一番の恋人

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  • KADOKAWA (2024年5月31日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784041147900

作品紹介・あらすじ

道沢一番という名前は、「何事にも一番になれるように」という父の願いで付けられた。
重荷に感じたこともあったが、父には感謝している。「男らしく生きろ」という父の期待に応えることで一番の人生はうまくいってきたからだ。
しかし二年の交際を経て恋人の千凪にプロポーズしたところ、彼女の返事は「好きだけど、愛したことは一度もない」だった――。
千凪はアロマンティック・アセクシャル(他人に恋愛感情も性的欲求も抱くことがない性質)で、長年、恋愛ができないが故に「普通」の人生を送れないことに悩み、もがいていたのだった。
千凪への思いを捨てられない一番と、普通になりたい千凪。恋愛感情では結ばれない二人にとっての愛の形とは。

みんなの感想まとめ

恋愛感情や性的欲求を抱かないアロマンティック・アセクシャルの千凪と、彼女に想いを寄せる一番の物語は、異なる性質を持つ二人の関係性を深く掘り下げています。千凪は、周囲の期待と自分の感情との間で葛藤しなが...

感想・レビュー・書評

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  • 神崎千凪29歳は母や結婚している妹の美波と別れて一人暮らしを始め、偶然知り合った2歳年下の超イケメンの道沢一番、「番ちゃん」と半同棲しています。

    一番の両親にせっつかれ千凪は一番の実家に行き「結婚を前提に付き合っているんですよね」と言われます。

    しかし千凪には誰にも言っていない秘密がありました。
    千凪は誰のことも好きにならず性的欲求のない、アロマンティックアセクシャルだったのです。

    追いつめられた千凪は一番にだけ秘密を打ち明け、それでも千凪が好きだという一番と偽装結婚することにしますが、1カ月半で二人は別れることになってしまいます。性的指向が違う二人はやっぱり上手くいかないのか…?




    これは性欲を素材にした人と人との思いやりの物語だと思いました。
    一番と千凪の話を聞いた人が「めっちゃ愛」と言いますが、確かにこれこそが本当の愛だと思う場面がありました。
    最後の一番のセリフはやっぱりそれで締めるんだなあと、二人の関係をよく表したものでした。

  • 性的マイノリティ「アロマンティック・アセクシャル」ー恋愛感情も性的欲求も抱く事ができない性質ー を主題とした、作品

    男性は、父親に“一番”と名付けられ、幼児期から男性性を強く求められてきた
    大人になってもそれは続いていた
    珍しく父息子関係の毒親系でしょうか
    女性は、友人達の恋愛感情と自分の感覚との距離に思春期から違和感を持っていた
    誰も恋愛的に好きになれない

    そんな二人が 知り合い寄り添って生きたいと思う 普通の幸せを望む周囲にも応えたい
    それが二人にとっての幸福なのか
    朝井リョウさんの「正欲」ほど厳しさはないけど
    こちらのカップルは、恋愛にならなくても 労りあえる様な別の種類の愛情がある
    二人の関係性の帰着どころは良いなと思いました
    ストーリーとしては、ちょっと反復が多いかな

    • 1Q84O1さん
      最近はこのような性的マイノリティを扱う作品も増えてきている気がしますね
      (あまり読んだことはないですけど…)
      最近はこのような性的マイノリティを扱う作品も増えてきている気がしますね
      (あまり読んだことはないですけど…)
      2024/06/22
    • bmakiさん
      今日ちょうどテレビで見てまして、気になっていた作品でした。もう読まれていたんですねー。
      ★×3かぁ。。。

      結婚って、別に愛情要らなく...
      今日ちょうどテレビで見てまして、気になっていた作品でした。もう読まれていたんですねー。
      ★×3かぁ。。。

      結婚って、別に愛情要らなくないですかね?
      変に恋愛感情ない方がうまくいくような( ̄▽ ̄)
      2024/06/22
    • おびのりさん
      他の皆さんはもっと評価高いですから、ご安心してお読みください笑

