スワン (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.65
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  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 500
感想 : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041127575

作品紹介・あらすじ

ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃事件が発生した。死傷者40名に迫る大惨事を生き延びた高校生のいずみは、同じ事件の被害者で同級生の小梢から、保身のために人質を見捨てたことを暴露される。被害者から一転して非難の的になったいずみのもとに、ある日一通の招待状が届いた。5人の事件関係者が集められた「お茶会」の目的は、残された謎の解明だというが……。文学賞2冠を果たした、慟哭必至のミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • ショッピングモールで発生した凄惨な事件、巻き込まれた被害者たちの更なる悲劇に耐えられるか #スワン

    ■あらすじ
    ショッピングモールで発生した凄惨な事件。
    後日、事件に巻き込まれた被害者たちが集められ、不確かだった謎について解明していく。隠された真相は被害者たちにどんな結果をもたらすのか…

    ■レビュー
    先生は扱うテーマや切り口が魅力的で、ついつい本を手に取ってしまいますね。今回もモールを舞台にしたテロ事件なんて、なんて衝撃的なんでしょう!
    さらに題名にある「スワン」の世界観が素晴らしく、殺戮劇、犯人、被害者を芸術的に作品全体をまとめていて素敵です。

    本作、一見するとテロ自体が本筋に見えますが、実はそうではありません。事件後の被害者や関係者の内なる吐露、葛藤が読みどころになります。

    どんなに考えても割り切れない思い、繰り返し思い悩んしまう気持ちが胸に刺さります。特に被害者となった女子高生の苦悩は、もし自らが同じ立場だったらどうするか… もはや考えたくもありません。

    事件の真相も切なく、どんな思いで課題を乗り越え、これからを前向きに生きていくか。そしてラストは胸が苦しくなりましたが、美しくもありました。

    ■推しポイント
    どんなに悲痛で難しい選択にも関わらず、何も知らない奴は正義感たっぷりにバッシングする。人がある判断をした時、どういう環境下や条件だったのか、リアルに考えることができない。

    本作では人をなじるときの悪意、受け止めなければいけない生贄の辛辣さが強烈に描かれていました。

    世間である「いじめの問題」と似ていますね。欧米では、いじめが発生したときは、いじめている側に主たる問題があるとされます。いじめっ子側がカウンセリングされるのです。

    「人に歩み寄る、寄り添う」という思いやりは何処に行ったのでしょうか。
    私は人の愚弄するよりも、人を笑顔にしたいです。

  • 昨年夏の文庫で、発売直後にどなたかのレビューを見て「読みたい」に入れていたが、ようやく購入。

    ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃事件が発生。
    高校生のいずみは犯人と接しながらも事件を生き延びたが、同じ事件の被害者で同級生の小梢の告発によって被害者から一転、非難の的となる。
    そんな彼女のもとに一通の招待状が届く。事件に巻き込まれ生き残った5人の関係者が集められた「お茶会」。その目的は、事件の中の一つの「死」の真相を明らかにすることというのだが…というところから展開するお話。

    冒頭から時間を区切って事件とその様々な関係者を描く文章は緊迫感を孕んでテンポも良く、一転、事件後の喧騒を引きずる中で集められた「お茶会」では、誰もが大なり小なりの嘘を吐いていることが匂わされる中でのやり取りが緊張感をもって描かれ、こちらにも惹き込まれる。
    追い詰められた状況での人間の心理や行動、それに対する今となってはの後悔や開き直りなどがつぶさに描かれる、よく出来たお話で、少しずつ真実が露わにされていく後半に行くに従ってズンズンと読まされてしまった。
    一方、そこまで引っ張られてきた割には最後に明かされた真実とそれに対するけりのつけ方が出来過ぎのように感じられて、私にはあまり迫ってくるものがなかったのがやや残念。
    冒頭の事件が物語のお膳立てとしてしか使われなかったのも、なんだかもったいない気がした。

