- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041128152
作品紹介・あらすじ
雑踏で賑わう吉祥寺駅前で、金田一耕助と等々力警部が、一人の青年を見張っていた。やがて、動き出した青年を等々力警部が尾行し、金田一は、見当をつけていた現場へ先廻りすることになった。青年は、一年前に不可解な事件に巻き込まれて失った記憶を取り戻そうとしていた。その事件の鍵を握る謎の女は、彼の瞳の中だけに存在するのである。今ようやく、事件の全貌が明らかにされようとしていた…。(瞳の中の女) 一篇ごとに趣向を凝らした、金田一耕助異色の事件簿。
感想・レビュー・書評
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「週刊東京」に断続的に発表された「女」シリーズを一冊にまとめた短編集。金田一耕助が直面する女にまつわる11編の事件たち。各40ページほどでサクサクと読み進められる。
以下、各話の感想を。
『霧の中の女』
宝飾店「たから屋」で発生した強盗殺人事件。スカーフの女は濃霧の中へ足取りを消した。後日、無関係かと思われた殺人事件現場に、盗まれたはずのイヤリングが落ちていて──。
二回目の殺人はシリーズを読んでいるとにやりとできるシチュエーション。関連が見えない二つの事件を繋ぐもの。霧が晴れた後の真相を思い浮かべるとなんともシュール。
『洞(ほら)の中の女』
キャバレー経営者・日疋隆介が売りに出した家を買った小説家の根岸昌二。その家のケヤキの洞。セメントで埋められたそこから髪の毛が一本生えていて──。
家を買ってこの仕打ち。セメントから髪とかホラーすぎる事故物件。小説家の買った家が小説よりも奇なりというのが皮肉。
『鏡の中の女』
鏡に映った男女の会話をリップリーディングしたら、殺人計画のことを話していた?!そのことを知った金田一のもとに、まさにその内容と同じ事件が飛び込んでくる!しかし、死んだのは計画していた女の方で──。
栄養満点夫人というキーワードが強すぎる(笑) 鏡の中の女よりインパクトあるっていう。読唇術から始まる殺人、しかも計画者が計画通りに殺されるという導入も上手い。
『傘の中の女』
金田一が近くで寝ているとも知らず、甘いロマンスを囁いていた海岸のビーチパラソルの男女。しかし、いつの間にかパラソルの中にいた女が殺されていて──。
被害者を発見した時の「どうわかく踏んでも三十五より下ではないだろうと思われる大年増だった。」は辛辣すぎる(笑) 傘が作り出す死角と影が活きた短編。これもトリックがわかるとなんともシュール。
『鞄の中の女』
金田一の事務所にかかってきた電話。車のトランクから石膏像の脚が覗いていた事件について相談したいという。車の持ち主のアトリエを訪れると、そこには石膏像と抱き合うように女性の死体があって──。
テープレコーダーを使う金田一が新鮮。ほんの些細な違和感が、人と石膏像ほどの大きな違いを導き出す。鍵穴から覗いて見えるものに碌なものはない(笑)
『夢の中の女』
パチンコ店の看板娘・本多美禰子が姉の殺害現場と同じ場所で殺された。しかも、そこへ呼び出した手紙には金田一耕助の名前があって──。
姉・田鶴子が殺された3年前の事件をなぞらえるように起きた事件。夢見る夢子さんと呼ばれた空想家の美禰子がなぜ殺されたのか。オチがストンと決まって気持ちいい一作。
『泥の中の女』
立花ヤス子が迷い込んだ作家・川崎龍二の離れ。そこにはなんと女性の死体があった!警官に知らせて戻るも、そこには何の異常もなくて──。死体はどこへ消えたのか?そこにいたレインコートの女は何者だったのか?
