営繕かるかや怪異譚 その弐 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 915
感想 : 74
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041124406

作品紹介・あらすじ

両親と弟が鬼籍に入り、かつて花街だったという古い町並みにある町屋の実家に戻ってきた貴樹。貴樹が書斎として定めた部屋はかつて弟が使っていた部屋だった。何気なく、書棚に立てかけられた鏡をずらしてみると、柱と壁に深い隙間があった。そしてその向こうに芸妓のような三味線を抱えて座るはかなげな着物姿の人影が見えた。その女と弟の死には関係があるかもしれないと探すうちに、貴樹がその女を見ずにはいられなくなり――。(「芙蓉忌」より)
他、「関守」「まつとし聞かば」「魂やどりて」「水の声」「まさくに」の全6篇を収録。
解説は織守きょうや氏。 2019年、第10回 山田風太郎賞最終候補作。

感想・レビュー・書評

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  • いや~、怖かった。ビジュアル的に、夜、一人で思い出しては「怖っっ」となりそうなお話もあって、「おぉ怖、おぉ怖」と思いながら読んだのだけれど、不思議と嫌な気がしないというか、読んで良かったな、楽しめたな、という読了感を味わえたのは、やはり小野不由美さんの作品だからか。

    収録作品は前作と同じく6つ。
    うまく表現できないけれど、なんとなく前作とは違う気がした。
    前作は、起承転結が割とはっきりした6作品が収められていたけれど、今回は様々な毛色の怪異譚だったような・・・

    とくに「芙蓉忌」は他と全く違うと私は思った。怪異に魅せられてしまって、自ら近づこうとして・・・ネタバレになるけれど、ラストも、ずっと手紙が届き続けるなんて、もう一生囚われの身やないかい!と。

    「関守」もまた一味違った。幼い頃の怖い記憶が、実は守られていたんだ、という気づきに変わる。古い町にはありそうな話で、この話の「怪異」自体には、「ほほぅ」と思いながら読めたのだけれど、なんとなく登場人物にしっくりこなかった・・・何か私が読み落としている・・・?そんな気がしてしょうがない。

    「まつとし聞かば」は、ちょっと自分の中で咀嚼して理解できるほどに至らなくて、少し「?」という感想が残ってしまった。

    後半3つは、怪異が何かを伝えようとしている、それを営繕かるかやの尾端が見抜くという共通の展開があり、それまで怖い怖いと思いながら読んでいたところに、尾端が登場して、一気に「は~、これで解決する」とこちらの緊張感が解ける感覚を味わった。尾端さん、頼りになりすぎます。

    ところで、これら短編、全て同じ町を舞台にしているのだろうか。そして、作者の出身である大分県中津市がこの町のモデルって本当だろうか。中津市、もし、観光に行ったらずっとビクビクしそうな、私・・・。

    この「営繕かるかや」シリーズ。怖がりの私でもそんなに嫌いじゃなかった・・・!

  • 癒し系ホラー。営繕屋さん、本作でも頼もしい。前作よりミステリー色が強まった感じ。おぞましい怪異の意外な正体に驚かされる。「水の声」「まさくに」はインパクトがあった。第三弾が出ればまた読みたい。

  • 夏はやっぱり怖い話!
    最後の終わり方がどの短編も余韻を残して終わります。その後が気になるけどちょうどいい塩梅。

    怖い話苦手な私でも読めたよ。
    営繕屋さんがいるからね。安心、安心。

  • 完全解決ではなく、怪異との「折り合い」をつける、その塩梅が今回も絶妙だったなあと。
    初手の話からぞわぞわする終わりだし。
    振り切れるのか、引っ張られるのか、読者側が好きに想像できるのがまたいい。

    イライラしたのは『魂やどりて』
    知らないこと=罪とまでは言わないが、何らかの誠意ははらうべき。
    そりゃ「どうぐ屋」さんにも見捨てられるし、霊的なものに叱られてもやむなし。
    少しは改心してくれるといいけど。

    印象的だったのは『まさくに』
    解説にもあったが、ビジュアル的には一番衝撃的な話。
    一方で、あんな怖い霊的存続を出しておいて、真相の意外性と優しさに心底驚かされるという。
    そうくるかあ!!
    この衝撃は(これも解説にあったが)ぜひ本編を読んで味わって欲しいと思う。

  • 営繕屋、尾端が怪異に悩む人を助ける。
    とは言っても彼は怪異を特別な方法で無くしたりはしない。
    ほんの少し手伝ったり、アドバイスをするだけ。
    物語はバッドエンドにはならない。そこに救われる。
    怖がりだけど、怖すぎるのはダメ、という人にはおすすめしたい。