      で、そうなのよ
      恋愛感情を持てないという性質は、辛いだろうと理解できるのだ...
      他の皆さんはもっと評価高いですから、ご安心してお読みください笑

      で、そうなのよ
      恋愛感情を持てないという性質は、辛いだろうと理解できるのだけど、
      現実的には 結婚って 恋愛感情どころか 逆の感情でも! できたりするじゃないかなって
      みんな何かしらの計算で最後は決めるでしょ

      最近の性的マイノリティの問題って
      こういう本人にも非がない感じだと同情的で
      ちょっと異常な性癖だと 犯罪者になるんだよね

      この方の作品は、視点が新しいというところは、
      面白いと思うのです

      ストーリーはね、挑戦してるなって
      展開が、遅い感じ
      2024/06/22
  •  アロマンティック・アセクシャルとは、恋愛感情も性的欲求も抱くことがない性質のこと、または、その性質を持つ人を表す言葉。

     一番くんの恋人、千凪(ちなぎ)ちゃんはアロマンティック・アセクシャルで、このお話はこのふたりの関係のお話です。
     キミジマさんの小説は、男女の身体が入れ替わってしまった高校生だったり、時間を止めることができる能力を持つ男の子だったり、このお話の千凪ちゃんだったり、少し特殊な人が主人公で登場してきます。

     まず、わたしがキミジマさんの小説で好きなところは、普通の生活風景が細かく描かれているところです。温度や湿度、匂いや空気感まで伝わってくるようなリアルな描写が小説世界の雰囲気を新鮮に伝えます。
     そんなリアルな生活現場に登場人物を置くことによって、主人公たちの稀有な存在感や立場や痛みがリアルに際立って、読者は登場人物の存在を認め、その心情を本気で想像しなければいけなくなります。前の2作品と異なり、アロマンティック・アセクシャルの人たちは現実社会に一定数存在する人たちですから、なおのことです。

     いわゆるマイノリティと言われる人たちは、単純に絶対数が少ないせいか、マイノリティ当人の当たり前が、マジョリティの人たちに通じないことがあります。その齟齬がマイノリティの生きづらさとなり、キミジマ作品の肝になっています。

     程度の差こそあれ、個々人は何らかの点で異なっています。世代、性別、門地、教育、職業、趣味・趣向、専門分野、もちろん遺伝子。それら諸々の組合せの総体が一人の個人です。互いに折り合いをつけながら差し障りなく暮らしていければ良いのですが、理解が及ばなくて様々な葛藤が生じます。それが小説のネタになります。葛藤の組合せがストーリーの原動力となり、変化が時系列を生み出します。キミジマ作品のような特殊な人たちのお話は、葛藤をデフォルメして見えやすくしていると言えるかもしれません。

     マイノリティの人たちが主人公になることで、その葛藤が世に広く伝わって、相互理解が深まるキッカケとなれば素晴らしいと思います。アロマンティック・アセクシャルは、趣味のように自分で選んで行うことではなく、変えられない性質だからです。

     キミジマ作品は、わたしにいろいろなことを考えさせます。ご興味持たれましたら、機会のある時にどうぞ。

    • きたごやたろうさん
      またまた私の本棚に「いいね」をありがとうございます。
      この本は、私の必殺「タイトル買・借」です笑!
      またまた私の本棚に「いいね」をありがとうございます。
      この本は、私の必殺「タイトル買・借」です笑!
      2024/12/01
  • 大人の恋愛小説とあったが、私には、青年が父親からの固定概念から卒業する話しでした。

    個人的には、恋愛の内容や恋人の事を理解してもらう動くところ(本書のテーマ的な)より、
    父親の呪縛のようなものに、反発するシーンがとても良かったです。

    ただ、性行為の描写が多いので、合う合わない人が多いと思います。

  • デビュー作の「君の顔では泣けない」の独創的な設定から描く世界観が好きで、気になっていた作家さんの新作ということで手を取りました。性的マイノリティを題材に、愛情とか恋愛について考えさせられる作品だったと思いました。

