貸しボート十三号 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 87
感想 : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041123539

作品紹介・あらすじ

白昼の隅田川に漂う一艘の貸しボート。中を見た人々は一斉に悲鳴を上げた。そこには首を途中まで挽き切られ、血まみれになって横たわる、男女の惨死体があったのだ。
名探偵・金田一耕助による聞き込みで、事件直前に、金ぶち眼鏡をかけ、鼻ひげを蓄えた中年紳士がボートを借りたことが判明。謎の人物を追って捜査が開始されたが、事件は意外な方向に……。
表題作に「湖泥」「堕ちたる天女」を加えた、横溝正史の本格推理。

感想・レビュー・書評

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  • 表題作に加え、『湖泥』(人面瘡にも収録)、『堕ちたる天女』の三作が収録された中編小説集。どれも読みごたえがあってよかった。『湖泥』は村社会を色濃く描き出す横溝正史の直球ミステリ。そこにそれぞれ別の意味でブラックな『貸しボート十三号』『堕ちたる天女』が続いていく。

    『湖泥』
    北神家、西神家という二つの家が反目し合っている村が舞台。その家のせがれ同士が狙っていた上海帰りの娘・由紀子の失踪を皮切りに、農村を惨劇が襲う。

    まさに横溝正史の庭と言うべき世界観。冒頭のこの磯川警部の言葉が印象深い。
    「当人同士は忘れようとしても、周囲のもんが忘れさせないんですな。話題のすくない田舎では、ちょっとした事件でも、伝説としてながく語りつがれる。」
    金田一がこれを補足した言葉も後に描かれるけど、こういう人間哲学が短編の中にギュッと詰まった作品になっている。村人たち同様にすっかり振り回されてしまった。見えない真実ほど湖面の波ではなく、底に沈んだ泥の中で眠っている。

    『貸しボート十三号』
    隅田川に漂う貸しボート。その中には首を途中まで切断され、血塗れになった男女の死体があった!身元も不明、死因も調べるほどに不可解さを増していく。見るも無惨な死体が語る真実とは──?!

    「ギョッ、ギョッ、ギョウッだ」
    平出警部補の唸り声が伝染するほどの凄惨さ。生首半斬り擬装心中事件という情報量に頭が追いつかない。金田一耕助シリーズでも屈指の遭遇したくない現場。しかし、この目も当てられぬ死体の中に秘められたちくはぐな痕跡こそ事件を解く鍵になる。推理して真相を描き出すことすらやるせない。

    平出警部補の賑やかさや、ボート部メンバーがいい味を出している。陰惨な事件の川底に沈む悪意。それをひたすら青く雪ごうとする悲しみ。無邪気で天真爛漫だったはずの青春は、いつからか黒く澱んで沈まないボートとなって流れていく。

    『堕ちたる天女』
    コンクリートの破片に乗り上げたトラックが落としていったもの。それは石膏像に塗り込められた女の死体だった!被害者であるストリッパーはレズビアンであったのに、急に彫刻家の男性と親しくなり、「堕ちたる天女」と自称していたのだが──。天女を堕としたのははたして誰か。

    他の物語で名前を見かける作品だったので、復刊を機に読むことができてよかった。石膏像に塗り込められた死体と聞くと江戸川乱歩『地獄の道化師』を思い出す。石膏像に塗り込めるという倒錯めいた犯行。そこに同性愛の人間関係が絡まって、一筋縄ではいかない難事件へと展開していく。

    白い石膏像の肌をめくって、晒し出された人間というドス黒い肌。人の宿命を弄び、狡猾に奪い取る。石膏像よりも硬く冷たい犯罪計画。金田一ですら糸口がつかめず、追い込めない凶悪な犯人。それを打ち破った意外な人物と、等々力警部・磯川警部の共演というファン必見の展開が熱かった。

  •  金田一耕助ものが3編入っている。「湖泥」1957(昭和32)年、「墜ちたる天女」1954(昭和29)年、「貸しボート十三号」1957(昭和32)年。
     横溝正史の長編だと最初の方に大量の登場人物がいて、人の名前を覚えるのが苦手な私の場合、彼らの名を覚えるのに苦労し、わざわざ登場人物をリスト化するメモを取りながら読まなければならないほどだ。それに対し、これらの短編はそんなに人物は多くなく、メモを取る必要がないので、気軽に読める感じだった。この気軽さが、良い。
     3つとも面白く読めた。それぞれのトリックのアイディアは確かに意外性があって良いし、金田一耕助じしんのユニークなキャラもあってストーリー展開も楽しかった。出色のものでもないだろうが、気軽に読める娯楽作として有用なものだ。

  • 金田一耕助シリーズの中編3作が収められている。いずれも意外な犯人が挙げられて推理にも満足。

  • 表題作ほか、「湖泥」・「堕ちたる天女」収録。
    何度読んでも「湖泥」が生理的に無理すぎる。「堕ちたる天女」も嫌悪感の種類が違うだけで、とても嫌。そりゃ、金田一耕助も酒飲んで寝たくなるよ…
    「貸しボート十三号」の読後感が爽やかなのが救い。事件そのものは全然爽やかじゃないけど!

  • 横溝正史の復刻版。
    相変わらずおどろおどろしい、
    禍々しい世界観。

    『湖泥』は好みではない(むしろ気持ち悪い)。

    最後の『堕ちたる天女』が一番面白かった。
    そのトリック?推理に、ああ、その可能性に
    なぜ思い至らなかったのか、と。

  • 恐い女3編。
    『湖泥』何度読んでもいい。得意げにカマをかける金田一先生も素敵。「そこにいるけどいないことにされている人」の存在は村だけでなく読者にとってもそう。どうせあいつには分かんないよ、という侮りが生んだ犯罪とも言える。
    『貸しボート十三号』ボート部の会話を読んでいると涙腺が緩くなる。
    『堕ちたる天女』最後にどぎつい一撃。どんな因縁の殺人も解決した金田一先生がここまでショック受けるのは初めて見た。確かに気の狂った芸術家の犯罪の方が、金目当てよりずっと救いがあった気がする。動悸があまりに卑近すぎて、犯行と乖離しているのが恐ろしい。

  • なんとも気持ちの悪いお話でした。猟奇的殺人の度合いがすごい。最後に、金田一耕助も気持ちわるくなって帰っちゃった……

  • 2022/03/11読了

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著者プロフィール

1902年、神戸市に生まれる。旧制大阪薬専卒。26年、博文館に入社。「新青年」「探偵小説」の編集長を歴任し、32年に退社後、文筆活動に入る。信州での療養、岡山での疎開生活を経て、戦後は探偵小説誌「宝石」に、『本陣殺人事件』(第1回探偵作家クラブ賞長編賞)、『獄門島』『悪魔の手毬唄』など、名作を次々に発表。76年、映画「犬神家の一族』で爆発的横溝ブームが到来。いまもなお多くの読者の支持を得ている。82年、永眠。

「2022年 『真珠塔・獣人魔島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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