    だが。
    「まさくに」は非常に怖い物語。
    ぶらぶらとぶら下がっている人の姿も怖いし、血だらけの腹、ぶよぶよとした肉片が…落ちた……。
    これは、仮に自分が目の前にしたら、発狂してもおかしくない。
    そんなめちゃくちゃ怖い物語は思わぬ方向へ。
    いやこれは驚いた。
    まさかまさか、とはこのことだ。
    タイトルが知人の名前と同じ名前で、名前にいい印象を持っていたので、この物語の着地点は嬉しかった。

    「関守」
    幼い頃会ったのは、鬼だったのか?
    作品では断言しない。
    しかし、物語の中で語られる姿は、見た目は恐ろしいが、きっと自分を守ってくれた存在なのだと思わせる。
    しかし一方で、その助けが2度あるとは限らない、ということに戦慄もする。

    尾端は、登場人物の過去に戻って助けたり、あなたには神がついている、なんてことは言わない。
    ただ、事実を述べ、そこから推測される事柄を提示しただけだ。
    だが、それが、伊y、それだけでも救われる心持ちだ。
    それは、尾端の仕事に対する誠実さだとか、人に対しての誠実さの表れなのだろう。

    願わくば私も、仕事や人に対して誠実でありたい。
    それが誰かの支えや助けとなることを希う。

  • 今回も引き続き、工務店の尾端が建物を修繕することにより怪異とともに生活できるようにしていくお話。ただ、尾端には霊能力があるわけではないので祓ったりすることができない。だからこそ、共存、という道を選べるのではあろうけども。

    ただ、今回の短編集の最初の「芙蓉忌」は共存していると言えるのだろうか。主人公は女性の姿が見えなくなり死に誘われることはなくなったが、依然として「会いに来てほしい」というメッセージは受け取ってしまう。これでは、彼の気は回復しないのではないか、とも思った。

    また、過去の何かによって縛られていた自分自身に気づく話も面白かった

  • 小野不由美らしい、情感溢れるホラー作品。
    ホラーなんだけど単純に怖いのではなく、ミステリの要素も古典の雰囲気も備えていて何とも美しいマーブル模様を描いている。
    読後の胸をざわつかせるざらりとした不穏な余韻と、怪異と折り合いを付けられたことに対する安堵の匙加減が流石。

    怪異の部分を読んでいる時は本当に背筋がぞわぞわするし、夜に読んでいたので窓の方を見るのも怖くて、良い歳して…と自分に苦笑いしてしまった。
    そういう怖さの非日常の部分が、尾端が登場して怪異を紐解いてくれた途端に反転する。
    あんなに何を怖がっていたんだろう、と思えるほどに呆気なく「正体見たり枯れ尾花」な気分になる。
    怖さの残り香のような余韻がクセになる。

    きっと他の小野不由美作品と同じように何度も読み返すし、一生手元に残す一冊になると思う。

  • 梅雨時の鬱々とした何とも言えない湿度を感じる時に読みたい一冊。第一巻よりもこちらの巻のほうがかるかやさんの出番が控えめなイメージです。その分、各話の主人公の見ている闇がより暗く、より得体の知れないもののように感じてぞくぞくします。ふと目に入る隙間やくらがりにドキッとする小野不由美先生の筆致がとても好きです。

  • 一巻よりもよりじわじわと這い寄るような怖さのある怪異譚。
    『まつとし聞かば』はぼろっぼろに泣いた。動物を飼ったことのある人にはつらいけどすごく刺さる話だと思う。
    『まさくに』や『水の声』も好きな感じの話だったな。
    『水の声』は大半が語り口調で進んでいくのもおもしろかった。

  • 一巻よりもホラー要素を強く感じましたが、怪異の落とし所が見事。今作も変わらず「折り合いをつける」話がメインです。
    毛色が違ったのは「芙蓉忌」「水の声」でしょうか。

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著者プロフィール

大分県生まれ。1988年作家デビュー。「悪霊」シリーズで人気を得る。91年『魔性の子』に続き、92年『月の影 影の海』を発表、「十二国記」シリーズとなる。十二国記と並行して執筆した『東亰異聞』『屍鬼』『黒祠の島』は、それぞれ伝奇、ホラー、ミステリとして高い評価を受けている。「悪霊」シリーズを大幅リライトし「ゴーストハント」として2010年~11年刊行。『残穢』は第26回山本周五郎賞を受賞。現在も怪談専門誌『幽』で「営繕かるかや怪異譚」を連載中。近刊に『営繕かるかや怪異譚』、文庫版『鬼談百景』。

「2023年 『過ぎる十七の春』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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