    今回は、自分であらすじを書くよりも、Amazonの要約が上手くまとまっているので、そちらを引用させていただきます。

    道沢一番という名前は、「何事にも一番になれるように」という父の願いで付けられた。
    「男らしく生きろ」という父の期待に応えることで一番の人生はうまくいってきたからだ。
    しかし二年の交際を経て恋人の千凪にプロポーズしたところ、彼女の返事は「好きだけど、愛したことは一度もない」だった――。
    千凪はアロマンティック・アセクシャル(他人に恋愛感情も性的欲求も抱くことがない性質)で、長年、恋愛ができないが故に「普通」の人生を送れないことに悩み、もがいていたのだった。
    千凪への思いを捨てられない一番と、普通になりたい千凪。恋愛感情では結ばれない二人にとっての愛の形とは。

    本作では一番と千凪の視点から描写され物語が進みますが、それぞれの葛藤がとても印象的でした。アセクシャルアロマンティックである千凪の、人を好きになるという行為が当たり前とされる世の中で、恋愛ができず普通になりたいと願う苦しみも、恋人の苦悩を思い、恋人としての振る舞いを自重するようになる一番の葛藤もすごく印象的でした。

    読んでる最中は2人の葛藤と苦痛に心が打ちひしがれそうになりますが、それでも2人が選んだ結末は素晴らしいものだったなと思うとともに、優しい気持ちになる作品だったと思います。

  • アロマンティック·アセクシュアルがテーマの物語…最近、多くなってきたなと思う。
    これを言ってしまうと元も子もないのだけど、人を好きになれない自覚がありながら、ここまで自分のことを好きにならせてしまうのは、さすがに罪深い気がした。
    だって、結婚しようかっていうタイミングでカミングアウトされたって、どうしたらいいの?
    でも、それでも千凪を大切にしてくれる一番君。あなたはすごい!

  • 自分の嫌だと思うことは相手にもしちゃいけない、を越えたときは話してほしい。心の優しい人が誰かを傷つけていることが辛い。

  • 20260213読了
    最近読書関係のyoutubeを漁りすぎていて、どのCHで紹介されていたか忘れてしまった(ホンタメかな?)のだが、あらすじと感想を聞いて読んでみたいなと思い借りてきた、はじめましての作家さん。
    テーマは「アロマンティック・アセクシャル」
    ・プロポーズの翌日、2年間付き合ってきた彼女から、「愛してない。愛してると思ったことは、今までに一度もない」という言葉を伝えられた―。
    ばんちゃん(一番)にとっては、これまで二人で築いてきた日々、これからも永遠に続くと思っていた幸せが突然崩れ落ちたような感覚かもしれないが、私はどちらかというと千凪の安堵(これまで大事なことを伏せてきたことに対する罪悪感からの解放と、もう苦しまなくていいんだという解放)が混ざった心境に共感を覚えた(女性だからというのもあるかな)
    ・一番は自分の育ってきた家庭(特に父親・兄との関係性)と"男らしさ"の考え方に対する葛藤が、千凪にはアロマ・アセクの葛藤がそれぞれあり、互いに共感はしあえなくても、相手を思いやり、尊重することはできる。その関係がまさにSans Couleurの陣内のいう"愛"だなと私も思う。
    ・千凪にとっては、自分のセクシャルマイノリティに対する葛藤だけでなく、家族との関係、世間体等、いろいろな重荷があり、どの道を選択しても完璧な幸せにはたどり着けないというのが、悲しい現実だなと思う。一方で、これはセクシャルマイノリティに限らず、病気を抱える人、コンプレックスを抱える人、心身ともに健康な人ですら、家族・友人・会社等からの賛同を得られなければ、同じように完璧な幸せというものは訪れないというのが行きつくところで、だからこそ、そういった反対の目を押し切ってでも、自分の幸せを一番に願って、大切にしてくれる人がこの世にひとりでもいるということこそが、何よりも尊いことであり、素直に感謝しつつ幸せをかみしめられればいいのかなと思う
    (一方で、今同時読みしている香山リカの「しがみつかない生き方」の"恋愛にすべてを捧げない"という考え方が手本になる基本的なスタンスだと思うので、あくまで、自分を大切にしてくれる人が現れた時には素直に幸せを受け止める、くらいの姿勢が大事だなと思う)

