エタンプの預言者

  • KADOKAWA (2023年4月24日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784041124963

作品紹介・あらすじ

白人男性65歳、元大学教師。リベラルで、しがらみのないインテリのつもりだった。まちがえた選択をし続けて65年。どうやら私は、社会から取り残されたらしい。

フロール賞受賞のほか、ゴンクール賞、フェミナ賞、ルノードー賞、アカデミー・フランセーズ賞、ジャン・ジオノ賞の6賞候補! 現代社会への痛烈な皮肉を込めた超弩級の注目作!

かつてタレント歴史学者を夢見たロスコフは、落ち目だった。95年に「冷戦下米国のソ連スパイ事件」を巡る書籍を刊行したが、翌日CIAが機密解除、本は一夜にして紙くずに。妻とは離婚し大学を退職、酒浸りだったロスコフは、同性愛者の娘のフェミニストの恋人に刺激され、研究を再開、サルトルやボリス・ヴィアンと親交があったアメリカの詩人・ウィローについての書籍を刊行する。客わずか5人の出版記念トークショーの席上、ロスコフはウィローが黒人であることを記述しなかった理由を問われる。翌朝掲載された匿名のブログ記事が炎上し、ロスコフはレイシストだという非難にさらされる。さらに自分を擁護するツイートに返信したロスコフは、炎上を煽ってしまう。ツイートした知人は、極右政党に入党していたのだ――。

みんなの感想まとめ

現代社会の変化に取り残された元大学教授の苦悩を描いた物語は、文化の多様性や人種問題に対する鋭い視点を提供します。主人公は、自身の過去や特権に無自覚なまま、SNSでの不用意な発言が引き起こす炎上に直面し...

感想・レビュー・書評

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  • 「思うにあなたは、この世界にパラダイムシフトが起こったことを理解していないんじゃないでしょうか」

    これは本文中で、デュトネールという編集者であり、国営ラジオのパーソナリティであり、多数の文芸誌で評論を発表する女性マルチタレントが、主人公ジャン・ロスコフに言った言葉である。この物語では「マッカーシズム」「レイシズム」「文化の盗用」「トランスジェンダー差別」など出てくるのだが、冒頭のセリフに言い表されるように、ロスコフは言ってしまえばやらかしてしまう。つまり、元大学教師の65歳の男性が、社会に取り残されたままなのを自覚せず(受け入れず)に、本を出版して再起を図ったところ、ネットで袋叩きに合う。というものだ。これは、ここまで国際的や社会的なことだけじゃなく、日常や職場でも自分の知識や経験をアップデートできないまま振る舞ってやらかしてしまっている人はいる。というか、自分もこうならないように常に意識していないと、様々な場面でロスコフの二の舞になりかねない。

    作中でロスコフが執筆した本のタイトルは「エタンプの預言者」。アメリカの詩人ロバート・ウィローについて書いたもの。ウィローはサルトルや社会学者エドワード・フランクリン・フレイジャーと親交があったり、W.E.B.デュボイスやマルコムXなど実在の人物たちも物語の中に登場するので非常に現実味がある。正直きちんと知らないことばかりだったので、調べながら読み進めることも多かった。ちなみにこんまりまで出てくる。少し登場しただけだったが、これもアメリカでの実際の出来事とこの物語の内容を重ねて描いていたのだろう。この辺りもちゃんと知らなかった。自分もロスコフと変わらない。

    この物語の中で、ロスコフは今までずっと色々とやらかしてきている。どちらかといえば、全てにおいてやらかしてしまっている。一作目の本の執筆でも真実を見誤った、酔っ払ったままツイートしたりリプライの相手を確かめなかった、娘の恋人である女性から自らの問題に気づくためにくれた本を読まなかった、など怠らなければ避けることができたかもしれないことをことごとくやらかしてしまっている。こういう人いるよね~って思うけど、自分は大丈夫か?と問うことを忘れてはいけないとも思う。

    第八章を読んで、こういうエンディングに向かうのかと思ったが、第九章では、それはそうかと苦笑するしかなかった。ちょっと期待しつつ落胆もしつつ第十章のエピローグでどんな結末を迎えるのかと思ったら、まさかの結末で驚いた。確かにそんなこともちょっと出てきてたけど、そうなるとは思っていなくてびっくり。ロスコフはやっぱりやらかしてる。

  • 「文化の盗用」という言葉について知りたくて、手に取った。
    “80年代に人種差別反対運動に没頭した元大学教授が、退官後に書いた本についての不用意な発言のせいでネットで大炎上して追い詰められていく”というストーリーも、エピローグの取って付けたような種明かしも、正直なところ読んでいて肌が合わない。