短い中にも入り組んだ人間模様を泥のように詰め込んだ作品。死体が忽然と消えた導入も面白いし、川で見つかった死体が別人というのも興味をそそる。ラストのあの人の泥の吐き方も滑稽。
『柩の中の女』
古垣敏雄が造った石膏像に似せた壺をもつ女。その中にはなんと古垣の元妻・和子の死体が塗りこめられていて──。
石膏像に死体と言えば乱歩の『地獄の道化師』を思い出す。不可解な状況と容疑者の失踪。柩の中に閉じ込めた謎が開かれた時のゾッとする感じがいい。
『瞳の中の女』
記憶喪失になった新聞記者・杉田弘の記憶に残る女。彼を殴ったのは誰なのか。記憶を取り戻す足取りを金田一たちは追いかける。
記憶を巡る旅から見えてくる事件という導入にワクワクする。記憶が紐解かれても新たな謎が現れる。ラストが駆け足だったけどいい話…だったのかなあ?杉田が激動の人生すぎる。
『檻の中の女』
濃霧の中、鈴の音とともに川を流れてきたのは檻に入れられた女だった!彼女を囲っていた男も血だまりを残して行方不明になり──。
幻想的で猟奇的なシーンから始まる物語。読者も檻に閉じ込められたような閉塞感が続いて、その余韻はラスト後も続く。自由を手にしようとした先に見たのは檻だったのだろうか。
『赤の中の女』
海岸にあるホテルでの奇妙な再会。「あなたの奥さんは結婚詐欺の常習犯だ」という告発文が届いた後、榊原史郎の妻・恒子は真っ赤なワンピースを着たままで殺されていた。さらに殺人は続き──。
この話が一番好きだった。人間関係のもつれとトリックが奇麗に噛み合っていて気持ちいい。それにしても、真っ赤な装いの恒子を「赤い水着に赤いケープ、しかも、帽子まで真っ赤なので、まるでホオズキの化け物が歩いているようだ。」は辛辣すぎて笑っちゃう。時々こういうのあるよね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
長編の時はあまり思わなかったけど
短編をまとめて読んでみると
金田一さんも痴情のもつれ系が多いなぁ。
「孫」も「動機はほぼ復讐」だけど。
『霧の中の女』『洞の中の女』
『泥の中の女』『棺の中の女』のように
警察から協力を頼まれることが
事件に関わるパターンのようです。
『傘の中の女』『鞄の中の女』
『夢の中の女』などで犯人に利用されたり
『瞳の中の女』や『檻の中の女』では
謎は解けたけど犯人は
(ある意味)取り逃しちゃったり。
『鏡の中の女』の事件も
防げたっぽいのがモヤっとする。
トリックは王道のおもしろさなのですが。
『赤の中の女』が
後妻業ネタのようでびっくり。
時代を先取りだ。 -
短編集。
やや物足りない感じもするけど、どの作品も面白い。
「鏡の中の女」は犯人と動機が凄い。
「夢の中の女」の最後の一言が可愛い。
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1957(昭和32)年から1958(昭和33)年にかけて発表されたもの。
もちろん、表題は『シャーロック・ホームズの冒険』をもじっているが、さらに、各話のタイトルは「○○の中の女」と統一されている。
11編入っており、各話は短い。そのため、かなり大急ぎで書いているという感が強い。特に最後の謎解きの部分は切り詰められすぎていて、言い漏らしが多々あり、「え? アレはどうだったの?」などと戸惑わされてしまう。
横溝正史の語りの巧さはやはり卓越したものがあるし、アイディアもよく練って書いてあるようだが、やはり中編以上、ある程度の長さがあった方が充実していて面白いかもしれない。
ミステリ短編としては、世界的巨匠と比べるのもなんだが、ディクスン・カーの方が数段上だと思った。 -
「ーーの女」で統一された短編集。
40ページ程度の短さで、おどろおどろしい感じは物足りないものの、人間のえぐさはしっかり味わえる。長編も読み慣れているともっと闇が欲しい気もするけど、入門にはいいかも。 -
2022/06/17読了
著者プロフィール
横溝正史の作品





