- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041146163
作品紹介・あらすじ
京都の下鴨神社近くにある親戚宅で暮らす春宮萌子(はるみや もえこ)は、平凡な高校1年生。
幼い頃は、不思議なものが視えたり、人の心の声が何でも聞こえてしまうことに苦しめられていたが、強い力を持つ美貌の幼馴染・賀茂理龍(かも りりょう)と出逢い、彼に救われた。
今は理解ある場所や友人にも恵まれ、大学生となった理龍を「生き神様」と崇め、彼を“推し活”する平和な日々を送っている。
そんな萌子の許には、ときどき「神様のいそうろう」という不思議な存在がやってくる。
彼らは、動物たちの体を借りて現世を見学しにきた神様や神使たちのことで、理龍と萌子は、彼らの困り事の解決や願いを叶える手助けをしている。
新たに萌子の許にやってきたのは、つがいのモルモットに入った神様。
けれど、2匹(2柱)は、自分たちが本当は何者で、何のために現世にやってきたのか記憶を失ってしまっていた。
さらに、「都七福神」を祀る神社仏閣から、それぞれ七福神たちが消えてしまうという事件が起きて……!?
感想・レビュー・書評
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あなたは、『視える人』でしょうか?
(*˙ᵕ˙*)え?
科学技術が発達した現代社会。かつて摩訶不思議と言われていた事ごとも冷静にその現象が証明される時代にもなりました。そういえば、かつて摩訶不思議のひとつとされてきた”火の玉を見た”というような話もついぞ聞かなくなったように思います。しかし、もちろんこの世は科学技術だけで説明できるものではありません。
この世が科学技術ですべて説明できるなら、誰も『どうか夢を叶えてください』と神社にお参りに行ったりはしないでしょう。そうです。わたしたちは、『神様』という存在を信じているからこそそんな存在に頼ろうとするのだと思います。では、あなたはそんな存在を視たことがあるでしょうか?そんな存在が『視える人』でしょうか?
さてここに、『強い霊感』によって『視える人』と呼ばれる一人の女子高生が主人公となる物語があります。『神様』が当たり前に登場するこの作品。そんな『神様』が愛おしくもなるこの作品。そしてそれは、望月麻衣さんが綴られる”新たな京都ファンタジー”な物語です。
『「平凡なわたし」というところに、まず赤字を入れるわ』と『目の前の友人・三善絵磨(みよし えま)』に『手記』を見られて『何を言いますか、この「平凡の代表」のようなわたしをつかまえて』と返すのは主人公の春宮萌子(はるみや もえこ)。『「平凡の代表」は、幽霊視えたりしないよ』と絵磨に言われて『一瞬、言葉に詰ま』る萌子ですが『でも、うちの学校には多いじゃん。「視える人」』と気を取り直します。『京都市北区上賀茂にある「学徳学園」という私立学校』に通う萌子ですが、『この学園においては、霊感の強い人は「視える人」と呼ばれて』います。『小学二年の頃に関東からやってきて、学徳学園のフリースクールに入った』萌子は、やがて『普通クラスに移り、そのまま今年の春、高等部へ進学し』ました。『萌子が書こうとしているのは、小説?』と絵磨に訊かれ、『自分の人生』を『記録として残しておきたいと思って』と答える萌子。そんな時、『きゃあ、という黄色い声が湧き上が』ります。『入口に目を向けると、そこには幼馴染の賀茂理龍の姿があ』りました。『艶のある黒髪、白い肌、すらりと高い背、完璧に整った顔立ち』という理龍は『即座に老若男女の視線を集め』ます。『学園の王子様といっても過言ではな』い理龍は『大学部の三回生』です。『相変わらず、眩しいねぇ。若様は…』と『しみじみとささやく』絵磨、『今日も神だわ、理龍様…』と『熱っぽく洩ら』す萌子。そんな二人の元に『おはよう、二人とも』とやってきた理龍は、『萌子に話が』あると話し出します。そんな中、『私、職員室に用事あるの思い出した…』と絵磨は場を後にします。『「萌子が理龍に恋をしている」と勘違いしている』と絵磨を思う萌子は『うーん、と唸って眉間に皺を寄せ』ます。『もちろん、萌子は、理龍が好きだ。並々ならぬ強い想いを寄せている。だが、それは「恋」ではない』と思う萌子は、理龍と『初めて出逢ったときに、「神様だ」と思ってしまった感覚が』抜けない今を思います。『現代に当てはめると、「推し」といったところだろうか』とその感覚を文字にする萌子。そんな萌子に『久々、君のところに「お客様」が来られたとか』と切り出した理龍は『僕も会いたいから、紹介してもらってもいいかな?』と話します。『もちろん』と答える萌子に『良かった』と『花が咲くように微笑』むと、『それじゃあ放課後』と教室を後にした理龍。残された萌子は『春宮さん、賀茂先輩と知り合いだったの?』、『どういう関係?』とクラスメイトたちに詰め寄られます。
