毒の矢 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 63
感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041126035

作品紹介・あらすじ

高級住宅街緑ヶ丘町一帯に、突然、悪意に満ちた奇怪な密告状が舞い込み始めた。差出人は黄金の矢と名乗る謎の人物。はじめは、たちの悪いイタズラと笑い過していた人々も、殺人事件が起こるにいたり、たちまち恐怖のどん底に叩き落された。被害者はアメリカ帰りの富裕な未亡人で、むき出しの背中に彫られたトランプ散らしの刺青のうちハートのクイーンの部分を、無気味なからす羽根の矢が深々と刺し貫いていた! 金田一耕助の名推理が冴える奇怪ミステリーの傑作、ほか一篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 横溝正史復刊シリーズの一冊。表題作と『黒い翼』の二作が収録。どちらも緑ヶ丘で起きた事件。醜聞をまき散らす密告状の謎を解く『毒の矢』、その後に発生した『黒い翼』というタイトル通りの不幸の手紙を軸に、女優の不審死に迫る事件と、秘密がテーマになった二作品。

    『毒の矢』
    高級住宅街である緑ヶ丘に醜聞を告発する密告状が飛び交い始めた。差出人は黄金の矢と名乗る人物。その黄金の矢について驚くべきことを発表しようとした的場奈津子は殺されてしまう。彼女は背中に彫られた13枚のトランプの刺青のうち、ハートのクイーンを刺し貫かれていて──。

    敗戦を契機に元から居た住人が没落、売り払った屋敷に新しい住人が住み始めた緑ヶ丘。後から来た人物は経歴もよくわからない人間も多い。そんな緑ヶ丘に放たれた醜聞はまさに毒。混乱を招く黄金の矢騒動は殺人事件まで引き起こしていく。首を絞めた後、トランプの刺青を矢で貫くという意味深な殺し方。謎が謎を呼ぶ展開の中、住人への聞き取りで隠された関係性が明らかになっていく。暴露された醜聞から始まった物語が、事件も人間関係も奇麗にほどけて終わるのがよかった。暴露が犯人へ返っていくのも痛快。

    また、地の文でユーモアを添えて笑わせてくれる面も。
    「ふかし饅頭のようにかわいくふとった島田警部補は、子羊のような感じのするやさしいまなざしを、微笑とともに耕助のほうへ向ける。」
    この描写が何とも癖になる。ふかし饅頭で人を喩えたのは初めて見た(笑)
    金田一が興奮した時にもじゃもじゃ頭をかき回す様子を「あまり上品なくせとはいえないね」と急にフレンドリーに綴ってあるのも好き。

    『黒い翼』
    世界中を渡った幸運の手紙を真似た黒い翼。墨で染められたハガキに、光る鉛筆で書かれたのは、七人の人間に送らなければ秘密の暴露か流血沙汰が起きるというものだった。その波は芸能界にも押し寄せる。一年前に発生した女優・藤田蓉子の不審死。その一周忌にも妖しげな雰囲気が漂っていて──。

    引き続き緑ヶ丘が舞台&時系列も続きになった作品。いわゆる不幸の手紙がテーマになっている。実際に流行したのは1970年頃なので、こちらの方が早いのかな?送り先に芸能人が選ばれて大量に届くというのは実際にありそうだよね。その不気味な黒い翼を背景に、1年前に発生した蓉子の不審死、さらに現在に起きる毒殺事件が描かれていく。

    「ぼく、金田一耕助です」
    この一言の破壊力たるや。「ぼく、ドラえもんです」レベルの貫禄で登場するシーンに思わず笑ってしまった。それにしても、誰にも秘密にしておきたいものはある。それを暴き立てて金を絞る悪魔もいれば、託された秘密を心に留めることで相手を守ろうとする人もいる。秘密を白にするのも黒にするのもそれを手にする者しだい。その秘密を暴く宿命にある探偵とはなんて因果で孤高な職業なのだろう。毒の矢とは一転、ほろ苦いエンドが印象深い。

  • 『毒の矢』孫の方は犯人に同情の余地があるけど、本家のじっちゃんはまるでない。ただのクズ。しかもクズの方向に頭が回る。あんなに得意気で憎たらしい犯人に比べて、追い詰める時も余裕綽々の金田一先生はかっこいい。
    『黒い翼』金田一版「不幸の手紙」。偶然真犯人を引き当てる構図は『百日紅の下にて』と同じ。本筋とはあまり関係ないけど、「どのような誠意も通じないような性質の娘は、とてもこの世に生きていけそうにない」の冷たく突き放す一文が刺さった。

  • 「毒の矢」の犯人に対する嫌悪感はなかなかのものだけど、ボンちゃんのおかげで読後感は良い。
    「黒い翼」も嫌な感じ。

  • 横溝正史の「団地/住宅地の匿名の悪意」みたいな話は良い

  • 2022/04/29読了

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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