、この作品と主人公の桂正太郎先生も、期待を裏切らず、私の推しとなりました。
    作品は、日本医療の深刻な問題、高齢者医療が主題になっています。
    栗原先生や桂先生のような出来た人間になることは難しいかもしれないけど、このような作品を読んで、日本医療の問題を考えること、感じることは意義あることと思います。

  • 高齢者医療
    とても深いテーマだと思います。


    研修医の先生がお花屋さんの息子さんと言う設定で、
    いろんなお花達が出てきます。
    気持ちを和ませてくれました。

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著者プロフィール

11978年大阪府生まれ。信州大学医学部卒業。長野県にて地域医療に従事。2009年『神様のカルテ』で第10回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。同作は10年に本屋大賞第2位となり、11年には映画化もされた。著書に『神様のカルテ2』『神様のカルテ3』『神様のカルテ0』『新章 神様のカルテ』『本を守ろうとする猫の話』『始まりの木』『臨床の砦』『レッドゾーン』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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