死神公女フリージアは、さよならを知らない (1) (角川スニーカー文庫)

  • KADOKAWA (2024年10月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (248ページ) / ISBN・EAN: 9784041153161

作品紹介・あらすじ

「私は人が生き抜いた末の『死』が観たい。その果てに、なにが遺るのかを」
『死』を学ぶためだけに現世を旅をする死神がいる。死神公女フリージア・トルストイ・ドルシュヴィーア。
 異世界の中でも高位な存在であり、現世の『死』を知りたいと願った彼女は、付き人である少年、《人の死期がわかる》異能を持つ黒朗夏目と、様々な人間の『死』を看取る旅をする。
 寿命という概念と無縁だから、人間と親しくなったことがないから気付かなかった、抗いようのない一つの事実。
 彼女がそのことに気付く、その刻まで――旅は続く。

感想・レビュー・書評

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  • おとぎ話と現代劇が手を取りあって、死の先を追いかける“おはなし”です。

    題名の繰り返しになるかもしれませんが、これは表紙を単独で飾る“彼女”のための物語です。
    すなわち、異世界から現代日本にやってきた可憐な死神「フリージア・(以下略)」様が、死の間際にある人間の死を看取るさまを描いていく連作短編集となっております。
    それと並行し、お仕えする主人に淡々と敬意は払うようでいて、言うは言う従者の「黒朗夏目(コクロー)」の視点も主軸とします。従者の目からフリージア様の一挙手一投足を追いかけるのです。

    全体としては軽くミステリ仕立てですがコメディ色も強く、あとがきで作者の「綾里けいし」先生がおっしゃっている通り「ヒューマンドラマ」というのが一番ジャンルを定義する上で近いのかもしれません。

    それと一応警鐘を鳴らしておきますと、テーマの「死」自体には茶化し抜き(※一部例外あり)で向き合っていく重い作品だったりします。なので冒頭をはじめ随所に挟まれる、軽快でユーモラスな主従トークに癒されながら読み進めていくのが正解なのでしょう。

    くわえて作風について補足しておくと、綾里先生の得意とされる、美醜が同居する凄惨な描写は鳴りを潜めている印象でした。ですがそれ以外の作者の持ち味はしっかり出せていました。描くべきことは一巻の分量でほぼ描き切っています。よって作者に予備知識のない方にもおススメできる逸品なのです。

    時に、異世界という話と絡みますが「異世界転生」だの「異世界転移」だの、異世界と地球が接触したことによって巻き起こるアレコレは一過性の流行りを通り越し、創作の一ジャンルになって久しい昨今ですね。
    ただ、今回は作者「綾里けいし」先生の代表作のひとつ『異世界拷問姫』のように異世界から地球のなにかしらを呼び込むパターンではありません。この場合はもっとワールドワイドなケースとなっています。

    本作では世界同士がつながってしまいました。すなわち社会と社会、異文化間の衝突がキモです。
    事実、幻想の住人と地球人との間で生じる軋轢はさまざまな形で作中に示唆されています。フリージア様は日本国政府との約定に基づき自制的に振る舞うので、主人公の立場ではあまり問題になりませんけどね。

    よって、作品の背景で繰り広げられるあれやこれやが気になるは気になるんですが、それ以上にフリージア様が追い求めるミニマムな死の探求活動に目を奪われるというのが正直なところでした。
    そういわしめるくらいに、表紙と題名をそっくり占めるフリージア様の存在感が絶大だったので。

    ちなみに剣と魔法でファンタジーな異世界についての講義は時々フリージア様の口から出ています。
    けれど、どちらかといえば前述のおもしろトークを彩る要素として垣間見せる形になっているのが特徴でしょうか。クライマックスシーンの一歩前の演出として機能しているので無駄にはなってませんけど。

    そんなわけで、この作品の「死神」はそっくりそのまま「死」の概念が擬人化してなぜだか現世に降り立った謎の超越種族という定義となるようです。
    そのわりにフリージア様は事あるごとに盛大な食いっぷりを披露して、場の空気をぶっ壊しまくりむしろマイペースで周囲を染め上げる達人なのですが……。

    そしてフリージア様は見た目通りに秀麗で不遜な方ですが、あまり周囲を見下す姿勢は取らずに自然体です。極めてあるがまま振る舞っています。文字通り人でなしですが、人情と洒脱を解する方でもあります。
    周囲との折衝役でもあるコクロ―のツッコミにも助けられてか、俗っぽさの方が先立ち親しみやすい。
    つまり綾里先生の得意とする男女の凸凹な掛け合いてなもので、これぞ綾里節! というヤツなのですね。