    だが、“詩や文学は作者の属性を語らずして理解できるのか?” “普遍主義・個人主義的な価値観は文化の多様性や歴史背景を否定しているのか?” と問いを立てて本書を読むと、むむと考え込まさせられる。
    僕はBLM運動が燃え盛った際に“All Lives Matter”と聞いて、そりゃそうだよなと思った。ベルリンの壁が壊れる瞬間をテレビで見て、これで世界平和が叶ったと思った。相変わらずジョン・レノンの歌を聴くと共感する。
    過ちだとまで自己否定できないが、『頭がお花畑だ』と言われてもムキにはなれないということだろう。
    「インターセクショナリティー」(はじめて知った言葉だ)という概念を前に自分のマジョリティ性を告解したい訳じゃない。ただ自分が属してもおらず、経験したこともない世界のマイノリティについて、今と変わらず本を読もう。できればもう少し謙虚に、そして丁寧に。

  • めっちゃ面白かった。1日半で読んでしまった。こんなペースで読んだのは『正欲』ぶりか。

    世の「パラダイムシフト」を完全に見逃し時代の流れから振り落とされ、それでも過去の輝かしい日々にしがみつき続ける哀しき爺。主人公は「文化の盗用」やら「声の奪取」など、語の意味を説明され、それが指すところを理解できても、本当の意味では自らの行為の重大性がわからない。その理由は、彼が白人ヘテロ男性であり、その属性に自動的に付与される特権に対して完璧に無自覚である点に集約されている。自身がもはや時代に取り残された人間であると悟るタイミング、彼自身が変われたかもしれないタイミング、炎上を抑えられたタイミング…等々、複数回の救済チャンスも悉く無に帰してしまう愚かさに溜息が出た。

    と、同時にこの手の中年〜初老の人間は変わることが恐ろしく難しいのだろうとも思った。息をするように失言をする老政治家や、SNSで知ったように物申す中年男性(らしきアカウント)の像がジョンと重なりあう。何遍言われても、何遍痛い目を見ても変われない。

    とは言いながらも、ジョンや現実世界のジジイらを激しく軽蔑しきれない自分もいる。だって皆等しく老いていく。社会が変わるときに、果たして私も変われるのか?価値観をアップデートできるのか?イエスと言い切れないから、こいつらを哀れな化石だと一蹴することができない。現在、「社会で今起きていることに対してアンテナを張った」、「薄っすらと左寄り」の、「学生」、として、ジョンの悲喜劇的数年は、なんだか完全な他人事には思えなかった。

    コンマリ論(白人男性からまなざされるものとしての)はだいぶ興味深かった。あと掲示板のネット民の書き込みの役が非常に現代的だったのも印象に残った。

  • 序盤「酔っ払った老人の繰り言か」とページがめくる手が進まなくて読むのをやめようと思った人、少し我慢して読み進めよう。事実、人種、性別、価値観が多様化しネットの影響力が甚大になった時代の変化についていけずやらかす老人。属性は今まで最大の覇権を握ってきたインテリ白人男性。やらかしはネットでぼうぼうと燃え、主人公を貶める。人種差別+キャンセルカルチャー。日本はなまじ日本人マジョリティの国として意識が甘く、他のアジアやアフリカを下に見ているが、世界はかくも先鋭的なのだと気付かされる。最後の落とし所がまた鮮やか。
    しかし女性達、娘、元妻、元同僚らは総じて主人公の味方やサポート役であり、ダイバーシティの点ではあと一歩ツメが甘い。作者は写真を見る限り若いものの白人男性。いや見た目で判断してはwokeでないかもしれないが。

  • 面白かった
    社会についていけないおっちゃんのあれやこれや
    私も30年後これになってるかもと恐れ慄きました

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00645240

    かつてタレント歴史学者を夢見たロスコフは、落ち目だった。95年に「冷戦下米国のソ連スパイ事件」を巡る書籍を刊行したが、翌日CIAが機密解除、本は一夜にして紙くずに。妻とは離婚し大学を退職、酒浸りだったロスコフは、同性愛者の娘のフェミニストの恋人に刺激され、研究を再開、サルトルやボリス・ヴィアンと親交があったアメリカの詩人・ウィローについての書籍を刊行する。客わずか5人の出版記念トークショーの席上、ロスコフはウィローが黒人であることを記述しなかった理由を問われる。翌朝掲載された匿名のブログ記事が炎上し、ロスコフはレイシストだという非難にさらされる。さらに自分を擁護するツイートに返信したロスコフは、炎上を煽ってしまう。ツイートした知人は、極右政党に入党していたのだ――。
    (出版社HPより)

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著者プロフィール

弁護士で作家。2019年に小説デビュー。デビュー作にてゴンクール賞のロングリスト入りを果たしたほか、ゴンクール賞処女小説賞ではショートリスト入り。本作が2作目だが、ゴンクール賞、フェミナ賞、ルノードー賞、フロール賞、アカデミー・フランセーズ小説賞、ジャン・ジオノ賞6賞の候補となり、フロール賞を受賞し、注目を浴びている。

「2023年 『エタンプの預言者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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