死神の矢 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2022年2月22日発売)
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本 ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784041123546

作品紹介・あらすじ

弓の収集家として名高い考古学者の古館博士が、三人の若者を招き弓遊びに興じていた。見事的を射た者を、愛娘早苗の婿とするというのだ。
だが、その直後、競技に参加した若者の死体が発見される。浴室の中でシャワーを浴び続ける男の胸部には、白塗りの矢が射ちこまれていた……。
解決不能と思われた密室トリックを名探偵・金田一耕助が解き明かす。
一風変わった隣人の嫌疑に挑む「蝙蝠と蛞蝓」を併録したファン必読の小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 自分の娘の婿選びに無理難題を仕掛ける資産家で変人の父、それに群がるいけすかない青年達、溺愛されすぎた美しい娘。ユリシーズを下敷きにした物語とのことですが、よく仕掛けるなぁ。でも容疑者を全員集めてのアリバイ確認はいかに昭和40年代の警察でもやらないのでは?40年代でも羽織袴の金田一探偵のリアリズムを維持するためには背景のリアリティーが大事だと思うのだけど。
    美女に群がる男っていうのも昭和的単細胞エネルギーに満ち溢れていて元気になる!という単純な話かと思って読んでいると・・・ねじれてはいるけれども深い愛情の物語でした。

    それにしても頑健な肉体を持ち野生味溢れながら考古学博士でもある古舘博士の異常な愛情は、その後失われてしまった時代の一つの象徴かもしれません。生き方って時代が現れますね。自分の価値観や生き方もその時代に縛られた滑稽で奇妙なものとうつるのだと思い知らされます。謙虚に生きていこう。

    この作品の他に「蝙蝠と蛞蝓」という短編が収められていますが、こちらの方が面白い。戦後間もない超インフレに悩まされる貧乏学生から嫌われた金田一耕助が「蝙蝠」とあだ名されて・・・こんな短い作品にその時代風俗 と異常心理をユーモラスに凝縮した逸品。傑作です。

  • 時代柄なんだろうけど、出てくる男たちが不快。

    それ以外はテンポよく読めた。
    なんだか“ママ”の立場が切なく感じた。

    短編の『蛞蝓と蝙蝠』の方は主人公の青年のあだ名センスにクスリとした。

  • 表題作と『蝙蝠と蛞蝓』(人面瘡にも収録)の二作品が併録されたミステリ小説集。二作品とも読みやすく、それでいてミステリとしても抜かりがない一冊となっている。

    『死神の矢』
    弓の収集家として名高い考古学者・古館博士。金田一耕助は娘の早苗の婿選びに立ち会うことに。弓矢でハートのクイーンを射抜いた者を婿とする。奇抜な婿選びに面食らう一同。しかし、その後に婿候補の一人が閉ざされた浴室で死体となって発見されて──。胸には彼が射たはずの白い矢が突き刺さっていた!

    那須与一を思わせる奇妙な婿選びに端を発した殺人事件。シンプルな事件のように見えて、先へ進むほどに違和感が積み上がる。状況が明らかになるにつれ、事件に奥行きが出てきて別の見え方になっていくのが面白い。やはり横溝先生は愛憎を描くのが上手いなと。事件に幕を下ろし、新たなドラマの幕を上げるような人情味あふれる金田一の推理も見どころ。

    「きみ、きみ、八木君、なにも怖いことないよ。もう死んでるんだからね。生きてる人間のほうがよっぽど怖いよ」
    金田一のこの言葉が好き。生きてる人間の邪悪さ。誰が本当の「悪」だったのか。正義と悪の狭間に揺れ動く人間の心は、矢では射抜けないのかもしれない。


    『蝙蝠と蛞蝓』
    湯浅順平が住むアパートの隣室へ引っ越してきた蝙蝠のような男・金田一耕助。順平は日頃の鬱憤を晴らすため、裏手に住む蛞蝓女と呼んで観察しているお繁を殺し、その罪を蝙蝠男・金田一へと着せる空想小説を書いた。すると、なぜかその空想は現実のものとなり、しかもその罪は順平に着せられてしまう。不可解な事件の謎やいかに。

    タイトルからじめじめした話かと思いきや、展開もオチもユーモラス。サクッと読める短編で好き。殺人の罪を金田一に着せようとする悪趣味な内容の空想小説は、順平の心理が軽妙に描かれていて滑稽なコントのように読める。その壮大なフリからのラストはあまりの痛快さに声を出して笑ってしまった。30ページほどなのに、ミステリとしてのロジックもしっかり組まれていて無駄がない。

  • 久しぶりの日本人作家のミステリー!
    横溝正史の作品を読むのも12年ぶりくらいかな?
    とても読みやすかった。
    海外ミステリーと比べて、登場人物の名前の覚えやすいこと!(笑)

    『死神の矢』
    みんなアリバイがあり、一体犯人は誰なのか?と考えながら読み進めた。
    まさか連携プレーだとは思わなかった。
    悪いことをすると返ってくるものだなぁ。
    その3人の殺人の背景には博士や早苗、文代への愛情があって、何だか考えさせられた。

    『蝙蝠と蛞蝓』
    超短編ながらもとても面白い。
    蝙蝠っぽい金田一耕助を憎む主人公だが、ある日自分が殺人犯だと誤解されてしまい、金田一耕助に無罪を証明してもらって助かる話。
    金田一耕助は確かに蝙蝠感あるかも…。

    「あなたはこれでもまだ蝙蝠が嫌いですか」
    (中略)
    それに第一、蝙蝠は益鳥である。

    という最後の締め方も素敵。
    久しぶりに横溝正史の作品色々読みたくなってきた。

  • 『死神の矢』と『蝙蝠と蛞蝓』を収録。
    『死神の矢』は考古学者が自分の娘の婿を3人の男たちから選ぶために海に漂う的を狙わせるという遊びから始まる物語。婿が決まったその夜に元候補者の1人が密室で殺害され、そこから連続殺人事件に発展していくというもの。金田一耕助はどう推理するか?
    被害者たちが揃いも揃ってクズだったので犯人に同情してしまう1作。最後の被害者も金田一耕助なら止められたはずの殺人なのになぁ……。
    『蝙蝠と蛞蝓』は異色の短編。あるアパートに住む湯浅が書いた小説が現実世界で起き、湯浅に殺害の容疑がかけられて……というもの。
    短いながらも読み応えたっぷりの1作。

  • 『死神の矢』犯人がクソなのですっきりするけど、何もそこまで自分を犠牲にしなくても…
    『蝙蝠と蛞蝓』短いけどトリックもいいし軽快。第一印象は良くないけど魅力を知るとハマらずにいられない、それが金田一先生。

  • 昔の時代の王道ミステリーという感じで、今読むと懐かしく感じられます。私的には短編の「蝙蝠と蛞蝓」が、金田一耕助の登場のさせ方が変わっていて面白かったです。

  • 悲しい復習の物語だった。犯人が全然分からなかったのだけれど、分かったら分かったで人の思いやりがさらなる思いやりを呼んで複雑な事件となった今回。ハッピーエンドとはいかず、悲しい結末に切なく涙がこぼれそうになる。暴力を持って、人を自分の思い通りにする、自分の欲を満たすような人間は本当に生きている価値がない、アフリカのサバンナにでも行って自分の本能のままに動物と暮らしたら良いと思う。本当に満たされない寂しい人間だと思う。

  • 「死神の矢」は復讐と愛と献身の事件だなぁ、と。一度読んでるはずなのに、よく覚えていなかった…
    「蝙蝠と蛞蝓」は面白い。

  • 2022/03/13読了

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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