  • 恋愛感情も性的欲求も抱けない人との恋。子供がそんな人を恋人に。自分や自分の子供がその立場なら。さあ、どう感じて、どう動くか。なかなか、正解が分からないテーマ。

  • 一番というのは主人公の名前である。恋人であったはずの千凪がアロマティックアセクシャルで、恋愛感情も性的欲求もないことを知り、混乱しつつ苦悩する。千凪の方も、自分が人を愛せないことに不安を感じていたが、アロマアセクという存在を知って、大きく視点が変わることになる。
    息子に一番とかいう名前を付けた(兄は勝利)父親。その価値観を何一つ疑うことなく、ただ評価されることだけを求めて努力し、すくすく育った一番は、その時点で微妙ではある。その彼が千凪のアロマアセクを受け入れようとするのは、大変な決心だと思うが、これはこれで彼の負担の方が大きすぎるような気もする。彼らがそのままの関係を維持するのはきっと難しい。この先もずっと何らかの選択をしながら生きていくことになるだろうと思う。より良い道が見えてくるといいなと思う。何が良いのかはわからないけれど‥

    君島彼方さんが女性作家であるようなイメージを、どうしても受けてしまう。偏見と言うしかないかもしれないのだけれど‥

  • この本を読んでアロマンティック、アセクシャルという言葉を初めて知りました。
    他人から見れば、幸せには見えないかもしれないけど、一番と千凪が出した答えは尊いなぁと思いました。こんなに深く考えながら読んだ恋愛作品は初めてで、良い物語に出会えて嬉しいです。
    デビュー作も買ってあるので読みたいと思います。

  • アロマンティック•アセクシュアルについての作品はこれが2作目でした。


    一番が父親の呪縛から逃げ出して、自分の道を生きる決断をすることが大きかったです。

    幸せの形も愛の形も人それぞれ。
    好きだけど愛していない、難しいですね。

    一緒に穏やかな日常を送ることが理想の夫婦のかたちに思えるけれど、それだけでは結婚はできないと感じます。
    普通でいることも普通のことじゃないですよね。


    Is it love to consider another person’s happiness?
    There are many shapes of love in this world.

  • 初めての君嶋さん、よかったです。
    性的マイノリティの男女について描いた作品。一気読みでした。

    恋人である一番と千凪の当たり前にある日常が心地よかった。他愛ないやりとりにホッとして幸せを感じました。
    そんな日常が一変する出来事。
    そこからの二人の日々が、それぞれの視点で交互に描かれていて、「この後二人はどうなるのか」と気になり、夢中で読み耽りました。

    以前、他作家さんの作品で知った、
    「アロマンティック」「アセクシャル」という性的嗜好を表す言葉が本作でも出てきました。
    カミングアウトする側、される側。
    当事者にしかわからない葛藤や苦悩。

    いろいろな生き方や選択がある、多様性がどうとか言っても、現実的にマイノリティということでやっぱり居心地の悪い場面は多いし、無理をするのは苦行だろうなと思った。

    自分に対する不信感や空虚感、未来への不安。
    千凪に感情移入したら苦しくて苦しくて…。
    でも一番だって、これまでも、これからのことを考えても苦しい。

    どちらも幸せになって欲しい、と思いながら読んでいました。
    二人とも、相手を思いやり、理解して何とか共にありたいと模索するのが良かった。
    一番ちょっと見直しました。
    タイトルもいい。