場面は変わり、『お邪魔します』と『かも動物病院』という看板のかかる並びに建つ洋館へと入る理龍。そして、萌子の案内で襖の前までやってくると『こんにちは、入ってもよろしいでしょうか』と襖に向かって問いかける理龍。その時、『襖の向こうが光った気がした』と『強いエネルギーを感じ』て息を呑む萌子。『良いぞ』という声に『そっと襖を開けると、小さな座布団が二つ並んでいて、その上にもふもふのモルモットが二匹、ちょこんと座って』います。『理龍くん、彼らは神使?それとも神様?』と訊く萌子に首を傾げる理龍は『どちらとも判断がつかないかな。今、彼らはモルモットの中に入れられているので、力が随分と抑制されている』と答えます。そんな『理龍を見て、大きく目を見開いた』モルモットは、『おお、そなたは仲間ではないか』、『あなたは無事、転生を済ませたのですね』と、『前のめり』に語ります。『はじめまして、賀茂理龍と申します…』と挨拶する理龍は『今回どのような経緯で人の世界に降り立たれたのでしょうか?』と訊くと『それが、よく覚えていないのだ』と語りはじめたモルモット。萌子と理龍の前に現れたモルモット姿の「神様のいそうろう」がこの世界に降り立った理由を探し求める摩訶不思議な物語が描かれていきます。
“2024年8月23日に刊行された望月麻衣さんの最新作でもあるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、2024年5月に伊吹有喜さん「娘が巣立つ朝」、6月には汐見夏衛さん「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。Another」、そして7月には町田そのこさん「わたしの知る花」と、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを毎月一冊を目標に行ってきました。そんな中に、北海道に生まれ、移り住まれた京都の街をその魅力たっぷりに綴られていく望月麻衣さんの新作が出ることを知り、これは読まねば!と発売日早々この作品を手にしました。
そんなこの作品の裏表紙にはこんな内容紹介が記されています。少し長めですが引用しましょう。
“京都の下鴨の親戚宅で暮らす春宮萌子は高校1年生。幼い頃、強い霊感に苦しんでいたが、不思議な力を持つ美貌の幼馴染・理龍に救われた。それ以来、理龍は萌子の〈神〉となり、今は大学生の彼を〈推す〉毎日だ。そんなある日、萌子はつがいのモルモットに入った神様と出逢う。彼らは動物の体を借り、現世を見にきた「神様のいそうろう」だが、記憶を失っているらしい。萌子は理龍と、彼らを助けることに。心ときめく京都の不思議物語!”
いかがでしょうか?『強い霊感』、『神様と出逢う』、そして『動物の体を借り、現世を見にきた』という”ザ・ファンタジー”といった面持ち全開の記述に、人によってはそういうの興味ないです!という方もいらっしゃいそうです。しかし、この作品の作者はあの「満月珈琲店の星詠み」の望月麻衣さんであることを忘れてはなりません。確かに”ザ・ファンタジー”ではありますが、そこにはさまざまな要素を上手くブレンドした絶妙な物語が展開していくのです。そう、こんなところで毛嫌いして遠ざけてしまうのはあまりにもったいないと思います。
ということで、この作品の魅力を上手くお伝えできればと思います。まずおすすめしたい点は”ザ・リアル”に描かれていく『京都』の街の描写です。作者の望月さんは北海道出身でいらっしゃいますが、京都に移り住まれ、2016年には、そんな『京都』の街の魅力たっぷりに描かれた「京都寺町三条のホームズ」で第4回京都本大賞を受賞されていらっしゃいます。そして、この作品ももう全編に渡って『京都』の魅力に満ち溢れています。では、幾つか見てみましょう。『ねっ、八坂神社へ行こうか』と向かう先の描写です。
『地下のバスターミナルから、京都市営バス206号系統(清水寺・京都駅方面行き)に乗車すると、約三十分で「祇園」というバス停に着く。そこが最寄りであり、目の前が八坂神社の入口だ』
