中原中也全詩集 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (804ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041171042

作品紹介・あらすじ

昭和12年(1937)、友人の小林秀雄に詩集『在りし日の歌』の原稿を託し、30歳で夭折した中原中也。喪失の悲しみに耐え、詩と人生に衝突するように時代を駆け抜けていった希有な詩人の魂の軌跡を一冊に収録。歌集『末黒野』、第一詩集『山羊の歌』、没後刊行の第二詩集『在りし日の歌』、生前発表詩篇、草稿・ノート類に残された未発表詩篇を全て網羅した決定版全詩集。巻末に大岡昇平「中原中也伝――揺籃」を収録。

感想・レビュー・書評

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  • トタンがセンベイ食べて
    春の日の夕暮は静かです
    アンダースローされた灰が蒼ざめて
    春の日の夕暮は静かです

    吁!案山子はないかーあるまい
    馬嘶くかー嘶きもしまい
    ただただ月の光のヌメランとするままに
    従順なのは 春の日の夕暮か
        (「春の日の夕暮」より)

    幾時代かがありまして
      茶色い戦争ありました

    幾時代かがありまして
      冬は疾風吹きました

    幾時代かがありまして
     今夜此処での一とさかり
      今夜此処での一とさかり

    サーカス小屋は高い梁
      そこに一つのブランコだ
    見えるともないブランコだ

    面倒さに手を垂れて
     汚れ木綿の屋根のもと

     ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

    それの近くの白い灯が
     安いリボンと息を吐き
          (「サーカス」より)

    汚れちまった悲しみに
    今日も小雪のふりかかる
    汚れちまった悲しみに
    今日も風邪さへ吹きすぎる

    汚れちまった悲しみは
    たとえば狐の革衣
    汚れちまった悲しみは
    小雪のかかってちぢこまる
      (「汚れちまった悲しみに…」より)

    菜の花畑で眠っているのは…
    菜の花畑で吹かれているのは…
    赤ン坊ではないでせうか?

    いいえ、空で鳴るのは、電線です電線です
    ひねもす、空で鳴るのは、あれは電線です
    菜の花畑に眠っているのは、赤ン坊ですけど
      (「春と赤ン坊」より)

     高校の国語で出会った中原中也。
    悲しい青春の歌。喪失の歌。美しい日本語。リズム。大正モダン。やっぱりいいです。
     最近よく聴くブルーハーツのギタリストで歌詞も半分くらい書いていた真島昌利さんが中原中也を好きと知って、詩集を読んでみました。

  • 62冊目『中原中也全詩集』(中原中也 著、2007年10月、角川学芸出版)
    30歳という若さで夭折した天才詩人・中原中也の全詩集。
    約800ページという非常にボリュームのある文庫本だが、1ページあたりの文字数は少ないので割とサラサラと読み進めることが出来た。
    爽やかかつロマンチックでありながら、全てに唾するような無頼さも感じられる。どちらも彼の本質であり、それこそが中原中也の魅力なのだろう。

    「ポッカリ月が出ましたら、舟を浮べて出掛けませう、波はヒタヒタ打つでせう、風も少しはあるでせう。」

  • /◆/昔のほのかな想ひに…/◆/





    中也氏のこの詩集…
    昔、好きだった一つ年下の方が
    愛読されていたのを思いだした。


    汚れちまった 悲しみに
    今日も 小雪の降りかかる…


    どことなく中也氏と
    面差しまでもが近しく、
    孤独の似合ったその方…
    今は いずこにあられるのだろう。


    そんな想ひに浸りたき今宵…
    この一冊を
    わたくしも手元に置きたくなりて候う。

  • 悲しみと生きるために

    バイトの休憩中にちびちびと読んできた、中也の詩。全詩集。
    悲しみはどこにでも、何しても、消えてくれるものじゃないから、それならば、私はそれと手を繋ごう。
    中也の悲しみを一緒に感じて、あなたの悲しみは心地よいから。私はずっと、救われているよ。

    いつかまた会いに行ける世界になったら、あいにいく。

  • 『現代詩文庫 中原中也詩集』(思潮社)だけど代用

    読んでる時は、バリエーションに富んだ詩を読む人だな、くらいの印象だったが、

    本人の"小詩論"、"芸術論覚え書"
    秋山駿と鮎川信夫の解説を読んで初めて、詩人としての生き様を見れた感じでした。

    踏まえてもう一度読んでもまた印象変わるかも

  •  サイズこそは文庫本だが、『全詩集』とだけあってかなり分厚い(全797ページ)。詩の大半は、生前未発表のもの。

     怒られる覚悟で言わせてもらうが、詩人には「なんとなく言いたいことはわかる」タイプと、「ちょっとなに言ってるかわからない」タイプの方がいらっしゃる。中原氏は思いっきり後者。途中から脳がついて行けなくなり、結果、読み終えるまで一年を要してしまった。

