サリン それぞれの証 (角川文庫)

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  • KADOKAWA (2025年2月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784041156544

作品紹介・あらすじ

サリンは人を殺傷する以外に使い道がありません――。1995年3月20日午前8時ごろ、宗教団体・オウム真理教によって、都内地下鉄の車両に猛毒ガス・サリンが散布された。苦しみのあまりにもだえる人々で現場は騒然、最終的な死傷者は約6500人にのぼった。警察官、自衛官、医師、そして実行犯の母親たち……。教団と対峙し続けた弁護士が、数多の証言に耳を傾ける。地下鉄サリン事件のリアルを描く、緊迫のノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 木村晋介『サリン それぞれの証』角川文庫。

    本作は長年に亘りオウム真理教と対峙してきた弁護士の木村晋介が、多くの人びとの証言から地下鉄サリン事件の真実に迫ったノンフィクションである。

    木村晋介と言えば椎名誠や沢野ひとしと同級生で、その関係からこれまでエッセイしか読んだことが無かった。10年以上前になるが、マイクル・コナリーの『リンカーン弁護士 真鍮の評決』を読んだ時に解説が木村晋介だったことに驚き、そのことをTwitterで呟いたところ、『本の雑誌』の中で木村晋介が取り上げてくれたという嬉しい思い出もある。

    自分がオウム真理教の存在を認識したのは、ミステリー雑誌の『月刊 ムー』で取り上げた麻原彰晃の空中浮遊写真を掲載した記事だった。写真を見た時には座禅を組んだ状態で足の力で飛び上がった瞬間を撮らえたインチキ写真であろうと思った。

    そんなオウム真理教がカルト宗教団体となり、1989年に坂本弁護士一家殺害事件、1994年に松本サリン事件、1995年に仮屋事件といった凶悪事件を起こし、1995年、ついに地下鉄サリン事件を起こしたことには驚いた。地下鉄サリン事件からは30年が経過するが、このような無差別テロは二度と起きて欲しくはないと思う。

    さて、本作。読んでみると、地下鉄サリン事件の被害者はもとより、警察官、自衛官、医師、実行犯の母親、被害者のケアを行うPKO職員など多くの関係者から生々しい証言を集め、事件の詳細を詳らかに解き明かそうとしていることに驚いた。

    さらにはオウム真理教の神秘体験の謎のについても科学的にアプローチしている。

    最初はヨガサークルに過ぎなかった団体がオウム神仙の会となり、さらにはオウム真理教となると次第にカルト化していく。

    何故、1989年に起きた坂本弁護士一家の失踪時に現場に残されたオウム真理教のバッチや血痕に着眼しなかったのか。これは明らかに神奈川県警の落ち度である。もしも、坂本弁護士一家失踪がオウム真理教による拉致と殺人であったことが明らかになっていれば、その後に起きた松本サリン事件、仮屋事件、地下鉄サリン事件を防ぐことが出来たと思う。

    1994年の松本サリン事件も第一通報者を犯人と決め付け、オウム真理教へと目を向けなかった長野県警もかなりの間抜けである。もっともオウム真理教には公安警察が張り付いていたのだから、一連の凶悪犯罪を早期に暴けなかったことは愚かとしか言いようがない。

    本体価格880円
    ★★★★★

  • 途中までは時系列の説明や、被害者や元信者、死刑囚の親、医師や警察、自衛隊、消防士など様々な証言で分かりやすかったが、
    断章の途中から専門っぽいことが出てきて、難しかった

  • 通勤時の本として入手したため地下鉄の中で読むことが多かったのだが、被害者や救護者の方々の声、当時のテロの卑劣さを一層生々しく感じたように思う。

    悔やまれるのは警察組織とマスコミの対応。当時の教訓は今に生きているのだろうか。そう願いたい。

  • あの頃のことが色々思い出されると共に、とても恐ろしい事件だったということを改めて感じた。

  • 2025.03.25〜03.30
    なぜ、あのテロが起きたのか。
    当時、松本サリン事件に対応したマスコミや警察の証言が取り上げられていないのが、残念。
    断章では、「私は何の本を読んでいるんだろう」と妙な気分になった。

  • 同じような時間帯に日比谷線の北千住から上野まで乗車していたので、記憶に残っています。事件に至るまでの経緯、当事者、家族など、忘れかけていた記憶がよみがえりました。
    サリンの解毒剤を新幹線を利用して集めた話も覚えています。
    人の心の隙間に入り込み、信じ込ませて、お金も心も奪い、集団災害を起こす…
    事実が時系列に詳細に調査されていて、貴重なノンフィクションであると思います。

  • ● 第1部:事件の経過と犯罪の全体像
    ● 序章「円覚寺」~第4章「奇襲」
    坂本堤弁護士一家殺害事件(1989)を出発点に、オウムが引き起こした一連の凶悪事件の全体像を描く。
    オウムの犯罪は「一宗教団体の狂信」ではなく、国家に対する挑戦であり、現代社会の危機構造を象徴するものであった。
    地下鉄サリン事件(1995年)は、日本史上初の大規模な化学兵器による無差別テロであり、想像を超える事態を生んだ。
    しかし、国家の初動の遅れ、警察・消防・医療の混乱により、被害は拡大した。
    同時に、オウム施設への奇襲捜索(“ガサ入れ”)のタイミングの遅さも、事態の悪化に拍車をかけた。