    今日は月がキレイに見えてて、作品のシーンと重なりました。
    君嶋さん、他作品も楽しみ。
    少しずつ読み進めていきたいと思います。

     以前読んだアロマンティック、アセクシャルについて描かれた小説を参考までに。
    「恋せぬふたり」  吉田恵里香

  • #読了 #一番の恋人 #君嶋彼方
    一番という名前は「何事も一番になれるように」と父が付けた。父の期待に応えることでうまく行ってきたのだが、恋人の千凪にプロポーズしたとき、「好きだけど、愛したことは一度もない」との返事にショックを受ける…
    アロマアセクのお話。父親がモラハラすぎて閉口。

  • これまで読んだ中でも突出して切ない恋愛小説でした。

    二人を引き離す要因として、病気だとか家庭事情だとかがよくあるパターンですが、本作はまったく異なる角度から攻めていて新鮮でした。(具体的に書きたいけどネタバレが・・・)

    平凡思考の自分には、このような恋愛ハードルは想像もおよばずに共感は無いのですが、それだけに没入して読めました。

  • 恋愛感情だけを見れば一方通行だけど、愛は誰もが持てるものなのだと気付かされました。
    一番の父親も「男らしい生き方」という教育で結果的に一番を苦しめたけど、それも我が子に対する愛なんだろうなと。
    どちらかというと一番と千凪の話がメインではあるのですが、家族の描写が特に印象に残りました。

  • 色んな恋愛というか、人との関わり方があるのねぇ。
    アロマンティックアセクシャル。
    それ自体を否定とかはしないけど、その人が好きで一緒に暮らすなんて辛くてキツイなぁ。
    別れるのも地獄だし一緒に暮らすのも地獄な気がする。
    好きなのに触れられない。キツイなぁ。
    一番のお父さんみたいな人多いんだろうな。
    男やめたくなると思うのはわかる気がする

  • アロマンティック・アセクシャル(異性に対して恋愛感情を持たない特徴)の彼女と、それを知った上でも結婚を選らんだ彼氏のお話。

    自分自身もおそらくアロマンティック・アセクシャルに当てはまるのだと思う。
    異性と他愛もない話をして楽しい、このままずっと一緒にいたいとは思うが、それ以上望むことはない。

    愛の形は様々と言うけれど、この彼氏の父親のように、「普通に」お互いに恋愛的に愛し合って結婚して、家庭を持つのが一番の幸せという考え方もまったく理解できないわけではない。

    彼の場合も、幼少期から父親のその考えに影響を受けて、自分だけが一方的に恋愛的に愛している相手と結婚して良いのかという葛藤があった。
    最終的には父親に受け入れられなくとも、彼女と一緒にいるという選択をした。
    彼がそれをできたのは、一度別れることも含めて実体験を通して、どんな形であれ、彼女と過ごすことが一番の幸せだと思えたから。

    自分自身に関しては、必ずしも彼と同じような選択をすることが幸せかどうかはまだわからない。
    今の時点で言えることは、どんな選択にしても、世間一般の普通の幸せというものに影響を受けすぎず、自分の体験を通して一番幸せな選択をしたいということ。

  • 恋愛至上主義という言葉があります。
    どちらかといえば自分もそちら側の人間だったので、「人を好きになれない」という気持ちについては理解し難いというのが本音の部分ではあります。しかし、それなりに年齢を重ねて人生の折り返し地点を迎えると色恋では語れない愛の形について気づく機会も増えてきました。

    それは例えば地元愛だったり、愛社精神のものだったりしますし、自分が親になってみたことで自分の親も含めた家族愛というものの姿も朧げながら津見えてくるようになりました。

    本作は恋愛と結婚に明確な線引きがされています。時代にそぐわない価値観と現代らしい恋愛観が入り混じり、その渦中に身を置く主人公・道沢一番と恋人である神崎千凪の想いが交差しながら物語は進みます。

    一番は「男らしく」あることを父親から厳しく躾けられ(また押し付けられ)、自分もまた「男らしく」ある価値観の呪縛に囚われています。愛する恋人と結婚し家族を持つこと、それこそが一人前の男であると信じて疑いません。そこには真っ直ぐで強い愛があります。自分が選んだ女性を愛し、また自分も愛されること。そしてお互いに認め合い、助け合って生きていくこと。それが正しいと信じて疑いません。そう、疑うべき余地がないのです。僕もまた異を唱えられないことに気が付きます。