…とやってきた目の前には、
『四条通の東の突き当たりにある朱色の西楼門をくぐると、石段の両脇にはたくさんの露店が並んでいるのが見えた。「賑やかね。今日は、お祭りなのかしら?」母は楽しそうに話していたが、八坂神社は一年中、縁日の様相を呈している』。
そうなんだ、なるほど、と賑やかな『八坂神社』の光景が目の前に浮かんできます。次は『貴船神社』へとまいりましょう。
『貴船神社は下から本宮、中社、奥宮と山に向かって並んでいて、これらを詣るのを「三社詣り」と呼ぶそうだよ。けど、詣り方としては、本宮、奥宮、中社の順が公式のオススメみたいだから、その通りに詣ろうか』
なんだか小説とガイドブックが一体化したような雰囲気も感じます。しかし、小説の良いところはあくまで登場人物の目線で展開するところです。
『「総本社 貴船神社」という石碑と朱色の鳥居が見える。その向こうには石段が続き、左右にずらりと鳥居と同じ色の灯籠が並んでいる。「おお、ここが貴船神社…」、「相変わらず、雰囲気あるよね」』
読者が登場人物に感情移入すればするほどに登場人物たちが巡る『京都』の街を自分たちも一緒に巡っているような気分にさせてくれます。この作品ではさらにこんな表現も登場します。
『①右手で柄杓を取って、水を汲み、左手にかける。
②柄杓を左手に持ち替えて、右手に水をかける。
…
⑤最後に柄杓を垂直にし、残った水で柄の部分を清める』。
これはなんでしょうか?はい、『手水舎(ちょうずや)』で『手と口を清める』順番について記された箇所です。物語では、萌子が絵磨に『一連の流れ』を説明する体で自然とそんな豆知識が記されてもいるのです。『京都』を舞台にした作品を書かれる方は他にもいらっしゃいますが望月麻衣さんの作品はその中でもピカイチだと改めて思いました。
次は”ザ・ファンタジー”の側面です。まず大前提ですが、この作品を読まれる方は、『神様』は当たり前にいる存在だということに異を挟んではいけません。そもそも主人公の萌子は『父の死』をきっかけに『強い霊感が発現した』『視える人』という位置付けです。物語では、そんな萌子の元に「神様のいそうろう」というモルモットが二体現れます。この「神様のいそうろう」という発想自体が強烈です。
● 「神様のいそうろう」が発生するまで
・基本的に死んだ人間は、再び人の子として生まれてくる、時に人にうんと愛され、賢く徳の高い愛玩動物が人の子として生まれることもある
↓
・この星の人の数が雪だるま式に増えている
↓
・まだ練度の足りない粗暴な動物の魂が人の子として生まれてきている
↓
・人間世界に悪影響…
↓
・高天原は、神使や神に、人に転生するよう促し始めている
↓
・その様子を見に現世の動物の体の中に入って、とりあえず、現世の見学に来た
→ 「神様のいそうろう」
…という考え方が提示されます。なんだか妙に納得させられてもしまいますが、この先に『神様』がモルモットに扮した姿で登場していくのがこの作品の強烈なところです。そうです。『神様』はいるのか、いないのかと言っている場合ではありません。もしかしたら、あなたの横であなたをじっと見ている猫や犬にも『神様』が『いそうろう』しているかもしれません(笑)。物語はそんな風に『神様』を身近に扱っていきますので、こんな興味深い記述も登場します。『神様』は『私たちが一生懸命お願いをしても、叶えてくれないってこと?』と訊く絵磨に理龍はこんな風に答えます。
『神様によるんだけど、「どうか叶えてください」と一生懸命お願いをしている姿が微笑ましくて、つい「がんばっているんですねぇ」って優しい気持ちで見守ってしまう感じになることが多いというか。優先順位として、先にお礼を言ったきた方に行ってしまいがちというか…』
そういうものなのか、なるほど…となんだか説得されてしまいそうにもなりますが、とにかくこの作品では『神様』は当たり前に存在していて、かつとても身近な存在、それぞれハッキリした違いを持った個性豊かな存在として登場します。
そして、この作品は〈あとがき〉にこんなことが書かれています。
“本作、「京都下鴨 神様のいそうろう」は「わが家は祇園の拝み屋さん」で活躍した小春と澪人の息子、賀茂理龍を主軸に置いたお話です”
なんと、望月さんの人気シリーズで16巻まで刊行された「わが家は祇園の拝み屋さん」の次に来るのがこの作品であり、それは新しく始まるシリーズであることを意味もしています。同シリーズ以上に”ザ・ファンタジー”感に満ち溢れるこの作品。これは読むしかないですね!