  • 郊外にある大型ショッピングモールで起こった無差別大量殺人事件。
    その場に居合わせ、生き残った者の中から選ばれた5名の男女は、被害者の一人である資産家の高齢女性の死の経緯を明らかにするために集められる。
    進行役の弁護士徳下からは破格の参加費とボーナスが支払われると説明されるが、参加者はいずれも何かしらの秘密を抱えている様子でなかなか真実は見えてこない。
    主人公のいずみは特に多くの人が殺害されたスカイラウンジの生き残り。犯人から『殺す人間を選べ』と命令され、最後まで無傷で生き残った。その経緯が誤った形で世間の知るところとなり、日本中から大バッシングを浴びていた。

    女性の死の真相を明らかにするという目的で集められ、それに応じ参加しているはずなのに、ある者は偽名を語り、ある者は覚えていないととぼけ、嘘をつき、なかなか真実を語ろうとしない。
    序盤は事件発生時にスワンで何が起き、そこにこの人たちがどう関わっているのか、全く先が読めずどんどん引き込まれた。
    『お茶会』と呼ばれるその会合を重ねるうちに、少しずつ色々な真実の欠片が見え始めてくると、先が知りたくて読むのを止められなかった。

    結末は途中から『この人なんだろうな…』と予想が付いてしまって少し残念だったけれど、いずみを始め生き残った人たちの抱える心の傷についてはとても丁寧に描かれていて、そっちの物語の方が読み応えがあった。
    無差別殺人の現場において他人よりも自分の身を守ることの方を優先させてしまうのは仕方のないことだと思う。その場にいなかった人たちがあとから生き残った人を非難するのはあまりに非情すぎる。

    生き残った者が感じてしまうというサバイバーズギルト。『自分があの時こうしていれば』『自分があんなことをしなければ』……『あの人は殺されなかったのかもしれない』
    その罪悪感を生き残った者たちは皆抱えていた。
    いずみも小梢も、双海も、『お茶会』の参加者たちも。

    なんて重い傷なんだろう。
    それを乗り越え前を向くことはできる。でも記憶は消えない。ふとした拍子によみがえり、心を痛めつけられることだろう。本当に恐ろしい。

  • 呉勝浩『スワン』角川文庫。

    この青森県出身作家には、ずっと裏切られ続けている。評判の割りには面白くない作品ばかりなのだ。余りにも裏切られるので、一時読むのを止めたのだが、この作品の前評判の高さに恐る恐る手に取った。

    完璧という訳ではないが、評判通りの面白さだ。これまでの呉勝浩の作品の中ではベストではないかと思う。

    埼玉県のショッピングモール『スワン』で起きた死傷者40名に迫る無差別銃撃事件。2人の犯人は使い捨ての自作拳銃を用いて、手当たり次第にショッピングモールの客を銃撃し、最後に2人とも自殺したのだ。勿論、創作による架空の事件なのだが、最近起きた元総理大臣の銃撃殺人事件でも犯人は自作の銃を用いており、こうした事件は現実に起こり得る可能性がある。

    事件現場に居合わせ、犯人と対峙しながら辛くも生き延びた高校生の片岡いずみは、同じ事件の被害者で同級生の古館小梢から、いずみが保身のために人質を見捨てたことを暴露される。

    事件のショックから高校にも通えなくなったいずみに5人の事件関係者を集めた『お茶会』への参加を促す招待状が届く。

    次第に明らかになる事件の裏に隠されていた真相……

    犯人自殺により完結したはずの事件に裏に隠されていた謎を解き明かすという意外とも言えるストーリーが面白い。メインストーリーではなく、サブストーリーの方が表になるというパターンには驚いた。

    本体価格800円
    ★★★★★

  • '22年11月16日、読了。呉勝浩さんの小説、「爆弾」に続き、二作目。

    夕木春央さんの「方舟」で、苦労しながらも久々に紙の本が読めて…勇気と感謝(大袈裟か!)を持って、僕にとっての呉さんの二作目、で、紙の本に、再アタック!

    いやぁ…凄い!素晴らしい!うたれました!