    千凪はひたむきな一番の愛に戸惑う自分に追い詰められます。そして彼女は自分がアロマンティック・アセクシャルであることを自覚します。一番のことは好きだが愛ではない。世間一般の「普通」でありたい千凪は一番に契約結婚を持ちかけます。これはさすがに酷です。

    僕は自分が典型的な男性であるからか、一番の苦悩が手に取るようにわかります。一番は衝動を抑えきれず、千凪はそれを無抵抗に受け入れようとする。この屈辱と悔しさと悲しさは筆舌に尽くし難く、読んでいてとても心が苦しい場面でした。一番はきっと心のどこかで「本当は千凪も自分のことを心のどこかで愛してくれているのではないだろうか」という淡い期待があったと思うのです。その想いが完膚なきまでに叩きのめされたのです。

    二人が別れ、それぞれに失った心の穴が埋まらない生活が訪れます。一番はそれでもやはり千凪と生きていきたいと願い、父親からの呪縛から逃れる決意をします。兄・勝利が本当の意味で一番の理解者でした。僕には同性の兄弟がいませんが、もし分かり合えることがあるとすれば、お互いに良い人生を歩んでほしいと願うこととその手助けをすることなのだろうなと感じます。勝利、一番、それぞれの立場で誰と共に生きたいのかについて考えることは自分自身の人生を振り返るきっかけにもなりました。

    一方、やはり姉妹である千凪は一番との別れを通して妹と分かり合えることができないこと、また母親への秘めた想いも吐露することになります。誰かの幸せを願うことが愛だとすれば、この物語の登場人物はみんな愛に溢れています。

    うまくいかないかもしれない、答えは見つけ出せないかもしれない。
    それでも一番と千凪は「恋人」として共にいることを選びます。
    二人はかけがえのない存在であり、人生のパートナーであることをしっかりと自覚します。苦しいことが少しでも楽になれるような道を一緒に探せばいいのです。この二人ならきっとそれができると信じたくなります。

    単行本の帯にはこうあります。
    「読み終わった後、むしょうに誰かに優しくしたくなる。」

    僕もまた自分の大切な人たちのことを思います。
    幸せのかたちに「でなければならない」ことなどありません。
    あなたの大好きな人が、あなたのことも大好きでいてくれますように。

  • 個人的に最近いち推しの作家さん。今回はアロマンティックアセクシャルの女性と、男性性に縛られる男性の物語。
    "普通"になりたくて自分を愛してくれる人を利用したと自覚する千凪、自分の愛する人がマイノリティだと知って受け入れられない一番、息子2人に理想の男性像を押し付ける父、どの人物の言動も自分に心当たりがあるから刺さる。この人たちは自分とは違う、間違っている、と非難できるほど完璧な人間はいないだろう。狡いところも弱いところも誰にでもあると思うから。
    アロマンティックだからといって、人に拒絶されても平気なわけじゃない、孤独が平気なわけじゃない。自分を理解して受け入れてくれる場所を必要としているんだよね。"愛"には恋愛だけじゃなくて親子愛や兄弟、友人への愛もある。千凪も一番も、曲がりなりにも親から愛情を注いで育てられたと感じているからこそ、理解してほしいと思うんだろうな。「この世界に、二人だけなら良かった」という言葉が切なくて涙がでた。
    みんなに理解してもらい祝福されてハッピーエンドのお話ではないけれど、それこそが現実だし、2人はこれからも葛藤しながら、お互いの幸せを模索しながら、一緒に生きていくんだろうな。この作品を読んで、自分の周りの人を自分の不用意な言葉で傷付けてしまうことだけはしないようにしようと強く思いました。読んで良かった!

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著者プロフィール

1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説野性時代新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。

「2022年 『夜がうたた寝してる間に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

君嶋彼方の作品

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