    ● 第2部:人々の声と沈黙
    ● 第5章「死刑囚の母たち」~第7章「オウム法廷」
    加害者(オウム信者)たちの家族、特に死刑囚となった息子を持つ母親たちの苦しみ、社会的孤立を描く。
    出家信者の多くは高学歴で純粋な若者であり、社会に対する違和感や孤独感から、オウムに傾倒していった。
    出家とは、財産も家族も捨てて教団に人格を明け渡すこと。そこでは麻原彰晃への絶対服従が求められた。
    オウム法廷では、加害者たちの「自分は悪くない」「救済のためにやった」とする主張が続き、司法は**“犯罪と信仰の境界線”**を見極めるという難題に直面する。
    木村は、加害者に対する感情的報復ではなく、法的正義と手続きの公正さを守ることこそが本質であると論じる。

    ● 第3部:冤罪と国家・社会の構造的欠陥
    ● 第8章「弁護士」~第11章「国家」
    弁護士の役割とは何か? オウム事件の被告を弁護することの意味、社会的孤立、誤解を受けることへの覚悟を語る。
    「松本サリン事件」では、被害者の一人である河野義行氏が無実にもかかわらず“犯人扱い”された。これは警察の偏見、メディアの誤報、社会の思考停止による“冤罪”であった。
    この事件は、後の地下鉄サリン事件の**警告(予兆)**であったが、国家はそれを見逃した。
    坂本堤弁護士一家殺害事件は、オウムの暴力性が最初に明確に現れた事件であり、TBSの取材ビデオ漏洩という報道機関の過失、警察の怠慢、司法の無力さが生んだ「国家的不作為の象徴」だった。
    最終章「国家」では、木村が「国家が国民の命を守るという基本機能を果たさなかった」と強く糾弾し、「被害者に向き合う国家の意思の欠如」を突きつける。

    ■ 本書の主張とメッセージ(核心)
    「オウム事件」は宗教団体の暴走ではなく、「国家と社会の機能不全」が引き起こした災厄である。
    被害者、加害者、家族、弁護士、医療者、行政官…すべての立場にそれぞれの“証”がある。
    正義とは、感情的な報復ではなく、手続き的な公正に基づく冷静な裁きの上に築かれるべきである。
    冤罪は制度と社会の「思い込み」「同調圧力」によって誰にでも起こり得る。
    国家は、「人の命を守る」ことにおいて、宗教的正義よりも確固たる責任を負っている。

    ■ 結論
    『サリン それぞれの証』は、地下鉄サリン事件を通して、
    日本社会が内包する構造的な盲点と脆弱性を露わにした記録であり、
    同時に「人間とは何か」「正義とは何か」「社会とは何を守るべきか」という本質的な問いを突きつける、
    一人ひとりが“当事者”として読むべき社会的証言の書である。

  • サリンじゃなくてプリンが良かったなぁ

  • 2025/07/03 42読了

  • 被害者だけでなく、死刑囚の母親にまでインタビューをしており、なかなか聞けない話が読めると思って購入。興味深い内容だった。
    どちらの死刑囚の親も、謝罪の言葉は口にしているものの「あの子がそんなことをするはずはない」「オウムに出会っていなければ」と、どこか他人事にしているように思えた。
    覚醒方法についても筆者の体験も織り交ぜながら記述されており、社会情勢の変化によって不安になった心に漬け込む力がオウムは長けていたのだなと感じた。
    すぐに答えを出すものを信じるのは慎重にならなければいけない。経験の積み重ねで自らの人生の答えを見つけていきたい。

  • 事件から30年にあたるとSNSで話題にあがっていたタイミングで本書と出会った。
    当時は幼いため事件の騒ぎは記憶にあるが、実際の事件に詳しくなかったため新たな発見があった。被害者だけでなく加害者家族、弁護士など各視点からのインタビューで多角的に知ることができる。

    2025年3月20日に放映された「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」とは一部違う証言もあったので、他の関連書籍も読んで、教団自体の背景もしりたくなった

  • 地下鉄サリン事件等に関わった警察、消防、自衛隊や被害者、加害者家族へのインタビューを元に、地下鉄サリン事件を立体的に描き出している。常石敬一氏が松本サリン事件の誤報に関係していることを示唆する部分も興味深かった。
    サリンの後遺症に苦しむ人々や、そのケアに取り組む人々の存在などを知ることができてよかった。

  • それぞれの立場の人たちの証言はすごく良かった。
    特に後遺症の話。サリン被害に遭う前がわからないから後遺症と認められない、とか屁理屈としか思えない。

    最後の方の話は必要だったのか?読んでいられなくなってしまった。

  • サリン事件はリアルタイムでテレビで見たものの、地下鉄サリン事件と松本サリン事件の区別がきちんとついていなかったし、それ以外にもサリンが使われていたこと、サリン以上に危険な薬品を使った事件があったことも知らないという無知っぷり。
    あれから30年が経つこれを機に勉強してみようと手に取ったのがこの一冊。
    実際にあの事件を経験した人、関係者、起こした側の肉親、被害者を支えた人たちの「生の声」というのは予想以上に臨場感があって生々しく、衝撃を覚えながら読ませていただいた。
    何より驚いたのは、サリンの影響の大きさ、そして後遺症の長さ。
    第三者としては、当時の事件だけを見て知った機になりがちだが、実際にはその後何十年もトラウマや後遺症に悩まされている人たち、そしてそれを支えるために尽力されている方たちがいるということを知ることができて、本当に良かったと感じた。
    あの事件はまだ終わっていないし、風化させてはいけないと思えたから。
    他にも裁判に関わった弁護士の方、坂本弁護士一家の件にも言及があり、本当に多種多様の関係者の「生の声」を収録した凄い内容の本だったと思う。
    文庫化を機に是非たくさんの方に読んで知っていただきたいと強く感じた。

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