    「爆弾」にも出てきますが…「他人」であること、その「気軽な、悪意」とでもいうのかな…ズッシリきました。
    僕には、登場人物中、「白衣の先生」が一番「他人」に思えました。僕とも、よく似てるかな…ちょっと、吐き気…。

    チャイコの「白鳥の湖」が効果的、象徴的に使われていて、最後に主人公がモールで踊るシーン、眼に見えているようで…グッときました。美しいシーンだったな…。

    呉勝浩さん、大好きになってしまった!でも…ちょっとハード過ぎますಥ⁠‿⁠ಥ少し、休憩…

  • そこまで叩かれることなのかと感じてしまいました。
    それよりも小梢が悲劇のヒロインになっていることの方が強く不快でした。

    「悪ということになる」

  • 大型ショッピングモールで起きた無差別殺人。死者21名となった惨劇の実行犯2人はカメラ付きのゴーグルを装着し、反抗をリアルタイムにてネットへ配信。殺戮行為に及んだのち反抗現場にてそれぞれ自害。
    パニック状況の中、人は被害者でありまた状況によっては加害者にもなりうる。
    マスコミやSNSの怖さ、他人事であることの無責任の怖さ、究極の選択肢を迫られる怖さ、司法の怖さ、保身を見破られ暴かれる怖さ…そんな怖さが詰まった心理を揺さぶる一冊。

    何が正しくて何が間違っていたのか…考えたところで起きてしまった事実は変えられない。

    ーー犯人が悪いじゃいけないの?

    多分、これが答えなのだろうと思う。
    だけど、それでは心の折り合いをつけられない人たちがいる。

    とは言え少々じれったい…遠回りというか先延ばしすぎというか中弛みというか若干の飽きは否めない。

    同級生のいづみと小梢
    2人の関係性についてどう決着がつくのだろうと思っていたけれど、長い告白が終わったあとも、私には小梢の気持ちが分からないままだった。

    今年の32冊目

  • 大きな器が用意されていて、パズル的なミステリーかと思ったが、やや違う方面が主題だったようだ。極限状況での自分の行動の責任を、自分の中で、どのように整理するべきなのか、そしてそれは、自分が預かり知らないところで外から語られてしまう「ストーリー」との間で、どういう軋轢を生むのか・・ということが中心か。

  • 4月8日の日曜日
    ショッピングモール「スワン」
    丹羽、大竹、中井により
    無差別銃撃事件が発生する
    死傷者40名

    その年の10月
    5人の生き残った事件関係者が集められた「お茶会」が開かれた
    高校生のいずみも招待され
    事件のことを聞かれる
    お茶会は被害者の菊乃の最期の謎を明かすためだったが、、、

    残酷な事件後に明かされていく真実
    隠された悲しい真実
    突然起きた残虐な現実に
    人は冷静な判断ができるのか

    マスメディアは現実の1部のみをとりあげ
    それを知るものは独自の判断と脚色をする

    真実は1つ
    白か黒か
    それだけが問題ではない
    たまに真実が白が黒に黒が白に変わることがあるのだ

  • ●きっかけ
    「爆弾」の作者。
    まだ文庫版出てないから気になってた他の作品を手に取る。
    ●感想
    面白かった、、、
    サバイバーズギルド、バタフライエフェクトなどなど。
    単純に真実は何だったのか知りたい気持ちとそれだけじゃ無い、心の底に沈澱する重たい何かを感じながら読む。
    SNSとかメディアによる自分勝手なバッシングは然もありなん。自分が何気なくニュースで見て抱いている感想とは全然違うドラマや葛藤が現場ではあったのかも知れないと考えさせられる。

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著者プロフィール

1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。現在、大阪府大阪市在住。2015年、『道徳の時間』で、第61回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。18年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞受賞、同年『ライオン・ブルー』で第31回山本周五郎賞候補、19年『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』で第72回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補、20年『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞受賞、同作は第73回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)も受賞し、第162回直木賞候補ともなった。21年『おれたちの歌をうたえ』で第165回直木賞候補。他に『ロスト』『蜃気楼の犬』『マトリョーシカ・ブラッド』などがある。

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