     彼の思考は、どこか夢遊病患者のような感じがする。神とか仏とか、そういう領域から世界を見ているような。そんな虚しさや無常さを表した詩が多いなあと。

  • 350篇もの全詩集です。
    長かった!...けど読みやすかったです。
    中原中也の詩は先ずテンポが良いのが一つの魅力だと思います。
    読む音楽みたいなと言ったら変かもしれませんが、それくらいリズミカルなのが心地良いです。
    中原中也という人となりと、言葉や漢字の裏に隠された意味を理解出来ると嬉しくなる一冊です。
    お気に入りの詩は勿論たくさん見つけましたが、やはりサーカスが一番好きかな。
    ゆあーんゆよーんは何だか可愛らしい表現だと思います。

  • 東京に、雪が降った。街に光に照らされて、雪が落ちて行く。
    そんな時に、ふと思い出すのが、「今日も小雪の降りかかる 汚れちまった悲しみに」というフレーズだった。そして、本棚から、この詩集を取り出す。それで、読んでみる。その詩の最後のフレーズ「なすところもなく日は暮れる」という終わり方に、雪は心の中にも降りしきるようだ。
    この詩集は、不思議なことに、買ったときからずっと持っている。50年以上前の詩集で、紙は日焼けしている。存在感がある。中原中也に憧れた時期がある。悲劇のような喜劇のような詩人である。
    京都から恋人の年上の女優になりたい女と一緒に東京に行き、そして小林秀雄と仲良くなって、小林秀雄にその女を取られる。一緒に住んでいた荷物を、小林秀雄の家に持って行ってやるのだ。
    寝取られた上に、優しさを発揮する。「汚れた悲しみ」に雪が降って、何事もなかったような白い世界となる。朝になると雪が溶けて、汚れてしまった悲しみがあらわになる。「私はかたくなで、子どの模様にわがままだった。私はおまへの優しさを思ひ、また毒づいた人を思ひ出す。今朝はもはや私がくだらない奴だと、みずからを信じる」と歌う。どこに怒りをぶつけたらいいのか。その自分の不甲斐なさ。酒屋で飲んだくれて、人に絡みついた。悲劇を喜劇のように演じて、詩人は、言葉を磨き続ける。敗者としてのとぎすまされた言葉を磨く。その恋人は、結果として小林秀雄さえも捨ててしまうのだが。
    小学校からの友人が、中学生の頃に高村光太郎の「さびしき道」と中原中也の「月夜の浜辺」を教えてくれた。波打ち際のボタンが落ちていて、それを拾ったら、どうする?と言われた。
    彼は、海に向かって思い切り遠くまで、投げてやると言った。彼は、野球選手だった。用のないボタンは、もういらないのだと。スッキリしているのだ。私は、やはりポケットの中に入れると思った。
    彼はもう地球上にはいない。
    30歳で人生を閉じた中原中也。昭和12年。戦争が本格的に始まる頃だ。ピカソがゲルニカを描いた頃。中原中也は、1冊の詩集しか出版していなかった。2冊目を作って、小林秀雄に託して死んだ。
    サーカスのブランコは、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」とゆれる。
    そして、「私の上に降る雪は真綿のやうでありました。私の上に降る雪はいとしめやかになりました。私の上に降る雪に いとねんごろに感謝して、神様に 長生きしたいと祈りました」
    夜の東京で、雪が降ると 雪を歌った詩人のことを思い出す。

  • 大正から昭和にかけて活躍した詩人、中原中也の全詩集です。文庫版ですが、読みやすくて良いです。中原中也と聞くとイメージされるのは、「汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる…」と始まる「汚れつちまつた悲しみに……」が一番でしょうか?他にも美しい自然を描いたものや人生の苦悩を絞り出したものなど、たくさんの詩を残しています。作品から想像できませんが、だいぶ破天荒な人生を送っていたらしく、大岡昇平や太宰治とのエピソードは有名です。全詩集なので、気になる詩やグッとくる詩を探しながら読むのは楽しいですよ。

  • 彼の詩には絶望が見えるが、どこか前向きに感じる。だからか辛い時に読むと吹っ切れる心地がする。

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著者プロフィール

中原中也(なかはらちゅうや)
1907年4月29日、山口県生まれ。23年、山口中学を落第し、京都の立命館中学に編入。劇団女優、長谷川泰子と知り合い、翌年から同棲を始める。25年、泰子とともに上京。泰子が小林秀雄のもとに去る。26年、日本大学予科文科に入学したが、9月に中退。29年、河上徹太郎、大岡昇平らと同人誌「白痴群」を創刊。33年、東京外国語学校専修科仏語修了。遠縁の上野孝子と結婚。『ランボウ詩集《学校時代の詩》』刊行。34年長男文也が誕生。処女詩集『山羊の歌』刊行。36年、文也が小児結核により死去。次男愛雅(よしまさ)誕生。37年鎌倉に転居。『ランボオ詩集』刊行。詩集『在りし日の歌』を編集し、原稿を小林秀雄に託す。同年10月22日結核性脳膜炎により永眠。享年30歳。翌38年『在りし日の歌』が刊行された。

「2017年 『ホラホラ、これが僕の骨 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中原中也の作品

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