華やかな野獣 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 76
感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041123560

作品紹介・あらすじ

臨海荘の大ホールでは、大勢の男女が集うパーティが催されていた。
一夜限りの相手を物色する享楽的な宴が終わろうとした矢先、ベッドルームで死体が発見! 
被害者は美しい女主人で、左の乳房をえぐられていた。ボーイに変装し潜入していた金田一耕助は駆けつけた警官たちと取り調べを開始する。
だが、事件の裏には大規模な麻薬密売が複雑にからんでいて……。
表題作に「暗闇の中の猫」「睡れる花嫁」を加えた傑作本格推理。

感想・レビュー・書評

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  • 2022年3月に復刊された作品。表題作を含めて3作の中短編が収録されている。どれも華やかな野獣と言わんばかりの女性のしたたかさが伝わる作品群。『暗闇の中の猫』は金田一と等々力警部の出会いを描いた事件なのでファン必見。

    『華やかな野獣』
    臨海荘では月に一度、一夜限りの相手を物色する享楽的なパーティが行われていた。その宴も終わる夜明け頃、女主人・奈々子がベッドルームで殺されているのを発見。その死体はなぜか絞殺後に左の乳房を抉られていた。ある事情から潜入していた金田一は刑事たちと捜査を開始する!

    素顔を隠した男女が秘密の交わりをする宴。華やかな野獣という名にふさわしい奈々子の肉食的な雰囲気。妖艶な霧に巻かれる始まりからは想像できないほど、本格推理仕立てになっていて面白かった。ちぐはぐな被害者の服装、現場の状況、ダイイングメッセージ、消えた白いセーターの男。素顔を見ようとするほどに、真実は仮面で覆い隠されていく。論理的な推理と、男女の愛欲、そこに狂気が混ぜられたスリリングな一夜だった。

    『暗闇の中の猫』
    銀行強盗によって奪われた70万円。二人組らしき犯人はキャバレーとして改装中のビル内で撃たれ、お金は消失。しかし、使われないまま五か月の月日が過ぎた。そんなある時、その舞台となったキャバレー・ランターンで二重殺人事件が発生。警察が張っていた中での驚くべき犯行を解き明かせるのか。

    金田一と等々力警部の初顔合わせ事件!これまた巧みに潜入した金田一の手腕が拝める。命は取り留めたものの、記憶喪失となった犯人の片割れ・佐伯。「暗闇の中に猫がいる!」と謎の言葉を残し、暗闇の中で射殺される。犯人はいかにして彼を狙ったのか。そもそも70万円はどこへ消えたのか。事件が意外な方向へ転がっていき、騒がしかったキャバレーが静まり返るような真実が明かされていく。

    「金田一君……金田一君といったね。君はほんとにこの事件の真相を知ってるというのかね」
    「はあ、知ってるんですよ。警部さん、したがって犯人もちゃんと知ってるんです」
    この飄々とした金田一の言い回しが好き。にこにこ笑いながら事件を解決していく金田一。しかし、そこに哀愁が見え隠れするところが好き。

    『睡れる花嫁』(人面瘡にも収録)
    ある夜に発生した警察官殺し。その舞台は陰惨な歴史を持ったアトリエだった。死んだ妻を部屋で愛し続けた男。その出獄とともに繰り返される事件の真相とは──。

    50ページほどの短編ながら、丁寧に張られた伏線で思わぬ結末を用意してくれるのがさすが。犯人の目星はついたものの、その一段上のサプライズは気づかなかった。事件のグロテスクさと花嫁というキーワードのコントラストが実に不気味。歪んだ人の欲とサガが臭いとして伝わってくる物語。

    「陰惨にして凶悪、凶悪にして不潔」と予告されただけある醜悪さ。それにしても、山内巡査が死亡フラグを立てまくって巡回に出る冒頭が唯一の癒しポイントだったかもしれない。

  • 『華やかな野獣』パーティーで浮きまくる金田一先生が目に浮かぶ。アングラに振り切っていて逆に爽快。
    『暗闇の中の猫』頭脳明晰すぎて孤独な探偵…ではなく、めちゃくちゃ調子に乗っていて割と性格が悪い。年齢による変化も楽しい。
    『睡れる花嫁』この短さで出していい気持ち悪さのレベルを超えてる。が、そこが横溝のいいところ。

  • 華やかな野獣(表題作)は全編通してフルパワーでアングラな雰囲気が漂っており最高だったし金田一の性格悪いとこ出まくってるのも舞台と相俟って最高すぎたのでこういう作品だけ吸ってたいな……になりました。

  • 「華やかな野獣」の描写が凄い。官能的というか、ストレートにエロい。
    「暗闇の中の猫」は、「踊る双生児」の改稿もの。
    「睡れる花嫁」は読後感は良くないけど、好き。

  • 2022/04/10読了

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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