以上述べてきたように『京都』の街のリアルな描写と『神様』が闊歩するファンタジーな描写の魅力に溢れるこの作品ですが、そんな物語の主人公は一人の女子高生でもある春宮萌子の日常が描かれていく物語でもあります。『小学二年の頃に関東からやってきて、学徳学園のフリースクールに入った』という過去には何かがあったことが匂わされてもいます。物語では、そんな萌子の今までの経緯が詳細に語られてもいきます。そこには、『強い霊感』を持ち『視える人』とされる萌子のちょっと変わった日常が描かれていきます。そんな萌子の気になる存在として位置付けられるのが大学生の賀茂理龍です。そんな理龍を『推し』と位置付ける萌子ですが、物語ではそのキュン♡とした関係性も読みどころのひとつです。
『これは平凡なわたし、春宮萌子が美しい生き神様をただひたすらに推す…もとい、前世の記憶と不思議な力を持つ美しい青年・賀茂理龍と神様を尊むものがたり』
そんな風に語られるこの作品。そこには、望月さんの新たな人気シリーズになるであろう予感をひしひしと感じる物語が描かれていました。『京都』の魅力たっぷりに描かれていくこの作品。『神様』という存在が身近な存在に思えてくるこの作品。
新たな人気シリーズの幕開けを、発売日当日に堪能することのできた喜び。望月さんの物語作りの上手さを改めて感じた作品でした。 -
萌子は幼い頃に理龍に救われて以来理龍が推しになった。
萌子が推す気持ちも分かったりととても不思議でホッコリもして読みやすかった。
ぜひ二弾も読みたいなぁ -
神様たちがモルモットの中にいそうろうしているのが可愛くて癒される。理龍様も素敵すぎる。
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今までの恋愛とかそうゆうのとかとちょっと違う感じ
自称モブ子の萌子が可愛くてイイ
理龍を生き神扱いしてたり推し活したりと結構面白い関係だ
これは次巻も楽しみだ -
拝み屋さんのシリーズの小春と澪人の子供が見れるとは思いませんでした。
強い霊感に苦しめられた萌子が京都で救われたのも何かの運命を感じました。幼馴染・理龍は掴み所のない感じがしますが、理龍が萌子に対しての想いが人並みになるのか楽しみです。
モブだと思ってる萌子が全くモブになりきれない所も魅力ですね。 -
本編を読む前に登場人物紹介のページを見て懐かしい名前に読む前からワクワクしました。前シリーズから設定が引き継がれてて、それぞれちゃんと一緒にいるんだと安心しました。シリーズ化して欲しいな。
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望月麻衣さんの作品は、京都のことや神様の事など、本当に色々と勉強になります。「わが家は祇園の拝み屋さん」に続くお話でとても楽しく拝読させていただきました。続編にも期待です。
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拝み屋さんシリーズから読んでいる私は理龍君がまっすぐに育ってくれていて嬉しい限りです!
「推し」とか出てきて、時代だなぁと思いました。 -
2025.02.21
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望月さんの新シリーズ。「拝み屋さん」の小春ちゃんと澪人君の息子が大学生になっててビックリ。萌子は望月さんの他の作品と同じくネガティブ志向の傾向があるが、それも最後に今後を期待させる記述があるので、続編が楽しみです
著者プロフィール
望月麻衣の作品






はい、読んでいる時から京都に行きたくなる作品でした。一方で「ぼくは明日…」は京都を描いた傑作ですよね。第3回京都本大賞を受...
はい、読んでいる時から京都に行きたくなる作品でした。一方で「ぼくは明日…」は京都を描いた傑作ですよね。第3回京都本大賞を受賞してもいるのも凄いです。ところで、なおなおさんに教えていただいた”タグ”作りを地道に進めています。「京都」が好きな方へ、というものも作りました。なんと現時点で14冊にもなりました。小説での旅も良いですよね!
だいぶ増えましたよね。
そしてネーミングセンスが素晴...
だいぶ増えましたよね。
そしてネーミングセンスが素晴らしすぎます。
私なんて、「#舞台は〇〇」しか思い浮かびません。
ちなみに私のタグは相変わらずめちゃくちゃですが、表紙に着目し、#表紙が雨模様、#表紙が雪景色…なども新たに設け、楽しんでおります。
ネーミングはChat GPTと一緒に考えました。
さてさてさんに一つ連絡。先日ある短編集を読んだのですが、その中の一話に偶然タイムトラベル物があったのです。このような発掘は嬉しいものです。こちらもタイム屋文庫に入れます。
これからも京都や鎌倉など色んな所、はたまた時空の旅を楽しみまーす。
ありがとうございます。
毎週ブックリストを更新していますが、そちら同様、何か捻りを効かせられないかと“タグ”についてもず...
ありがとうございます。
毎週ブックリストを更新していますが、そちら同様、何か捻りを効かせられないかと“タグ”についてもずっと思案してます。あ、もちろん、お仕事はきちんとしてますよ。仕事中に、いいアイデアが浮かんだ!とメモを取ったりしているわけじゃないですから(汗)まあ、たまには、ボソボソ…。
ところで、新たな”タイム屋文庫”を見つけられたんですね。そうなんですよ。短編集って結構穴ではないかと思ったりします。これはもう宝探しの世界ですね!
“タイム屋文庫”チェーンの一員として、なおなお店の動向には絶えず注視させていただきます!