    と。なんだか長々と語ってしまいました。個々の話についてはネタバレを避けて端的に述べてみます。
    やってくる短編、その一本一本の核心の果てには一筋の希望が遺されていたり、あるいは救いようがなかったり、もしくはコメントのしようがなかったり、それとも「死」とは真実との重ね合わせだったりと――。

    知っていてもなお、死に抗わず結末をそっくりそのまま受け入れるというスタンスに物語は支配されます。「死」という現象に等しいのに人のように振る舞い感情をあらわとする、そんなフリージア様に突き刺さるのです。
    ミステリ的に読み解けば結果を知っていても、過程は不確定という物語の要素につながって考察のし甲斐があるんですけどね。まぁ、このレビューではそのことは脇に置いておくとしましょう。

    ゆえに表紙や題名からすれば薄々は悟れるだろう、ある事実が牙をむくわけです。
    「死」という絶対の概念相手にやはり何もできずに傍観し続けていた読者、我々にも刺さるのです。
    知っていても避けられないタイトル回収は、涙の有無を抜きにしてもきっと心を突き抜けるはずです。

    だからこそ、それに立て続くとばかりの怒涛のラストが劇的だったのですよ。
    出し惜しみは抜きといわんばかり、淡々としてるようで、確かなうねりを演出するラストまでの流れが圧巻でした。フリージア様の内面とリンクして、世界を塗り変えてくれましたから。

    以上。
    まとめとしましては、本作はサラッと読める連作短編です。だけど微笑みも悲しみも交互にやってきます。
    けれど、その悲しみを表に出すまでの物語かと思いきや、最後は微笑みで迎え入れてくれました。
    ……超絶力技でしたけど、確かに「死神」という言霊にはそれができるパワーがありますものね。

    本書のイラストを担当された「藤実なんな」先生もさすがの一言でした。
    フリージア様の、万物を押しのけて我が意(主として「食い気」)を通すシュールさと絶対的な可憐さを絵を通して表出させてくれたわけですから。

    一方、コメディリリーフな「アキヨシ」氏をはじめ、キャラクターデザインがほしかった劇中の面々も相当数いましたが、各話のゲストキャラを含めその辺はほぼ省かれています。
    その辺、フリージア様とコクロ―の物語として割り切る上で焦点を合わせたのだと私は推察します。

    それから、文体としては擬音の使い方が相変わらず上手かった。
    イラストとの連携も冴えており、シュールさとかわいさが同居することで虚をつくことができた。
    だからレビューの最初の方で申し上げた通りに、読者共々さまざまな死のあり方と向きあうことができた。

    その結果として。フリージア様はバランス感覚に優れ、ニュートラルに外界と向き合い、最後まで等身大な超越者としての矜持と足場を崩さずにいられた。親しみやすい絶対者として描き切れたんだと思います。
    死神公女目線だと、ゆるさと深刻さを同列に置いて外界を観察してますけど、やっぱり本人的にはゆるい方が好きっていう着地点もなんか好きでしたね。

    そうか。悲しみや微笑みを演出する上で、ゆるさと深刻さの間を往復して落差を突く技法が光ったのか。
    けれど最終的には真正面から「私は死神だが?」ってフリージア様に押し通られたかのような、清々しくも呆気に取られる快刀乱麻な結末がやってくるわけで。そこにはかり知れなく素敵な感覚も覚えましたね。
    もちろん。そこに至るまでの波乱万丈も見逃せないとしても。 

    そういったわけで、怒涛の勢いで押し切ったからこそ素敵な作品で終わらせることができたのは確かです。他方で本作の続き、もしくは章の間を埋める物語を拝んでみたいのも人情なんですけどね。
    一巻で完膚なきまでに終わった気もしますし蛇足と呼ばれるのも無念ですが、コクロ―の内面にもっと迫ってみたかったと思うのも事実です。

    ここは間を取って、いつかのどこかでフリージア様の日常を拝んでみたいと願ってみます。
    死神公女「フリージア・トルストイ・ドルシュヴィーア」という御仁はとにかく自然体なので、いつでもどこでもスルッと入れそうな自在さがありますから。

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著者プロフィール

2009年『B.A.D ―繭墨あざかと小田桐勤の怪奇事件簿―』(刊行時『B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる』に改題)で第11回エンターブレインえんため大賞小説部門優秀賞を受賞し、翌年デビュー。主な著書に「異世界拷問姫」シリーズ、他多数。

「2022年 『偏愛執事の悪魔ルポ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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